「ふむ。ま、こんなもんかの?」
「では」
※本項目は重大なネタバレを含みます! |
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概要
『橋架結社』の目的であり、そこに所属する超絶者達が求めた伝説の魔術師。
十字架を象徴に掲げ、病や呪い、罪業で苦しむ人々を癒すために活動した聖者。
あるいは掌で、あるいは神秘の薬品で、救いという奇跡を振る舞い、一切の見返りを求めない賢人。
世の無理解と戦い、小さな人から大きな世界全体の病巣に挑んだ存在。
魔術師ならば、誰しもがその名を聞いた事があるほどの達人。それは無論、クロウリーやキングスフォードという魔術の天才さえも。
そしてあの悪女・アンナ=シュプレンゲルが属した魔術結社『薔薇十字』の開祖である。
長き時を経て、現代に復活した世を救う主。
彼は今の世界を見て、何を思うのか。
人物
復活を果たした彼の見た目は、銀色の長髪を持った18歳くらいの青年。しかし長い顎髭を携えており、声はしわがれた老人のものとなっている。
作中では名前よりも、よく「CRC」と表記・呼称される。
その人柄は伝説にある通りの、聖者や賢人と称されるに相応しい人間で……
「何故、この老骨が人を救わなくてはならぬ?」
「何故、この老骨が見返りを求めてはならぬ?」
「一体どこの誰が決めたルールなのじゃ。そんなルールで老骨を縛れるとでも思うておるのかえ。そもそもの前提として、自分より強い者にすがろうなどと考える弱き群れが、一体何をどうすればこの老骨の自由を縛れるなどと考える?」
「この老骨が、人間だけを特別に救わねばならぬ理由とは? 何故そんな面倒臭い事をしなければならないのじゃ? とはいえ、別に『助ける』という行為そのものを忌避しておる訳じゃないのう。だが人間全体を無条件に救うというのはこの老骨の個をあまりにも蔑ろにはしておらんかえ。真に博愛を語る存在からすれば、惑星全体の全生命を等価値と考えるならば、ただの一種に過ぎぬ人の存在など目に見えて明らかに罪業の塊じゃろう。かっかっか、ぶはっ⁉︎ 博愛とな‼︎ ひっははははは‼︎ あれほど恐ろしい虎やワニを皮欲しさにどんな知恵を絞って殺してきた? 象牙のために動物を狩るのは良くないと言っておきながらこの老骨が寝ている間、結局この世はどうなったか言ってみよ‼︎ 全部人間が撒き散らして、全部人間がその後始末に奔走して、やってやって散々やり尽くしてから自分の口で手前勝手に非難して、“そんなので”善と悪は容易く再定義されていく‼︎ これの何を守れと? この老骨の行動を支えるだけの価値があるとでも? もはや正義なんぞ語るに落ちた、愚かを極めた人間がそのような形にしてしまった以上この老骨もそんなものに従う道理はない。正義や善性が何者の奴隷になる事もなくもっとシンプルかつ高尚な状態を保っておったのならば、何もこんな事にはならなかっただろうにのう? そもそも神とやらが正義なんてものを一時的とはいえ人の手なんぞに預けたのが間違いの始まりだったのかもしれぬがのう。人間は神の名を容易く名乗ってはならないと発音すら禁じたくせに、善や正義については簡単にあっさり誰でも話せるくらいのものでしかないと軽々しくその辺に捨て置いた訳なのじゃから! ひっひ。とはいえ、まあ生命は全て平等なんてお涙頂戴の理屈じゃと目に見えぬ細かな生命の手を借りて作るワインとチーズに他の全生命は追いやられる訳じゃが。今の人口は六〇億か、それとも七〇億か、あるいはとうとう八〇億にでも届いたかえ? とにかく生命は全然平等なんかじゃない。霊長類なんて言葉で自分をくくっておる時点で人間が傲慢を極めておるのは明白よ。恥知らず。人間よ、始祖たるアダムは何を食べて何を知ったというのか思い出せ!! 人間は完成なんかしないぞえ、こんな時代では。ならば人なんぞまとめて猿まで退化して自然に還ってこそ、初めて他の生命に平等を名乗れるというもの。猿でも迂闊に火に触れれば手を引っ込めて二度と同じ過ちを犯さん、つまり悔いる事はできる訳じゃしの。人間には一〇〇%無理じゃが。