かつてJR西日本が運用していた113系3800番台電車のことである。愛称は「サンパチ君」。
概要
2001年に福知山線用の改造車であった113系800番台を、同線篠山口駅以北及び山陰本線福知山駅~城崎駅(現:城崎温泉駅)間でのワンマン運転化のために再改造した車両である。
種車の800番台3両編成を2両編成に短縮したものだが、中間車だったモハ113形を先頭車に改造するにあたって、工程簡略化のため(当初の予定かは不明だが、結果としては113系最初期車ゆえに使用期間が長くないことを見越して)先頭部を新製または流用して中間車に接合する通常の先頭車化改造と異なり、妻面だけを造り替えて運転台を設置した。
この結果、新性能電車でありながら旧型国電のような古臭い平面顔が生まれることとなった。
妻面をそのまま運転台に改造する手法は、古くは旧型国電や、青ガエルこと東急旧5000系改造の「平面ガエル」(※1)などの例があったものの、既に運転台接合技術が確立した21世紀にもなって、こんな安っぽい改造が行われるとは、全く「その発想はなかった」であった。
行先表示は回転式の方向幕ではなく板を使用し、終点到着後に運転士が差し替えて対応していた点も旧型国電同様である。更に、前面には黄色の警戒色で塗った補強板(通称:サンパチボード)が取り付けられた他、中間車同様にむき出しの雨どいまで飛び出しており、個性を際立たせていた。
乗務員室は、床面が客室と同じ低運転台構造であったが、これは運転手の感覚がクハ153形300番代以降取り入れられた運転台床面を300mm嵩上げした高運転台と異なりすぎる上、JR西日本が2005年に起こしたJR福知山線脱線事故がきっかけで安全上問題視されるようになる。
稼働期間は短く、改造から7年後の2008年8月に223系5500番台に置き換えられ全車引退した。
21世紀以降としては稀に見るインパクトのある改造車で賛否、というか否定的意見が圧倒的に強かったが、印象的でしかも短命だった為、引退にあたり一部ファンから惜しまれる声もあった。
※1:「平面ガエル」はただ安く済ませるためだけではなく、東急初代5000系の特異な構造(フルモノコックに近い車体)や、貫通路をつけるのにこの構造にするしかなかった、などの理由がある。
しかし今も……
サンパチ君は既に短い生涯を終えたが、これで味をしめたのか、JR西日本はやや遅れて紀勢本線向けに2編成4両(2058・2060番)、さらに山陽本線・伯備線向けの115系でも同様の改造(1000番台、6000・6500番台)を施行している。
さすがにサンパチ君は安く上げすぎたという反省があったのか、こちらは同じ平面顔でも顔つきは格段に端正になっており、方向幕もきちんと付いている。
またサンパチ君が短命に終わった原因のひとつ・運転台高さについても従来の運転台と同じ300mm嵩上げした高運転台仕様となっている。
サンパチ君のような普及・定着した愛称はないが、419系と同様の改造手法である事から「食パン」と称されることがある。
簡易ながら体質改善工事も実施されており、伯備線向けの車両は現在も活躍を続けている(紀勢本線向けは2020年3月に227系1000番台に置き換えられ廃車)。
ちなみに、サンパチ君と紀勢本線仕様は2017年にトミーテック発売の鉄道コレクション第24弾に選定され、まさかの商業ベースの模型化を果たした。その5年後、2022年にはサンパチ君(クモハ113-3800のみ)が鉄道コレクション鉄道開業150年エキナカオリジナルJR旅客6社コラボver.に選定され、北海道エリアを除く全国のJRグループ駅ナカ小売り業限定という形であるが再び製品化されることになった。
その他
- サンパチ君のヘッドライトは、103系の後期型タイプ(恐らく廃車発生品の移植)と40N体質改善車タイプの2種類が存在した。
- 「サンパチ君」という愛称が広まったのは、2009年11月にニコニコ動画に投稿された『記憶に残る迷車 サンパチ君【迷列車列伝#01】』という動画がきっかけである。ただし、呼称自体はそれ以前から鉄道ファン用語として存在していた。
- 2023年4月、京都鉄道博物館で113系の特別展示が行われた際に発売されたグッズに、なんとサンパチ君のクリアファイルが含まれていた。更に、売り場には「あの伝説の迷車がグッズ化!?」とのポップまで掲示されていた。サンパチ君がJR西日本公式に迷車認定された瞬間だった。
- 上記クリアファイルと同時に発売された「113系トレーディングアクリルマグネット」にも、シークレットとしてサンパチ君が含まれていた。こちらは発売前から予想している人が多かったが、結果としてサンパチ君の話題でSNSは大いに沸いた。