概要
F1とはフォーミュラ1(FIA Formula One World Championship)の略称。
国際自動車連盟 (FIA) が主催する自動車レースの最高峰で、四輪の一人乗りフォーミュラカーで行われる。
1950年が初開催。
世界はもちろん日本でも人気は高く、他のモータースポーツとは一線を画す独自の文化性を誇る。
俗にレースの最高峰のことを「××のF1」と表現するのが一般的であったり、お笑いの『M-1グランプリ』や「R-1グランプリ」、格闘技の『K1グランプリ』の由来となっていることからも分かる通り、自動車レースとしては別格の知名度がある。そのため『自動車レース=F1』『レーシングカー=F1マシン』だと思い込み、GTカーを見て「F1マシンだ」と言ってしまう人も珍しくないほどである。
F1マシン
"Formula"とは「決まり」「規定」を意味し、この業界ではタイヤとコックピットがむき出しのマシンのことを指す(→フォーミュラカー)。
F1以外にもF2/F3/F4という育成カテゴリや電気自動車のフォーミュラE、北米ではインディカー、日本でもスーパーフォーミュラといったフォーミュラカーレースが存在するが、F1はこの中で唯一エンジンを除く車体を各チームが独自に開発することが義務付けられているという点が決定的に異なる。この高度なマシンの開発競争が、F1の醍醐味である。
軽量さと空力が徹底的に追求されたそのマシンの速さは文字通り異次元で、直線の最高速度は380km/hにも達し、コーナリングでは最大6G(=自分の体重の6倍)もの重力を首に受けるバケモノ車である。
当然注ぎこまれるお金や技術は他のフォーミュラとは比べ物にならないほどハイレベルで、全くの別物であるため、ワンメイクレースのF2やF3で全然振るわなかったドライバーが大活躍するケースや、逆にF2のチャンピオンがF1ではたった1年で失格の烙印を押されて姿を消すケースは珍しくない。
黎明期は開発の自由度が非常に高く、4WDやタイヤが6個のF1マシンもあったほどである。しかし、80年代以降「F1サーカス」としてスポーツ性を強めたことや90年代の安全性を徹底する方針が取られるようになったことをきっかけに規制が強められていき、黎明期と比べれば、開発の自由度はかなり少なくなっている。ただし、それでもブロウンディフューザーやFダクト、DASのような規則の穴をついたびっくりデバイスが開発されることがあるため、見どころの一つとなっている。
エンジンも昔は自由で、90年代までは直列4気筒から水平対向12気筒まで本当に様々な形式が用いられた。しかし2000年代からエンジン形式(気筒数と配列)は1つのみに指定されるようになった。この頃のV10・V8自然吸気エンジンの甲高い「キーーーン!」というエキゾーストノートと共に駆けるマシンは、まさに地上の「戦闘機」と形容できるものであった。
2014年からは時代の趨勢に合わせてV型6気筒エンジンとターボチャージャーのエンジンに、エネルギー回生システムとモーターを組み合わせた『パワーユニット』が新規定として制定された。つまり今のF1はハイブリッドカーとなっているのである。
- 導入直後は自然吸気エンジンの独特な甲高い音がなくなり、エンジンから発せられる音としてもかなり静かになってしまったため、音の迫力が減ったことに対する不満の声も噴出したが、年を追うごとに改善され、音の不満は少なくなっている。ただし、 V10・V8自然吸気エンジンの数値と比べれば小さくなっているものの、デシベル(dB)単位で見た場合、依然として高い数値を記録しており、エンジンとしての迫力はともかく、音量では大幅に減っていない側面もある。また、当初こそ出力が不安定で信頼性が低く、昨年に比べるとラップタイムが大幅に落ち込んだものの、開発が進むに連れてモーターのアシストのおかげで周回タイムは従来以上に速くなったこともあり、むしろ最速マシンの地位として再度認識される結果となった。
また2014年にジュール・ビアンキが日本GPの事故で致命傷を負ってからは安全面への議論が巻き起こり、2018年以降はHALO(ハロ、ヘイロー)という頭部保護デバイスを装着している。
↑HALO付きのF1マシン
- これもマシンが格好悪くなるという感情論やドライバーからの視界を悪くさせるのではという懸念に加え、また「クラッシュした時のドライバーの脱出が困難になる」「空力学的にマシンのバランスが悪くなりかえって事故を誘発する」「そもそもつけたところで意味はあるのか」などの意見もあったが、その後HALOの安全性を証明するような事故が連発してからはかなり沈静化している。また、HALOの装着が義務付けられたのがかなり突然だったこともあり、当初こそ見た目がかなり不格好だったものの、HALO装着前提で開発された翌年以降のマシンは違和感ないものに仕上がっている。また、懸念された視界性や空力の問題も年を追うごとに改善されており、今では欠かせないアイテムとなった。
