概要
委員長会議に委託され香港国家安全維持法草案を起草した全人代常務委員会法制工作委員会の担当責任者の説明によると、香港特別行政区国家安全維持法草案は6章66カ条あり、「総則」「香港特別行政区の国家安全維持の職責と機構」「犯罪行為と処罰」「事件の管轄」「法律の適用と手続」「中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持機構」「附則」に分かれるとしている。本法草案は実体法・手続法・組織法の内容を兼ね備える総合的法律であり、草案は以下の各分野の内容を包括していると説明している。
- 中央人民政府の関係国家安全事務に対する基本的責任及び香港特別行政区が国家安全を守るための憲政制度上の責任
- 香港特別行政区が国家安全を守るために遵守すべき重要な法治の原則
- 香港特別行政区が国家安全を健全に守るために設立する関係機構とその職責
- 四種類の国家安全に危害を及ぼす犯罪行為と処罰
- 事件の管轄・法律の適用と手続
- 中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持機構
立法過程
本法は2020年5月28日の第13期全国人民代表大会第3回会議で『香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定』が採択され、全国人民代表大会から全国人民代表大会常務委員会に香港国家安全維持法制を整備する権限が付与されたのを受けて制定された。
この決定では、香港国家安全維持法制に対する立法方針と、全人代から全人代常務委員会へ同法制を整備する権限を付与すること、関係する法律の制定後に香港政府が公布し、即日施行することなどを定めている。香港立法会による審議の機会はない。
2020年6月1日、第13期全人代常務委員会第58回委員長会議が北京で開かれ、第13期全人代常務委員会第19回会議の開催期間を6月18日から20日までと決定し、同常務委員会会議の議事日程案が定められた。17日、委員長会議は全人代常務委員会法制工作委員会が行う香港特別行政区国家安全維持法起草工作(活動)の状況報告を聴取し、『中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法(草案)』を第13期全人代常務委員会第19回会議に提出することを決定した。18日、第13期全人代常務委員会第19回会議において委員長会議が提出した法律草案の議案の説明が聴取された。19日、グループ別会議が法律草案の審議を行った。20日、第13期全人代常務委員会第63回委員長会議が北京で開かれ、第13期全人代常務委員会第20回会議の開催期間を6月28日から30日までと決定し、同常務委員会会議の議事日程案が定められた。
6月30日、全国人民代表大会常務委員会は「香港国家安全維持法案」と「香港国家安全維持法」を香港特別行政区基本法の付属文書に追加する決定を全会一致(162票)で可決。習近平国家主席と林鄭月娥行政長官の公布により、現地時間同日夜11時(日本時間7月1日午前0時)より施行。
全文
第1章 総則
第1条 「一国二制度」、「港人治港」、高度な自治の方針を断固とし、かつ全面的、正確に貫きつつ、国家安全を保全し、香港特別行政区と関連する国家分裂、国家政権転覆、テロ活動の組織的実施、外国又は域外勢力との結託により国家安全等に危害を及ぼす犯罪を予防、制止及び懲罰し、香港特別行政区の繁栄と安定を保持し、香港特別行政区居民の合法的な権利、利益を保障するため、中華人民共和国憲法、中華人民共和国香港特別行政区基本法及び全国人民代表大会「香港特別行政区で国家安全を保全するための法律制度および執行体制を打ち立て、健全化することに関する決定」にもとづいて、本法を制定する。
第2条 香港特別行政区の法的地位に関する香港特別行政区基本法第1条及び第12条の規定は、香港特別行政区の基本的条項である。香港特別行政区のいかなる機構、組織及び個人も権利及び自由を行使するにあたり、香港特別行政区基本法第1条及び第12条の規定に反してはならない。
第3条 ①中央人民政府は香港特別行政区の国家安全にかかわる業務に根本的責任を負うものとする。
②香港特別行政区は国家安全を保全する憲制責任を負い、国家安全を保全する職責を履行しなければならない。
