概要
マリアナ海溝の海底1万メートルで確認された生物。大きさ4センチくらい。
横に平べったい体型をしており、「エビ」という名前だが系統的にはダンゴムシの親戚。
ヨコエビの仲間は生息域が非常に広く、浅海から深海、川や湖、果ては湿った土の中(主に森林の湿った落ち葉・土中)など本当にいろんな所に住んでいる。横倒しになって移動するのでヨコエビといい、これは石や砂、落ち葉などの陰にすばやく隠れるための適応。
海底1メートル
6000メートルを越えるエリアは「超深海」と呼ばれ、そこまでいくとまずほとんどの深海生物は脱落する。
※日本一深い駿河湾でも2500メートルどまり。
8500メートルくらいまでならシンカイクサウオやヨミノアシロといったスペシャリストがいたりもするが、そこを超えると猛烈な水圧のせいでタンパク質が変性するため、魚すら完全に脱落してしまう(ちなみに貝や甲殻類は水圧にやられて殻のカルシウムが溶け出してしまうので、4000メートル辺りが限界)。
そんな魔境でもカイコウオオソコエビやナマコの仲間、微生物といったやつらが暮らしており、最早天敵などいない環境で独自の生態系を築いている。
特殊装備
甲殻類どころか魚でも生きられない海底1万メートルの魔境を、この"エビ"が乗りきれているのは「コーティング」のおかげ。
カイコウオオソコエビの暮らしているエリアにはアルミニウムを含む泥が多くあり、そこから摂取したアルミニウム(入りの粘液)を使って全身を「コーティング」することにより、殻のカルシウム溶出を防いでいるのだ。
……と思われていたが、このアルミニウムの出所は調査・解析に用いた器具であることが判明。
実際に特殊コーティングで対策しているのは間違いないようだが、その素材は臭素ではないかと考えられている。これからの研究深化が待たれるところだ。
またこのエビはセルロース(植物の繊維)を分解する酵素を持つため、マリアナ海溝の底まで落ちてきた木片や葉っぱなどを糧にできるのも強み。他の深海生物同様に、いわゆるマリンスノーや落ちてくる死骸なども摂取するが、深海で植物性のエサを食べられる生物はほとんどいないため競合はほぼなく、食いっぱぐれるリスクを低減しているというわけ。
いきものの しんかって すげー!
ただし食性が広いだけで食べ物にありつける機会そのものが少ないのには変わりないため、餓えをしのぐために体の大部分は脂肪で構成されている。なので水から揚げると気圧・水圧の差で溶け出してしまうらしいが、脚が発達しているので遊泳力が強く意外と機敏に動ける。
省エネのために"待ちの姿勢"を取る事が多い深海生物にあって、機動力を諦めないこのエビは新たなステージに移行しているのかもしれない。