各マシンにはそれぞれの年ごとにマシンの名前が振られる(チーム創設から○代目の数字だったり、西暦を入れたりするのがメジャーだが、無論例外も存在する。またマイナーチェンジに留めた場合前年の名前にBやD等を入れることも)が、当然のようにシーズン中も開発が進められる。開発に二重三重の規制が科せられている現在でも、初戦と最終戦でマシンが別物になっているのがおかしくない…どころか普通である。
- また、2021年のハースF1チームのように、翌年のマシンにリソースを全振りする結果、マシン開発を一切行わない=シーズン通してマシンが一切変わらないといったレアケースもある。また2003年のマクラーレンは、マシンを02年のDスペックとしつつも改良を重ねて結局ほぼ別物と化してしまい、そのままチャンピオン争いにまで食い込んだ。
2022年以降のF1事情
2022年からは新しい車両規定が導入され、2021年まで度々問題視されていた「前方車両の発生させる後方乱気流でダウンフォースを失いやすく、フロントタイヤにダメージを蓄積させやすい」という点を解決するため、車体の下を流れる空気の力で地面に吸い付きダウンフォースを得る「グラウンド・エフェクトカー」に近い設計を行うことが規定された。これは1970年代にF1を風靡した設計思想だったが、当時の技術の未熟さも相まって危険性も高かったため1983年に禁止されており、実に30年ぶりの復活となる。
またホイールサイズは1970年のスリックタイヤ導入以降どんどん径が小さくなり、長らく13インチとなっていたが、(市販スポーツカーでは一般的な)18インチへと大径化された。これに伴いタイヤそのものも若干大型になる。
この他、90年台半ばより長く用いられてきた吊り下げ式ノーズが廃止。フロントウィングにも強い規制が加わったことも相まって、80~90年台前半のマシンに近いスッキリしたノーズまわりとなった。
↑2022年のフェラーリF1マシン「F1-75」
数十年ぶりと言えるレベルで大きくマシンの設計思想が変わった2022年シーズンは、かなり勢力図が変化している。2014年以降レースを支配してきたメルセデスAMGが失速。代わりに前年ドライバーズ・タイトルを取ったレッドブルと長い間の不調を乗り越えて復活したフェラーリの間で、激しいコンストラクターズ・タイトル争いが繰り広げられた。
タイトル防衛のかかるマックス・フェルスタッペンは初期こそマシントラブルに見舞われたが第4戦エミリア・ロマーニャGP以降は好調をキープ。結果日本GP時点で 18戦中14勝・勝率77%という圧倒的な力を見せつけ、今戦から復活したHONDAロゴと共にHONDAの膝元、鈴鹿で2年連続のワールドチャンピオンを達成した。なお、今年のPUのバッジはRBPTだが、実質的には昨年から使われている正真正銘のホンダPUであり、記録には残らないが実質的なHONDA2連覇となった。更にはホンダエンジンでの鈴鹿勝利は1991年のゲルハルト・ベルガー以来、31年振りの勝利となった。
さらに、その次のアメリカGPでこれまで8年間メルセデスが支配し続けたコンストラクターズチャンピオンを奪還し、レッドブルが新レギュレーションにおける最初の王者となった。
速さのあったフェラーリであったが、レース中の戦略ミスやトップ走行中のリタイアによる失点(ファンの間では、レースでフェラーリ陣営のミスが多発した際、俺たちのフェラーリと称することがある。解釈としては肝心な時にミスやトラブルで勝利を失ったレースを指していることが多い)でレッドブルと差を詰めるもしくは差が広がることを抑えることに失敗。さらにシーズン後半はレースでのタイヤのデグラデーション(劣化)が大きくなりレースペースにおいてレッドブルと差が開く一方になった(メディア側はマシン開発の方向性を間違えたという説を挙げている)。
メルセデスは新レギュレーションによって生じるマシンの問題点の対応に対する許容範囲を見誤り、シーズン前半は成績上は奮闘するもタイトル争いという点では早い段階で脱落。シーズン後半は復調してきたものの、これまで最低1勝はしていたルイス・ハミルトンが1勝もできずにシーズンを終える結果となった。