あるいはその、何じゃ? 耳にするだけで抱腹絶倒の、笑い過ぎて死ねるほどの、他の動植物にはない特別な思考形態とやらが大切なのかえ? ぷっくっく、それはそいつはちいとばかり自らの存在意義を丸ごと否定する自殺的結論じゃなあ。親子の愛情くらい犬や猫にもあるし、言葉を使った会話なんぞ鳥や魚でも行うし、集団の社会性などアリやハチすら持っておる。ひっひひ、恋愛感情? この世に繁殖を求めぬ生物などいるものか。というか、高尚低俗に関係なく繁殖を疎かにする生物など時の流れの中で残っておられるか。ま、 人間などこの程度の浅はかな考えで捨て去るものしか持っておらぬと言われればこれこそ納得するより他ないがのう。….….故に、これはあまりにも明白な結論じゃ。人にその存在意義などない。この老骨、物理的にも精神的にもあらゆる面においてたかが人間ごときに骨を折って救済する価値なんぞいちいち感じられんがのう?」
その性根は、伝え聞いた伝説とは遥かにかけ離れていた。
世を救う主どころか、逆に破壊し尽くす暴君。
世界を救うほどの力を持ちながら、あまりに心が狭い個人だったのだ。
人々の悪意を利用しながらも世界を救いたかったフィアンマとも、多くの子供を犠牲にしてでもより良い世界に正したかったクロウリーとも、救う人間を選びながらも人々と世界の救いを願っていた超絶者とも、決定的に違う生々しい人間性。
彼は自身を復活させた他の超絶者をまとめて薙ぎ払うと、その中で唯一生き残ったアリスに興味を向け───そして彼女の頭を砕いた。
性格
ただひたすらに、興味がある事柄を最優先に行動する。戦闘も興味が向かなければ適当にあしらうが、興味が向くと『退屈しのぎ』で相手をする。
その興味の方向性はまちまちであり、ペットボトルのバーコードに興味を向けながら周囲の警備員を適当に全滅させたかと思えば、ペットショップの猫が可哀想だからと号泣しながら唐突に人間を皆殺しにしようと宣言する。ついでにガチャガチャの中身に当たりがあるかと興味が向くと、それを破壊して中身を確認したり等。
言動が無茶苦茶すぎる故に、誰にもヤツの行為が予測できない。
このように、CRCはその圧倒的な力と知識を他者や世界を救うためではなく、ただ自らの興味を満たすためにのみ使用する。
曰く「情念」であり、己の手の中にある『力』の大きさを把握しているが故に、それを他のために使用すれば相手の心が壊れてしまうほどに大きな力である。己の力を受け止められるのは当人だけであるが故に、情念と遊び心のためだけに『力』を振るうのが結局は大きな世界に対して一番優しい……と本人は語っている。
気紛れで他者を傷つけ、気紛れで弱者を見逃し、気紛れで人間を殺す。
その在り方は、まさに暴君と呼ぶに他ない。
能力
かつて『黄金』を制したクロウリーさえ凌駕するほどの魔術の達人であり、霊装や詠唱という作業を挟まずに術式を行使可能。
耐久力も並外れており、銃撃や『超電磁砲』程度では怯みもしないどころか、学園都市外周に設置された粒子加速装置『フラフープ』を用いた絶大な威力の電子ビームでさえ何食わぬ顔で耐えて見せた。
食蜂操祈の『心理掌握』も効かない模様。
使用魔術・霊装
- 閃光
『橋架結社』の超絶者を一撃で薙ぎ払った、光と共に全方位へ拡散する衝撃波。
どうやら超絶者の根幹に近い部分に干渉するようで、CRCより防御に特化した超絶者さえも倒されていた。H・T・トリスメギストスの分析によると、超絶者の脆弱性をついた裏技らしい。
- 世界の完全な縮小模型
一枚の透明なカードのようで、実は水晶で出来た世界地図のジクゾーパズル。常にピースの形や数が変動している。
ローゼンクロイツの伝説の一つが元になった霊装で、この世界の過去現在未来に関する全ての事柄を確認する事ができる。
これを利用して、自身が復活するまで世界で何が起きたのかを大雑把ながら把握したCRCは、これほど強力な霊装をあっさりと放棄した。
- 音と光を切断する壁
CRCを守る結界のような壁。彼の異常な耐久力の正体。
