概要
ファイル24「ムジナ・アタックス」より登場した、DS研所属の職員。30代後半に見える外観の女性で、ベリーショートの髪形に、耳に多くのピアスを付けている。フルネームは不明。
DS研にて、空魚と鳥子が裏世界で拾ってきた遺物「UBアーティファクト」の保管、および保管庫の管理を担当している。汀と小桜とは、同僚にして昔からの知人。閏間冴月とも会っていたが、危険を感じてあまり近づかなかった。
DS研の地下に設置された、アーティファクトを並べた保管庫の一角に、観葉植物で飾った自身のデスクを有する。
人物
飄々とした性格で、自称「魔術師」。自前で「邪視」を有していると述べ、それを以て空魚とにらめっこをするが……。
実際に邪視らしき何かは有している様子だが、魔術が使えるか云々ははぐらかされている(後述)。
元は「呪物のコレクター」で、いわゆる呪われた品物を収集する事を趣味にしていた。前職はキュレーター(学芸員。どの博物館または美術館に勤めていたかは不明)だったが、汀に誘われてDS研の研究者に転職した。汀が過去にカスタネダに感化され、中米の呪術師に弟子入りしようとしたことを知っており、空魚に語っている。
空魚と鳥子とは以前より会いたいと思っていたが、その機会がいままで無かった。ファイル24でようやく空魚と出会い、自身のデスクへお茶に誘っている。その際には、台湾のフルーツ茶(刻まれたドライフルーツ入りの茶葉で淹れたお茶)をガラスのティーポットで淹れ、小さな干菓子とともに空魚へ振舞った。
ちなみに、汀から二人の事を聞いていたらしく、空魚と初体面した時には、
「UBLに行き来して異物を持ち帰るだけじゃなく、向こうに拠点まで造ろうとしてるから、どんだけたくましい大女なのかと思ったら、全然そんな感じじゃないからびっくりしちゃった」
「(汀の口ぶりから)紙越君の事は、すごいアウトロー女にしか思えなかったよ」
※この時同席していた汀は、「そんな言い方はしてないでしょう」と苦笑していた。
自身もまた裏世界について自身なりに見解を有しており、自説を空魚に述べている(後述)。
小桜自身も彼女の事を知っており、語る見解も認めてはいる。しかし辻とはあまり顔を合わせた事はなく、むしろ嫌っている。
小桜曰く「気持ち悪いし趣味も悪い。あいつペテン師だからさ、話してると会話の主導権すぐ取られるんだよな」
逆に辻の方は、小桜の事を「いっつもプリプリ怒ってて、超かわいい」と気に入っている様子。
なお、辻本人は裏世界には入った事は無く、自分の前ではゲートも今まで開いた事はないと言っている(後述のUBL個人的見解も参照)。
また、小桜からは「若者(空魚と鳥子)をオカルトに引っ張り込むなって釘刺されてるから」と言われているらしい。
更には、空魚を「小桜くんの愛弟子」と呼び、「手を出したらあの子に殺されちゃう」などと答えている。
DS研にるなおよびそのカルトが襲撃した際、保管庫にも入られていたため、
「あんときは参ったね。どうしてくれようかと思ったけど」
と憤っていたが、その後、るなが昏倒し捕まったのを見て、
「ツラ見に行ったらてんでガキなんだもん。こりゃ手ェ出せないなって、ガッカリしちゃった」と語っている。
(これを聞いた空魚は、「手を出せたらどうするつもりだったのだろう」と思ってしまった)
のちに、正式にるなの身元引受人になる。その時にも、るな本人へ「アーティファクト保管庫の責任者」である事を伝え、るなに「あっ、やばい」といった顔をさせた。
魔術
前述の通り、魔術が使えると自称しているが、具体的にどんな能力なのかははっきりと語っていない。
しかし、劇中では魔術らしき事を行っており、何らかの力を有している様子。それが本当の魔術の類なのか、あるいは単なるハッタリなのかは、本人がはぐらかしているため、これまたはっきりしない。
本人は、自分を「魔術師」と呼称。それも、「実戦的(プラティカル)な方の魔術師」「綴りの最後にKが付くMagick」との事。
そして、汀が言うには「そちら方面(霊的防御、心霊的自己防衛)の専門家」。
なお、魔術云々というところから、空魚は最初に「カルトか」と警戒していたが、本人は「魔術結社はカルト化するけど、私は一人カルトかな。弟子を取らずにずっと一人でやってるからね」。
小桜も辻の事を「カルトではないな。少なくともあれで商売しているところは見たことがない」と言っている。
更には、空魚が汀の過去を聞かされた時。「汀さんは呪術とか使えるんですか」と訊ねた空魚に、
「使えるわけないよぉ。大丈夫? 魔術とか呪術とか言う奴みんなインチキなんだから信じちゃダメだよ」
と、自分の事を棚に上げた返答をしていた。
ファイル20「寺生まれのTさん」の件で、DS研における防衛の相談について、汀から声掛けをされている。そこから、ファイル29にて空魚が現在管理人としている「山の牧場」の施設を利用し、DS研の防衛手段を確立するための訓練に参加する。
ファイル29劇中では、潤巳るなが作った「牧場」内のキルハウスを、るなが施した影響を取り除く目的でLBRP(五芒星の小追儺儀式)を実行。しかし効果は無かった。※
※この時に行った儀式は、辻曰く「ゴールデン・ドーンの一番有名な、基本的な儀式」。具体的には「我が前方にラファエル、我が後方にガブリエル……」で始まる台詞とともに十字を切ると言った、パフォーマンスめいたもの。
ではあったが、次に「呵々大笑」する事で、室内の澱んだ雰囲気を払拭する。