③香港特別行政区の行政機関、立法機関、司法機関は、本法及びその他の法律規定にもとづき国家安全に危害を及ぼす行為及び活動を効果的に予防、制止及び懲罰しなければならない。
第4条 香港特別行政区は国家安全を保全するにあたり、人権を尊重し、保障しなければならず、香港特別行政区居民が香港特別行政区基本法および「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」のうち香港に適用される関係規定にもとづき享有する言論、報道、出版の自由、結社、集会、デモ行進、示威の自由を含む権利及び自由を法にもとづいて保護しなければならない。
第5条 ①国家安全に危害を及ぼす犯罪を予防、制止及び懲罰するにあたり、法治原則を堅持しなければならない。法律が犯罪と規定している行為は、法律に従って罪を定め刑に処する。法律が犯罪行為と規定していない場合は、罪を定め刑に処してはならない。
②いかなる者も司法機関により罪を認定されるまでは、およそ無罪と仮定する。犯罪被疑者、被告人及びその他の訴訟参加者は、法にもとづき享有する弁護権及びその他の訴訟上の権利を保障される。いかなる者も司法手続により最終的に有罪を確定又は無罪を宣告された場合、同一の行為につき再び裁判にかけられたり、懲罰されることはない。
第6条 ①国家の主権、統一及び領土の完全性の保全は、香港同胞を含む全ての中国人民の共同の義務である。
②香港特別行政区のいかなる機構、組織及び個人も、本法及び香港特別行政区の国家安全保全にかかわるその他の法律を遵守しなければならず、国家安全に危害を及ぼす行為及び活動を行ってはならない。
③香港特別行政区居民は公職の選挙への立候補又は就任にあたり、法にもとづき文書に署名して、中華人民共和国香港特別行政区基本法を擁護すること、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓うことを確認又は宣誓しなければならない。
第2章 香港特別行政区の国家安全を保全する職責及び機構
第1節 職責
第7条 香港特別行政区は香港特別行政区基本法に規定する国家安全保全立法をできるだけ迅速に完成し、関連する法律を整備しなければならない。
第8条 香港特別行政区の法執行、司法機関は、本法及び香港特別行政区の現行法における国家安全に危害を及ぼす行為や活動を予防、制止及び懲罰することに関する規定を着実に実行し、効果的に国家安全を保全しなければならない。
第9条 香港特別行政区は国家安全の保全及びテロ活動の予防業務を強化しなければならない。学校、社会団体、報道機関、インターネット等国家安全に関連する事項に対して、香港特別行政区政府は必要な措置をとり、広報、指導、監督及び管理を強化しなければならない。
第10条 香港特別行政区は、学校、社会団体、報道機関、インターネット等を通じて、国家安全教育を展開し、香港特別行政区居民の国家安全意識及び遵法意識を向上させなければならない。
第11条 ①香港特別行政区行政長官は香港特別行政区の国家安全の保全業務につき、中央人民政府に対して責任を負い、併せて香港特別行政区の国家安全を保全する職責の履行状況について年次報告を提出しなければならない。
②中央人民政府が提出することを求めた場合、行政長官は国家安全の保全にかかわる特定の事項につき適時に報告を提出しなければならない。
第2節 機構
第12条 香港特別行政区は国家安全保全委員会を設立し、香港特別行政区の国家安全保全業務に責任を負い、国家安全保全の主要責任を担い、併せて中央人民政府から監督及び問責を受ける。
第13条 ①香港特別行政区国家安全保全委員会は行政長官が主席を務め、政務司長、財政司長、律政司長、保安局長、警務処長、本法第16条が規定する警務処の国家安全部門の責任者、入境事務処長、関税長、行政長官事務室主任を構成員とする。
②香港特別行政区国家安全保全委員会に事務局を設置し、事務局長が指揮を執る。事務局長は行政長官が指名し、中央人民政府に報告して任命する。
第14条 ①香港特別行政区国家安全保全委員会の職責は以下の通りとする:
(1)香港特別行政区の国家安全保全にかかわる情勢を分析、検討し、関連する業務の計画を策定し、香港特別行政区国家安全保全のための政策を制定する。
(2)香港特別行政区国家安全保全にかかわる法律制度及び執行体制の整備を推進する。
(3)香港特別行政区国家安全保全にかかわる重点的業務及び重大な行動を調整する。