2023年は引き続きレッドブルが圧倒的な強さを見せる中、アストンマーティンが大幅に戦闘力を向上させ、アルピーヌから移籍したフェルナンド・アロンソの働きもあり、エンジン供給元のメルセデスを超える速さをしばしば見せ、レッドブル・フェラーリ・メルセデスに次ぐ勢力としての地位を確立した。
一方で、2021年と2022年には、アストンマーティンの地位で入賞の順位を争っていたアルピーヌとマクラーレンの状況もこの年から完全に変わった。アルピーヌはマシン的には常に入賞圏内にいられるぐらいの速さはあり、遅いわけではないがそれをマシントラブルやレース戦略のミスなどで結果につなげられず、その地位を維持しているので精一杯という状況が続いている。マクラーレンは2022年のマシン開発の苦戦をきっかけに成績が乱高下するようになっているが、それでも、コースによっては入賞圏内での順位争いができる程度の戦闘力は保持しており、大きく後退したわけではない。とはいえ、その2チームが入賞を争う点ではランキング上で自チームより下にいるチームより優位に立っていることには変わりない。
そのうえ、この年はハースとアルファロメオという中段寄りのチームやアルファタウリやウィリアムズの下位扱いされるチームによって下位での入賞争いが激化しており、とにかく速さを発揮すればいい予選では上位チームに食い下がる走りを見せている。
レッドブルのセカンドチームであり、日本人ドライバー・角田裕毅を擁するアルファタウリだが、2022年に引き続いてマシン開発に失敗。シーズン開幕から数戦の間は他チームのマシン開発の進捗状況にも助けられ、角田が粘りの走りを見せ、予選ではQ1突破どころかQ3進出まで果たし、決勝も入賞としてはぎりぎりとなる10位入賞を2度記録し、貴重なポイントを持ち帰っており、奮闘したレースに関しては「マシンを限界まで使いこなした上での結果だ」「不幸なトラブルがなければ間違いなく入賞していた」と評価された。だが、これは「全チームで1番目か2番目に戦闘力がない」とまで酷評されている状況の裏返しであり、シーズンが進むにつれ、他チームの改善幅に対し、アルファタウリの改善幅が小さく、ドライバーの腕でカバーできる許容範囲を超えてしまい、苦戦する場面が増えつつある。それでも、角田の走りに関しては評価され、2024年のシート確保が早い段階で有力視されている。
F1チーム
自動車メーカーのみならず、工業系企業グループを母体とするチーム、投資家グループが買収したチーム、ベンチャー企業が名前を売るために立ち上げたチーム、中には飲料メーカーまで存在する。中でもフェラーリとマクラーレンはF1において伝統的な歴史を持つ代表的な2チームで、これらは一般人にはスーパーカーメーカーとしても知られるが、特にフェラーリはF1に参戦するためにスポーツカーを売っているチームであり、その点において他社とは一線を画す(マクラーレンはコングロマリット化しており、F1はいくつかあるうちの一事業という扱いに近い)。
各チームが年間数十億から数百億円という小規模国家の予算レベルで金を注ぎ込む開発競争は圧巻であるが、それゆえにドライバーの技術よりチーム力・マシンの戦闘力で勝敗が決してしまうのがもはや当たり前となっており、必ずしも『世界一速い男を決める決定戦』とは言い切れない状態が半世紀以上続いている。これに不満を呈するファンも一定数いるものの、それを甘受して開発競争や政治的駆け引きを楽しむのが伝統的なF1という文化である。
また資金力の乏しい下位チームでは、ドライビング技術よりもチームに持ち込むスポンサーマネーの額、すなわちチームにいくら資金を提供できるかでドライバーが決まってしまうことも常態化している。
流石のFIAもこの現状を延々と見てみぬふりはしかねたようで、2021年度には史上初めて年間予算上限の規定を定めた(上限は1億4500万ドル=約149億8000万円、また2022年度から段階的に引き下げられる予定)。
日本勢の活躍
F1jpの項目を参照。
関連イラスト
テーマ曲
国際:Formula 1 Theme(Brian Tyler・F1公式テーマ)
英国:The Chain(Fleetwood Mac・BBC)
関連タグ
その他のF1と呼ばれるもの
- マクラーレン・F1…1990年代に老舗のF1チーム・マクラーレンが初めて開発・発売したスーパーカー。中でもGTレーサー仕様の「GTR」は、1995年に上野クリニックが出資してマクラーレンに用意させた本車で関谷正徳が日本人で初めてル・マン24時間を制覇したほか、JGTCでも1996年に国産車勢を寄せ付けない圧勝でチャンピオンとなるなど、日本に縁の深い一台となっている。
そのほかはF-1を参照