これは、「一種のお祓い」であり、「掃除と片付けは、日常でできる一番簡単なお祓い方法」「笑いはものすごく強力な、魔を退ける力を持つ」「爆発的な感情の発露は、全部(魔術として)使えるんだけど、怒ったり泣いたりするより笑った方が楽しい」
また、空魚と鳥子とともにバーベキューを行った時にも、魔術についてのうんちくを語っている。
その話の中で、るなのリノベに対し「あれはるなが独自に構築したもので、西洋魔術などの権威を持ち出しても動じない」「だから、(お祓いするには)もっとプリミティブな方法じゃないとダメだなと思ったの」と、賞賛している。
また、本人は多くの日本人と同じで信仰の意識はないが、それでもLBRPを使える理由は「カバラ系の儀式魔術が、使い勝手のいいライブラリだから」との事(つまり、世間一般における『現実に存在する西洋魔術、およびそれに類する儀式のイメージ』に一番近いため、大抵の西洋魔術を元ネタにした魔術全般に対しては効果が見込める、という事らしい※)。
※ちなみに、ゴールデン・ドーンの儀式に関しても「あれも設立当時には、エジプト神話にかぶれまくり、ギリシャ神話やタロットを取り入れてるし、ごった煮も良いとこ」との事。
なお、るなから「あれ(笑い)が効かなかったら、他にどうにかする手段があったのか」と訊ねられたら、ふざけてハリー・ポッターの呪文やかめはめ波などを持ち出していた。
これを聞いたるなに「ふざけてるんですか」と言われた際には、
「ふざけてもいるし、真剣でもある。使える概念なら何でも使うんだ。私は混沌の姉妹、ケイオスの淑女だから」
と、本当にふざけているのか否か、どちらともとれる返答をしている。
この後で就寝した後。
るなが一人で出ていってしまい、それを追うが、るなが中間領域らしき空間に入ったのを探知したため、追うのを一旦中止。空魚と鳥子の力を借りるべく、「タルパ(霊的・精神的な力によって作成された存在や物体。劇中では「他者のを引っぺがして使った」との事)」を使って二人を呼び寄せている。
なお、るなを説得する途中で空魚が語った「恋愛と怪談って、人間をむりやり文脈に乗せてくるって点で同じ」という内容を取り上げ、
「紙越くんが言っているのは、魔術師が修行の過程で気付かなければならない事の一つ」
「(空魚の言うような)思考への介入が、魔術的意識を阻害するから」
と、述べている。
UBLの個人的見解
ファイル24にて、空魚と初体面時に辻は、自分なりのUBL(裏世界)に関する見解を空魚に述べている。
曰く、
「UBLの様相は人によって違う。皆、違う名前で呼び、おそらく違うものを見ている」
「人間は同じものを見ても、それが同じように見えているのは錯覚に過ぎず、同じだと証明する手段はない」
「UBLはそれと別のレベルで、人間の認識を揺さぶっている」
「普段私達が接する現実を、急須から注がれるお茶に例えるなら、『飲む人により味の好みは異なる』『しかし、それぞれの器に入って来る元は共通している』」
「でもUBLの場合は、同じ急須から注がれたのか疑わしいほど違っていることがある」
「なのでUBLは、何らかの形で(接した人間の)トラウマや願望が、環境に投影されている可能性がある」
これを聞いた空魚は「そのような傾向はあるけど、それだけではない」と答えている。
なお、辻自身は裏世界に入った事が無い。
自身の前にはUBLのゲートが開かなかったためで、その答えを色々と推測し、
「自分にとってのUBLは、周囲に置かれているアーティファクト(裏世界の異物)」という結論に至った。
これは、辻がもとから魔術師ゆえに、「呪いの品物のコレクター」だったこと、および呪物を持ってしまった人間が手放す時、その縁を切る依頼を受けていた事なども関係している。
汀から話を聞き、DS研に呼んでもらいアーティファクトの管理人になるが、
「呪いの品物は、基本的に人を害するもの。しかしUBアーティファクトはその目的が無く、其れ単体で異常性を有している」
と、特徴を見出している。
この事から、
「コトリバコなど、一部は(人を害する目的の)そういうものもあるが、大抵はなんだかよくわからないものばかり」
「いわば、UBアーティファクトは、一つ一つがミニサイズのUBLではないか。此方の世界に取り残された、裏世界の一部ではないか」
という見解に至っている。
これは、先刻の「人により異なる認知の差」から、
「UBLの接触の仕方は人によって異なる」
「それぞれの認知の差で、繋がるチャンネルが違うのかもしれない」
このチャンネルは、空魚にとっては怪談で、辻にとっては呪物。そして辻が直接裏世界に行けないのも、呪物=UBアーティファクトを通じ接触してしまっているため。人によってインターフェースが異なるために、入れないでいるのではないか。そのような仮説を述べている。
さらにここから辻は、
「UBLそのものが、インターフェースではないか」とも考えている。
人間それぞれが見ている現実をすり合わせた、最大公約数的な現実を、現代魔術で「コンセンサス・リアリティ(合意現実)」と呼ぶ者もいる。
辻はこの合意現実を持ち出し、「UBLは、人間と向こう側の何かとの『合意』が行われている気がするんだよ。その合意現実が、UBLという形を取っているんじゃないかと思うんだよね」
……と、語っている。
これらを踏まえ、裏世界を頻繁に出入りしている空魚に対し、
「君たち、ヤバいところにまで足を踏み入れている」
「ヤバいってのは危ないってだけじゃなくて、凄いところにいるって意味」
「(空魚たちは)たぶん今、ファーストコンタクトの最前線にいるんだよ」
そういう己の見解を述べている。