② 香港特別行政区国家安全保全委員会の業務は香港特別行政区の他のいかなる機構、組織及び個人の干渉も受けず、業務に関する情報は公開しない。香港特別行政区国家安全保全委員会が下した決定は、司法による審査を受けない。
第15条 香港特別行政区国家安全保全委員会には国家安全業務顧問をおき、中央人民政府がこれを派遣し、香港特別行政区国家安全保全委員会の職責履行に関連する業務につき意見を提供する。国家安全事業務顧問は香港特別行政区国家安全保全委員会会議に列席する。
第16条 ①香港特別行政区政府警務処に国家安全保全部門を設置し、法執行のための実力を配備する。
②警務処国家安全保全部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官が任命する前に書面により本法第48条が規定する機構の意見を求めなければならない。警務処国家安全保全部門の責任者は就任時に中華人民共和国香港特別行政区基本法を擁護すること、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓うこと、法律を遵守し、秘密を保持することを宣誓しなければならない。
③警務処国家安全保全部門は香港特別行政区の外から適格な専門的人員及び技術人員を招聘し、国家安全保全にかかわる関連任務を協力して執行させることができる。
第17条 警務処国家安全保全部門の職責は以下の通りとする:
(1)国家安全にかかわる情報の収集、分析。
(2)国家安全保全のための措置及び行動の手配、調整、推進。
(3)国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の調査。
(4)アンチ介入調査の実施及び国家安全審査の展開。
(5)香港特別行政区国家安全保全委員会が委任した国家安全保全活動を引き受ける。
(6)本法の執行に必要なその他の職責。
第18条 ①香港特別行政区律政司に専門的な国家安全犯罪事件検察部門を設置し、国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の検察活動及びその他の関連する法律業務に責任を負わせる。当該部門の検察官は律政司長が香港特別行政区国家安全保全委員会の同意を経て任命する。
②律政司国家安全犯罪事件検察部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官は任命前に書面により本法第48条が規定する機構に意見を求めなければならない。律政司国家安全犯罪事件検察部門の責任者は就任時に中華人民共和国香港特別行政区基本法を擁護すること、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓うこと、法律を遵守し、秘密を保持することを宣誓しなければならない。
第19条 行政長官の承認を経て、香港特別行政区政府財政司長は政府の一般歳入から専用予算を確保し、国家安全保全にかかわる経費を支出し、関連する職員の定員枠を承認しなければならず、香港特別行政区の現行の関連する法規定による制限を受けない。財政司長は毎年、当該予算の運営及び管理につき、立法会に報告を提出しなければならない。
第3章 罪行及び処罰
第1節 国家分裂罪
第20条 ①いかなる者も国家分裂、国家統一の破壊を意図した以下の行為のひとつを組織、画策、実行又は実行に参与した場合、武力を使用又は武力で威嚇したか否かを問わず、犯罪とする。
(1)香港特別行政区又は中華人民共和国のその他のいかなる部分であれ、それを中華人民共和国から分離させること。
(2)香港特別行政区又は中華人民共和国のその他のいかなる部分であれ、その法的地位を不法に変更すること。
(3)香港特別行政区又は中華人民共和国のその他のいかなる部分であれ、それを外国の統治に移すこと。
② 前項の罪を犯した者で、首謀者又は罪行が重大な場合、無期懲役又は10年以上の有期懲役に処する。積極的に参与した場合、3年以上10年以下の有期懲役に処する。その他の参与者には、3年以下の有期懲役、拘役又は管制に処する。
第21条 いかなる者も金銭又はその他の財物を提供することをもって本法第20条が規定する犯罪を犯すよう扇動、幇助、教唆した場合、5年以上10年以下の有期懲役に処する。情状が比較的軽い場合は、5年以下の懲役、拘役又は管制に処する。
