概要
2000年代前半のアメリカ陸軍のACU用迷彩服パターン選考に参加した迷彩柄の一種。
名称は「さまざまな地形に対応できる迷彩」という意味である。
デザインはCrye Precision社(ここは迷彩服以外にもヘルメットなども作っている)、生地の製造はDuro Textiles LLC社。
元々はCrye社が次期アメリカ陸軍迷彩トライアルに参加し、試作したスコーピオン迷彩(リンク)と呼ばれるものであり、トライアルではUCPに敗れた。この柄を伸縮させたのがマルチカムである。
しかし、民生型として販売されたこの迷彩を用いた装備はSWATやDEAなどの法執行機関に採用され、陸軍でもアフガニスタンに派遣される兵士向けに改良型がOCP(Operational Camouflage Pattern)として採用されている。
被服類や、ボディアーマー、ヘルメットカバーなどの個人装備品に使われている。
パターン
グラデーションが含まれる珍しい迷彩柄である。
生地は薄いカーキ色がベースで、ベース色とのグラデーションを含む黄緑色の非常に大きなパターン(ベース色に似た色調でかなりわかり辛い)と、同じくベース色とのグラデーションを含む薄茶色及び緑色の大きなパターン、前出の各色のパターンを引きちぎったような細かいパターンと焦げ茶色と白色のやや小さなパターンが描かれている。文面にすればかなり複雑であるが、実物も恐ろしく複雑である。
また、製造ロットや印刷される材質などによって実用上支障がない程度にパターンが変えられている可能性がある。
各色は、面積では規則性を保ちつつも模様の形状は斑点であったり歪な楕円であったり、アメーバのような有機的な形状であったりと、狭い範囲で観ると画一的ではなく、これをパターン化して正確に再現するにはかなり広い面積でパターン化して画一的に見えなくする工夫が必要である。
また、色についても生地のプリントの具合では、更に多種多様な色が使用されているように見えることも。(例えば薄茶色と薄いカーキのグラデーションの部分が別の色に完全に囲まれていると「褐色」が使われているように見える)
ウッドランドやDPMなどよりも各色間のコントラストは低めだが、基本的に白と焦げ茶の斑点が互いに近い場所にプリントされているので、それなりに分断効果も存在する。(少なくともUCPよりは良好である)
米国以外での使用
他国では似たような迷彩が細部のパターンを変えてイギリス陸軍(MTP)やオーストラリア陸軍、グルジア陸軍等でも採用されている。
イギリス軍のMTPの場合は、色調やコンセプトはマルチカムによく似ているため一見同じ迷彩柄に見えるが、パターンのデザインにそれまでの制式迷彩であるDPMの影響が見られるほか、パターンがマルチカムと比べるとやや単調である。
また、正規品、コピー問わず、各国軍の特殊部隊や治安機関で、制式品、あるいは制式外の公費購入品や隊員の私物装備品として人気である。
バリエーション
マルチカムは従来の迷彩柄よりも、より多様な環境でそれなりに優秀な迷彩効果を発揮する。特にこれまでの迷彩柄が「どの場所で使うか」を明確にしてデザインされていたのに対して、「どんな場所でも」使えるよう設計されていたのは画期的なことであった。
しかしながら、裏を返せばどこでも凡庸な性能しか発揮できない左証であり、専用に開発された迷彩柄に劣ると判断されたためか、2013年に砂漠・ジャングル・雪原・都市向け、治安機関向けの黒を基調にしたものなどの色違いが登場した。(これでは何のための汎用迷彩なのだろう・・・)
また、生地をCray社から購入していないにもかかわらず値が下がらず非常に高価なままな事から、陸軍は新型UCPとしてスコーピオンW2を採用し、平行して使用することを決定した。