概要
社会が大きく変質したバブル期前後から目立ち始めた命名法則で、きらびやかさやフレッシュさを重視したものを指す。外国語由来の単語を組み込んでいる事も多い。
「キラキラネーム」自体の語源は、2000年ごろに開設された子供の命名を考えるコミュニティサイトとされ、それを大手育児雑誌「たまごクラブ」が同名の特集記事としてまとめた事で一般的に広まっていったと言われている。
キラキラネームが求められた背景には、伝統的な社会の崩壊によって個人単位での競争が激化し、他人より少しでも存在感を主張する必要がある・少しでも良いイメージを演出する必要があると考えられたという事が大きいだろう。
グローバル化が進み続けている事も、和風である必要性を低下させた。食事にパンやパスタを取り入れてきたように、名前も世界中の言語から良さそうなものを選べば良いのである。
そうした流れは、個人単位に留まるものでもなかった。
名だたる大企業さえも、競合他社との差別化のためにこぞって華美あるいは仰々しい名前を商品に付けている。
例えば国鉄時代に「雷鳥」という名だった特急列車は、JR西日本の下で「サンダーバード」に「進化」した。
「ライチョウ」と「サンダーバード」は全く別の鳥であり、後者は実在さえしていない「神話」上の存在であったが、そんな事は問題ではなかった。
大事な事は初見でいかに大きなインパクトを与えられるかなのである。
もっとも、この流れに疑問を呈する声もまた多い。
聞き慣れない名前は中高年には覚えが悪く、嫌悪感さえ抱かれる事もある。イメージ優先で選んだ言葉は、内容が伴わず空虚になりやすい。早い話が必ずしも有効なアピールになるとは限らないのだ。
保守的な考えが強いネットでも基本的に批判一色で、この概念が一般化して以来「DQNネーム」と呼び変えられて侮蔑的に扱われる事がほとんどとなっている。「キラキラネーム」の単語が使われる事もあるが、別に受け入れられたわけではない。それ自体が蔑称になっただけである。
また、物事は時と共に陳腐化してゆく。
「ナウなヤングにバカウケ」が今聞いても冗談としか思えないように、付けた時点で最先端のネーミングセンスであっても、10年20年経てば立派な歴史用語と化してしまう事は十分に考えられる。
常に新しい感覚が求められる現代では、そうならない可能性の方が低いとさえ言えてしまう。
こうした事が明らかになってくるにつれ、次第にキラキラネームも変質してゆく。
あえてひらがなを混ぜるなど、柔らかさや親しみやすさを重視した命名が台頭し始めたのである。
例えば先の「サンダーバード」が走っていた北陸本線が第三セクター化される際、新たに設立された会社は北から順に「えちごトキめき鉄道」「あいの風とやま鉄道」「IRいしかわ鉄道」と命名された。
また、「えちごトキめき鉄道」は「北陸本線」を「日本海ひすいライン」に呼び変えたり、「IRいしかわ鉄道」は「能登かがり火」というJR直通列車を新設していたりもする。いずれも地域性を前面に押し出した名称であり、雰囲気の変化がおわかりいただけただろうか。
また、個人の命名としても、漢字に強引に外国語の読みを当てたようなものは減少傾向にあり、代わって万葉仮名のような使い方をするものが増えてきているという。
2015年生まれの子供の名前を調査した結果では、男子の最多が「湊(そう、みなと、いちか)」、女子の最多タイが「さくら(ひらがな書き)」「莉子(りこ)」であった。
・・・違う、そうじゃないとか言ってはいけない。
いずれにせよ、和風の命名が再び増加してきているのは事実であるものの、あくまで「キラキラ」させるための一要素でしかなく、伝統的な命名法則が復権したとは言い難いのが2010年代半ばの現状である。