第2節 国家政権転覆罪
第22条 ①いかなる者も武力、武力を使うと威嚇又はその他の不法な手段により、国家政権の転覆を意図した以下の行為のひとつを組織、画策、実行又は実行に参与した場合、犯罪とする。
(1)中華人民共和国憲法が確立した中華人民共和国の根本的制度を転覆し、破壊する。
(2)中華人民共和国中央政権機関又は香港特別行政区政権機関を転覆する。
(3)中華人民共和国中央政権機関又は香港特別行政区政権機関による法にもとづく職権の履行に深刻に攪乱、妨害、破壊すること。
(4)香港特別行政区政権機関の職務執行場所及びその他の施設を攻撃、破壊し、正常な職務の履行を不可能にすること。
②前項の罪を犯し、首謀者又は罪行が重大な者は、無期懲役又は10年以上の有期懲役に処する。積極的に参与した者は、3年以上10年以下の有期懲役に処する。その他の参与者は、3年以下の有期懲役、拘役又は管制に処する。
第23条 いかなる者も金銭又はその他の財物を提供することをもって本法第22条が規定する犯罪を犯すよう扇動、幇助、教唆した場合、5年以上10年以下の有期懲役に処する。情状が比較的軽い場合は、5年以下の懲役、拘役又は管制に処する。
第3節 テロ活動罪
第24条 ①中央人民政府、香港特別行政区政府又は国際組織を脅迫、又は公衆を威嚇し、政治的主張の実現を図るため、深刻な社会的危害を引き起こすか、又は引き起こすことを意図する以下のテロ活動のひとつを組織、画策、実行、実行に参与又は実行するように威嚇した場合、犯罪とする。
(1)人に対する深刻な暴力。
(2)爆破、放火又は毒物、放射性物質、伝染病病原体等の物質を投下すること。
(3)交通手段、交通施設、電力設備、燃料ガス設備又はその他の燃えやすく、爆発しやすい設備を破壊すること。
(4)水、電気、ガス、交通、通信、インターネット等の公共サービス及び系統の電子制御システムを深刻に攪乱、破壊すること。
(5)その他の危険な方法により公衆の健康又は安全に深刻な危害を及ぼすこと。
②前項の罪を犯し、人に重傷を負わせる、死亡させる又は公私の財産に重大な損失を負わせた場合、無期懲役又は10年以上の有期懲役に処する。その他の状況では、3年以上10年以下の有期懲役に処する。
第25条 ①テロ組織を組織、指揮した場合、犯罪とし、無期懲役又は10年以上の有期懲役に処し、併せて財産を没収する。積極的に参与した場合、3年以上10年以下の有期懲役に処し、併せて罰金に処する。その他の参与者には、3年以下の有期懲役、拘役又は管制に処し、併せて罰金に処する。
② 本法で言うテロ活動組織とは、本法第24条に規定するテロ活動の罪行を実行又は実行しようとするか、本法第24条が規定するテロ活動の罪行の実行に参与するか又は実行に協力する組織を指す。
第26条 ① テロ活動組織、テロ活動人員、テロ活動実行のために訓練、武器、情報、資金、物資、労務、輸送、技術又は場所等を提供し、支援、協力、便宜を供与するか、又は爆発性、毒性、放射性、伝染病病原体等の物質を製造、不法に保管したり、その他の形式でテロ活動実行の準備をした場合、犯罪とする。情状が重大な場合、5年以上10年以下の有期懲役に処し、併せて罰金又は財産没収に処する。その他の状況では、5年以下の有期懲役、拘役又は管制に処し、併せて罰金に処する。
②前項の行為があり、同時にその他の犯罪も構成する場合、より刑の重い規定にもとづいて罪を定め処罰する。
第27条 テロリズムを宣揚し、テロ活動を実行するよう扇動した場合、犯罪とする。情状が重い場合は、5年以上10年以下の有期懲役に処し、併せて罰金又は財産没収に処する。その他の状況では、5年以下の有期懲役、拘役又は管制に処し、併せて罰金に処する。
第28条 本節の規定は香港特別行政区の法律にもとづいてその他の形式のテロ活動犯罪に対して刑事責任を追究し、かつ財産を凍結する等の措置をとることに影響しない。
第4節 外国又は域外勢力との結託により国家安全に危害を及ぼす罪
第29条 ①外国又は域外機構、組織、人員のために、国家安全にかかわる国家機密又は情報を窃取、密かに調べ、買収、不法に提供した場合、外国又は域外機構、組織、人員に要請して実行、外国又は域外機構、組織、人員と共謀して実行、又は直接又は間接に外国又は域外機構、組織、人員からの指図、制御、資金提供又はその他の形式の支援を受けて、以下の行為のひとつを実行した場合、犯罪とする。
