怪奇大作戦とは
それまで円谷プロが製作してきた「ウルトラQ」や、「ウルトラマン」のように
怪獣やヒーローは登場せず、科学を悪用した犯罪による怪奇現象と私設組織「S.R.I.」の戦いを描くドラマ。
2007年には『怪奇大作戦セカンドファイル』、2013年には『怪奇大作戦ミステリー・ファイル』の名称でリメイクされている。こちらはNHK-BSで放送された。
主題歌はサニー・トーンズの歌う「恐怖の町」(作詞:金城哲夫・作曲:山本直純)。
なお、本来はウルトラシリーズではないのだが、株式会社デジタルウルトラプロジェクトから「デジタルウルトラシリーズ」と題してDVDソフト化が行われていた事もある(これは『マイティジャック』シリーズや『恐怖劇場アンバランス』も同様)。
現在は東映ビデオからBlu-ray BOXが販売されている。
企画経緯
1968年、折しも児童メディアを席巻していた怪奇・妖怪ブームに鑑みた円谷プロは、空想特撮シリーズから転じて怪奇ドラマの決定版として企画した。まず『科学恐怖シリーズ トライアン・チーム』なる企画書が提出され、『チャレンジャー』、『サイエンサー』と企画が二転三転していく中で以下のポイントが抽出された。
ウルトラマンやセブンのような超人は登場しない(劇中に登場するセブンは、あくまでスーツの設定)
内容は怪奇・恐怖を押す線と科学心理を押す線
敵は常に科学を悪用する者
怪獣や宇宙人は登場しないが、科学の生み出した怪物は登場する
それまでの作品のような派手な特撮シーンはないが、代わりにサスペンス一杯の、恐怖に手に汗握るショッキングなシーンを特撮で描く
現代科学で得られる現象事象を対象に取り上げる事
怪生物や怪植物のリアリティを重視する科学性のアプローチ
これらを咀嚼・洗練していった結果が『怪奇大作戦』である。
ゴールデンタイムで扱うにはテーマが重く子どもには地味な内容だったが、平均視聴率は22%代を記録。当時としても十分高視聴率だが、66年の『ウルトラマン』の圧倒的高視聴率でハードルが高くなっていたTV局およびスポンサーの合格ラインは厳しく、第1クール終了時点で「2クールで終了。延長措置なし」の判断が下された。しかし、「動機の無い殺人」や「孤独な老人」、「戦争の痕跡」など現在でも通用するような深い社会問題を取り上げた名エピソードも多く、特撮ファンからの人気は高い。
TBS側のプロデューサーである橋本洋二は、自身の説明が観念的すぎたと語る一方、当時の円谷プロは『マイティジャック』に集中しておりあまり本作についての打ち合わせができなかったとしている。
先ほど、事件にはトリックが存在したり、科学の生み出した怪物は登場すると記述したが、実際は全てがそうではない。
- 第6話に登場する吸血鬼ニーナはホラー映画に出てくるようなリビングデッドの類
- 第7話ではロボットであるはずの殺人人形に自我が芽生えたような描写があったり、それを操る「青い血の女」もまた自我を獲得している事が示唆される。
- 化学兵器に類似するガスが用いられながらも、"犯人らしい犯人"が登場しない第22話
- 第26話に登場する雪女はウーよろしく娘を守るために現れた母親が化身した存在とされる。
このように疑似科学の枠を超えた怪談じみた話も存在する。
S.R.I︰科学捜査研究所
読みは「エス アール アイ」。正式名称は「SCIENCE RESEACH INSTITUTE(サイエンス・リサーチ・インスティテュート)」。
警察の捜査では解決不能な不可解な怪奇事件を、独自開発した機械等を駆使し科学捜査を行う民間組織。
