『マイティジャック』とは
近代科学の粋をこらして建造された万能戦艦・マイティ号に乗り込んで
科学時代の悪・Qから現代社会を防衛する
11人の勇者たちの物語である
(『マイティジャック』OPナレーションより)
概要
ウルトラシリーズや快獣ブースカで成功をおさめた円谷特技プロダクション(当時)が和製サンダーバードを目指して制作した、1話1時間枠のSF特撮ドラマ番組。
最新科学を駆使して世界各国で暗躍する悪の組織『Q』に対抗するため組織された民間の機密組織『マイティジャック』と彼等の乗りこむ万能戦艦『マイティ号』の活躍を、人間達によるスパイ・アクションと特撮を駆使したメカニック・アクションで描く。
なお、マイティジャックと言った場合
- 番組名の『マイティジャック』
- 組織としての『マイティジャック』
- そして主役メカの『マイティ号』をそれぞれ示す場合がある。
この作品が成田亨の円谷プロ在籍時に参加した最後の作品である。
企画
TBSでウルトラシリーズが成功していた1967年、円谷英二の次男・円谷皐が在籍していたフジテレビから、土曜の夜8時・放送枠は1時間・製作費は1話辺り1000万円という破格の条件で企画が持ち掛けられた。
この好機を金城哲夫らスタッフは「オヤジ(円谷英二)が乗った企画で」と志した。当時日本ではイギリスで制作された特撮人形劇『サンダーバード』が大ヒットしており、円谷自身も以前に『海底軍艦』(63年・東宝)や、諸般の事情で企画段階でお蔵入りとなった『空飛ぶ戦艦』(66年・東宝)で万能戦艦の活躍を描こうとしていた経緯で、万能戦艦マイティ号を主役とする企画が纏められ、11月中旬には局に企画書が提出された。
主人公チームは当時の反戦的な潮流を反映し、公的機関ではなく、有志市民によるものとされ、単純な戦闘の物語ではなく「防衛、建設、救助」のためのチームとされ、敵対組織は、謎の組織として設定され、ナチス残党か狂気の天才科学者の産物か、はたまた宇宙人かと疑われるという設定がなされた。
円谷プロ初の大人向け番組という事で、脚本家も大人ドラマ枠に相応しい陣容が整えられ、キャストも二谷英明、久保菜緒子と日活アクションドラマで人気の大物俳優達が揃えられた。音楽面ではフジの皐つながりで冨田勲を起用し、重厚感溢れる堂々としたBGMが用意された。
また英二は本作に対し並々ならぬ熱意を傾けており、この番組の為に当時軍事用(工業用とも云われる)として用いられていた超高速度撮影用カメラ・モニター600を導入。ドックへの注水やMJ号が海上に飛び立つシーンなどの映像でその効果は発揮されている。
波乱万丈の船出
制作に十分な準備期間を用意する為、金城は68年秋からの放送開始を求めたが、局側の「68年春の大型番組としてスタートする」との方針に押しやられ、脚本の調整が不十分なまま、製作がスタートした。(なお、この局では、後年でも企画決定から放送までの猶予期間が短い事は割とあった)
だが、その道のりは険しかった。
まず特撮面では、準備に時間が掛かる「水の特撮」をメインに据えていた事もありそのスケジュールは逼迫、急遽、応援として当初本作への参加予定の無かった有川貞昌が参加する事になった。また、一部の回ではスケジュールの遅れを取り戻す為に脚本の大幅な改稿(手間の掛かる特撮パート描写の簡略・省略化等)が行われた。
主演の当八郎役の二谷英明氏は特撮番組のイメージが付く事を嫌い(当時、特撮番組は業界内ではジャリ番と呼ばれていた)、成田亨氏がデザインしたMJ戦闘服とヘルメットに対してはブレザー姿でのシーンを増やして欲しいと要求、回によっては飛行メカ搭乗シーンでもノーヘルのままである等といった制作面での不協和が画面上でも表面化していき、メイン監督も、野長瀬三摩地から急遽、小林恒夫に交代。製作第1話(放送9話)は小林が大部分を撮り直す形となった。
国際救助隊「サンダーバード」の影響を強く受けながら、模倣に終わらせず、それを超えるべく掲げられた「防衛・建設・救助」というコンセプトも、「建設・救助」を描くまでに路線変更を迫られ、敵「Q」の設定も掘り下げられる事無く、高い意気込みに見合うとは言い難い結果となった。
こうして68年4月6日、局の予定通りに放送開始した『マイティジャック』だが、初回の視聴率は11,4%と大苦戦。その後も低空飛行が続き、5月中旬には局サイドから、1クール=13話で打ち切られる事が制作サイドに通告された。
