概要
体長 6.8~8.4cm
尾長 4.4~5.4cm
体重 約18g 冬眠前は~約20g
見た目
目の周りの毛が黒く、頭から背中まで一本の黒い線がある。尻尾まで黒い線は続いていない。(個体によっては尻尾までつながっているように見えるものもいる。)
背中の黒い線は、枝の一部ように見えることから、保護色の役割をしている。
肢には肉球があり、爪は猛禽類のくちばしのような形をしている。そのおかげで、枝にひっかけやすくなり、その爪一本でぶら下がって毛づくろいをすることが出来る。
寿命
野生下 約5年
飼育下 約9年
生息地
本州・四国・九州・隠岐など
食性
ガやアブラムシなどの昆虫・サラサドウダンやリョウブなどの花・アケビやサルナシなどの実・トウヒの種子・ズミの枯れ枝の樹皮などを食べる。
ガなどの虫は、頭をくいちぎってから羽や触覚をとって食べる。
ヤマネは、顎の力が弱く盲腸がないので、固いものやセルロースを多く含む植物は食べることが出来ない。
名前の呼ばれ方
ニホンヤマネは様々な呼び名が存在する。
- コオリネズミ(氷鼠)
- ヤマットウシ(山氷子)
- ヒネズミ(火鼠)
- シネネコ(死寝鼠子)
- ナマケネズミ(怠鼠)
- ノロ(鈍)
- キマワリ(木回り)
- キネズミ(木鼠)
- ヤマリス(山栗鼠)
- ヤマネズミ(山鼠)
- トウミンネズミ(冬眠鼠)
- キブスマ(木衾)
- コバンギ(小判疑)
- キスゴ(木鼠子)
- マリネズミ(毬鼠)
- タマネズミ(玉鼠)
- コダマネズミ(小玉鼠)
- キノコダマ(茸玉)
- リスネズミ(栗鼠)
- ハツカネズミ(二十日鼠)
他にも色々な呼ばれ方がある。
葉の裏にいるアブラムシをスルスルと移動して探すことから「森のスケーター」とも呼ばれる。
イギリスでは、「ドゥーマウス」という。意味は「ねぼすけなネズミ」
ロシアでは、「ソーニャ」という。意味は「ねぼすけ」
ドイツでは、「ジーベンシュレーファー」という。意味は「よく眠るもの」
生態
主に樹上で生活をしている。
長野県・山梨県のヤマネは、目の周りの黒い毛(アイシャドウ)が細く。和歌山県では広い。
冬眠期間の地域差によって、ヤマネの体色は冬眠期間が長いと茶色。冬眠期間が短いと灰色。体色は地域差も影響している。
尻尾は天敵に襲われてしまった際に、尻尾を抜いて逃げる。一度抜けると生えることはない。
ニホンヤマネは、逆さまになったまま移動することが出来る。ヨーロッパヤマネなども、逆さまになって移動することは出来るが、その頻度はニホンヤマネの方がはるかに多い。他のヤマネはあまり逆さまになって移動しない。
ヤマネは、巣に天敵が近づいたりすると、巣の引っ越しを行う。
冬眠について
ヤマネは冬眠する時に木に巣をつくってその中で冬眠する。(地域によっては、木に空いた小さな穴を利用する。)
また、土の中の浅いところで樹皮を使ってカプセルのような巣をつくって冬眠するヤマネや、朽ち木の中で冬眠するもの、ヒメネズミの枯葉巣で冬眠するものがいる。スズメバチが使い終わった巣を使うこともある。
主な巣の材料は、樹皮や鮮苔類。
ヤマネの冬眠期間や冬眠する時期は地域によってさまざま。例えば、清里高原では10月末に冬眠して、約6ヵ月も眠り続ける。九州の方では、冬眠しないヤマネもいる。
冬眠前のヤマネの体重は個体差もあるが、冬眠期間が半年に及ぶ地域では1.5倍~2倍に増やし、冬眠明けに体重は半減するとされている。なぜなら、ためた脂肪を少しずつ使いながら冬眠をするからだ。
冬眠明けの最低限体重は20gで、冬眠明けに体重が下回ると生存が厳しいとされている。
冬眠中のヤマネは、体温は約0度しかない。しかし、周りの気温によって体温は変化し、気温より大体1度ほど高い。例えば、周りの温度が0度なら冬眠中のヤマネは、約1度。
ヤマネは、冬眠から目覚めるのに約50分はかかる。その間、ヤマネは少しずつ体温を上げていく。
5分後には、7度。20分後に15度。30分後に25度。50分後にようやく、36度になる。
冬眠中は、1分間の脈拍が600回から60回に減り、呼吸は80回から1回に減る。
ヤマネの体温の上がり方は、頭から全身へとしだいに熱が伝わっていく上がり方をする。
幹や枝に丸い巣をつくって冬眠するヤマネは、何らかのことが原因で幹や枝が折れて、地面に落ちて凍死してしまうものもいる。
ヤマネの成長について