警察から事件捜査を依頼されることが多いが、前述の通り民間組織であるため、警察同様の権限は持たされておらず、また一般人からの依頼も見ることができる。
SRIのメンバー
的矢忠(原保美)
48歳。SRIの所長。元警視庁鑑識課長で、警察での経験を活かして私財を投げ売ってSRIを設立した。警視庁捜査一課長の町田警部とは旧知の仲。
下の名前の読みは「ただし」だが「殺人回路」に登場した同級生の伊藤大助から「チュウ」という愛称で呼ばれている。
妻の敏子と息子の浩一がいる。
三沢京助(勝呂誉)
24歳。直情型の熱血漢。防衛大学校時代にラグビーの試合中事故で相手を半身不随にしてしまったことから自責の念に駆られ、ラグビーも大学も辞めてしまったところを的矢に誘われてSRIに入った経緯を持つ。肉体派だが科学知識も豊富で、研究室に白衣で立つ姿も多い。情にもろいところが弱点。
牧史朗(岸田森)
28歳。SRIの頭脳的存在。父を科学犯罪で失った過去を持つ為に誰よりも強く犯罪を憎んでおり。その時に父の事件を担当した警視庁時代の的矢の誘いでSRIに入所した。幼い頃に姉のチエコを戦時中の敵機銃掃射で亡くしている。
誕生日は太平洋戦争開戦の1941年こと昭和16年12月8日(15話「24年目の復讐」)。「終戦当時は5歳だった」と数え年で答える場面もある。
ULTRAMAN(漫画)にもゲスト出演している。
野村洋(松山省二)
21歳。SRIの若手メンバー。少々おっちょこちょいだが、フットワークの軽さが売りのムードメーカー。
小川さおり(小橋玲子)
19歳。SRIの紅一点。基本的には事務所詰めだが、現場でも活躍する。考古学者の父親がいる。
劇中には登場しないが、SRIにはこの他にも数名の研究員が在籍しているとされる。
SRIの協力者
町田大蔵(小林昭二)
48歳。殺人及び強行犯罪を扱う警視庁捜査第一課長。階級は警部。的矢の元同僚。警察とSRIの橋渡し的存在。基本的には協力者だが話によって立場が二転三転する。
次郎(中島洋)
11歳。SRIに出入りしてメンバーの助手を務めている。主に野村と行動を共にする。何故か途中から出てこなくなる。
SRIの装備
トータス号
定員2名。強固なボディを持つSRIの特捜車両。主に野村が使用する。
車内には各種特殊装備を搭載している。
ベース車両はスバル・サンバー。
ガルウィング式の窓がついているスチルが多く見られるが、撮影段階では撤去されオープンカーとなった。これを意識してか『セカンドファイル』ではガルウィングドアのオートザムAZ-1が使用されている。
SRI専用車
トヨタ・クラウン(MS50前期型)に通信装置などを取り付けたもの。大掛かりな特殊装備は搭載されていない。外観もSRIのマークが描かれている以外は普通の乗用車と変わらない。
第22話にはフォード・ファルコンフォーチュラに脱出装置を付けた特殊車両も登場した。
各話リスト
放映No. | 脚本No. | 制作No. | サブタイトル | 登場した怪奇及びSRIの装備 | 脚本 | 監督 | 特殊技術 | 放送日 | 視聴率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 壁ぬけ男* | キングアラジン、スペクトル破壊器 | 上原正三 | 飯島敏宏 | 的場徹 | 1968年9月15日 | 24,8% |
2 | 1 | 1 | 人喰い蛾 | 人喰い峨 | 金城哲夫 | 円谷一 | 的場徹 | 9月22日 | 23,3% |
3 | 3 | 2 | 白い顔 | 白い顔の男、高出力レーザーガン | 金城哲夫、上原正三 | 飯島敏宏 | 的場徹 | 9月29日 | 21,9% |
