「 ――幻視する者達が集う場所があるという。
そこは、旧型酒特有の眠くなるような甘い匂いのする酒場だった。 」
(「旧約酒場」、同梱の帯)
概要
旧約酒場とは、同人サークル「上海アリス幻樂団」による「 音楽CD 」作品である「ZUN's Music Collection」の第九弾作品。
正式名称は
ZUN's Music Collection Vol.9
「旧約酒場 ~ Dateless Bar "Old Adam".」
となっている。
2016年8月、コミックマーケット90にて初頒布。
「 前作、燕石博物誌の続きですが、前作が表なら今回は裏。 」
(上海アリス幻樂団 博麗幻想書譜 2016年7月22日付より)
なお公式サイトのページの記述では、本作タイトルにおける日本語タイトルと英語タイトルを繋ぐ間にある空白の内、「~」記号を挟んだ前者は全角空白が二つとなっている。
アンダーバーで表現すると「__~_」のようになる。多くの作品で空白は一つであることが多い。
本記事もまたこの表記に準じている。
「ZUN's Music Collection」
「ZUN's Music Collection」は上海アリス幻樂団主宰のZUN作曲による音楽を収録したものであり、同じく上海アリス幻樂団作品である「東方Project」の各作品(ゲーム・書籍付属CD等)で使用された楽曲またはそのアレンジ(セルフアレンジ)と、各CDのために新たにつくられた楽曲の二種類からなる。
さらに「ZUN's Music Collection」では同梱のシートまたはブックレットにて、それぞれの楽曲の項目に並んでZUNによる独自のストーリーが語られている。
本作ブックレット等においても、「ZUN's Music Collection」第二弾作品である「蓮台野夜行」以降同シリーズに登場している宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン(メリー)の秘封倶楽部の二人が登場する。
先述のように、本作にまつわる最初の上海アリス幻樂団の公式発表において、本作の前作にあたる「ZUN's Music Collection」第八弾作品の「燕石博物誌」と物語が関連していることが語られている。
一方で本作には「燕石博物誌」とは「 表情の違う曲 」が集められたとされており、「 全体的に難易度高い 」ともしている。
「 全体的に癖の強い感じですが、是非前作と合わせて手に取っていただければと思います。 」
本作では「 秘封倶楽部の課外活動 」として蓮子とメリーが「不思議な体験をした人々が集い、その体験を語り合う場」に顔を出す様子が描かれている。
作中では「 バー 」がその舞台となっており、秘封倶楽部の活動が語られる「蓮台野夜行」以降の「ZUN's Music Collection」では地の文や回想以外のリアルタイムで初めて蓮子とメリーの二人が二人以外の第三者と明確に会話・交流する様子が描かれている。
また前作「燕石博物誌」で制作されていた二人の「 同人誌 」としての「 燕石博物誌 」が実際に発行されて他者の手に伝えられていることも語られている。
本作に登場する「 バー 」には蓮子がメリーを誘った様子であるが、蓮子はこの「 バー 」にまつわる情報を得たのも「燕石博物誌」の頒布に携わっていた時であるとしている。
「燕石博物誌」はこの「 バー 」の客の間では非常に有名で、「 誰の目で見ても奇異 」ともされる(「燕石博物誌」、永遠の三日天下)その内容についても信じられている様子である。
二種類の「酒」と価値の「逆転」
本作においても蓮子とメリーの住まう世界の状況が部分的に語られており、例えば二種類のお酒の存在が語られている。すなわち、「新型酒」と「旧型酒」である。
作中で記述された両者の違いを見るに、2017年の実際の我々の世界に存在するお酒と比較すると、我々の世界にあるお酒は「旧型酒」に分類されるだろう。
蓮子とメリーの世界では人工的なものと思われる合成素材を使用した「 ケーキ 」などが登場(「大空魔術」)していたり、「 筍 」についてあえて「 天然の 」とする(メリー及び蓮子、「夢違科学世紀」)など、人間の食にまつわる部分に自然物から人工物への移行変遷がある様子が描かれている。例えばメリーの個人的経験に由来するのか人々の一般的な経験であるのかは不明ながら、メリーは「 筍 」について「 合成の物しか見た事ない 」ともしている(「夢違科学世紀」、ヴォヤージュ 1969)。
「 でも、鴨の味噌汁は飲めるのかもしれない。合成で。 」(ZUN、「夢違科学世紀」)
二人が訪れたバーである「オールドアダム」(または「バー・オールドアダム」)で提供されるお酒は旧型酒が専門。
旧型酒を通しては社会の変化の他、本作に見られる「 価値観の逆転 」の一つも語られている。
そんな旧型酒にまつわる物事が語られる場面に併せられている楽曲は、「リバースイデオロギー」。
旧型酒を通して語られる社会における「価値の逆転」は人間の生命の見方そのものに及んでいることも蓮子によって語られている。この価値の変化は同じく上海アリス幻樂団の作品である東方Projectに登場する博麗霊夢が、人間の進歩が「 遠い未来 」に高度な発達をみて「死」が遠いものとなったならば(人生の時間が非常に長くなったならば)、人間はどう考えるようになるかという蓬莱山輝夜の問いに対して回答する際に予想した人間の姿と類似している。
輝夜はそのような進歩発展を得た人間社会に月の都のような静的にして平坦な日々の到来を想像していたようであるが、霊夢は輝夜の予想とは異なる人間観を提示した。
「 寿命を減らす技術が発展するんじゃない?
