概要
前もって決められた価格と期日で決済を行う取引。対義語は「現物取引」。
その商品の価値が将来どうなるかを予測して売買し、利益を出したり損失を抑えたりする。
先を予想して利益を狙うという点では現物の投資と同じだが、取引の期限(限月)が予め設定されている点で性質が異なる。
通貨、株式、債券、コモディティ(主に原材料。鉱物、農作物、原油など)といった感じで、頻繁に売買されるものが幅広く対象となる。中には金利や恐怖指数(VIX)など、概念を指数化したものを対象としたものもある。
なお株式に並んで投資商品の鉄板の一つである不動産における「先物」は意味が異なるので注意。
先物の歴史は古く、農業技術の発達していなかった頃は次の収穫時点での豊作・凶作のどちらかを予測できないことから、予め農作物の売買価格を決定しておく先物取引がよく行われていた。
江戸時代に大阪が「天下の台所」と呼ばれたのは全国から米が集まったことに加えて、この先物取引を組織的に行い、投機的な有価証券も発行して発展していた堂島米市場が存在したからである。
用途
攻めと守り
先物には「攻め」と「守り」の2種類がある。
「攻め」の先物は、現代ではデリバティブ(金融派生商品)の一種としてレバレッジ(借金)を用いた投機・マネーゲームの代表格となっている。先物といえば一か八かの、ハイリスク・ハイリターンの大冒険というイメージが一般人には蔓延しており、実際そういう部分があることは事実である。
「対象指数の○倍の値動きを目指す」と謳うレバレッジ型の投資信託も、先物の仕組みを利用することで値動きを実現している。
しかし実は「守り」の方が一般人には身近な存在であり、実際に投資信託ではリスクを抑えるための手段として頻繁に用いられている。外国資産を扱う投資信託で「為替ヘッジあり」の商品を買う場合は、先物を利用して急激な為替変動を起こさないようにしているし、オルカン・S&P500など大人気の低コスト株式インデックス投資信託では為替ヘッジが無い種類のものでも、対象指数との連動精度を高めるために、資産全体のうちの1%程度が先物となっているのが一般的である。
要は火や包丁と同じで、遣い方次第では凶器にもなるし、あるいは便利で生活を豊かにするものにもなる。
利益を得るために先物取引に参加している者を「スペキュレーター」、現物のリスクヘッジ目的で参加している者を「ヘッジャー」とそれぞれ呼ぶ。
現物の先行指標としての先物
先物と現物の値動きは基本的に連動するのみならず、先物が先に大きく動いて、後から現物も釣られて反応する、という現象がよく起きる(先物主導)。
そのため現物専門の投資家でも、短中期で売買する場合は先物取引の値動きを無視することができない。
先物は決済日が決まっている関係上、特に株式指数の先物はSQ(特別清算指数)決済日が毎月第二金曜日に設定されている。そしてこの直前の売買は、先物取引参加者の思惑が重なり合うため、現物の値動きも大きくなりやすい。
さらにこれとオプション取引のSQが3ヶ月に一度重なる「メジャーSQ」では、通常のSQに輪をかけて値動きが激しくなるため、株式の売買には慎重になる必要があるとされる。
現物の場合は日中しか取引できないが、先物は夜間の部もある。そのため次の日の戦略を練る上で、現物投資家によく参照される。
先物を見れば、例えば昼には上げていた日本株が、米国市場の動向によって下げているのが、日本時間の真夜中や早朝でも確認できるのである。
また海外の取引所で上場していた現物の投資信託(ETF)が日本にも上場する場合、取引所の開場時間に時差があるため、その基準価額の値動きは先物取引のものが参照される。
なお上述の通り先物と現物は連動するが、常に100%同じ価格というわけではない。機関投資家が用いる取引手法として裁定取引(アービトラージ)があるが、これにわずかな時間だけ発生する先物と現物の価格差がよく利用される。
その他
先物ETFを購入すれば、現物のような感覚で、比較的コントローラブルな範囲で、気軽に先物取引に参加することができる。
ただし超長期的に所有すれば価値が増えていく場合が多いとされる現物の株式インデックスとは異なり、先物ETFは内部で限月の近い取引をこなし、遠くの先物を買うという処理がされる。このため、限月が近いほうが安い場合に価値がゴリゴリ逓減していく「コンタンゴ」と、逆に近いほうが高い場合に逓増していく「バックワーデーション」の2局面が存在する。そこを見極めないで現物の感覚でボーっと所有していたり、呑気に「ガチホこそ最強!」などとのたまっていると酷い目に遭うので注意が必要である。