グリシャ・イェーガー
ぐりしゃいぇーがー
「人間の探究心とは誰かに言われて抑えられるものではないよ」
概要
『進撃の巨人』の主人公であるエレン・イェーガーの父親。本業は医者。茶髪で瞳は緑色。
シガンシナ区を流行病から救ったことから街の住民や駐屯兵団から尊敬されている。
自宅の地下室に「真実」と称する何かをエレンに明かそうとしていたが、巨人襲撃によるシガンシナ区陥落後は行方不明になる。
最後にエレンと会った時、一時的な記憶障害を引き起こす謎の薬品を注射し、地下室の鍵を託す。
彼には謎の行動が多く、エレンの巨人化や地下室に巨人に関する何かがあるなどこの物語を握るキーパーソン的な存在となっている。
エレンの幼馴染であるミカサ・アッカーマンの両親とは旧知の仲だったが、彼らが人買いに殺され、その現場の発見者となった。その後、エレンに助け出されたミカサを養子としてイェーガー家に迎え入れた。
先代の調査兵団団長であり、エレンたち104期生の教官であるキース・シャーディスとも面識がある。
正体
「私は人類が優雅に暮らす壁の外から来た。人類は滅んでなどいない」
彼もまた巨人化能力者である。
実は壁外で記憶を失い彷徨っていた人間であり、当時壁外調査から単騎で戻る途中だったキースに発見され、保護される形で壁内にやってきた。建て前上壁外に勝手に出てはいけないとされていた為、キースが旧知であったハンネスに相談し一度は拘留されるも、事件性はないと2人の独断で上官に報告されることなく釈放された。
その後はシガンシナ区でキースたちから壁内の事を学びながら医者として暮らすようになった。やがて酒場で働いていたカルラと結婚するも、カルラに好意を抱いていたキースとは疎遠になってしまった。
5年前の超大型巨人襲撃の直前、彼は家族にウォール・シーナまで診察に行くと言っていたが、実際はレイス家の礼拝堂の地下洞窟に行っており、その場所には妾の子であったヒストリア以外のレイス家の者たちが全員集まっていた。その際にヒストリアの異母姉フリーダと互いに巨人化して交戦。全ての巨人の頂点に立つ始祖の巨人でありながら、継承したばかりで力を上手く使いこなせなかったフリーダを殺してその力を奪い、辛うじて逃げ延びたヒストリアの父ロッド以外のレイス家の人間を全員殺害し、洞窟から脱出。その後壁外調査から戻ってきたばかりのキースと再会し、避難所で共にエレンたちを捜しやがてエレンと再会するも、妻カルラが巨人に喰われたことを知る。
その後、エレンだけを連れ出して巨人化の注射を打ち、フリーダから奪った力をエレンに移す形で巨人化したエレンに食われ死亡した。この時点でキースはグリシャが失った記憶を取り戻していたのではないかと推察している。
巨人化能力者であった父グリシャを食った事でエレンは巨人化能力を制御できるようになったが、記憶障害で一連の出来事を忘れていた。過去の経緯からグリシャもまた壁外出身者で、だからこそその彼が死ぬ直前に言い残した「地下室」は、世界の謎を知る手掛かりになるのではないかとエルヴィンたちは推測している。
シガンシナ区奪還作戦を成功させたエレンたちはイェーガー家の地下室に向かい、地下室の隠し戸棚から3冊の本を発見し、そのうちの一冊から奇妙な絵を見つける。若きグリシャと子供を抱えた女性の3人が描かれた肖像画だが、あまりの精巧な絵にハンジは驚く。裏には「これは絵ではない。これは被写体の光の反射を特殊な紙に焼き付けたもの。写真という。」と書かれていた。
真相
86話からはグリシャの過去が語られる。幼き日のグリシャには妹フェイと両親の3人の家族がおり、彼らが暮らす世界は近代的な技術と社会の文明だったが、グリシャたちは決められた腕章の使用と居住区での生活をしていた。
ある日、グリシャは好奇心から飛行船を追ってフェイと居住区を抜け出してしまうが、飛行場を眺めていたところをマーレの官憲に見咎められ、グリシャは制裁を受け、引き離されたフェイは翌日死体となって発見された。
グリシャたちエルディア人の先祖に当たる始祖ユミルは悪魔との契約で巨人の能力を得、さらに九つの巨人の力を分け、エルディア帝国を築いて大陸を支配した。
その後、支配されていたマーレ人は帝国に内部工作で内戦を起こし、巨人能力の7つを奪い、今から80年前に起こした巨人大戦に勝利して帝国を崩壊させた。フリッツ王家は始祖の巨人の力と残党を連れてパラディ島へ逃れ、三重の壁を築いて立て篭もった。
このパラディ島こそ、エレンたちが生きてきた物語の舞台であった。一方の残されたエルディア人は下剋上でマーレ人に支配された。
成長したグリシャは医者となったが、エルディア復権派の接触を受け、彼らの仲間となる。政府内通者「フクロウ」の支援を受けて活動していたグリシャ達の元にフリッツ王家の分家の末裔であるダイナ・フリッツが現れる。グリシャとダイナは結ばれ、やがて彼らとの間にジークが生まれた。このジークこそ後の獣の巨人であり、エレンにとって腹違いの兄に当たる。復権派たちはフリッツ王家から始祖の巨人の力を奪取する計画を練った。