心が腐っても生き続ける事の無いように 」(霊夢、『東方儚月抄』)
「旧約酒場」作中における蓮子とメリーの世界においても蓮子の言葉や「 寿命統制 」などの語からこれに類する社会の生命に対するメンタリティの変化をみることができる。これは一方で「 ネクロファンタジアの実現 」(蓮子、「大空魔術」)とは対比的である。
「 緩やかに減少に転化した 」(「大空魔術」)という人口とその影響について本作でもその様子の一端が語られており、蓮子とメリーの住まう世界の日本では「 人村分離 」(「旧約酒場」)などの施策も行われている様子である。
なお、『儚月抄』での上記の会話シーンにおける霊夢もまた「旧約酒場」での蓮子のセリフのシーン同様にお酒が入っており、霊夢もまたひょっとすると「 自己肯定 」(「旧約酒場」)の心理状況でもあったかもしれない。
「不思議な体験談」
「旧約酒場」作中では「 不思議な体験談 」として別々の人物によって二つのエピソードが語られる。
メリーはこれを含め他者の語る不思議な世界の話に懐疑的であったが蓮子はそれらの話を受け入れている様子で、この違いからふと、メリーは蓮子の心の内について自問している。
体験を語る順が回ってきたメリーもまた人々に自らの体験を語る。
その内容は、作中で語られる描写を見る範囲ではこれまでの「ZUN's Music Collection」の作中で語られたものと同様である様子である。
そしてそれはメリーと蓮子が「燕石博物誌」に執筆した内容とも一致している様子で、メリーの話を聞いた「レイテンシーを名乗った男」のセリフからそれを見ることができる。
「 それはすべて燕石博物誌に書いてある話だな。
ここでは自身の体験を語ってもらう約束だ 」
(Dr.レイテンシーを名乗る男、「旧約酒場」)
メリーは引用物ではなく自らの体験を語ることを求められるが、「燕石博物誌」ですで語られている内容をあえて語ることはメリーと蓮子の演出であり、ここからメリーの取り出す「 マジックアイテム 」とそれを通したメリーの「 能力 」によって物語はさらに深まっていくのである。
なお、「燕石博物誌」自体も先述のようにメリー達の体験談であるため、「自らの不思議な体験を語る」という趣旨であればメリーの語ったものは集いのテーマにおいても何ら問題ない。
蓮子を除く誰もが、目の前の女の子が執筆者である本物の「Dr.レイテンシー」の一人だと知らないだけのことである。
メリー以外の「不思議」の物語
「旧約酒場」においてメリー以外が語った体験として作中で語られているのは三輪山の蛇、廃村に集った髪の毛信仰(作中では「 髪の毛教 」とも)の二種である。メリーは先述のように当初こそ懐疑的であったが、後にその真偽をある方法で蓮子と共に密かに確認している。
それぞれのエピソードに関連する要素としては、次のようなものが考えられる。
三輪山の蛇
実際の奈良県の三輪山の大神神社(おおみわ-)には蛇に変化顕現した「大物主大神」(おおものぬしおおかみ)の物語がある。これは所謂「『見るな』の禁忌」に触れてしまう物語であり、禁を犯した人間のもとを去った神格が帰っていった場所が三輪山とされている。
大物主は大神神社では祭神。酒の神でもあり、酒造の神でもあるが、その神格は新型酒にも及ぶだろうか。
農業神の一面もあり例えば今日では土地の穀物と清流から生み出される三輪素麺(-そうめん)の守護者でもあるなど、「天然」の食材を用いた食品に加護を与えるともされる。
信仰を奉じることを求める祟り神としての一面も持ち、信仰に応じて祟りを収める(この儀式が先述の大神神社建立の発端とされる)など、「旧約酒場」で語り手が最後に想像した裏事情との関連を感じさせる要素もある。
大物主自体は大国主(おおくにぬし)と関連したエピソードももち、大物主は大国主の国興しを少彦名(すくなひこな)に続いて支援した神格である。東方Projectでは少彦名については豊聡耳神子が少名針妙丸をその「 子孫 」と評している(『東方深秘録』)。
なお、本エピソードに重ねられた楽曲である「大神神話伝」の初登場は『東方神霊廟』であるが、「旧約酒場」ではこれに英語の題が新たに追加されている。
この英題である「 Story of Mythomiwa 」にみる「 Mythomiwa 」は「神話」などを意味する「 Mythology 」(英)と大神(おお-みわ)または三輪山(みわ-)にみる「 miwa 」を組わせた造語(「 Mytho-miwa 」)か。
