概要
『風の谷のナウシカ』の登場人物。原作である漫画版にしか登場しない。
トルメキア王国の国王であり、彼が引き起こした土鬼への対外戦争が物語の根本的な引き金および舞台となっている。トルメキアは腐海から比較的遠いとはいえ、その毒の影響から逃れることは出来ず、人口減少などに悩まされる衰退傾向にあった。ヴ王は南の大国、土鬼を攻めることで労働力となる戦争捕虜はじめとする莫大な戦利品を本国にもたらし、この問題を解決せんと目論んでいた。
3人の皇子と1人の皇女を子供に持つ。ちなみに、この皇女がクシャナである。
皇子達もそうだったが、王自身もとんでもない肥満体であり顔に至るまで贅肉がついている。
歌舞伎版を演じたのは中村歌六。原作の姿を想定していると椅子から転げ落ちそうなほど驚いちまう、おとこっぷりである。
人物像
一人称は「朕」。
王族間の血で血を洗う王位継承争いに勝利して即位。この際、先王の娘を王妃として迎えるが、その腹から生まれたのが末子の皇女クシャナだった(3人の皇子は先妻との間に産まれていた連れ子)。この王妃とクシャナが王家の中で最も正統な血筋であるとされ、ヴ王はこれを自身から王位を奪いかねない脅威と見做し、その断絶を図るべく策謀を巡らしてきた。
その過程で、王妃はクシャナを庇う形で毒杯を仰ぎ、命は失っていないが精神に異常を来し、人形を娘と思い込みクシャナ本人のことも分からなくなってしまった(このことが、クシャナが父を憎むきっかけとなった)。
土鬼との戦いで兵を失って逃げ帰った皇子たちの弁解を容赦なく論破して叱責、頭を踏みにじりさえする冷酷な人物であり、皇子たちでさえ、ヴ王を「暴君」「愚者を演じなければ殺されていた」と評し、恐れている。
他方、王としての器は確かであり、戦利品を一兵に至るまでの公平な分配を指示し、巨神兵にも恐れることなく対峙する胆力や墓所の民の言葉を鵜呑みにしない聡明さも持ち合わせている。
元来、トルメキア王室はその紋章ですら争う蛇の姿をとっており、内部では血みどろの争いが繰り返されてきた世界であった。ヴ王自身はこうした己が血統の背景を「最も古く、しかして常に新しい」と誇示している。
また、死に際に「王族は魑魅魍魎共ばかりだが決して殺すな。一人でも殺せば自分のように次々殺すことになる」とクシャナに忠告を残していることから、冷酷な振舞いもトルメキア王として、王族や貴族たちに簒奪などを考えさせないため意図的にとっていた態度だったのではないかとする見方もある。
作中の活躍
当初は、クシャナなど他の登場人物の台詞でその存在が言及されるのみで、本格的な登場は物語終盤に突入してからであった。
戦を任せていた第一皇子と第二皇子が土鬼諸侯国連合の生物兵器で兵の大半を失って逃げ帰る大失態を演じたため、「国を失った土鬼が何をしでかすか分からない」と判断、直ちに軍を再編し、土鬼諸侯国連合の中枢である聖都シュワに自ら急襲を仕掛ける。
生物兵器の暴走や神聖皇帝兄弟の死亡などで混乱の極みにあった土鬼はもはや碌な抵抗もできず、土鬼との戦争そのものは大勝利に終わりシュワを制圧するが、古代の技術が収められた墓所は制圧できず、それどころか墓所と巨神兵・オーマの戦いの巻き添えに遭い、全兵力を失う大損害を被る。それでも、特に動揺することもなく、オーマに導かれながら墓所の主の下へ向かう。この時、オーマと行動を共にしていたナウシカと邂逅する。
墓所の主との遭遇において、ナウシカと共に世界の秘密を知ることになる。世界再生を説く墓所の主に抗うナウシカを気に入り、自らもこれに同調。「朕は墓守りにはならんぞ。お前には仕えん!! 自分の運命は自分で決める」と墓所の主の要求を一蹴し、墓所の主からナウシカともども「希望の敵」と認定される。
墓所の主との交渉は決裂しナウシカはオーマに墓所を破壊させる。怒り狂った墓所の主が放った断末魔の光がナウシカを襲うが、ヴ王はこれを庇って虫の息となる。この時、ヴ王はナウシカのことを「破壊と慈悲の混沌」と称している。
全ての戦いが終わった後、今わの際でクシャナに王位を譲ることを明言。常に傍に置いて自分を批判させていた道化にその証人となるよう命じ、そのまま息絶えた。