来歴
少年期から軍艦等メカニック画に長けた才能を周囲から評価されていた。
美術家を志向する傍らに東宝から「ゴジラ」のミニチュア造形にスカウトされた。
その縁で東映が子供向け特撮映画を製作するためニュー東映を創立する際に特撮美術に招かれ「越後つついし親不知」「第三次世界大戦 四十一時間の恐怖」「宇宙快速船」で強遠近法を使ったミニチュアで迫力を譲出し、特撮に理解が無かった東映経営陣に特撮の実力を訴えた。
円谷特技プロダクションの創立後、「ウルトラQ」の途中から参加する様に要請を受けた。その縁から『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』およびそれに登場した怪獣(『セブン』は第30話まで担当)、マイティジャックの主要メカニックや小道具等のデザインを担当した。しかし、ウルトラセブン/マイティジャック制作中に無茶苦茶な注文をしてくる製作陣とそれまでに幾度かあったいざこざが原因となり円谷プロを途中退社し、その後は個展の開催や美術監督の仕事を手がける。
無茶苦茶な注文とは具体的に何を指すかは不明。成田本人の著書では「本来の創作活動に戻りたい」と記述されている。反面、円谷プロ側からは「成田デザインは撮影するアングルが固定され自由が利かない」と言われ、子供に大人気のウルトラホーク1号も撮影現場ではブリキ板扱いされていた。これは成田亨本人の「デザインは完成画面を意識して行う」という志向を逆説的に証明している。
代表作はウルトラマン、ウルトラセブン、ケムール人、 カネゴン、ガラモン、レッドキング、エレキング等多岐にわたり、未だに語り継がれるウルトラシリーズの個性的な怪獣の多くは彼のデザインによるところが大きい。
デザイン思想
成田亨のデザインは”シンプル”である所に最大の特徴がある。
「新しいデザインは必ず単純な形をしている。人間は考えることができなくなると、ものを複雑にして堕落してゆく」と成田氏は語った。余分なものを徹底的にそぎ落としたウルトラマンのデザインはそれを地で行くものであった。なお、唯一カラータイマーだけは製作サイドの都合で製作段階の途中から着けられた為、本人は晩年までそれを悔やんでいた。また、"ウルトラマンの瞳"とも渾名される視界確保用の覗き穴も、成田にとっては不本意なものであり、試写の際に彼がドリルでマスクに穴を開けている様子を見ていたスーツアクターの古谷敏氏は「怒りとも悲しみとも取れる表情をしていた」と語っている。
次回作のセブンではそれを防止する為に額にランプを付けたと言う話が残っている。
また、著作 『特撮と怪獣 わが造形美術』においてゴジラを始めとする怪獣などのデザインについても持論を述べており、
「キングコングはゴリラが巨大化しただけである」や「ゴジラはただの恐竜」や「モスラは蛾である」といった評価を下している。
また、「ウェルズの火星人やエド・カーティアの宇宙人のイラストは発想の豊かさには驚くが、気味が悪いだけで、第一、特撮的ではない」
「抽象的形態と言っても、完全に抽象化してしまうと大衆から離遊してしまう。かつての岡本太郎さんの宇宙人(年代から考えてパイラ人と思われる)のデザインがそうであった」
特撮ヒーロー作品としてはライバルと言ってもいい仮面ライダーの怪人については、
「初めの頃の怪人もそれなりにいいなあと思いました。(中略)でも、僕にはああいう怪人はとても嫌だった。ああいうものは作りたくはないけれど、あれはあれなりにいいなと思いました」と評した。
また、彼は怪獣をデザインする際に
①怪獣は妖怪ではない。手足や首が増えたような妖怪的な怪獣は作らない。
②動物をそのまま大きくしただけの怪獣は作らない。
③身体が破壊されたような気味の悪い怪獣は作らない。
という三原則を自らに課し、その上で怪獣をカオス(混沌)の象徴であるとしてあらゆる生物や無生物からヒントを得ながらも意外性を求め、自由な変形や組み合わせにより独創的な形の創造を目指した。
これらの「組み合わせ」によって独自のデザインを構築する手法は、シュールレアリスムという美術的用法に起因している(尚、怪獣を造形した高山良策氏は元々画家であり、彼もまた成田と同じくシュルレアリストだった)。
