概要
それまでの主な空気ブレーキ方式には、運転席からブレーキ弁を直接操作し、ブレーキシリンダと接続する直通管(Straight Air Pipe,SAP)に直接空気圧を込めることで作用する直通空気ブレーキと、同様にブレーキ弁を操作し、ブレーキ管(Break Pipe,BP)の圧力を緩解することで、シリンダに空気を込める制御弁を動作させ、列車分離時など緊急時のブレーキングにも対応した自動空気ブレーキの2種類が存在した。
しかし、これらは先頭の運転席で空気圧の増減を行う構造故に、長編成化にともなう制御空気量の増大に伴って、主にブレーキ作用の遅延といった応答性の悪化という問題点が見受けられるようになった。
これを軽減するため、各車両に作用・緩解用の電磁弁を搭載し、運転席のブレーキ弁に取り付けられた電気接点でハンドルの角度を検出し、ハンドル操作に同期して各車両の電磁弁がブレーキ管の圧力を増減することで応答性の改善を図った電磁自動空気ブレーキが開発された。
この電磁自動空気ブレーキを前身として、常用ブレーキをより応答性に優れる直通空気ブレーキ方式に変更したものが電磁直通空気ブレーキである。
構造
1920年代にアメリカ・ウェスチングハウスエアブレーキ(Westinghouse Air Break Co.,WABCO)が開発したSMEEブレーキが原型であり、日本国内では1950年代以降に三菱・日本エヤーブレーキ(現・ナブテスコ)の2者がWABCOからHSCブレーキの技術使用権を得て製作したものが主流である。いずれも基本的な構造は殆ど変わらない。
運転席でのブレーキ弁の操作によって直通管の圧力を制御する点は同じだが、この操作をハンドルの電気接点や直通管の流動検知によって検出し、各車両に搭載された作用・緩解用の電磁弁をハンドル操作に応じた直通管圧力に達するまで動作させ、全車両で同期した高速なブレーキ応答を実現している。
直通管の圧力をそのまま、あるいは中継弁によって増幅することでSAP圧に応じた空気圧がブレーキシリンダに込められる。
列車分離時など緊急時への対応のため、バックアップとして自動空気ブレーキが併設されており、ブレーキ管と制御弁を備えるほか、ハンドル角の深い位置では自動空気ブレーキが動作する構造となっている。
ブレーキ弁には新たにセルフ・ラップ機構が導入され、ハンドル角に応じたブレーキ圧力が得られるようになり、操作性が向上。
ブレーキ弁にセルフラップ弁装置が据え付けられており、ハンドルに取り付けられたカム軸が釣り合いテコを押し、SAP圧や戻しバネの働きによってテコの両端に取り付けられた吸気弁・排気弁が釣り合う圧力が変動するようになっている。
電気指令式ブレーキとの互換性
電磁直通ブレーキは電気信号により各車連動する方式ではあるが、所定のブレーキシリンダ圧力(BC圧)はSAP圧による空気指令で発揮される。
このため、後に国内で開発された電気指令式空気ブレーキとは、BC圧をコンピュータ制御による電気信号で指令する方式のために互換性がなく、併結運転などによって異なるブレーキ方式を混在させることが不可能である。
電磁直通ブレーキと電気指令式ブレーキが混在する編成においては、電気指令式の車両にSAP圧による空気指令とSAP圧連動の電気信号、ブレーキ制御装置の電気指令を相互に読み替えるブレーキ指令読替装置を装備する事が必要となる。
加えて、非常ブレーキの互換としてBP圧力の検出や自動空気ブレーキそのものの装備、安定的な応答性を得るため編成内へのSAP引き通しといった施策が追加で行われる。
電磁直通ブレーキにおいてはハンドル角に応じたBC圧が発揮されるのみであるが、電気指令式ではブレーキノッチ段数毎に設定された所定の減速度を発揮できるように、乗車率などを参照した上で演算されたBC圧を込める事が一般的である。このため、ブレーキの特性が異なるために乗り心地に違和感が出る場合がある。