概要
怪奇大作戦、ひいては実相寺昭雄作品の中でも傑作とされているエピソード。
誰よりも京都と仏像を愛した女性の悲哀を描く。
STORY
日本の古都、京都。この街では仏像が次々と消滅する事件が多発しており、SRIが調査に乗り出した。
牧史郎は、消えた仏像の研究をしている藤森を訪ねた。話を聞くと、藤森は仏像が消えたことに関して残念と思う反面、ほっとしているという。
近年の京都の変わりようは、仏像が安心して暮らせる場所ではなくなったと。
その時、藤森の研究所に須藤美弥子という女性がやってきた。彼女もまた仏像に心惹かれた人間だった。
彼女の美しさに、思わず笑みを浮かべる牧。
牧は小川さおりに誘われ、ディスコにやってきた。やかましさにうんざりしていると、美弥子がいた。美弥子は近くで踊っていた若者に、京都の町を売ってほしいと言いながら、契約書を渡す。若者たちは何のためらいも見せることなく、笑いすら浮かべながら契約書を書いていった。契約書を受け取ると、美弥子はディスコを後にした。後を追った牧が事情を聴くと、美弥子は「誰も京都を愛していない証拠」と返す。
走り出した美弥子を追いかける牧だが、突如現れた雲水に阻まれ見失ってしまう。
何とか美弥子を発見する牧。目的を尋ねてみると、仏像の美しさを解らない人間から京の都を買い取り、仏像の美しさが解る人間だけの街にしたいと語った。
美弥子はそんな気持ちが解るかと牧に聞くが、牧は言葉に困ってしまう。しかし美弥子はそれでもいいと言った。
「仏像は私だけの物。そう思いたいから……」
牧と美弥子は、京都の町を見渡せる高台にやって来た。誰がこの都会を、千年前は美しい文化の栄えた街だと信じられようかと、牧に意見を求めた。
牧は自分は仏像よりも生きている人間の方が好きかもしれないと答える。
茶店に入った二人。男の人と二人で入るのは初めてという美弥子に、牧は仏像ばかり眺めていないでたまにはこんなところに来るものもいいでしょうと言うが、美弥子は仏像を眺めているだけで幸せと返す。だが同時に生きている男の方と話をするのも悪くはない……今はそう思っていると微笑んだ。
またしても仏像消滅事件が発生する。町田警部は寺に人が入った痕跡がないと困惑するが、牧の耳に雲水の鈴の音色が聞こえた。そういえば美弥子の周りにも雲水がいた……牧は考える。
現場を調査していた三沢京助は、奇妙な機械を発見した。それを見た所長の的矢忠は、「カドニウム光線」を研究している大阪大学の山崎教授のところに行くよう三沢に指示した。
次の日、牧は美弥子に京都を買ってどうするかと問い詰める。美弥子は古いままの京都を、そこに生きる仏像を愛していると答えるが、昨日の仏像消滅事件について聞くと、知らないと答えて逃げ去っていった。去り際に牧に「さよなら」と言いながら……
SRIが泊まっている旅館で、三沢がカドニウム光線の原理を説明する。
カドニウム光線とは物質を電送する光線であり、照射した物質を抗生物質に変換しその結合の分子構造を電送するものだった。
説明を聞いても、どこか上の空の牧に野村洋がどうしたのかと尋ねるが、さおりから「美弥子に恋しているからだ」と茶化された牧はうるさいと返す。
的矢が聞いた報告によると、仏像が消えた寺には必ず美弥子が訪ねているらしい。美弥子に疑いがかかるが、証拠がない。
翌日、美弥子はとある寺の仏像の前で涙を流していた。
美弥子は部屋の隅に何かを取り付けると帰った。その場所を捜査すると、三沢が発見したものと同じ機械が見つかった。
捜査本部に機械を持っていった牧。町田はさっそく美弥子を手配しようとするが、今夜の発信を待って受信装置の場所を突き止めるという牧の提案に従った。
発信機の時限装置に刻まれた夜の12時。とある場所に仏像が転送されて来た。
そこには藤森と美弥子がいた。美弥子が持ってきた「京都買います」の契約書の山を見て、こんなにたくさんの人間が京都に興味を失ったのかと嘆く藤森。そんな彼に一日でも早く仏像たちを守ろうという美弥子だが、発信場所を突き止めた警官隊が乗り込んできた。
警察と共にやってきた牧を見て声を詰まらせる美弥子。藤森は抵抗もなく逮捕された。
「可哀想に。仏像たちはまた、騒音とスモッグの街で観光客の目にさらされて……運命、運命かもしれんな、それが……」
そう呟き、連れていかれる藤森。
その場から走り去る美弥子の腕を牧が掴んで止める。しかし美弥子は
「仏像以外のものを信じようとした、私が間違っていた。それだけの事です」
と失望の言葉を言い残し、夜の街に消えた。
翌日、牧は京の街を一人歩いていた。京都の古くとも美しい街並み。美弥子と一緒に行った茶店……
そしてある寺を訪れた牧は、一人の尼僧に出会う。
牧に声をかけられたその尼僧は、なんと美弥子だった。牧は名前を呼んだが、尼は「正連尼」と名乗った。
「須藤美弥子は、一生仏像と共に暮らすとお伝えしてくれとのことでした。きっとその方がお幸せだと思います。どうぞ、貴方様もお忘れになってくださいませ」
そう言って目を伏せ、後ろを向いた尼。
立ち去ろうとする牧。だがもう一度振り返ってみると、尼の姿はなくそこには一つの仏像が立っていた。
その仏像の目からは、涙が流れていた。
それを見た牧は耐えきれずに、逃げるように走り去っていった……
エンディング
主題歌『恐怖の町』と共に京都の街並みが映し出される。
しかし、そこに映っている光景は美しい寺社仏閣などではなく、工場からの煤煙で曇った空や風情の無いコンクリート製のビル、排水で汚染された鴨川、そして新幹線と開発が進む市街の風景など、古都が人々の暮らしの為に喰い潰されていく様である。
関連タグ
鉄人28号 - 2004年アニメ版にこのエピソードと対になる「京都編」が存在する。