シン・ジニス
しんじにす
この項目には、「動物戦隊ジュウオウジャー」の重大なネタバレが含まれています。
「すごい…殺気が段違い!」(セラ)
「尻尾どころか全身引き裂かれそう!」(アム)
「似合うかな? この星のエネルギーもなかなか良い。キューブホエールのデータのおかげだ」
「楽しいゲームだよクバル。さあ、続けようじゃないか。自分の命が賭かれば、最高の恐怖が味わえるよ?」
(いずれも第41話)
データ
身長/222cm
体重/200kg
概要
クバルの反逆により地球に誘い込まれたジニスが、原初のジュウオウキューブ・キューブホエールのデータが入ったメモリーディスプレイを使って地球のパワーを取り込み、より戦闘に適した姿へ変貌を遂げた姿。
下半身は上半身との釣り合いが取れたサイズになった上、背中には神々しいシルエットと禍々しい意匠を持った1対の翼が生え、強化前とは段違いの機動力を得ている(翼を必要に応じて背中への収納も可能)。
両腕を刃へ変化させ、翼で自由自在に飛び回りながら腕からの斬撃で敵を切り刻む、大量の光弾を撒き散らして爆撃する戦法を披露し、余裕かつ楽しげな態度で次々とクバルの作り出したコピーやジュウオウジャー達を圧倒。瞬く間にクバルを絶望と恐怖のどん底に陥れた(※考案者自身が示した、「正真正銘のブラッドゲームの有様」と言える)。
対象に直接、自らの細胞のエネルギーを取り込ませての巨大化も可能。
活躍
この姿でクバルの反逆を返り討ち、その精魂を折り伏せた後サジタリアークへ帰還。第42話ではそのクバルが恐怖で錯乱しながら破れかぶれで行うブラッドゲームを観戦、クバルの敗北・戦死時は「楽しめた」「面白かったよ、クバル……」と呟いた。
その後、アザルドに対し「クバルの反逆劇以上に面白い物を見せないとブラッドゲームの勝者とは認められない」と焚き付けて行動させるが、そのアザルドがジュウオウキューブをその身に取り込んでいた事実を知ると、これまでに全く見せていなかった “動揺” を現した。
ただこれは、かつて自分が拾い上げ、不完全な形で封印を解いたアザルドが真の姿に戻る未来への期待や喜びの混ざった物らしく、第45話でそれが果たされアザルド・レガシーへと変貌した際は、あからさまに動揺するナリアを傍らに心底嬉しそうな態度を見せた。
ところが、完全復活したアザルドは彼に対し、無遠慮を通り越して不遜な態度を取った挙げ句、「対等宣言」までする始末。
特に「俺を楽しませろ」と傲慢そのものの台詞に気を悪くしたジニスは、アザルドとジュウオウジャーの戦いを見物しつつ、その裏でナリアに命じ、バラバラにされて再生時に露出したアザルドのコアへメダル複数を投入、“チェーンコンティニュー”で意思と記憶を消して巨大化させると、前話での喜び方が嘘の様にアザルドをあっさり切り捨ててしまった。
全ての生命を見下して玩具扱いするジニスにとっては、『対等の遊び相手』が存在してはならないのであった。
そして、アザルドまでもがジュウオウジャーに敗北し、地球への来訪時に率いていたチームリーダーは全滅。「今回のブラッドゲームはドロー扱いにして地球から離れましょう」とナリアは進言するが、ジニスは「それではつまらないよ」と返し、遂に自ら本腰を入れてブラッドゲームを決行する。
「最後のブラッドゲーム」
第47話で第10話以来の立体映像越しに姿を現し、全ての地球人に『最後のブラッドゲーム』を宣言。
その内容は「サジタリアークの中心を貫いていた矢を地球へ射出、それが大地に突き立てるや、その頂点についたケーブルから自身の細胞エネルギーを宇宙船を通して地球に注ぎ込み、地球を破壊する」とする史上最悪のゲームだった。
注いだエネルギーの余波で、矢周辺に激しい爆発が巻き起こり、一刻も早く止めなくては地球が吹き飛んでしまう。
それを止めようとするジュウオウジャーには、このゲームのためだけに大量生産した量産型ギフトを惜しみなく差し向け、更にはナリアまでもジュウオウジャーとの直接対決へ投入する。
しかし、自分達が「『王者』の集まり」であると確信して団結するジュウオウジャーには、最早数に任せた力押しは通用せず、それらをワイルドトウサイドデカキングであっさり一掃された上で、宇宙船と矢を繋ぐケーブルを攻撃される。
それでもケーブル自体は頑丈で、ワイルドトウサイドデカキングをもってしても壊せなかったが、ならばとジュウオウジャーはワイルドトウサイドデカキングでケーブルを掴み、コクピット内で野生解放してジューマンパワーを極限まで引き出し、ケーブルごとサジタリアークを地球へ引き摺り落とした。似たような行いを自分が作り出したジュウオウザワールドが行っていたが、まさか自分もやられるとはジニスも思わなかっただろう。
あまりに予想外過ぎるこの事態に、さしものジニスも動揺する中、地球へ引きずり落とされたサジタリアークは矢ごと大爆発。
「遂に勝った」と喜びかけたジュウオウジャーであったが、ジニスは無傷のまま爆炎の中から姿を現し、正真正銘の最後のゲームを開始する。
正体と最期(最終話)
以下、最終回のネタバレ注意!