しかし、当初は2クール=26話の契約であり、既にセット等に26回分の予算を投入して制作していた事から、そのまま終了すると円谷プロに損害が発生する事に局側が配慮、最終回放送翌週より『戦え!マイティジャック』として放送枠を移動して仕切り直す事にになった。
マイティジャック(MJ)
- 矢吹郷之助 ヤブキ・ゴウノスケ(柳永二郎)
矢吹コンツェルン総帥にして、マイティジャック(MJ)の創設者。68歳。
MJメンバー
11人のメンバーは、揃う事は稀。
- 当 八郎 アタリ・ハチロウ (二谷英明)
年齢38歳。MJ隊長。世界的な地図の権威でアマチュア登山家。表の顔は銀座の地図店兼喫茶店「GELILEO(ガリレー)」(資料によってはガリレイとも)のマスター。その正体は矢吹コンツェルンの諜報員にして、リーダーに相応しい優しさと時に非情な判断を下す厳しさを併せ持った人物で、作戦立案を担当。
- 天田一平 アマダ・イッペイ (南廣)
年齢32歳。Ml副長。気象学の権威で、表の顔はプロゴルファー。彼もまた諜報員としての顔を持つ。隊長と同等の指揮権を有しており、有事の際には八郎に変わって隊の指揮を取る。
戦え!では隊長として登場している。アップル傘下になったためか、好物はリンゴという設定。
- 桂 めぐみ カツラ・メグミ (久保菜穂子)
年齢28歳。諜報員兼連絡院で、矢吹コンツェルン総帥の秘書を務める。表の顔は銀座にあるクラブ「J」のママ。
- 英 健 ハナブサ・タケシ (春日章良)
年齢40歳。世界的な外科医でメンバーからは「ドクター」や「先生」と呼ばれる。専門は心臓外科で、表の顔は三等貨物船の船医。理知的な発言が目立つチームの頭脳の一人で、天田や八郎が不在の際には指揮を取る。
- 村上 譲 ムラカミ・ユズル (天本英世)
年齢60歳。隊の最年長メンバーの科学者で、表の顔は花火屋の主人。化学の権威で、火薬・爆薬の専門家。メンバーからは「博士」と呼ばれる。
- 源田 明 ゲンダ・アキラ (二瓶正也)
年齢26歳。隊の優秀なパイロットで、表の顔はスカイダイバーのインストラクターやフリーのテストパイロット。正義感と責任感が強く、血気盛んな性格でチームを引っ張るが、敵の挑発に乗りやすく、融通の利かない所があるのが玉に瑕。メンバーからは「ゲン」と呼ばれる。
戦え!では副長として登場し、機械工学の専門家という設定になっている。
- 一条マリ イチジョウ・マリ (池田和歌子)
年齢21歳。語学の天才で26ヶ国語をマスターしている。表の顔はガリレーの助手。勝気で座学だけでなく運動神経も高い文武両道の人。メンバーからは「マリちゃん」と呼ばれる。
- 寺川進 テラカワ・ススム (井上紀明)
年齢26歳。隊ではパイロットとコンピューターを担当。表の顔は大学院の研究助手(専攻は電気工学)。クールな頭脳派で、真面目な性格。
玉木英雄 タマキ・ヒデオ (田中淑隆)
年齢19歳。隊の最年少メンバーで、アマチュア無線を活用して、情報を収集する事に優れる通信士。
表の顔はハム通信マニアの大学生であり、「早耳の玉」の通り名の通り情報通。惜しくも11話で戦死してしまう。
- 服部六助 ハットリ・ロクスケ (福岡正剛)
年齢29歳。機関員兼動力担当する。表の顔は自動車修理工場の整備工で、その腕はメンバーから信頼される程、確かである。富井とは名コンビで、メンバーからは「ロクさん」と呼ばれる。
- 富井満 トミイ・ミツル (大屋満)
年齢35歳。動力担当。表向きの顔は花屋(フラワーショップ・トミー)の店主で、メンバーからは「トミー」と呼ばれる。服部とは非常に仲が良かったものの、11話で戦死。
- 弓田エマ ユミダ・エマ (真理アンヌ)
11話より登場。潜入捜査を得意とする諜報部員で、インド舞踊を得意としている。
- 川上登 カワカミ・ノボル (睦五郎)
弓田とじく11話より登場。主に地上での任務が多いが、航空戦の腕も確かな人物。
万能戦艦マイティ号(MJ号)
飛行および潜水可能な巨大戦艦であり、MJの移動要塞。建造費は681億円(当時)。
全長: | 235m | 全高: | 40m | 重量: | 2万8,000t |
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武装としてコバルト砲、レーザー、各種ミサイル、爆雷および対地攻撃用の爆弾を装備する。