(1)中華人民共和国に対して戦争を発動、又は武力又は武力による威嚇により、中華人民共和国の主権、統一及び領土の完全性に深刻な危害を及ぼす。
(2)香港特別行政区政府又は中央人民政府が制定し、施行する法律、政策に対して深刻な妨害を加え、深刻な結果を招く可能性がある。
(3)香港特別行政区の選挙に対して操作、破壊を行い、深刻な結果を招く可能性がある。
(4)香港特別行政区又は中華人民共和国に対して制裁、封鎖又はその他の敵対的行動を採る。
(5)さまざまな不法な方法で香港特別行政区居民の中央人民政府又は香港特別行政区政府に対する憎悪を掻き立て、深刻な結果を招く可能性がある。
②前項の罪を犯した者は、3年以上10年以下の有期懲役に処する。罪行が重大な場合、無期懲役又は10年以上の有期懲役に処する。
③本条第1項の規定は関係する域外機構、組織、人員につき、共犯として罪を定め、刑に処する。
第30条 本法第20条、第22条が規定する犯罪を実行するため、外国又は域外機構、組織、人員と共謀し、又は直接又は間接に外国又は域外機構、組織、人員の指図、制御、資金援助又はその他の形式の支援を受けた場合、本法第20条、第22条の規定にもとづき重きに従って処罰する。
第5節 その他の処罰規定
第31条 ①会社、団体等の法人又は非法人組織が本法に規定する犯罪を実行した場合、当該組織に対して罰金に処する。
②会社、団体等の法人又は非法人組織が本法に規定する罪行を犯して刑事処罰を受けた場合、運営一時停止又は免許又は許可証の取消しを、それに対して命じなければならない。
第32条 本法に規定する犯罪を実行することにより獲得した資金援助、収益、報酬等の違法所得及び犯罪に用いた又は用いることを意図した資金及び用具は、追奪、没収されなければならない。
第33条 ①以下の事情がある場合、関係する犯罪行為者、犯罪被疑者、被告人に対して軽きに従い、処罰を軽減することができる。犯罪が比較的軽い場合には、処罰を免除することができる。
(1)犯罪の過程において自ら犯罪を放棄するか、又は自ら犯罪結果の発生を効果的に防いだ場合。
(2)自首し、自らの罪行について真実の通り供述した場合。
(3)他人の犯罪行為を告発し、事実であることが確かめられたか、又は重要な手がかりを提供することで他の事件の解決に導いた場合。
②強制措置を採られた犯罪被疑者、被告人が、法執行、司法機関に把握されていなかった本法に規定する本人のその他の罪行について、真実の通り供述した場合、前項第2号の規定に従って処理する。
第34条 ①香港特別行政区の永住資格を持たない者が本法に規定する犯罪を実行した場合、単独で又は付加的に国外退去を命じることができる。
②香港特別行政区の永住資格を持たない者が本法の規定に反し、何らかの理由でその刑事責任を追及しない場合でも、国外退去を命じることができる。
第35条 ①いかなる者も裁判所により国家安全に危害を及ぼす罪を犯したとの判決を受けた場合、候補者として香港特別行政区で実施される立法会、区議会選挙に参加するか、又は香港時別行政区のいかなる公職又は行政長官選挙委員会委員に就く資格を失う。中華人民共和国香港特別行政区基本法を擁護し、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠を宣誓又は声明したことのある立法会議員、政府官僚及び公務員、行政会議構成員、裁判官及びその他の司法人員、区議員は、当該職務を失い、併せて関係する選挙の候補者となる又は上述の職務に就く資格を失う
②前項が規定する資格又は職務の喪失は、関係する選挙を組織、管理するか、又は公職への就任を任免する機構が宣告する。
第6節 効力範囲
第36条 ① いかなる者も香港特別行政区内で本法が規定する犯罪を犯した場合、本法を適用する。犯罪行為又は結果のうちどちらかが、香港特別行政区内で発生した場合、香港特別行政区内の犯罪と認識する。
②香港特別行政区に登録された船舶又は航空機内で本法が規定する犯罪が実行された場合、本法を適用する。
第37条 香港特別行政区の永住者又は香港特別行政区で成立した会社、団体等の法人又は非法人組織が、香港特別行政区以外で本法が規定する犯罪を実行した場合、本法を適用する。
第38条 香港時別行政区の永住資格を持たない者が、香港特別行政区以外で香港特別行政区に対して本法に規定する犯罪を実行した場合、本法を適用する。