4 | 4 | 4 | 恐怖の電話 | 佐々木守 | 実相寺昭雄 | 大木淳 | 10月6日 | 21,1% | |
5 | 5 | 5 | 死神の子守唄 | スペクトルG線 | 佐々木守 | 実相寺昭雄 | 大木淳 | 10月13日 | 21,3% |
6 | 6 | 6 | 吸血地獄 | 吸血鬼ニーナ | 金城哲夫 | 円谷一 | 的場徹 | 10月20日 | 20,6% |
7 | 7 | 8 | 青い血の女 | 殺人人形、あれ | 若槻文三 | 鈴木俊継 | 高野宏一 | 10月27日 | 20,6% |
8 | 8 | 7 | 光る通り魔 | 燐光人間 | 上原正三、市川森一 | 円谷一 | 的場徹 | 11月3日 | 20,8% |
9 | 9 | 9 | 散歩する首 | 散歩する首 | 若槻文三 | 小林恒夫 | 大木淳 | 11月10日 | 23,5% |
10 | 11 | 11 | 死を呼ぶ電波 | 殺人電波を発するテレビ | 福田純 | 長野卓 | 的場徹 | 11月17日 | 22,7% |
11 | 10 | 10 | ジャガーの眼は赤い* | サンドウィッチマンのウルトラセブン、立体映像装置 | 高橋辰雄 | 小林恒夫 | 大木淳 | 11月24日 | 22,2% |
12 | 13 | 13 | 霧の童話 | 落武者の亡霊 | 上原正三 | 飯島敏宏 | 的場徹 | 12月1日 | 20,2% |
13 | 12 | 12 | 氷の死刑台 | 冷凍人間、サンビーム500 | 若槻文三 | 安藤達己 | 高野宏一 | 12月8日 | 22,2% |
14 | 14 | 14 | オヤスミナサイ | 睡眠学習装置 | 藤川桂介 | 飯島敏宏 | 的場徹 | 12月15日 | 19,7% |
15 | 15 | 15 | 24年目の復讐 | 水棲人間 | 上原正三 | 鈴木俊継 | 大木淳 | 12月22日 | 20,6% |
16 | 18 | 16 | かまいたち | 真空切断装置 | 上原正三 | 長野卓 | 高野宏一 | 12月29日 | 22,5% |
17 | 19 | 17 | 幻の死神 | 見えない殺人者 | 田辺虎男 | 仲木繁夫 | 的場徹 | 1969年1月5日 | 23,0% |
18 | 20 | 18 | 死者がささやく | 海に浮かぶ生手 | 若槻文三 | 仲木繁夫 | 的場徹 | 1月12日 | 21,7% |
19 | 21 | 19 | こうもり男 | こうもり男 | 上原正三 | 安藤達己 | 大木淳 | 1月19日 | 22,4% |
20 | 22 | 20 | 殺人回路 | ダイアナ | 市川森一、福田純 | 福田純 | 佐川和夫 | 2月2日 | 22,8% |
21 | 23 | 22 | 美女と花粉 | アルコールと反応する熱帯植物の花粉 | 石堂淑朗 | 長野卓 | 的場徹 | 2月9日 | 23,8% |
22 | 24 | 21 | 果てしなき暴走 | 精神を狂わすガス | 市川森一 | 鈴木俊継 | 佐川和夫 | 2月9日 | 22,3% |
23 | 16 | 24 | 呪いの壺 | リュート線 | 石堂淑朗 | 実相寺昭雄 | 大木淳 | 2月16日 | 22,1% |
24 | 25 | 23 | 狂鬼人間 | 脳波変調機 | 山浦弘靖 | 満田かずほ | 的場徹 | 2月23日 | 24,7% |
25 | 17 | 25 | 京都買います | カドニウム光線発振器 | 佐々木守 | 実相寺昭雄 | 大木淳 | 3月2日 | 16,2% |