デザインは「空飛ぶ戦艦」NG稿と、東映「海底大戦争」のマンモス原潜の艦首部分を融合させたもの。
MJ号の艦載機
MJ号には様々な種類の艦載機が搭載されているが、その大半は平常時には分解された状態で積まれており、必要に応じて艦内の工場で組み立てられた後、発進する。
艦載機及び敵メカニックのネーミングは、オックスベリー騒動で東宝から派遣された才人
赤井鬼介こと宮崎正信による。
- ピブリダー《PEABRIDER》
全長: | 7.8m | 全幅: | 6,2m | 最高速度: | マッハ4 | 乗員: | 1名 |
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細みのフォルムが特徴的な単座式小型戦闘機で、スピード戦に優れる。
ロケット弾が主な武装ではあるが、翼に回転鋸が仕込まれている。
名前の由来は「Peacock BRIDE」(ピーコック・ブライド 訳:クジャクの花嫁)。
その由来からも窺える通り、当初は女性隊員専用機という設定だった。
- エキゾスカウト《EXOSCOUT》
全長: | 14,6m | 全幅: | 6m/全高: | 3,5m | 最高速度 | マッハ3,3(空中)/50kn | 乗員: | 2名 |
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偵察用カメラと照明装置を装備している水陸両用の特別偵察機。
投下式の爆弾で戦闘に参加することもある。
名前の由来は、「Scout Plain」(スカウト・プレーン 訳:偵察機)に、外を意味する接続詞「EXO」を組み合わせたもので、また「Exocoetus」(エクソーコエトゥス、トビウオの学名。)に似た語感になるように意識されてネーミングされた。ちなみにこの機体のモチーフはトビウオである。
- ハイドロジェットV《HYDROJET-V》
全長: | 12m | 最高速度: | 35kn | 乗員: | 2名 |
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2人乗りの高性能潜航艇。機体前部に敵基地に吸着するための強力磁力吸盤を備えている。
名前の由来は不明だが、おそらく船舶の推進方法の1つ「ウォータージェット推進」(別名:ハイドロジェット推進)からであろう。
- バギー《BAGGY》
全長 | 6m | 翼長: | 半径 | 7m | 全高: | 8m | 最高速度 | 250km/h | 乗員 | 1名 |
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無人操縦装置が搭載されている2人乗りの小型ヘリコプター。
主に偵察や潜入に使用される。
名前は英語で鞄を意味する「BAG」から、鞄の様に取り回しの良いコンパクトな機体である事が由来する。
- コンクルーダー《COMCRUDER》
全長: | 19,8m | 全幅: | 14m | 全高: | 3m | 最高速度 | マッハ4,8(空中)/55kn(水中) | 乗員 | 2名 |
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スチールブルーのカラーリングが特徴的な水空両用の多目的戦闘爆撃機。
航空戦力の中では最強クラスで、2門のバルカン砲とミサイルが武器。
ガンクルセイダーの元ネタ。
- バンカーH《BANKER-H》
全長: | 18,2m(胴体長) | 最高速度: | 480km/h | 乗員: | 4名 |
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新型高性能ジェットヘリ。キャッチャーネット弾やレーザー砲を搭載。
何故か『戦え!』では機体色が変更されている。
名前の由来は「カバン」を逆さ読みしたもの。
- シプリー《SHEPLY》
全長:6m | 最高速度 | 55kn | 乗員 | 2名 |
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主に海上任務で運用されるモーターボートで、戦闘の際には機関砲で応戦する。