その場合「 miwa の神話」などとも読むことができるだろう。楽曲名そのものも「大神(おおみわ)の神話の伝え」と読むことも出来るものであり、「旧約酒場」では邦題英題いずれを通しても作中エピソードとも符合するものとなっている。
毛髪信仰
言語学では言葉の音(発音等)に関連性を探究するものもあるが、生体の「髪」と聖体の「神」はいずれも「kami」の音となり、他日本語表記も今日では「かみ」「カミ」となるなど共通をみるものとなっている。
「旧約酒場」では蓮子は毛髪信仰ついて「 再生性 」が信仰を寄せるものなのでは、としている。自然に抜け、自然に生えてくるそれを不死鳥のような再生の輪廻(リザレクション)と捉える視点といえるだろう。
実際に京都嵯峨には髪に由来する伝統と謂れを受けた御髪神社(みかみ-)がある。
髪を神性を伝う「お守り」と見るものもあり、例えば一部を除いた琉球における「おなり神信仰」などでは姉妹の「髪」には守護の力があるとされ、ケース例として海に出る兄弟の安全のためにお守りとしてこれが手渡された。琉球の信仰における、女性の祈りの霊力の発露の一つである。
守護のお守りとしては「巫女の御髪」(-おぐし・-みぐし)と等質の捉え方と言えるだろう。
逆に髪を呪いの媒体とするものもあり、丑の刻参りには呪いのターゲットの髪を人形に仕込む、というスタイルをとるものもある。
こちらは東方Projectではこの儀式の開発者とも噂される水橋パルスィの領分(『東方求聞口授』)だろう。パルスィもまた「悪縁を(宇治川に)流し去る」神格である橋姫(瀬織津比咩。せおりつひめ)の謂れを受けている様子が見られている。
なお、パルスィの嫉妬心を操る程度の能力の影響を受けてしまった場合の対処として、稗田阿求は「お酒を飲んで愚痴る」(発散する)ことを挙げている(『求聞口授』)が、これが可能なのは旧型酒の方である。
その機能(酔い)の低減を目指した新型酒では旧型酒のような効果は望めないだろう。
収録楽曲
次のリストは本作に収録された楽曲のリストである。
No | 楽曲名 | 出展 |
---|---|---|
1 | バー・オールドアダム | オリジナル |
2 | 燕石博物誌が連れてきた闇 | オリジナル |
3 | リバースイデオロギー | 東方輝針城 |
4 | アウトサイダーカクテル | オリジナル |
5 | 大神神話伝 | 東方神霊廟 |
6 | パンデモニックプラネット | 東方紺珠伝 |
7 | 旧世界の冒険酒場 | オリジナル |
8 | 魔界地方都市エソテリア | 東方星蓮船 |
9 | 亡失のエモーション | 東方心綺楼 |
10 | 二日酔いの同床異夢 | オリジナル |
蓮子とメリーのデザイン
服装の基本構成などはこれまでの作品とも共通するが、本作に特徴的なものとして蓮子とメリーのいずれも帽子を着用または所持していないという点がある。
ブックレットの他の場面でも描かれていない。
「夢違科学世紀」など室内環境で着用していないケース(着席前の蓮子は除く)、あるいは逆に室内環境であっても着帽状態であるケース(「卯酉東海道」の蓮子)はあるものの、両者いずれもが帽子なし、というケースは本作初である。
同時に蓮子が髪飾りを着用する様子が見られるのも本作が初である(後述)。
ソファに並んで腰を下ろし、お酒と思しき飲み物を手に笑い合う様子が描かれている。
シーンとして二人の自然な視線の交錯が直接的に想像できる様子は、それを見て取ることのできる両者の瞳が描かれていることを条件に含めると本作が初。
「夢違科学世紀」、または「卯酉東海道」でも二人の着席位置またはシチュエーションなどから視線の交錯が想像されるが、前者では蓮子が背を向けており、後者ではメリーの顔がカレイドスコープ側に向いているため、他者が二人の視線が交わる様子を直接見ることはできない。
視線の交錯の状況が最も近いのは「蓮台野夜行」であるが、こちらではメリーの視線軸が蓮子を背中方向のさらに向こう側にある。
宇佐見蓮子
全体のシルエットは「伊弉諾物質」の時のものに近く、白のブラウスと黒のスカートを着用している。
半袖であることも共通する。
ただし、例えばブラウスの正面の構造や裾部分の波縫い状のデザインの有無など二者間にも違いがある。