また、宇宙人のデザインに際しても、「地球人にとっては悪でも、彼の星では勇者であり正義なのだから、『不思議な格好よさ』がなければいけない」というモットーを持っていた。
なお③に関する逸話としてスペル星人の話があり、とある本の巻末コメントにて「真っ白い服にケロイドをつけてくれないかというのが、演出の実相寺昭雄氏からの注文でした。これは、ウルトラ怪獣に対する私の姿勢に反するのでやりたくありませんでした。私はろくにデザインも描かず、高山良策さんに白いシャツとズボン、それにマスクを作ってください。できたら、適当にケロイドをつけてくれと実相寺氏の注文通りに依頼したら、高山さんが『そんなものでいいんですか?』と呆れて言ったのを憶えています」と語っている。
特撮への貢献
円谷プロを去った後も、日活「戦争と人間・第三部」での盧溝橋攻防のミニチュア、東映「新幹線大爆破」「麻雀放浪記」、JPM「樺太1945氷雪の門」、松竹「この子を残して」で、独自のミニチュア設計で低予算ながら効果的な特撮美術を提供している。
特撮ヒーロー作品では「突撃!ヒューマン!!」「円盤戦争バンキッド」で独創的なデザインを残した。
美学
ナリタ・モンストロ・ヒストリカ
朝日ソノラマ版『宇宙船』vol.22(1985年2月号)~vol.27(1985年12月号)にかけて、連載された、イラストエッセイ。全六回。
直訳すると「怪獣の歴史」と言える。連載されていた時期が1984年版『ゴジラ』公開直後である事から、第1回の序文及び内容的に見て、『ゴジラ』のみならず日本の怪獣映画全体に対する成田氏なりの批評を描いた作品である。
- 第一回(vol.22 1985年2月号)、メソポタミア・エジプトの怪獣
- 1頁目、「怪獣が怪獣として姿を確実に現したのは、人間が文化らしいものを創り始めた時と同じ」と書かれ、メソポタミア文明のあらましと、人体を超越した神として崇拝した怪獣について言及。イラストではコルサバッド城門に彫られたラマッスが描かれている。
- 2頁目、エジプト文明についての解説と、エジプト文明でファラオの象徴となった、太陽神ホルス、死者崇拝の神アヌビス、女神バステト、ナイルの神クヌムのイラストが描かれる。
- 3頁目、スフィンクスのイラストと共に、メソポタミア文明とエジプト文明の相違点と共通点について解説。王を神格化していたか否かと、霊魂不滅を信じるか不老不死を願うかの違い。そしてどちらの文明も、あらゆる部門の文化が開花しても、理念を言葉に出来なかったが為に、人間と身近な、あるいは恐ろしい動物との同体化表現で強く尊いもの、つまり「神」を象徴した。怪獣は「圧倒的な力への憧れであり、秩序(コスモス)を作る為の典型(キャノン)だった」と結論づけられている。
- 第二回(vol.23 1985年4月号)、ギリシャの怪獣
- 1頁目、「哲学は驚きから生まれる」というプラトンやアリストテレスの言葉の紹介から始まり、ベレロフォンを乗せてキマイラと戦うペガサスが描かれている。ギリシャ人はシュメール人やエジプト人と異なり、「人体が最も美しく崇高」であるとして、ゼウスを筆頭にオリンポスの神々は殆ど人間そのものの姿をしている。その人間と神々との間に行き交う様々な怪獣について言及。
- 2頁目、「最も怪獣らしい怪獣」としてグリフィンが描かれる。他にギリシャの怪獣として、四つのパターンを紹介。コスモス怪獣、カオス怪獣、多頭多尾怪獣、半人半獣。
- 3頁目、ケンタウロスのイラスト。ギリシャ人が神に求めたのは「理想的な人間の体の調和」であったがために、エジプトやメソポタミアと異なり半人半獣は神とはなり得なかったと書かれている。
- 第三回(vol.24 1985年6月号)、ヨーロッパの怪獣
- 1頁目、旧約聖書の「モーゼの十戒」のその2「偶像崇拝の禁止」と、それに伴うコスモス怪獣の絶滅及びカオス怪獣の破壊について言及。イラストは「鏡の国のアリス」のドラゴン、ジャバウォックが描かれている。
- 2頁目、中世カトリック教では竜が悪魔と同一視されていった事について言及。イラストは15世紀ドイツのアルブレヒト・デュラーが作った版画からの模写。八岐大蛇風の多頭竜。