謀略組織「Q」
銀地に黒いストライプがマークされる、異形なメカニック。
しかし成田亨のデザインセンスのせいか、番組の主役を張れそうなカッコよさを誇る。
成田亨降板後の深田達郎、井口昭彦によるデザインも格好いいからさらに困る。
各話リスト
放映No. | 制作No. | サブタイトル | 登場メカ | 脚本 | 監督 | 特殊技術 | 放映日 |
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1 | 5 | パリに消えた男 | 大型ヘリジェット、スワロー | 関沢新一 | 満田かずほ | 大木淳 | 1968年4月6日 |
2 | 2 | K52を奪回せよ | リトルQ、ベース・サブ | 有高扶桑 | 野長瀬三摩地 | 大木淳 | 4月13日 |
3 | 3 | 燃えるバラ | レイブン、フラタイング・スカイラル | 若槻文三 | 野長瀬三摩地 | 大木淳 | 4月20日 |
4 | 7 | 祖国よ永遠なれ!! | 核弾頭ミサイル | 若槻文三 | 柳瀬観 | 佐川和夫 | 4月27日 |
5 | 9 | メスと口紅 | スティブラー | 池田一朗 | 小林恒夫 | 佐川和夫 | 5月4日 |
6 | 6 | 熱い氷 | サブ・ボータムス、シャークス | 柴栄三郎 | 柳瀬観 | 大木淳 | 5月11日 |
7 | 4 | 月を見るな! | スカイシップ | 山田正弘 | 野長瀬三摩地 | 佐川和夫 | 5月18日 |
8 | 8 | 戦慄のオーロラ | ミスティ、サブ・ボータムス | 小滝光郎 | 小林恒夫 | 大木淳 | 5月25日 |
9 | 1 | 地獄への案内者(ガイド) | ホエール | 若槻文三 | 野長瀬三摩地、小林恒夫 | 大木淳 | 6月1日 |
10 | 10 | 爆破指令 | ジャンボー、ブラックアロー | 金城哲夫 | 満田かずほ | 佐川和夫 | 6月8日 |
11 | 11 | 燃える黄金 | クラッチャー、キャリー・サブ | 藤直弘 | 堀内真直 | 有川貞昌 | 6月15日 |
12 | 12 | 大都会の恐怖 | グラッドストン | 山浦弘靖、佐々木忍 | 小林恒夫 | 佐川和夫 | 6月22日 |
13 | 13 | 怪飛行船作戦 | スカイマンモス | 田辺虎男、横山保郎 | 小林恒夫 | 大木淳 | 6月29日 |
その後の展開と再評価
1971年にTBSで、1話を前後編に分割して30分枠で放送された。
これは、当時TBSとの放映権が切れてなかった『ウルトラマン』をフジテレビ系で放送するにあたり、「交換条件」としてTBSに提供したものである。
やがて70年代も後半に入り、特撮作品への再評価が興ると、本作も幻の作品として注目される様になる。
キングレコードによる主題歌・BGM・ドラマ抜粋のBGM・LPレコードの発売を機に、月刊OUT別冊ランデヴーで中島紳介の評論で、直接視聴できない特撮マニアに紹介された。尤もその論評はかなり辛口であるが
80年代にはバンダイ・エモーションレーベルからビデオソフト化され、しかもジャケットは本作のメインデザインを担当していた成田亨による新規書き起こしという豪華なものであった。
2000年代にアニメリメイクの企画があったものの円谷プロ内のアニメ部門が解散したため実現しなかった。
シビアな評価を受けている本作であるが、度々本作初出のネタが登場する事も少なくはない。
- マイティジャックのマークをそのまま円谷プロのマークとして採用。
- レッドマンでザウルスが登場
- 「THEウルトラ伝説」では度々取り上げられ、「不滅!ヒーローミュージック・コレクション」ではタイトルアバンにテーマ曲を使用、更に巨大ヒーロー怪獣の主題歌がPUされる中、防衛チーム中心の作品で唯一主題歌が流される。
- ウルトラPではパッキーとモノロン星人(の名前を被ったゴース星人)が登場
- ウルトラマンメビウスに登場するガンクルセイダーはコンクルーダーのプロップの改修機。
- ベリアル銀河帝国てはレジスタンスを率いる旗艦としてマイティ号をリメイクしたマイティスターが登場。
と公式からも愛着を持たれている様子。どこかウルトラマンネクサスに通じる優遇っぷりである。
関連項目
ダズル迷彩…Qのストライプ柄に似た、現実の艦船塗装。