概要
遊歩新夢(ゆうほ にいむ)によるライトノベル作品。レーベルはオーバーラップ文庫で、2018年10月25日に第1刷が発行されている。
国際コンペティションにおいて前代未聞の大失態を演じ、トロンボーン奏者としての道を断ってしまった主人公・遊佐響也が、異なる世界に飛ばされた先でキートランペット(有鍵トランペット)の名手であるひとりの少女・フィリーネと出会う、”異世界音楽ファンタジー”が展開されている。
著者の書籍化作品としては、同じくオーバーラップ文庫から刊行されている『きんいろカルテット!』シリーズ(2013年12月~2014年8月)から数えて、実に4年ぶりの新作にあたる。
作品情報
著者 | 遊歩新夢 |
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イラスト | 三輪フタバ |
発行者 | 永田勝治 |
発行所 | 株式会社オーバーラップ |
発行 | 2018年10月25日 |
ISBN | 978-4-86554-394-0 C0193 |
ストーリー
聴き慣れない音色に惹かれ、辿り着いた先には———天使と見紛う少女がいた。
「お願い……なの。フィリーネを、大人にしてくださいなの……」
コンクールで前代未聞の失敗を犯した遊佐響也が失意の底で意識を失い、目を覚ますとそこは見知らぬ土地。
そんな響也を助けたのは、トランペットの演奏者にして、竜神様へ音楽を捧げる『竜楽師』を目指す十二歳の少女・フィリーネだった。
響也はフィリーネに頼まれ、竜楽師の試験に向けて音楽を教える傍ら、なぜか一緒に暮らすことに———!?
失意の底に落ちた青年と、音楽に情熱を賭けた少女たちが奏でる異世界音楽ファンタジー、開幕!
(裏表紙掲載のあらすじ紹介より引用)
登場人物
遊佐響也(ゆさ きょうや)
物語の主人公である24歳の青年。かつてトロンボーン奏者として将来を期待され、イギリスの音楽大学で『師匠』のレッスンのもと研鑽を積んでいたが、その際に出場した国際コンペティションで前代未聞の大失態を演じたことをきっかけに、音楽そのものに対して深いトラウマを負ってしまう。
オーケストラのステージマネージャーとして働いていた矢先、ひょんなことから現代の日本とは異なる世界に飛ばされてしまい、そこで聴こえたトランペットの音色に誘われる形でフィリーネと邂逅を果たすこととなる。
今現在はトラウマを負っているものの、『師匠』の薫陶を受けた音楽家としての資質は折り紙つきであり、彼の音楽の片鱗を垣間見たフィリーネたちは「すごい人」と尊敬の念を募らせている。
フィリーネ・ワイディンガー
街はずれにある丘の上で響也と出会いを果たした、キートランペット(有鍵トランペット)吹きの12歳の少女。
美しく長い金髪とエメラルドグリーンの瞳の持ち主で、音楽に対する純粋無垢でひたむきな想いによって紡がれるトランペットの音色は、響也をして「天使の音色」と言わせしめるほどの魅力を秘めている。
竜神に音楽を捧げる『竜楽師』への道を目指すべく、日々真摯に音楽と楽器に向き合っている。
ジャンヌ・ド・ヴォルテーヌ
街中で小さなよろず屋を営んでいる、銀髪碧眼の12歳の少女。三級竜楽師の肩書きを持つサックバット吹きでもある。
長い銀髪やツンツンしつつも世話焼きな性格、そして姓の「ヴォルテーヌ」など、かつて響也が師事していた『師匠』と非常によく似た特徴を持ち合わせており、初対面の際に響也を驚かせている。
フィリーネとは幼馴染の関係にあり、同時に彼女からは楽器の腕前を競い合うライバルとしても見られている。
キトラ・フォン・ドヴェルネー
竜楽師の選考予備試験においてフィリーネを差し置いてトップで通過した、トランペット吹きの少女。
歳のほどはフィリーネとさほど変わらず、ほどよくウェーブがかった髪や仕立てのいいコートなど、身なりからして相応の身分の持ち主であることをうかがわせている。