- 3頁目、イラストは同じく15世紀の画家、マーチン・ションガーの「迷える魂たち」の模写。キリスト教信仰とヨーロッパ文化の隆盛とは裏腹に、怪獣デザインは奇形化、複雑化、妖怪化していく事で堕落の一途を辿ったと書かれている。
- 第四回(vol.25 1985年8月号)、インド・イスラムの怪獣
- 1頁目、「西洋思想と東洋思想」の違いについて言及。また、それに伴う怪獣の扱いについての違いにも言及。イラストはヒンドゥー教の最高神の一つヴィシュヌを乗せる金翅鳥ガルーダ。
- 2頁目、象の頭を持つガネーシャのイラストと、象にまつわるインドの民話や英雄叙事詩「ラーマーヤナ」とハヌマーンについて言及。
- 3頁目、象をかっさらう怪鳥シムルグのイラスト。マホメット(ムハンマド)を乗せたと伝えられている怪獣ブラークについて言及(この時点で作者、成田亨は「鳥の羽」ばかり描いている事に食傷気味。神格化された怪獣は、皆、鳥の羽を持っており、いかに人間の願いが「空を飛ぶ」事だったか判ると書いている)。
- 第五回(vol.26 1985年10月号)、中国の怪獣
- 第六回(vol.27 1985年12月号)、日本の怪獣
「ナリタ・モンストロ・ヒストリカ」連載終了後、『モンスター大図鑑』のイラスト制作の為に取り寄せた、海外の資料に記載されていた日本のモンスターの記述のいい加減さに呆れると同時に、当の日本にも「日本のモンスター」に関する資料が無い事に気付き、成田亨は愕然としたという。
これが晩年、鬼、竜、天狗、河童等の「日本のモンスター」をテーマにした作品制作に重点を置き、大江山の酒呑童子、茨木童子、星熊童子のブロンズ像制作に携わるきっかけとなった。
Uージン
1980年代後半に、「STARWARS」以降のハリウッド特撮の席巻に対して、自流の特撮美術での対抗を試みた特厚美術デザイン群を発表した。これは、「特殊美術に予算があれば、表面に凹凸を施した成功なミニチュアを制作し巨大感を演出できる」という、昭和40年代からの主張を20年ぶりに表現したものである。
鎮魂歌
成田氏は著書において、次のような詩を「鎮魂歌」として載せている。以下がその内容。
君を利用し 金儲けをたくらむ地球人の為に
スーツを着たり 和服を着たり 星空に向かってラーメンをかゝげてはいけない
経済と技術に溺れて了った地球人は 叡智と勇気を失って いま もだえ苦しんでいる
しかし 遠からず必ず不変の叡智を取りもどすだろう
君は星空の彼方から見とどけてくれたまえ
永遠の偶像よ
成田はウルトラマンのデザインを「シンプル」であることに拘った。そして同時に、ウルトラマンに「神」とも等しい神秘性を求めていた。
しかし、シリーズが進むにつれて、ウルトラマンのデザインは成田の望むものとは異なる姿へ転換していき、物語のテーマも「ウルトラマンの神格化」を否定する傾向が強くなっていった。
またウルトラマンがTVCMなどに出ることも増えていく中、成田は自分のデザインが変形されていくことに憤り、この詩を「ウルトラマンの墓」というモニュメントに添えた、と言う。
著作
作品集
- 成田亨画集ウルトラ怪獣デザイン編(1983年発刊後長らく絶版だったが2018年に復刻)
- 成田亨画集(2)メカニックデザイン編(〃)
- モンスター大図鑑(ファンタジーのモンスターの解説集でイラストを担当)
- 成田亨作品集(いままで未発表だった画稿多数掲載)
図録
- 成田亨の世界
- 怪獣と美術 成田亨の造形芸術とその後の怪獣美術
著書
- 特撮と怪獣―わが造形美術
- 特撮美術
- 眞実 ある芸術家の希望と絶望(遺稿集)
- 成田亨の特撮美術
- 特撮と怪獣 わが造形美術 増補改訂版(誤表記の修正や、仕事の目録などを追加し2021年に出版)
関連イラスト
関連タグ
ウルトラQ ウルトラマン ウルトラセブン マイティジャック 円谷プロ
シン・ウルトラマン:カラータイマーや覗き穴を無くし、長身かつ着ぐるみでは難しかった細身の成田デザインをCGでほぼ忠実に再現。
ULTRAMAN(映画):ウルトラマン第1話をモチーフとしており、ウルトラマン・ザ・ネクストのデザインにも、カラータイマーのデザインを体に埋め込んで体の模様にし、カラータイマーの点滅も心臓の素早い鼓動を思わせるものにするなど、胸に浮き出たカラータイマー要素を違和感なく消しつつ昇華している。