表記ゆれ
ドイツ
この法律はドイツ刑法典の規定であり、19世紀のドイツ帝国成立から20世紀のドイツ連邦共和国によるドイツ民主共和国の併合まで存在したが、獣姦に関しては2012年に別の法律で再び違法とした。
西ドイツ
西ドイツにおいては1969年まで以前の法律と同じ運用であったが、それ以降同性愛に関しては軽く(獣姦に関しては廃止されたといわれるが詳細不明)なり、最終的には東ドイツ併合まで続いた。
東ドイツ
東ドイツにおいては共産党の反対もあり、1950年代に廃止されたが、1968年に「大人と青少年の間で行われる同性愛行為」が禁止されたが、併合により法律は廃止された。
日本国
日本においてわいせつ物頒布等の罪という罪であり、わいせつ物の頒布や陳列、有償頒布のための所持を禁止しており、この条文は日本国憲法が定める表現の自由に抵触する可能性が指摘されている。
条文
- 「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
- 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする
簡単な解説
有償・無償を問わず、エロいもの、たとえば文章・絵・写真・映像や、それらのデータを配ったり人目に着く場所に並べたりして不快にするのは犯罪となる。ネットで公開したり配布したりするのもアウト。また売るつもりでそういったデータを持っていても罰せらる。
なお罰則は懲役刑および罰金、あるいはその両方となる。
問題点
日本国における刑法の中でも、被害者無しで取り締まれるといういわゆる被害者なき犯罪のひとつであり、最高裁の判例では守るべき法益として「性秩序・性道徳の維持が目的」ということになっている。ただし、年齢によるゾーニングを設けていながらもわざわざ修正する必要はあるのかという疑問点も大きい。
また、全世界から見てもエロの描写の規制は日本が一番厳しいと評されており、外国とは違って日本では無修正が駄目で下に海苔が張り付いている、モザイクがかけられるのもだいたいこいつのせい。
また、そもそも条文をそのまま受け取ると、エロ本やAVは勿論、全裸の写っている非R-18作品ですら禁止とも言え、それらの存在意義を真っ向から否定している。
同人などの二次創作を含めたエロ関連の業界においても悪影響は大きく、わざわざ修正しなければならない手間並びに折角描いたものをいちいち消さなければならないという勿体無さ、ないし修正に伴う創作物の見栄えの悪さから、この刑法を反対する創作側も非常に多い。この刑法に絡んだ問題やトラブルも多数存在しており、刑法175条さえ無ければそう言った問題点を解決出来る部分も大きい。
わいせつの定義
特にこの条文で問題となるのは、わいせつの定義が抽象的であり判例も少ないことであり、定義としては昭和23年に示されたわいせつ三要件がそれとされ、後の同種の裁判においても踏襲されている。
- 徒らに性欲を興奮又は刺激せしめる
- 普通人の正常な性的羞恥心を害する
- 善良な性的道義観念に反する
また四畳半襖の下張事件においては昭和55年に示された上記用件にあわせ以下の用件を勘案すると定めた。
- 当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法
- 右描写叙述の文書全体に占める比重
- 文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性
- 文書の構成や展開
- 芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、
- これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否か
判断者
昭和32年に示されたチャタレー事件において「裁判官がわいせつの判断を出せる」という判決がなされ、これによりわいせつの判断は容疑者の検挙を行う警察、あるいは罪として裁く裁判所となり、さらに日本国内で販売された写真集を税関がわいせつ物として没収したことに対し取り消しと賠償を求めたメイプルソープ事件においては最高裁での逆転判決によりわいせつ物ではない、とされ、裁く側の裁量の余地が大きい上、基準があいまいであるため個人の主観も入る余地があることが問題となっている。
芸術とわいせつの関係
「わいせつな内容を含む芸術」に関して問題となった昭和39年に示された悪徳の栄え事件においては、「芸術的・思想的価値のある文書であつても、これを猥褻性を有するものとすることはなんらさしつかえのないものと解せられる」、「猥褻性が解消されないかぎり、芸術的・思想的価値のある文書であつても、猥褻の文書としての取扱いを免れることはできない」とした一方、ポルノ写真誌のわいせつ性を争ったビニール本事件においては「ハードコアには該当しないものの現実の性交等の状況を詳細、露骨かつ具体的に伝える写真を随所に多数含み、しかも、物語性や芸術性・思想性など性的刺激を緩和させる要素は全く見当らず、全体として、もつぱら見る者の好色的興味にうつたえるものであると認められる」として有罪とした。
自主規制とわいせつ
映倫により審査され自主規制されている一般上映の映画がわいせつ物として検挙された黒い雪事件において昭和44年に示されたのは「審査機関の妥当性」および「検査に協力的であり法律を犯す意思はなかった」として無罪として、自主規制の有効性が認められ、同様に成人指定された映画がわいせつ物として検挙された日活ロマンポルノ事件においては昭和55年に同様の理由により無罪とし、「性描写をどこまで許すかは、時代と共に変わる社会的通念による」との判断が示された。
政治家の介入および警察の忖度
政治家の介入およびそれに対する警察の忖度の事例に関しては、俗に言う警察OBの政治家の介入を招いた事例として有名なのが、松文館事件であり、これを簡単に説明すると以下のとおり。
この裁判においては「人権を無視した違法な捜査」や「裁判官によるこの種の書籍への不当なレッテル貼り」が発生したとされる。
法律の撤廃
上記を踏まえ、この法律は為政者により恣意的に用いられることにより児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律、すなわち児童ポルノ禁止法などと同じく別件逮捕や言論統制など、人権侵害の口実に使われる危険性が存在しており、法学の専門家の中でも表現の自由を侵害する条項として撤廃、あるいは適用の厳密化を求める意見は強いとされる。
当刑法のルーツ?
江戸時代までの日本は、人間の誕生に纏わるとしてむしろエロに許容的であり、性器を象った信仰対象となる偶像等が作られること(葛飾北斎の一部の浮世絵等)もあったが、明治時代に入って諸外国の文化を受け入れるようになると、欧米やヨーロッパがキリスト教によるリアル宗教上の理由や女性解放運動等でエロに厳しかった事もあり、それらの影響を受けた日本でも性的表現に風当たりが強くなってきたとされている。
ただし、それらの国は時代が進んで学問や研究が進化していくにつれて「性行為は人間にとって当たり前の行為である」「猥褻物が性犯罪を助長させる事はなり得ない」事が証明されて、今では以前より規制が緩くなってきている。その為、日本はそういった規制緩和の波に乗れなかった感じが否めなくなってきている。
つまり、刑法175条はこの時片付けられなかった時代遅れの規制法律である可能性が高い。
関連タグ
不純異性交友:こちらは校則であるが、違法でない対象を悪であるかのように印象操作する点が類似している。
参照
e-Gov:法文、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
裁判所:サンデー娯楽事件、悪徳の栄え事件、黒い雪事件、ビニール本事件
wikipedia:同項目、わいせつ物頒布等の罪およびリンク先、被害者なき犯罪
児ポ法改悪阻止・青環法粉砕実行委員会:「蜜室」=有罪は本当にやむを得ない判決?