魔術的・物理的、あらゆる攻撃をCRCに届かせない詳細不明の防御術式。重機関銃や自動投擲弾はもちろん、キングスフォードレベルの魔術と『フラフープ』を利用した超強力な電子ビームすら防ぐ事が可能。
CRC自身が語るには「ローゼンクロイツは七つの側壁に守れた聖域で眠る」という伝承が由来らしいが、キングスフォードは「まさか」と否定している。
- キトリニタス
創約4巻でロザンゼルスを呑み込み、そこにいた人々を消し去った大量の黄砂。その時と同じく、呑み込んだ建物や人間を砂粒に幽閉する。
- 死者の操作
あらゆる死病を克服し、寿命そのものすら操作する赤き秘薬の製造法を利用したものらしく、CRCは自身の手で殺したアリスの亡骸を操った。
しかしあくまでも蘇生ではなく操作であり、実際アリスの頭部は無くなったままである。
- 『プネウマなき外殻』
直径二メートルほどの銀色の球体で、潜水艦の水密扉のような丸いハンドルがついている。創約2巻でシュプレンゲル嬢が使っていた霊装。
刺突や斬殺、絞殺に圧搾など、各種死因に関わる世界最古の道具(石や荒縄など)をランダムに取り出す死の塊。
後にCRCは、辺り一面を埋め尽くすほどの数を出現させて一斉砲撃したが、その際は赤い薔薇を虚空から取り出しつつ詠唱していた。
- 父性の十字に母性の花弁
またもや詳細不明の術式で、CRC曰く「赤き秘法」。便利すぎるのであまり使わないようにしていたが、『旧き善きマリア』のトリビコスと対峙した際に使用した。
後に、薔薇の蔓が何重にも絡みついた1メートル以上もある黄金の十字架を取り出したが、関連は不明。
- 紅蓮の蛇
ガラスの古いランプの中に収められた、永遠に消える事のない光と揶揄されるエネルギーの塊を外へ出し、空間中の酸素を貪り尽くす炎の蛇を発生させる。
- 『変革』
手の中の(あるいはクロウリーの『霊的蹴たぐり』の如く、そう見えてしまうほどの完璧な挙措で)フラスコに入っていた赤い粉末を撒いて発動する。大悪魔による黒い侵食を消し、深い森の中のような清浄な空間を作り上げた。
もしもクロウリーが『位相』をズラして即興の別世界を作っていなければ、学園都市が丸ごと捲れて腐り、緑の木々に埋もれていた模様。
- 修繕
周囲にある物を寄せ集めて、マネキンのような部位を作る。そのクオリティは本物の人間以上にしなやかで美しい。
- 白い水蒸気
魔術結社『薔薇十字』の性質を表した術式。
かの組織は雲を、叡知や真実を覆い隠して許可なき者の閲覧を阻止する重要な記号と捉えていた。つまりこの水蒸気の中にいれば、たとえ0センチの攻撃であっても術者には当たらない。
- 合成
様々な伝説を持つCRCの本質は『合成者』。あらゆる毒や危害を薬や回復へ変える事はお手のもの。
詠唱しながら手元でカードの輪を作る事で、竜王の顎から放たれた毒液を一条の閃光へと変えて上条に攻撃した。
- トリテミウス
『黄金』の魔術師、ウェストコットが偶然拾ったとされる暗号文書を保護した方式で、秘文や魔法陣を暗号化する術式。
- 巨大な人形
修繕のように、周囲の物を用いて作り出したゴーレムのようなもの。
- 極限威力の魔術
超絶者だけでなく、大悪魔と聖守護天使の感覚器官すら振り切るほどの不可視の攻撃。連射も可能。
その正体は超々高速で放ったゴルフボールより大きな黒い塊、すなわち飛び道具。
しかし威力はお墨付きで、上条の右肩を脱臼させ、クロウリーを一撃で倒してみせた。
この黒い塊の正体は、ダイヤモンド。
新約12巻や創約2巻でサンジェルマンが扱った、炭素を操る術式の焼き増しに過ぎない。
ダイヤの結晶は常に膨らみ続ける性質を持っているため、上条の幻想殺しでは打ち消し切れなかった。
関連タグ
生涯一度きりの反則を使った上条当麻。そして、とびきりの隠し玉。
様々な立場と力を持つ者達が防ぎ、繋ぎ、信じた結果……ついにCRCを打倒するに至った。
「ローゼンクロイツ。お前がどんな無慈悲な現実だろうが」
「ああ、この世界をどれだけ壊したところで」
「もしお前が、俺達には誰も助けられないって言うなら」
「そうだ。善人も悪人も等しく助かるのはおかしいなんて言うのならば」