第39条 本法施行以後の行為に、本法を適用して罪を定め刑に処する。
第4章 事件管轄、法律適用及び手続
第40条 香港特別行政区は本法に規定する犯罪事件に対して管轄権を行使する。但し、本法第55条に規定する状況を除く。
第41条 ①香港特別行政区は国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の立件、捜査、起訴、裁判及び刑罰の執行等の訴訟手続事項を管轄し、本法及び香港特別行政区の法律を適用する。
②律政司長の書面による同意を経ずして、いかなる者も国家安全に危害を及ぼす犯罪事件に関して起訴することはできない。但し、当該規定は犯罪に関して被疑者を法にもとづいて逮捕し、それを拘束することには影響を与えないし、その犯罪被疑者が保釈を請求することにも影響を与えない。
③香港特別行政区が管轄する国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の裁判は、公訴手続に従って行われる。
④裁判は公開で行われなければならない。国家機密、公共秩序等に及ぶ事情により、公開審理をすべきではない場合、報道関係者及び公衆が全部又は一部の裁判手続を傍聴することを禁止する。但し、判決結果は一律に公開で宣告しなければならない。
第42条 ①香港特別行政区の法執行、司法機関は、香港特別行政区の現行法における拘留、審理期限等の方面に関する規定を適用する際、国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を公正、適時に処理し、国家安全に危害を及ぼす犯罪を効果的に予防、制止及び懲罰するよう努めなければならない。
②犯罪被疑者、被告人に対して、裁判官が国家安全に危害を及ぼす行為を継続して行わないと信じるに足る理由がある場合を除き、保釈は認められない。
第43条 ①香港特別行政区政府警務処国家安全保全部門は国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を扱う際、香港特別行政区の現行法が警察等の法執行部門に許している犯罪事件捜査の際に採用できる各種措置を採ることができ、併せて以下の措置を採ることができる。
(1)犯罪の証拠が所在している可能性がある場所、車両、船舶、航空機及びその他関係する地点及び電子設備を捜索すること。
(2)国家安全に危害を及ぼす犯罪行為を実行した疑いのある者に対して旅券を差し出すよう求め、又はその出国を制限すること。
(3)犯罪に用いるか、用いることを意図した財産、犯罪によって取得した収益等に対して、凍結し、制限令、押収令、没収令を申請し、公に帰属させること。
(4)情報発信者又は関係するサービス提供業者に情報の削除又は協力するよう求めること。
(5)外国及び域外政治組織、外国及び域外当局又は政治組織の代理人に対して資料を提供するよう求めること。
(6)行政長官の承認を経て、国家安全に危害を及ぼす犯罪を実行したことを疑うに足る合理的理由がある者に対して通信傍受及び密かな監視を行うこと。
(7)捜査に関連する資料又は関係する物件を所持していることを疑うに足る合理的理由がある者に対して、質問に答えること及び資料や物件を引き渡すことを求めること。
②香港特別行政区国家安全保全委員会は警務処国家安全部門等の法執行機関に対して本条第1項が規定する措置をとり、監督責任を負う。
③香港特別行政区行政長官に香港特別行政区国家安全保全委員会と共同で、本条第1項が規定する措置を採るために実施細則を制定する権限を授ける。
第44条 ①香港特別行政区行政長官は裁判法院治安判事、区域法院法官、高等法院原訟法廷法官、上訴法院法官及び終審法院法官の中から若干名の裁判官を指定するか、暫定的又は特別に法官の中から若干名の裁判官を指定して、国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の処理に責任を負わせなければならない。行政長官は法官を指定する前に香港特別行政区国家安全保全委員会及び終審法院主席法官の意見を聴取することができる。上述の指定法官の任期は1年とする。
②およそ国家安全に危害を及ぼす言行があった者は、国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の審理を担当する裁判官として指定されることはない。裁判官に指定される期間に、国家安全に危害を及ぼす言行があった場合、その指定裁判官としての資格は終止する。