また足元も「伊弉諾物質」などのデザインと異なる様子であるが、こちらは作品タイトルのデザインと重複しているため、正確な描写は不明である。
頭には白系統のリボンのようなものを飾っており、左方向にはリボンの結び目がある。
これはこれまでの作品で蓮子が所持していた帽子に結ばれたリボンと同種のもののようにも見え、そのカラーやリボンの存在なども共通している。
正面からはカチューシャのようなものにも見ることができる。
こげ茶色または黒系統の色合いの髪は首元付近までの長さで、後ろ髪がふわりと広がったエアリーボブのような髪型。「燕石博物誌」のデザインとは分け目を逆にしている。
右手に細長いカクテルグラスのようなものを持ち口元付近に寄せ、左手は座っているソファにあてている。
組んだ足は右足が上。
お酒が入っているためか頬が紅くなっており、柔らかい笑顔で右隣に座るメリーに視線を寄せている。
なお、本作の蓮子の衣装はファンの間でも「イメチェン」などと言われることもあり、これまでの蓮子とはまた違った新しい魅力をもつ。
マエリベリー・ハーン
メリーの全体シルエットは「燕石博物誌」、スカートの内側のフリルは「鳥船遺跡」に類似している。
襟元の赤色の波縫い状のデザインも見ることができる。
ただし、他作品でワンピース正面にみられるボタンのような意匠について、本作では小さな赤いリボンとなっているなど、本作ならではのデザインが見られる。
感覚としては八雲紫による通称「スキマ」の端に結ばれる赤リボンにも近い。
また本作では半袖であり、袖口には白色の意匠がある。
半袖の様子は本作以外では「大空魔術」や「伊弉諾物質」の服装デザインにこれを見ることができるが、前者では袖の形状の違いや同作ではメリーの服装がワンピースではないなどそれぞれとの違いもまたある。
足元には白色のソックスに黒系統の靴を履く。
髪は「燕石博物誌」と同様にウェーブのかかった豊かな金色系統と思われる。
ロックグラスのような大きめのカップをお腹付近の位置で両手で持っている。
グラスの中に見られる黄金色は、作中でも登場する「 黄色 」の「フォービドゥンサイダー」か。
蓮子同様に頬を紅くし、顔を左隣の蓮子に少し向けつつ視線も蓮子の側に寄せている。
また自由に遊ばせた両足にはメリーのリラックスした様子も感じることができる。
二人の様子を併せてみるとき、足を組み片手で小さなグラスを手にしている大人びた雰囲気の蓮子と足を遊ばせつつ両手で大きなグラスを手にする自然な明るさをみせるメリーというそれぞれの魅力的な対比が描かれている。
その他の要素
ブックレット及びCD背面シートの描写を見る範囲では、二人が着席しているソファは三つの着席位置を有する。二人の着席位置はやや右手よりにゆったり空間をとっているもので、蓮子の左手側にはもう一人着席できそうなスペースがある。
ソファのさらには以後には樹木があり、この樹木には赤色の果実のようなものが見られる。
ただしこの樹木や果実のようなものが具体的にどのようなもの(たとえば自然物か人工的な飾りであるかなど)は不明。
二人の周辺には植物や光の環、光の流れ、蝶などのシンボルが描かれている。
「旧」
英字タイトルには、殆どの要素に「旧」の意味を含む語が含まれている。
「 Dateless 」とは、一般に「時間」にまつわる語である。
「日付のない」、「年代(時期)の分からない」といった意味の他、「無限の」「永遠の」や「太古からの」「いつまでも興味のある」等の意味がある。
「時間」関連以外のものとしては、「date」を二人が連れ添って出かけたり同じ時間を過ごしたりするいわゆる「デート」としてとらえ、これを基に「 date-less 」といったニュアンスを見出して「デート(の相手)の無い」とする意味もある。
「 Bar 」にも多様な意味があるが、日本語タイトルにも関連して「酒場」の意味もある。この日本語タイトルの「旧約酒場」にみる「旧約」には、一般にはキリスト教における「旧約聖書」が連想されることだろう。
ここにおける旧約とは、キリスト教における神がかつてモーセ(「出エジプト記」)を通して人類に与えた契約(旧い約束)を指す。
