概要
上海アリス幻樂団による「ZUN's Music Collection」に登場する、ある著作物の著者の「 ペンネーム 」とされるもの。
ただし作品を発表して以後、著者と思しき人物の露出は行われておらず、執筆者の実態は不明である。例えばそれが単独人物によるものであるか複数名による共同名義であるか、といった部分なども謎である。
仮に本来の「 Dr.レイテンシー 」以外の誰かがその名前が自らのものだと名乗ったとしても周囲がそれを即座に否定することはできないだろう。「Dr.レイテンシー」を名乗った本人のみ、あるいは誰かがその名を名乗っている様を客観的に観測する「本物のDr.レイテンシー」だけが真実を識るのみである。
作中で語られている範囲での「Dr.レイテンシー」の主な作品は、様々な「 異世界の冒険譚 」(「旧約酒場」)を記した書籍(博物誌)である「 燕石博物誌 」。作品は「 同人誌 」として発表されている。
「同人誌」とは、一般には個人や複数人から成るグループが趣味などを同じくする同好の士に向けて制作する書籍である。出版社などを通さない、自費で発行するなどのケースも多い。自費出版の場合コピー機などを使用して自ら誌面を複製準備することもある。
「Dr.レイテンシー」の「 同人誌 」がどのような形式であるかは作中では不明であるが、「燕石博物誌」に記述された異世界体験はそれに触れた一部の人々を強く惹きつけており、「燕石博物誌」を通した交流なども生まれているなど、影響が広まりつつある。
上記の記述は、「同人誌」としての「燕石博物誌」を手に取った側の視点から見た「Dr.レイテンシー」である。
以降の記述は、「Dr.レイテンシー」本人たちの実際にまつわる記述である。
実際
「Dr.レイテンシー」は、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン(メリー)の二人による執筆活動時のペンネームである。
二人が後に「燕石博物誌」と名付けられる書物を作成した際、著作者のペンネームとして蓮子が提案したのが「 Dr.レイテンシー 」の名義である。
「旧約酒場」では「 メリーのペンネーム 」とも。
「燕石博物誌」については「燕石博物誌」や「旧約酒場」記事を参照。
蓮子とメリーの二人は「秘封倶楽部」としても活動しており、執筆者としての「Dr.レイテンシー」はそれに並ぶ二人の活動のもう一つの姿ともいえるだろう。結界を暴く(曝く)という禁じられた活動を行う「秘封倶楽部」と、結界の向こう側の世界を伝える「Dr.レイテンシー」は同一の存在なのである(「旧約酒場」時点)。
ネーミングと内実のパワーバランス
レイテンシーの綴りは、実際の作品である「燕石博物誌」に収録された楽曲である「Dr.レイテンシーの眠れなくなる瞳」の英字タイトルをみる範囲では「 Dr.Latency 」。
「 Latency 」の意味などについては「燕石博物誌」記事を参照。
「Dr.レイテンシー」のネーミングについてメリーは恥ずかしさもにじませているが、蓮子はその名前に込められる意味や中性性、多文化性などが感じられる様などを通してこのネーミングを肯定している。
「 量子の隙間に潜む世界を見る博士だもの。
ぴったりじゃない。 」(蓮子、「燕石博物誌」)
この様子からして、「Dr.レイテンシー」の提案者は蓮子か、あるいはメリーが冗談めかして口にしたものを蓮子が気に入ったかなどのやりとりが想像することもできるだろう。
「Dr.レイテンシー」の内部にある二人のバランスとしては、蓮子は「 メリー改め、"Dr.レイテンシー" 」ともしているため、「Dr.レイテンシー」が示す実際の人物性を見るとき、蓮子とメリーの二人の均一な等質性というよりもメリーにより力点を置いている様子である。元々体験を書籍としてまとめようと提案したのもメリーで、先述のように「 メリーのペンネーム 」ともされている。
ただし執筆については「 メリーの担当のところ 」ともあるように蓮子とメリーがそれぞれ手掛けるものともなっており、このことから「Dr.レイテンシー」は秘封倶楽部同様に二人がともにあってこその活動でもある様子である。
「Dr.レイテンシー」による執筆活動
作中作としての「燕石博物誌」の制作の実際・現場や製作者たちの心の動きなどについては先述の通り、現実のCD作品である「燕石博物誌」(主にブックレット)で語られている。
蓮子とメリーの分担体制、蓮子によるメリーの口述筆記、あるいは筆記だけでなく二人の語り合いの中から見出される世界の姿など、「燕石博物誌」の制作を通した二人の活動が行われる。
最終的には蓮子の提案で冒険譚的な要素の付加などの脚色も取り入れるなど、事象を記録報告する博物誌という要素だけでなく文芸作品的要素も加えられた模様である。
「旧約酒場」で語られた「燕石博物誌」の内容をみるとき、作中にはメリーが蓮子に語ったメリーだけの体験に加えてメリーと蓮子がともに体験したであろう体験と思われる記述(前者は「夢違科学世紀」、後者は「鳥船遺跡」で語られた体験)もあり、その制作過程の協働性ということだけでなく内容についても、メリーが語った言葉を蓮子がメリーに返した通りに、「燕石博物誌」は「 二人の本 」といえるだろう(「燕石博物誌」)。
「Dr.レイテンシー」の制作物の反響
「 それはすべて、燕石博物誌に書いてある話だな 」
(「Dr.レイテンシー」を名乗る男、「燕石博物誌」)
「旧約酒場」作中では発表された「燕石博物誌」の反響の一部が語られている。
「燕石博物誌」がオカルト体験を持つ人々やオカルトを求める人々の手に触れている様子やその内容が共有されていること、あるいは、信じられている様子が見られる。
また正体不明のオカルト者である「Dr.レイテンシー」自体も一つの記号・象徴として動き出しており、秘封倶楽部という真なる「Dr.レイテンシー」以外の「Dr.レイテンシー」も登場している。
「Dr.レイテンシー」自体がひとつのミステリーであり、これは例えばミステリー作品の同好会の集いで参加者個々人が有名な作家の名を名乗ってそれぞれのIDのようなものを不透明にし、集いの場そのものをミステリーのステージとする趣向にも通じるのかもしれない。
その動向については「旧約酒場」記事も参照。
「執筆者」たち
蓮子やメリーは「 幻想郷を知らない世代のオカルトサークル 」(上海アリス幻樂団公式サイト、「蓮台野夜行」紹介ページ)とされているが、両者の間には「文字による記録物」を通した繋がりの可能性の存在(『東方求聞史紀』)など、文字を通した関連も仄めかされている。
今日の幻想郷にも様々な執筆文化・出版文化があるが、この内、「Dr.レイテンシー」と類似した活動スタイルが見られるのが「アガサクリスQ」である。
創作のジャンルこそ「アガサクリスQ」は推理小説であるなど「Dr.レイテンシー」とは異なるものの、「アガサクリスQ」もまたその作品以外のパーソナルな部分が不明の作家である。
両者の正体を知り得る立場のメタ的視点に立つとき、フィクションにノンフィクションを織り交ぜるスタイルも共通する(小説形式や冒険譚などのノンフィクションに込められる、ノンフィクションとしての異世界体験や「記憶」)。
また「Dr.レイテンシー」と「アガサクリスQ」は東方Projectにおいて両者の登場する以前に一方通行的なものながら「メモ」を通した何らかの接触があった可能性も仄めかされているなど、メタ的には両者の縁はそれぞれの執筆者(の名義)が世に誕生する以前からある可能性を持っている(『東方求聞史紀』)。