「悪いね、ゲームのクリアはまだお預けだ。折角ここまで来たんだ。地球には私が直々に細胞を注ぎ込んであげるとしよう」
前話で無傷のまま現れたジニスは「地球に自身の細胞を直接送り込んで壊滅させよう」と宣言。
更にキューブホエールのデータの入ったメモリーデバイスを取り込んでいる以上、いくらでも地球のパワーを取り込める彼は、ジュウオウジャーに対し「私にとっても庭同然だよ。ジュウオウジャー……『この私をなめるなよ』」と意趣返し。
更なる力を得たジニスはその圧倒的な力で、野生解放したジュウオウジャーを蹂躙。加えて翼から放った黒煙で自身の作り出した空間へとジュウオウジャーを引きずり込む。
大和が突破口はないかを探るべく超視力を発揮すると、そこには「無数のメーバの姿」が写しだされた。
大和「あれは、メーバ……?まさか!」
「見たな……!」
それ見るや否や今まで冷静だったジニスの様子が一変。それまでジュウオウジャーをじわじわ痛め付けていた彼がいきなり光弾による容赦のない爆撃を放ち、更に「自分の秘密を知った」と激しい怒りと焦燥を露わにし、その正体を自ら明かした……。
「私の……私だけの秘密を……見てしまったのかぁぁっ!!」
ジニスの秘密……それは、彼の正体が「無数のメーバの集合体」であり、自身こそが今まで蔑み弄んできた「下等生物そのもの」という真実だった。
本人以外の他者が知るジニスの姿は、自身が下等生物であるコンプレックスから最強の生物になる強さを求め、遺伝子改造を繰り返した末の姿であり、操に目を着けたのも自身と操が『自分に対してコンプレックスを持つ』共通点を照らし合わせた為であった。
しかし、この時点ではまだ目撃したのが大和だけであった為「ただの戯言」と切って捨て秘密を守れただろうが、コンプレックスの大きさ故にそれに触れられるや否や冷静さを失ったジニスにはそれに気付けなかった。
結果、余裕のない攻撃を仕掛けて動揺している胸中を悟られてしまったばかりか、自ら「メーバの細胞片が正体である」と暴露、大和以外にも自身の秘密を晒してしまう。
「あんな醜く卑しい姿は本当の私ではない! 私は何よりも美しく、気高く、最強で最上の生物に生まれ変わったのだ!!」
自分の秘密を知られてしまったジニスは怒りを爆発させ、ジニスの正体を知って尚も忠誠心を見せて助けようと駆けつけたナリアを「私にとって最大の侮辱は……『同情』だ」と、知る由もないコンプレックスを触れられた彼女をその場で斬殺。
その際に放ったエネルギー波で王者の資格とジュウオウザライトを破壊して変身不能へ至らしめ、生身の状態のジュウオウジャーに電撃を放つ等、秘密を知った全員を始末しようとする。
己のプライドを守る為だけに、自分を愛してくれた者を殺したジニス。あまりにも身勝手な行為にジュウオウジャー達は怒りに身を振るわせる。
レオ「おい、ジニス!ふざけんなよ!」
大和「お前はそうやって……寄り添ってくれる人を全部踏みにじってきたんだな!」
「私の秘密を知る者はこの世でただ1人……私だけだ。貴様等は存在してはならんのだよ! さらばだ、ジュウオウジャー!」
変身を解かれてもジュウオウジャー達は立ち上がり、生身の姿でも地球を守ろうとする。
向かってくるジュウオウジャーを切り裂こうとするも突如動きが止まり、地球のパワーが合わさった6人の一斉のパンチを受けて怯んでしまう。
するとジュウオウジャーに地球のパワーが送り込まれ、王者の資格とジュウオウザライトの力が復活。一方、ジニスは地球に拒否されて地球のパワーを取り込めなくなってしまう。
取り込めなくなってもジュウオウジャーだけでも始末しようと一度は追い詰めるも、野生大解放を遂げたイーグルに自身が追い込まれ、6人の力が合わさった「ジュウオウファイナル」を受けて爆散。その際に、体内の取り込んだキューブホエールのメモリーデバイスも破壊された。
しかし、ジュウオウファイナルを受けてもしぶとく生き延び、ブーストコンティニューで自身の細胞を活性化・巨大化を果たす。
「ありえん……こ、この私が……!」
だが、大幅に弱体化して元の姿に戻ってしまった上に、真の強さを手に入れたジュウオウジャーにはなす術なく圧倒され、ワイルドトウサイドデカキングの「ジュウオウドデカショット」を受けて怯み、最期は全てのパワーが詰まった『ジュウオウドデカグランドファイナルフィニッシュ』を受けて体を構成するメーバも1つ残らず消滅した。
