十文字槍
じゅうもんじやり
概要
穂の根本あたりから三叉に枝分かれした左右対称(まれに非対称)の槍。両鎌槍・十字槍とも。
基本的に両鎬造り(断面が剣のような菱形)で、通常の槍より薄い傾向にあるが諸外国のポールウェポンと比べれば分厚い部類。参考までにハルバードの斧刃が厚くても5mm程度で、十文字槍は制作時期にもよるが6~10mmほど。一般的ではないが刀のようにハバキや鍔を備えたものも存在する。
複雑な形状が示すとおり攻撃のバリエーションが豊富で「突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌」と喩えられ、また枝刃を防御に使うなど創意工夫次第で多彩な戦法が取れる。だが、それは即ち使いこなすのに修練を要するということに他ならない。
加えて製作やメンテナンスにも手間がかかるため、武将のような一定の身分・財力を持つ者のための武器と言って差し支えないだろう。有名な戦国武将ゆかりの品が複数存在するのもその証拠と言える。
十文字槍を扱う流派としては宝蔵院流槍術が特に有名。
同流派の始祖宝蔵院胤栄が八日目の月影を見て、屈曲した横手を持つ十字槍を思いついたと伝えられているところから月剣とも呼ばれた。しかし胤栄の時代以前から同形態の槍は存在しており、この説話はあくまで伝説かと思われる。
槍術の流派によって常寸が変化するほか、鎌刃の向き(切っ先側・手元側、これらを左右で互い違いに備えたもの、両側に突き出たもの)や長さ、反り具合など多様な形状に基づいた呼び名がある。ただ穂先が1尺(30cm)を超えるような大型のものは珍しく、それも戦国時代のものが殆ど。