経歴
母母のデアリングハートはGⅢを3勝しており、2005年の桜花賞は3着。このレースはエピファネイアの母シーザリオが2着になっており、奇しくも両祖母が同じレースに出走していたのだ。
そんな馬達を祖に持つ彼女が良血馬なのは確かだが、母のデアリングバードは未勝利馬。繁殖牝馬として日高の小さな牧場にセリで落札され、デアリングタクトもそこで産まれた。
小柄である為か当歳のセレクトセールは買い手がつかず主取。翌1歳に1200万円で落札されるも、セレクトセールの牝馬の平均落札価格(3000万円)に比べれば安価であった。
馬主はノルマンディーサラブレッドレーシング。創設から10年にも満たない比較的新しいクラブであるが、母体の岡田スタッドはスマートファルコンなどといった名馬を輩出している。
その後37歳の若手調教師率いる杉山晴紀に入厩。入厩先でも最初は大きな注目は集めていなかった。
2歳(2019年)
11月の新馬戦に出走。鞍上の松山弘平も29歳と騎手の中では比較的若手だが、2018年~2020年にかけて東西の騎手で上位10位以内に入るトップジョッキーである。以降も彼がデアリングタクトに騎乗することになる。
最後の直線で前の馬達に塞がれるも、外に出ると残り200m前後で一気にスパートを掛けて1.5馬身差で勝利。
3歳(2020年)
2月のリステッド競走・エルフィンSに出走。十年以上前はウオッカやアグネスフローラといった名馬を輩出したレースであった。そのようなレースで、デアリングタクトは最後の直線に入って後方から三番手と先頭から大きく差を付けられていた。しかし、直線で馬群を一気に抜き去る追い込みを見せて4馬身差をつけて勝利。ウオッカの記録を0.1秒上回るレースレコードとなった。
桜花賞
新女王誕生!デアリングタクト!
三冠初戦、桜花賞では2歳女王・レシステンシアに続く二番人気に推された。
しかし雨による重馬場に加え、逃げ自慢のレシステンシア・スマイルカナによる二頭の逃げで両馬から大きく離されてしまい、今までの追い込みが通用するのかと思われた。
それでもデアリングタクトの猛追は重馬場でも発揮し、最後の最後でレシステンシアを抜いて勝利。
無敗の桜花賞勝利・3戦目での桜花賞勝利は前例があれど、同時達成は史上初であった。
生産者は勿論、クラブにとっても初のGⅠタイトル獲得。ケイティブレイブで地方GⅠを勝利している杉山厩舎にとっても初の芝GⅠ勝利。
また、父エピファネイアにとっても、初年度産駒によるGⅠ勝利と嬉しい結果となった。
スペシャルウィーク⇒シーザリオ⇒エピファネイア⇒デアリングタクトで、史上3例目の親子4代GI制覇も達成。
優駿牝馬
63年振りの夢かなったデアリングタクト!!
二戦目のオークスでは一転して良馬場に。
レシステンシアは不在(NHKマイルCに出走)であったが、もう一頭の逃げ馬であるスマイルカナが相変わらず逃げる展開となった。他の馬がスマイルカナに追いつく頃にはデアリングタクトは前が塞がった状態で中々抜け出すことが出来なかった。しかし、騎手の指示に応えるように馬群の隙間から抜け出すと、先頭を走っていたウインマイティー・ウインマリリンの二頭を抜けて勝利。
無敗の牝馬二冠自体は2006年にカワカミプリンセス(オークス・秋華賞)が達成しているが、春の無敗牝馬二冠はミスオンワード以来63年振りの快挙である。(※)
秋華賞
咲いた咲いた三冠の華!強く、逞しく、美しく、デアリングタクト三冠達成ー!!!
夏の休養を挟んで秋は秋華賞への直行が8月末にオーナー側より決定。
史上初となる無敗の牝馬三冠への期待は勿論のこと、フェブラリーステークス以来となる(条件付きであるが)競馬場に観客を入れての開催ということもあり注目が集まった。最終的に単勝オッズは1.4倍にまでなった。
レースは後方から5,6番手で始まったが、徐々に順位を上げていく。コーナーを回ると最後の200mで先頭に立ち、横にいたマジックキャッスルや外から追い込んでくる馬達をかわして勝利。
鞍上の松山弘平は馬上で「3」を示すハンドサインを出し、三冠をアピール。
史上初の無敗牝馬三冠馬がここ誕生した。
ジャパンカップ
秋華賞後、陣営は次走にジャパンカップを選択する。後に同期のクラシック三冠馬コントレイル、そして、芝GⅠ8勝の新記録を打ち立てた先輩三冠牝馬のアーモンドアイが引退レースとしてジャパンカップに出ることを表明し、最初で最後となる三冠馬3頭の直接対決が実現した。
デアリングタクトは3枠5番からのスタートとなる。
キセキが大逃げを打つ中で、コントレイルと共に中団から様子を窺うと、最後の直線で脚を伸ばすが、一足先に抜け出たアーモンドアイを捉えられず、その1馬身1/4離されたコントレイルにクビ差及ばなかったが、カレンブーケドールをハナ差で制し3着に入り、三冠馬3頭が上位を独占する結果となった。
コントレイルと共に初黒星を喫するも、牝馬三冠を獲った実力を遺憾なく発揮した。
4歳(2021年)
4歳シーズンは香港・沙田競馬場で行われる国際G1競走クイーンエリザベス2世カップを目指し、初戦はG2金鯱賞を選択。レースではグローリーヴェイズやキセキといったG1馬がいるなかで単勝1.4倍の1番人気に支持される。1枠1番から出走して道中は6番手を進み、直線では外に持ち出して追い込んだが、先頭の10番人気ギベオンを捉えきれず、2着に敗れた。
次戦は予定通りクイーンエリザベス2世カップへ挑む。本番では単勝1.7倍の一番人気に支持される。レースでは好スタートを切り、先頭から3番手に付けるか、最後の直線で同じく日本から参戦したラヴズオンリーユーにかわされ、更にゴール前でグローリーヴェイズにも抜かれ3着に終わる。
その次は宝塚記念を視野に入れていたが、帰国後に行ったエコー検査の結果、右前肢繋靱帯炎を発症していることが判明。予定していた宝塚記念参戦は絶望的となり、長期休養に入った。
その後は復帰に向けて幹細胞移植手術を受け、リハビリと調教に励むこととなった。
5歳(2022年)
5歳シーズンに突入した2022年。着々と復帰に向けた動きを進めるデアリングタクトだが、3月末に岡田スタッドグループの岡田牧雄代表により、正式にレースへ復帰することが発表された。
予定では5月のヴィクトリアマイルを復帰戦とし、その後は6月の宝塚記念を目指すとのこと。前走から385日ぶりのレースとなり、もしヴィクトリアマイルを制した場合、トウカイテイオーが1993年の第38回有馬記念で成し遂げた「364日ぶりのGⅠ制覇」という記録を塗り替えることとなる。
既に同期のコントレイルは引退して種牡馬入りした中、再びターフで栄光を手にできるかどうかが期待される。
関連イラスト
(左から順にウインマリリン、デゼル、デアリングタクト)
関連項目
脚注
※:ミスオンワードは三冠獲得のために、最終戦となる菊花賞に出走するも大敗に終わった。1957年当時、牡馬も牝馬も三冠レース最終戦は菊花賞。秋華賞はおろか、その前身のエリザベス女王杯・ビクトリアカップといった牝馬三冠最終戦は存在しなかった。