26 | 26 | 26 | ゆきおんな | 雪女 | 藤川桂介 | 飯島敏宏 | 佐川和夫 | 3月9日 | 25,1% |
※第24話は現在欠番。詳しくは該当項目を参照。
「人喰い峨」バージョン違いについて
「人喰い蛾」は当初第1話として制作されたが、初号試写の際に特撮シーンのリテイクが掛かったため完成が遅れ、第2話として放送されることになった。
橋本洋二は「人間が蛾に溶かされるシーンの特撮が控えめで、テーマである『怪奇』を描き切れていなかった」と自らリテイクを決定したと語っている。試写終了後に円谷英二がリテイクの内容を指示したとの証言もある。
未放映バージョンは本編の一部シーンやBGMが異なるほか、エンディング映像も全く異なっている。また、1968年当時の出版物等でSRIの装備メカとして紹介されながら放映版では一度も使用されなかった「ケミカルメース」が、このフィルムで唯一登場する。
1988年に読売テレビで放送された特番『なんたってウルトラマン』内で円谷作品の歴代主題歌映像が流された際に偶然本作品のエンディング映像が使用され、未放映バージョンの存在が公に知られることとなった。
スタッフ
監修:円谷英二
プロデューサー:森田康司、野口光一、淡豊昭、熊谷健(円谷プロ)、橋本洋二(TBS)
音楽監督:山本直純
音楽:玉木宏樹
脚本:上原正三、金城哲夫、佐々木守、若槻文三、市川森一、福田純、高橋辰雄、藤川桂介、田辺虎男、石堂淑朗、山浦弘靖
監督:飯島敏宏、円谷一、実相寺昭雄、鈴木俊継、小林恒夫、安藤達己、長野卓、仲木繁夫、福田純、満田かずほ
特殊技術:的場徹、大木淳、高野宏一、佐川和夫
撮影:稲垣涌三、福沢康道、鈴木清、森喜弘、中町武
美術:岩崎致躬、池谷仙克、深田達郎、倉橋利韶
照明:小林哲也、羽田昭三、小林和夫、染川広義
操演:平鍋功、中島徹郎、塚本貞重
助監督:山本正孝、難波誠一、石井竹彦、安藤達己、高橋五郎、岡村精、東条昭平、志村広
光学撮影:中野稔
記録:新沼久渉子、浦島邦江、林保代、川島康子、植村よし子
編集:柳川義博、小倉昭夫
制作主任:秋丸学、斉藤記一郎、高山篤、小島清文
効果:西本定正、知久長五郎、酒井宏、泉典彦、福島グループ、泉典彦
録音:松本好正、セントラル録音、番町スタジオ、二見貞行
現像:東京現像所
制作協力:京都映画(23話、25話のみ)
撮影助手:河原崎隆夫(23話、25話のみ)
特殊機材:久世春晴三郎(23話、25話のみ)
整音:セントラル録音(23話、25話のみ)
制作:円谷プロダクション、TBS
撮影協力
別府白雪山荘(6話)
全日空(6話、8話)
阿蘇白雪山荘(8話)
長野 八ヶ岳高原ヒュッテ(14話)
下電ホテル(17話)
下電バス(17話)
下電観光船(17話)
熱川ハイツ(18話)
那須ロイヤルセンター(26話)
那須ロイヤルホテル(26話)
未制作エピソード
「細い手」脚本:砂田量爾
「その受話器を外すな」脚本:浅間紅児
「死神と話した男たち」脚本:佐々木守
「フランケン1968」脚本:金城哲夫
「海王奇談」脚本:金城哲夫
「恐怖のチャンネルNO.5」脚本:福田純
「半魚人」脚本:市川森一
「平城京のミイラ」脚本:石堂淑朗
「誘拐魔」脚本:高橋辰雄
「伝説の海」脚本:須川栄三
「死を配達する男X」脚本:若槻文三
余談
本作に登場する科学捜査研究所だが、後に同名の組織が警察内部に本当に作られてしまったため、リメイク版では「特殊科学捜査研究所」となっている。
関連イラスト
関連項目
ULTRAMAN(漫画):牧史郎が登場。
踊れ!アミーゴ!:『クレヨンしんちゃん』の劇場版第14作。本作のオマージュと思しき描写がある。