概要
人間より古代の種族が作り上げた道具「クヴェル」の一種で、燃えさしを意味する剣。作中の前半の時代を基準にして考えると、最高級の攻撃力を持っており、術との親和性も極めて高く、その名の通り炎を操ることができる。
壮絶な性能と因縁
しかしながら、クヴェルというものは古代の種族が作り上げた、古代の種族のスペックにあった道具。人間よりも術を操る力に関しては遥かに優れており、そのような種族が作った道具を人間が使えば、時に無理が生じる。
この作品での術(いわゆる魔法力)は、自然物や装備品から、魔力の元素とも言うべき「アニマ」を取り出して、それを自分のイメージするままに形作って発動させる。その時、取り出した分だけ道具側のアニマは減ってしまうことになる(枯渇すると朽ちる)。しかしながらクヴェルはどんなにアニマを酷使しても壊れないので、人々の間では完璧な道具と言われていた。
だがそれは、クヴェルの本質を理解していない解釈に過ぎない。なぜならばクヴェルとは、単純にアニマを取り出すのではなく、使用者側の魔力(アニマ)をクヴェル側が虫眼鏡で拡大するように増幅させて、その増幅した自分自身のアニマを術の力に変換させて発動させるもの。
これが人間の常識範囲で扱えるクヴェルなら、使用者側が術を使おうと明確な意思を持ったときだけ反応するので、普通の道具と同じ感覚で扱える。しかし、敏感に反応するクヴェルだと、所持者の無意識レベルの意思とか、ひどいものになると動植物の本能にまで反応する。それの何がまずいかと言うと、拡大され増幅されたアニマを制御せずに放っておいた場合、そのアニマが所持者に逆流し、当然肉体はその膨大なアニマに耐えられない。結果、自我が吹っ飛んでモンスター化してしまう。
そしてファイアブランドは、アニマにかなり強く反応するクヴェルである。成人が初めて触れると、アニマに反応しすぎて、炎の力に飲み込まれ、灰も残らないほど焼き尽くされる。だが、物語の主人公であるギュスターヴ13世の家系は、フィニー王国を統治する王家であり、その継承者である証を立てるには、血筋およびファイアブランドの制御技能を示さねばならない。
幼い頃ならばアニマがまだ弱いので、ファイアブランドを持っても光る程度で済み、同時に本人はファイアブランドに対して恒久的な免疫を持つため、以後も操れるようになる。人の力では扱えないクヴェルも多数ある設定だが、以上のエピソードからこの剣は人が扱えるギリギリといったところだろう。
この剣はその性能や性質・扱われ方ゆえに、いくつかの悲劇・因縁を生んでいる。
- 主人公ギュスターヴ13世は、アニマがまったくないという「本来ありえない体質」を持った人物だった(他の術不能者は「アニマが弱い」のであって、アニマがないわけではない)ので、ファイアブランドに免疫を付ける儀式の際に全く剣が反応せず、術が扱えない者として王家を追放される羽目になった。のちに鋼の13世と呼ばれて大変革を起こすきっかけではあるのだが、13世は幼少時代にほとんど友が寄り付かない歪んだ時期を送ることになり、そのコンプレックスは成人になってからも覇王に君臨しても拭えなかった。かの「ギュスターヴの剣」も、この剣に追いつき追い越すことを目標に作られたものである。
- また、13世の弟フィリップは、もともとすぐれた術者であったものの、家系の複雑な事情によりすんなりと13世の後釜になることができず、成人してから儀式に望むも大やけどを負ってしまう。幸いにして子供フィリップ2世がいたのだが、2世の儀式では何者かに2世が暗殺され、もともと心の弱かったフィリップはその現実を受け入れることができず、故意にファイアブランドと自分のアニマを共鳴させた結果、ドラゴンに変質してしまい、フィリップとしての自我を失った。
最終的には、ギュスターヴ13世の孫の立場(正確には妹の孫)に当たるグスタフの手に渡り、彼は無事に使いこなす。しかし、正式に王位を継ぐ者がいなくなって久しいフィニー王家はその形を失っていた。
そして、グスタフがファイアブランドを持って家出したため、ファイアブランドもフィニー王家も完全に歴史の表から姿を消した。
ただし、ファイアブランドは冒険者となったグスタフの愛剣の一つとして歴史の裏で活躍している。
エッグとのラストバトルでは、エッグに共鳴するファイアブランドの姿を見たグスタフが「ファイアブランドよ、お前を信じていいのか?」と口にしている。作中ではフィニー王国の名剣という側面がクローズアップされているが、本来ならクヴェルという共通点があるため、人間よりもエッグに近い存在だからである。幸いにして暴走したりはしないので、愛用しているならエッグ相手に思う存分使って構わない。
インペリアルサガ
大量のドラゴンの襲撃を受けた際、フィリップがギュスターヴ13世を救い出す為にファイアブランドを手にして戦う場面がある。原作同様にフィリップはファイアブランドの儀式を通過してはおらず、そのままではドラゴンに変質してしまうところであった。
しかし原作とは違い、ここで重要な助っ人が現れる。原作同様に処刑されたと思われたが、それは建前で実際は匿われていたギュスターヴ14世。この場にいる人々の中で彼は唯一のファイアブランドの儀式通過者。生存があらわになって本当に処刑される覚悟でフィリップを救う為に駆けつけていた。
彼はファイアブランドの儀式がどういうものかをフィリップに教える。
- ファイアブランドからアニマを逃がすようにすれば成功するとのこと。現実で言う所の、電流を逃がすためのアースみたいなものだと思えばよいだろうか。この時、自身のアニマを引きちぎられる感覚に襲われるが、それは錯覚である。引きちぎられまいと抗ってしまうと、かえって逆効果になる。
このアドバイスで、フィリップは初の「成人後に儀式を成功させた初例」となった。
その後はフィリップから王位を示す証としてギュスターヴ13世に突き返され、以後ギュスターヴ13世の手にあったが、思わぬ形で邂逅したグスタフの太刀筋を見て「お前の本来使う剣はこれだろう?」とこれを渡す。以後は本編で最終的な持ち主となるグスタフの手に渡った。
続編『エクリプス』
グスタフの愛剣として引き続き登場するが、エッグに盗まれた事がある。不完全な復活を遂げたエッグが、より強力なアニマを生み出して吸収するために着目したこの事件は、(原作の)グスタフの科白にあった懸念が的中したものでもあった。
人間ではなく魔物の手で最後のメガリスに運ばれたこの剣は、メガリスの力場と合わさって炎の将魔を生み出す。こうして生まれた「人間の手を借りない将魔」がエッグの新たな養分となる作戦であり、ファイアブランドがエッグにとって都合のいい使われ方をされた描写でもあった(言い方を変えれば本来の作り手である先行種族に相応しい、クヴェルらしい使い道ではある)。
のちに炎の将魔は吸収前に撃退され、剣はグスタフの手元に戻った。