③裁判法院、区域法院、高等法院及び終審法院において国家安全に危害を及ぼす犯罪事件について提起された刑事訴訟手続は、各法院の指定された裁判官がそれぞれ処理しなければならない。
第45条 本法に別段の定めがある場合を除き、裁判法院、区域法院、高等法院及び終審法院は、香港特別行政区のその他の法律に従って国家安全に危害を及ぼす犯罪事件について提起された刑事提訴手続を処理する。
第46条 ①高等法院原訟法廷に対して国家安全に危害を及ぼす犯罪事件につき提起された刑事訴追手続は、律政司長が国家機密の保護、事件が渉外的要素を有するか又は陪審員及びその家族の人身の安全等を保障するという理由にもとづき、証書により指示することで陪審団を必要としない状況で審理することができる。およそ律政司長が上述の証書を発出した場合は、高等法院原訟法廷は陪審団なしの状況で審理し、併せて3名の法官により裁判廷を構成しなければならない。
② およそ律政司長が前項に規定する証書を発出する場合、関連する訴訟に適用される香港特別行政区のいかなる法律条文上の「陪審団」又は「陪審団の裁決」という文言は、いずれも裁判官又は事実認定者の職権と理解すべきである。
第47条 香港特別行政区法院は事件審理において関連する行為が国家安全に関わるかどうか、又は関連する証拠が国家機密に関わるかどうかの認定問題について、行政長官が当該問題について出した証明書を取得しなければならず、この証明書は法院に対して拘束力を有する。
第5章 中央人民政府駐香港特別行政区国家安全保全機構
第48条 ①中央人民政府は香港特別行政区に国家安全保全公署を設立する。中央人民政府駐香港特別行政区国家安全保全公署は法にもとづいて国家安全保全のための職責を履行し、関連する権限を行使する。
②駐香港特別行政区国家安全保全公署の職員は中央人民政府の国家安全保全の関係機関が合同で選抜、派遣する。
第49条 駐香港特別行政区国家安全保全公署の職責は以下の通りである:
(1)香港特別行政区の国家安全情勢を分析、検討し、国家安全の重大な戦略及び重要政策について意見と提案を提起する。
(2)香港特別行政区が国家安全保全の職責を履行することにつき監督、指導、調整、支持する。
(3)国家安全情報を収集、分析する。
(4)法にもとづいて国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を処理する。
第50条 ①駐香港特別行政区国家安全保全公署は厳格に法にもとづいて職責を履行しなければならず、法にもとづいて監督を受け、いかなる個人及び組織の合法的権利、利益も侵してはならない。
②駐香港特別行政区国家安全保全公署の職員は全国的法律を遵守しなければならないほか、香港特別行政区の法律も遵守しなければならない。
③駐香港特別行政区国家安全保全公署の職員は法にもとづいて国家監察機関の監督を受けなければならない。
第51条 駐香港特別行政区国家安全保全公署の経費は中央財政が保障する。
第52条 駐香港特別行政区国家安全保全公署は中央人民政府駐香港特別行政区連絡事務所、外交部香港特別行政区特派員公署、中国人民解放軍駐香港部隊と業務連携及び業務協調を強化しなければならない。
第53条 ①駐香港特別行政区国家安全保全公署は香港特別行政区国家安全保全委員会と協調体制を打ち立て、香港特別行政区の国家安全保全業務を監督、指導する。
②駐香港特別行政区国家安全保全公署の業務部門は香港特別行政区の国家安全保全の関係機関と協力体制を打ち立て、情報共有及び行動のすり合わせを強化する。
第54条 駐香港特別行政区国家安全保全公署、外交部香港特別行政区特派員公署は香港特別行政区政府と共同して必要な措置を採り、外国及び国際組織の駐香港特別行政区機構、香港特別行政区の外国及び域外の非政府組織及び報道機関に対する管理とサービスを強化する。
第55条 以下の状況のひとつが存在する場合、香港特別行政区又は駐香港特別行政区国家安全保全公署が提起し、中央人民政府への報告、承認を経て、駐香港特別行政区国家安全保全公署は、本法に規定する国家安全に危害を及ぼす犯罪事件に対して管轄権を行使する:
(1)事件が外国又は域外勢力の介入に関連する複雑な状況があり、香港特別行政区による管轄が困難な場合。