自身のコンプレックス故に全てを踏み躙ってでも最上の強さを手に入れたジニスだが、「様々な繋がりを経て真の強さを得たジュウオウジャー」を倒すのは、最初からできはしなかったのだ。
かくして、おのれの理解ができない部下を切り捨て、最大の侮辱を同情と見做して殺害してきた宇宙の無法者のオーナーは、真の強さを手に入れた下等生物に敗北し、呆気ない最期を迎えた。
余談
ジャンル名及び無機物モチーフのイエローダイヤモンドは、所有すれば周りが所有者を盛り立てて『王』にしてくれると称される最強のパワーストーンである。しかし同時に、「周りから物を得てもそれに頼らず自分へ自信を持つ者でなければその力を発揮しない石」ともされる。
元は弱い生物だった過去を克服し、凄まじいエネルギーを生み出す力を得てデスガリアンの頂点に立ったジニスだが、それでも弱い存在だった事実へのコンプレックスを乗り越えられず、折角の自身の力や自分に従う者達を、それ以外の他者を玩んで自身のコンプレックスを隠す為に使ってしまった。 そうしたジニスの愚かさと哀れさが、彼のモチーフに皮肉の形で込められていた模様である。
元々、ダイヤモンドは高温・高圧な環境で結晶化した炭素であり、本来はジニスの正体であるメーバと同様に特に珍しくない、ごくありふれた存在が変化した物である。それであってもこの石へ高い価値が与えられているのは、『この石が自ら光り輝き地球1の硬度を持つ』為で、それに周りが価値を見出したが故である。……結局、これをモチーフとするジニスは既に“最強生物”と呼ぶに相応しい力を持っているのだが、皮肉にもそれを自らの劣等感で曇らせてしまった。
そうして、自分が自分を信じられない現状に気付かなかったジニスは、その上で周りを服従させるか玩ぶかの快感を覚えて求めた結果、救いようのない業を抱えてしまったのである。
スーツのデザインや演者からの考察
シン・ジニスは、「生命(=メーバ)を生み出す存在である」女性的な見た目の変貌前と打って変わり、『理想の姿』が本来の姿を模したアーマーを装着した、男性的なデザインとなった。だがこの姿でも、理想の姿の顔より下へ本来の姿の顔(胸部アーマーの意匠)があり、精神構造は変貌前とまるで変わっていない本性を覗わせる。
また、シン・ジニスを演じた日下秀昭氏はかつて、超獣戦隊ライブマンにおいて中田譲治氏が顔出しで演じた大教授ビアスの側近、ガードノイド・ガッシュの声を演じていた(※スーツアクターは大藤直樹氏)。一方、中田氏はジュウオウジャーでアザルドの声を演じており、その正体であるアザルド・レガシーの姿と記憶を取り戻した後でシン・ジニスと相対した。
……このシーンも含めた第46話は、ライブマンにおける中田氏と日下氏の演じたキャラがあらゆる意味で鏡映しになった回と見える。演者と声役・組織での上下関係が入れ替わっているのはもちろん、曲がりなりとも恩人である自身へ敬意を示した相手をあっさり切り捨てるジニスの姿は、主人に優しい噓を吐いてまで最期を共にしたガッシュとは正反対の姿勢であった。
デザインした篠原保氏曰く、ジニスのデザインイメージは “台座状の下半身内部にメーバが潜んで上半身を操演している” と答えている。そこから下半身が左右に割れて翼になり、中身のメーバと上半身が融合した姿がシン・ジニスなのである。
しかし、弱い存在から力を蓄えて進化したにもかかわらず、その弱い頃の姿が現在の自分に混じり切らない状態で反映された外見は、改めて見ると異質そのもので、「弱かった自分を受け入れず他者に投影、それを虐殺して得た優越感に溺れていた」ジニスの卑屈で歪み切った思考をこの上無く象徴したデザインでもあろう。
そして、本来の姿の上に理想の姿があり続けるジニスの外見は、弱者である限り虐げられる、強者になり虐げる側に回らなければ生きられないとする、極端に偏った価値観を信じてしまっているのも窺わせる。かつて弱い生物だった時に虐げられた故にこの価値観を植えつけられた過去は推測できるが、それから1人だけで抜け出そうとした結果、価値観を捨てるのではなく盲信してしまい、虐げる存在のイメージを心の中に定着させた上でそれに突き動かされ、かつての自分がされた仕打ちを他者に行う外道へ成り果てた推移は、最早不快な感情も通り過ぎて虚しさを感じさせる。