響也も舌を巻くほどのテクニカルな演奏を得意とするが、その演奏には音楽的な「面白さ」が欠けているように受け取られている。
フランシェスカ・ヨハンナ・ハイドン
竜楽師の選考予備試験に審査員のひとりとして参加した、高名な作曲家として名を馳せる少女。
ウェーブがかった黒髪に黒衣のドレス姿、黒薔薇をあしらった黒いウェディングハットなど、全身黒ずくめの出で立ちが目を引き、蠱惑的で底の見えない雰囲気を漂わせている。
予備試験を受けたフィリーネの演奏に心を動かされ、その後日に改めてフィリーネに接するが、そこで彼女が吹いていた「とある曲」に強い衝撃を受けることになる。
ビジョップ
竜神教会の司教を務めている、背の高い壮年の男性。
フィリーネたちが暮らす街の実質的な最高権力者であるとともに、地域の孤児院や福祉施設を教会の名のもとに運営する名士でもある。
竜楽師を目指す者たちの勉強の場として青少年の教会楽団を組織しているほか、本選に先立った予備試験では自ら審査員として志願者の見定めを行っている。
師匠
響也がかつてイギリスの音楽大学に渡っていた頃に師事していた、若き女性のトロンボーン奏者。姓は「ヴォルテーヌ」。
『トロンボーンの女帝』の異名のもとに音楽界の第一線で活躍し続ける優秀な奏者で、その功績から彼女の名を冠した国際コンペティションも開かれるまでに至っている。
響也をはじめとする門下生に対しては厳しいレッスンを施すものの、同時に家族同然の恩情で手厚く接することも忘れない。
竜神様
響也が飛ばされた先の世界において、信仰の対象になっている巨大なドラゴン。1800年前に姿を隠して以来、一度も人前に姿を現していない。
竜神を崇める竜神教とその教会は、かつて竜神が好んでいたと言い伝えられている音楽を奉納することでその再来を祈るとともに、そのための専門職である『竜楽師』を抱えている。
作中に登場する楽曲
トランペット協奏曲変ホ長調 第1楽章(Concerto per il Clarino - 1.Allegro)/フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
(響也が仲違いしてしまったフィリーネと和解するために、記憶を頼りに書き起こしたトランペットの練習曲として登場。のちにフィリーネが竜楽師の本選試験に選出された際にも、この曲を演奏曲として選んでいる)
イエロニマ(La Hieronyma)/ジョヴァンニ・マルティーノ・チェーザレ
(1年前、ジャンヌが竜楽師の試験を受けた際のサックバットの演奏曲として登場)
トランペット協奏曲 ニ短調(Trumpet Concerto in D)/レオポルト・モーツァルト
(竜楽師の選考予備試験におけるフィリーネの演奏曲として登場。響也がフィリーネと初めて出会ったときに吹いていた曲でもある)
スコットランドの釣鐘草による変奏曲(Blue Bells of Scotland)/アーサー・プライア
(フィリーネとの交わりを通してトラウマと向き合うことを決めた響也が、彼女と初めて出会った丘の上でトロンボーンで演奏した曲として登場)
トロンボーンのためのコンチェルティーノ 第1楽章(Trombone Concertino, Op.4 - 1.Allegro maestoso)/フェルディナンド・ダヴィッド
(響也がジャンヌのために書き起こしたサックバットの練習曲として登場。また、響也の師匠のお気に入りの曲でもある)
愛の悲しみ(Liebesleid)/フリッツ・クライスラー
(竜楽師の本選試験の前日の朝、響也がフィリーネのためだけに吹こうと決めた演奏曲として登場)
ブランデンブルク協奏曲第二番(Brandenburg Concerto No.2 in F Major, BWV1047)/ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
(竜楽師の本選試験におけるキトラの演奏曲として登場)