「「まずは、その幻想をぶち殺すッッッ‼︎‼︎‼︎」」
決着は、神浄の討魔と『ブライスロードの戦い』の覇者。
人外なる二つの拳だった。
『矮小液体』で生死の境をさまよっていたアンナも、カエル顔の医者の手腕によってなんとか助かり、上条達は一人の少女を救う事ができた。
……決して少なくない犠牲を出しながらも。
「かの者は、ずっとずっと恨んでいました」
「自分が作ってしまったモノに。真っ赤な嘘と笑って済ませるはずだった『伝説』が独り歩きを始めてしまった事に。だから、何としても堰き止め、否定しようとした。冗談だという事にしてしまいたかった。だけどすでにその時、多くの人が『伝説』を本気で信じていました。だから誰も、彼一人の言う事など信じなかった」
「いつしか惨めな彼の言葉は抹殺されるようになりました。そして彼の存在そのものが疎んじられ忘却されてしまったのです。何故なら、そちらの方が世界の皆にとって都合が良いから。もはや真っ赤な嘘の真実がどうかなんて誰も気にしなかったから。だから、哀れな彼は一層恨みました。自分の言葉を聞かない愚かな者達を。何より自分で作ったキャラクターが永遠の名声を得て、それを生み出した自分自身が消し去られようとしているこの現状を」
「だから、彼は自分で作ったキャラクターを貶めようとして」
「だから、彼は自分で作ったキャラクターに成りすました」
「ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエ。全く架空のものでしかなかった薔薇十字伝説の捏造作者にして、嘘から出た真に押し潰された愚かで凡庸な一人よ。ああ、なんという事でしょう。自らを貶めた道化は仮面を剥ぎ取られ、ここに全ては終わったのです」
クリスチャン=ローゼンクロイツという人間はどこにも存在しなかった。
全ては彼、ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエが創作した捏造(ウソ)だったのだ。
己の興味で動くと宣いながらアンナや超絶者を執拗に狙ったのは、自身の正体や心の弱さを看破される事を怖れたから。
自作のキャラクターに羨望・嫉妬した作者が、心の平穏を得るためだけに自分から貶めようとした事を悟られたくなかったから。
初めて上条当麻と対峙した時、あくまでも超絶者にしか効かないはずの『矮小液体』を真っ先に潰したのが良い証拠だった。
すなわちCRCもまた、その役を被った偽物でしかなかったのだから。
伝説と解離した人間性、キングスフォードに疑問視されていた在り方、10万3001冊の魔道書を記憶するインデックスが読み解けない行動と思考。
作中に逐一あった疑念の描写が、それを裏付けている。
自身の正体を、殺したはずの少女───頭部が無いままのアリス=アナザーバイブルに突きつけられたCRC……いやその名を騙っていたヨハン。
青年くらいだった彼の姿は、皺だらけでみすぼらしい骨と皮だけの老人になっていた。あるいは、そのしわがれた声に相応しい形へと。
そして。
ヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエという愚かで哀れな一人の魔術師は。
首無しの少女によって、体のあちこちの肉をごっそり抉り取られて絶命した。
実はヨハンについて、新約22巻ですでに触れられている。
アンナ=シュプレンゲル……正確には、その体を乗っ取っていたマダム=ホロスが、死に際のアレイスターに接触した時。
彼女はこんな事を語っていた。
「……もはや(『薔薇十字』の)始まりが何だったかなんて、わらわ達は気にしていません。現に薔薇十字という技術体系はきちんと回り、超常を制御するに至っているわ。ヨハンは自分が中心と思っていたようですけれど、誰も彼の方など見ていなかったのです。真実を暴露した、だから何? 薔薇十字という巨大な怪物はとっくにあなたの手を離れ、自由に世界を渡り歩いていると」
そして地の文でも、こんな事が書かれている。
ヨハンの告白は正しかった。だけど世界の誰も聞いていなかったのだ。