ニホンヤマネは、ヤマネの中ではかなり早く成長する。例えば、目が開く早さを比べると、
ニホンヤマネ | 生後11~16日 |
---|---|
オオヤマネ | 生後20~22日 |
ヨーロッパヤマネ | 生後18~20日 |
ロ―チヤマネ | 生後16~19日 |
ニホンヤマネは生後2日目には、物につかまる行動をとるようになる。ちなみに、メガネヤマネは生後5日目。
生後6日になると、背中や腹に毛が生えてくる。指はまだくっついたままだが、少し動き始める。
12日目、歩くようになる。
14日目、目が開き、歩けるようになる。
19~20日目、離乳し始める。
22日目、自分で食べ物を食べるようになる。
40日目には、親と離れて眠るようになる。
母別れした子ヤマネは、昼間体温を下げてまるで冬眠したような状態になっていることがある。これは、独立直後、餌の採り方の未熟な子ヤマネが、昼間は体温を下げてエネルギーの消耗を防ぐデーリートーパ(昼間の眠り)を行っているから。
子ヤマネは、運動期間や感覚器官が発達し、目を開いたばかりの頃は穴から外をのぞくだけで、出ようとはしない。しかし、そのうち、子ヤマネは枝の上面、下面を歩く、垂直な枝を上り、下り出来るようになる。だが、伸びあがって上ったり、下からジャンプしたり、上の枝から下りる。ジャンプして下りる行動はすぐには出来ない。そこで、母ヤマネが来て、伸びあがって上るなどをやると、子ヤマネは真似て同じことをする。子ヤマネは、枝上の移動方法を母ヤマネから学習しながら身につけていく。
ヤマネの知恵
とある実験で、天井につるしたアカトンボどのようにしてとるのかを調べるという実験がある。
一辺が一メートルの立方体の檻を作り、正面にはアクリル板を張って人が観察できるようにし、壁や天井は金網にして、ヤマネが自由に歩けるようにする。次に、ヤマネの好物であるアカトンボを糸で縛り、天井からつるす。アカトンボはヤマネが背伸びしても、届かない位置にする。
最初にヤマネは床からトンボをめがけてジャンプした。しかし、それでは届かない。
次に、ヤマネは横壁からジャンプした。しかし、届かない。
試行錯誤を繰り返し、10日目。天井の糸を縛っている所に逆さまに進み、後ろ足でぶら下がり、前足で糸を手繰り始めた。トンボは手繰り寄せられて、ヤマネはアカトンボにありつけた。ちなみに、また同じことを同じヤマネにしたら、今度は簡単にアカトンボにありついた。
鳴き声
ニホンヤマネは、人に聞こえる声で鳴くことはあまりない。しかし、交尾騒動の際に「キュルキュルキュルキュル」と鳴く。これは、「威嚇」や「攻撃」の意味がある。
人に聞こえない声は、特殊な機械を使うと聞くことが出来る。
眼を開く頃になる子ヤマネが「キュリキュリという声を出す。これは、警戒の音で、一匹が鳴くと他の子ヤマネが一斉に巣から出て隙間に隠れる。ちなみに、まだ眼が開いていないヤマネは小鳥が鳴くような声をたまに出すことがある。
他にも、ニホンヤマネは「キューン、キューン」と鳴く。
ヤマネの昔話
ヤマネになったマタギ
雪が降り積もる冬の山の夜、こだま衆のマタギ達の小屋へ一人の女がやってきて、「赤ん坊が産まれそうなのでこの小屋へとめてけろ」と頼んだそう。しかし、マタギ達は女人禁制の掟をたてに女を追いかえした。しかたなく、女は別のマタギグループのすぎ衆の小屋に頼んだ。彼らは、女を哀れに思い、「掟は破っても、いったん山を下りて、それからまたくればいいのじゃ。」と子どもを産ませてあげたそう。明くる朝、女はすぎ衆に獲物の熊の居場所を教えた。実は、女は山の神様だった。熊を撃ち取ったすぎ衆がこだま衆の小屋に行くと、こだま衆の七人の姿はなく、代わりに七匹のコダマネズミ(ヤマネ)がいるだけだった。山の神様の怒りに触れたこだま衆は、コダマネズミ(ヤマネ)になってしまっていた。
コダマネズミが破裂する話
真冬の山の中ではコダマネズミの破裂する音が「ポーン、ポーン」と響き、こだまするのだとか。その寂しさ、恐ろしさに肝を冷やし、マタギたちはこの音を聞くと、
「そっちはこだまのるいか
こっちはしげののるい
ぶんぶにきままにくらす
なむあぶらんけんそわか」
と大急ぎで三回唱えるそう。音をたよりに探しに行ったあるマタギは、コダマネズミの背がポンとわれて死んでいるのを見たとのこと。
余談
ニホンヤマネの体には8種のダニが寄生しており、その内ニホンヤマネにだけ寄生するダニが1種存在する。