キリスト教ではその後、神によってイエス・キリスト(ナザレのイエス)が遣わされてその生涯(死と復活も含め)を通して神と人々との間の新しい契約(新約)を結びあわせたため、モーゼを通した契約を「旧約」、イエス・キリストを通した契約を「新約」としている。同様に、キリスト以前の「旧約」を伝える聖典を「旧約聖書」、キリスト以後の「新約」を伝える聖典を「新約聖書」としている(いずれも等しく聖典)。
他方ユダヤ教ではキリスト教における旧約聖書が唯一の聖典であるため、「旧約」などの呼称はされない。一貫して「聖書」である。
英字タイトルにある「 "Old Adam" 」にみる「 Adam 」は、多様な人名などにも用いられるが、「旧約」から続く文脈を見るとき、旧約聖書冒頭の「創世記」に登場する最初の人間である「アダム」を見ることができる。ここにおいては、神が自らに似せて、万物の支配者として「 土( アダマ ) 」から生み出したのが「 人 ( アダム )」(※参考1)である。
アダムはエバ(イブ)と共に楽園を追われることとなるが、その後エバと共に子を成し、亡くなるまでの930年の間にアダムの系図の始祖となった。キリスト教ではアダムの系図は新約聖書におけるナザレのイエスにも繋がっており、アダム以後、ノアやアブラハム、ダビデなどを通してその系譜が結ばれる(※参考2)。
アダムは、ユダヤ教、キリスト教、さらにイスラム教においても、以後語られる多様な人々・人類の「最も旧き祖先」なのである。
ただし「旧約」には上記のようなキリスト教におけるそれではなく、広く一般的なものとしての「旧い約束、昔の約束」としての意味や用法もある。
この他本作ではタイトルの「酒場」を皮切りにオリジナル楽曲タイトルにいずれもお酒関連(及びお酒がもたらす翌日の苦悩まで)のワードも込められているなど、作品タイトルと各楽曲がそれぞれの結びつきを生み出してる。
「 Dr.レイテンシー 」が描いた「 博物誌 」の物語と「 Dateless Bar "Old Adam". 」がどのように結ばれるのか、ファンの間でもその発表以後様々な考察の展開が成されている。
「同床異夢」
本作のラストトラックにあたる「二日酔いの同床異夢」にみる「同床異夢」とは、同じ寝床で寝ていても、それぞれは違った夢を見ていることを指す語である。このことから、同じ立場、同じ行動をとりながらも異なる考えや意見、価値観を持つ、との意味も持つ。
ニュアンスとしてはポジティブにもネガティブにも用いられる。
ポジティブ・ネガティブの両端的方向ではなく先述の意味そのままに中立的な意味合いとして、「同じ場所にいてもそれぞれが異なる想いを抱くさま」を指すケースもある。
ただしいずれのニュアンスにおいても、「 フォトンが支配する人間が見ている世界 」である「 『この世』 」(「燕石博物誌」、「須臾はプランクを超えて」)にあって、それぞれが見る夢は違えているのである。
「 メリーによると、人はそれぞれ僅かに異なる世界を見ているのだという。
興味深い事に、違う世界を見ていてもコミュニケーションは成り立つらしい。 」
(蓮子、「燕石博物誌」、九月のパンプキン)
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作品関連
宇佐見蓮子(蓮子) マエリベリー・ハーン(メリー)
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「ZUN's Music Collection」シリーズ
外部リンク
三輪山の蛇
髪の毛信仰
参考出典
参考はすべて日本聖書協会による『聖書 新共同訳』(1997版)によるものである。
詳細具体的な参考内容と参考箇所、及びその節の原典は次の通り。
- 参考1 / 「土(アダマ)」から「人(アダム)」を : 創世記 2章7節
- 原典:「 主なる神は、土(アダマ)の塵で人(アダム)を形作り、その鼻に息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。 」
- 参考2 / アダムからナザレのイエスに至る系譜
- アダム~セム(ノアの子) : 創世記5章及び同章32節
- セム~アブラハム(アブラム)※ : 創世記11章及び同章26節
- アブラハム~ナザレのイエス : マタイによる福音書1章1節から17節(新約聖書)
※ここで指すアブラハムとは、神がアブラム(セムの系図におけるテラの子)に与えた新たな名である(創世記17章5節)。