そんな時、マーレ政府がパラディ島のフリッツ王家が宣戦布告したためにエルディア人に名誉市民権を引き換えに募兵を発表した。内通者の情報ではマーレの真の目的はパラディ島に埋蔵された化石燃料となる莫大な天然資源の確保と始祖の巨人の奪取だった。グリシャはジークをスパイとしてマーレの戦士に差し出すことを決めたが、そのジークはかつてグリシャが両親に言いつけられていた「マーレへの徹底的な服従」に反抗したように、両親やその仲間を当局に密告してしまった。
ダイナたちと共にパラディ島へ連行されたグリシャは、海岸に建てられた巨大な壁の上から同胞が巨人の脊椎液を注射させられ、人喰い巨人と化していく様子を見せつけられる。しかし、フクロウの正体にして九つの巨人の力の1つを持っていた者の反乱によりパラディ島にいたマーレの兵士は全滅。グリシャも辛うじて巨人にならずに済んだ。
ジークの一件や巨人になる直前の同胞の罵声に絶望しきっていたグリシャは「妹を連れ出した日から己の行いが報われるまで進み続けろ」というフクロウの言葉に励まされ、彼が持っていた巨人の力を託される。
グリシャに託された九つの巨人の力の一つ。すなわち、後にエレンに受け継がれることになる、いかなる時代においても自由を求めて進み続けた、自由のために戦った巨人。
良かれと思ってジークに洗脳教育を施し、全てを失って壁の中に辿り着いたグリシャは、第二の人生ともいえる壁内での生活は穏やかに暮らしていた。医者として働く一方でカルラと結婚し、子を設けるなど一般的な幸せを享受していた。ジークに行ったことへの激しい後悔から、自身の正体や壁の外の世界のことは一切黙ったまま、エレンにも普通の育て方を行ってきた。
……が、前述した通り、グリシャはレイス家を強襲し、虐殺の末に始祖の巨人の力を強奪するなどの異常な行動をとっている。壁外時代のグリシャならともかく、この事実を知ったアルミンが「そんなことする人じゃない」と言い、ミカサも受け入れることができていなかったように、壁内では穏やかな良識ある大人として認知されていた。
後に、この不可解な行動の理由が明かされる。
グリシャが継承した進撃の巨人の能力は、未来の継承者の記憶を見ることもでき、それによって未来の継承者がこれから起きる事実を伝えることで過去の継承者の行動を変化させ、限定的な過去改変を行えるというものである。
但し、未来の記憶をどこまで見せるかは未来の継承者が決定権を握るため、厳密には未来の継承者に記憶を見せて貰ってると言った方が正しい。
その能力で最終継承者であるエレンから未来を見せられ、その結果として凶行に走ったということが明かされた。
進撃の巨人継承後、エレンより度々未来の記憶を見せられていたグリシャは、待ち受ける残酷な運命に耐え切れず、エルディア復権派の役割を放棄しようとすらしていた。しかし、超大型巨人の最初のシガンシナ区襲撃の日、外の世界への切望を抱くエレンを見て、決意を固めてレイス家の礼拝堂地下に向かう。
唯、ここで彼はいきなり一家に襲い掛かった訳では無く、自身が壁外出身のエルディア人である事を伝えた上で、継承者であるフリーダに壁を襲撃する巨人達を一掃する事を懇願し、運命を変えるべく必死の説得を試みる。
しかし、初代レイス王による「不戦の契り」に囚われるフリーダは、ユミルの民(エルディア人)が裁かれる日が来たと一切聞く耳を持たなかった。
そんなフリーダに対し、グリシャは自身が始祖の巨人を使えない事を知っている事、進撃の巨人の特性を明かした上で、これが決められた未来であると語り、巨人化しようとするが、レイス家の子供達を見て、医者としての、引いては人間としての情から実行出来ず、その場で崩れ落ちる。それを見てロッドを始めとするレイス家の面々はフリーダにグリシャを殺す様促し、それすら一瞬受け入れようとしたグリシャに、ある男の囁きが届く。エレンはグリシャが来た理由や死んでいった者達を嘗てのクルーガーからの言葉と共々引き合いに出し、悪魔の様にグリシャをけしかける。
エレンに仕向けられたグリシャは、一度は見せた情を振り払う様に巨人化し、レイス家に襲い掛かる。
「エレン!!レイス家を殺したぞ!!父親以外は…」
「これでいいのか!?これでよかったのか!?」
定められた未来のためにロッド一人は見逃したものの、幼い子供を自らの手で殺したという事実は余りにも大きく、凶行から我に返ったグリシャは激しく動揺しながらもエレンにロッド以外のレイス家を殺した事を絶叫と共に伝えた上で、「エルディアはこれで本当に救われるのか!?」と問うが、返事が返る事は無かった。
限定的な記憶しか見せられていないグリシャは、自身が本当に知りたい壁が破壊される事とその日、そして妻・カルラの安否と言った全ての記憶を見せてくれない事や他に選べる道が無かった事を嘆く。そこで、エレンを説得するべく、グリシャの記憶の中に連れ込んだジークと図らずも再会する。
グリシャはジークに自分の思想を植え付けようとし、彼自身に向き合わなかった事を謝り、彼を抱きしめた上で「ジーク、お前を愛してる…」「もっと、一緒に遊んでやれば良かったのに…」と伝えられなかった後悔を涙ながらに吐露する。
グリシャは続けてエレンに従った後悔から、彼を止める様、ジークに懇願する。この地獄の様な運命に踏み込むには余りにも人間過ぎたグリシャにとって、頼れる相手は皮肉な事に、嘗て見捨てられた最初の息子であるジークしかいなかった。