(2)香港特別行政区政府による本法の執行が効果的になしえない深刻な事情が出現した場合。
(3)国家安全が重大な現実的脅威に直面する事情が出現した場合。
第56条 本法第55条の規定にもとづき国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を管轄する際、駐香港特別行政区国家安全保全公署が立件捜査し、最高人民検察院が指定した関係する検察機関が検察権を行使し、最高人民法院が指定した法院が裁判権を行使する。
第57条 ①本法第55条の規定にもとづいて管轄する事件の立件捜査、起訴の審査、裁判及び刑罰の執行等などの訴訟手続に関する事項については、《中華人民共和国刑事訴訟法》等の関連する法律の規定を適用する。
②本法第55条の規定にもとづいて事件を管轄する際、本法第56条が規定する法執行、司法機関は法にもとづき関連する権限を行使し、そのために採用が決定された強制措置、捜査措置及び司法判断によって出された法律文書は、香港特別行政区において法的効力を有する。駐香港特別行政区国家安全保全公署によって法にもとづき採られた措置に対して、関係機構、組織及び個人は必ず従わなければならない。
第58条 ①本法第55条の規定にもとづき事件を管轄する際、犯罪被疑者は駐香港特別行政区国家安全保全公署が最初に尋問又は強制措置を採った日から、弁護士を弁護人として委任する権利を有する。弁護人は法にもとづき犯罪被疑者、被告人のために法的支援を提供することができる。
②犯罪被疑者、被告人は合法的に拘束された後、できるだけ迅速に司法機関による公正な裁判を受ける権利を有する。
第59条 本法第55条の規定にもとづいて事件を管轄する際、いかなる者も本法に規定する国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の事情を知っていたなら、いずれも真実のまま供述する義務を負う。
第60条 ①駐香港特別行政区国家安全保全公署及びその職員が本法にもとづき職務を執行する行為は、香港特別行政区の管轄に服さない。
②駐香港特別行政区国家安全保全公署が発行した身分証又は証明書を所持する者及び車両は、職務の執行にあたり香港特別行政区法執行要員の検査、捜査及び差押えを受けない。
③駐香港特別行政区国家安全保全公署及びその職員は香港特別行政区の法律が規定するその他の権利及び免除措置を享有する。
第61条 駐香港特別行政区国家安全保全公署は本法の規定にもとづき職責を履行する際、香港特別行政区政府の関係部門が必要な便宜及び協力を提供しなければならず、関係する職務執行を妨害する行為に対しては法にもとづき制止し、併せて責任を追究する。
第6章 付則
第62条 香港特別行政区の当地の法律規定が本法と一致しない場合、本法の規定を適用する。
第63条 ①本法が規定する国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を扱う関係する法執行、司法機関及びその職員、又はその他の国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を扱う香港特別行政区の法執行、司法機関及びその職員は、事件処理の過程で知り得た国家機密、商業秘密及び個人のプライバシーを秘匿しなければならない。
②弁護人又は訴訟代理人を担当する弁護士は、職務活動で知り得た国家機密、商業秘密及び個人のプライバシーを秘匿しなければならない。
③事件処理に協力する関係機関、組織及び個人は、事件の関係する事情につき秘密を保持しなければならない。
第64条 香港特別行政区は本法を適用する際、本法が規定する「有期懲役」「無期懲役」「財産没収」及び「罰金」は、それぞれ「監禁」「終身監禁」「犯罪所得の公への収用」及び「罰金」を指すものとする。「拘役」は香港特別行政区の関係法律が規定する「監禁」「労役センターへの入所」「教導所への入所」を参照し、「管制」は香港特別行政区の関係法律が規定する「社会奉仕命令」「少年院への入所」を参照し、「免許又は営業許可証取消」は香港特別行政区の関係法律が規定する「登録又は登録免除抹消、又は免許取消」を指すものとする。
第65条 本法の解釈権は全国人民代表大会常務委員会に属する。
第66条 本法は公布の日より施行する。
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