概要
ハリセファロブス感染症は線虫の一種であるハリセファロブス・ジンジバリスHalicephalobus gingivalis(シノニムとしてMicronema deletrix)により引き起こされる寄生虫症である。
芽殖孤虫症や狂犬病、フォーラーネグレリアによる原発性アメーバ性髄膜脳炎などと共に救命がほぼ不可能とされる感染症の一つとして知られる。
原因となるハリセファロブス・ジンジバリスは世界中の湿地や堆肥などの有機質土壌に生息する自由生活性の線虫であるが、何らかの理由によりヒトやウマ、ウシ、シマウマ、ロバなどの体内に侵入すると、脳や脊髄、腎臓、心臓、肝臓など至るところで単為生殖を繰り返し、内臓の炎症や壊死、神経症状を引き起こし死に至らしめる。
ウマへの感染は主に日本、北米、ヨーロッパなどで数十例、ヒトへの感染は北米を中心に7例(2017年時点)知られており、ヒトでの救命例は無いがウマでは4頭の生存例があるとされる。
治療法
寄生虫症に対しては通常、イベルメクチンやチアベンダゾールなどの駆虫薬が用いられるが、脳内に侵入する寄生虫に対しては血液脳関門と呼ばれる脳の防御構造によって薬剤の到達が阻害されるため効果が薄い。また、ハリセファロブス・ジンジバリスはどういう訳かイベルメクチンに対して高い耐性を持っているため、治療をより困難にしている。
以上のような要因に加え、特にヒトでは非常に稀な感染症であり進行も早い事から生前に本症を診断することすら難しく、現在のところ予後は極めて悪い。
予防法
詳しい感染経路は不明であるが、稀な感染症であるため過剰に恐れる必要はない。
しかし、概要で述べた通りハリセファロブス・ジンジバリス自体は湿った有機質土壌などの環境中に広く生息する線虫であるため、土や堆肥などが傷口や粘膜などに接触することがリスク要因であると考えられている。従って、土や堆肥を触った際にはよく手を洗い、堆肥や土を浴びたり食べたりするべきではない。実際に人での最初の症例は、堆肥の攪拌機に巻き込まれ重傷を負った少年によるものである。
また、馬などを飼養する場合には馬房などの清掃を徹底しオガや馬糞などが堆肥化するのを避け、泥を被った際には馬洗いを行うのが、飼い主と愛馬の健康のために重要である。
その他の数少ない例としては、感染者から提供された臓器の移植による感染が一例(2人)、馬で胎盤あるいは母乳を介した母子感染が一例知られている。
感染馬の尿中や馬糞にも幼虫が確認されるため、汚染された尿や馬糞などからハエを介して感染する可能性も指摘されているが定かではない。
ハリセファロブス・ジンジバリス自体は普遍的に存在する割に感染例は極めて稀である事から、何らかの理由で免疫力が低下したり大量に接触した場合にのみ発症する日和見感染症ではないかとの説もある。
ハリセファロブス感染症に限った事ではないが、野生の生き物はとても厄介な寄生虫やウイルス病を持つものが多いため、生肉や加熱不十分な肉を食したり、べろちゅーするべきではない。最悪の場合、身体中を寄生虫に喰い荒らされて死ぬ事になる。