概略
国内上映のオリジナル全長版の上映時間は152分・海外版は115分・フランス版は100分。
企画を立ち上げたのは、当時の東映社長である岡田茂。当時の東映は『仁義なき戦いシリーズ』、『山口組三代目』などの「実録やくざ路線」が大ヒットを記録しており、更にブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』を鑑賞した岡田社長が「ブルース・リーを真似ろ」と指示して作らせた千葉真一主演の『殺人拳シリーズ』を筆頭とする「カラテ映画」も好調だった。
1974年5月、次の映画の企画を考えていた岡田社長は「アメリカでヒットしているものが、間もなく日本でも受けるようになる。だから常にアメリカの動向を観察していなければならない」という考えを持っていた。当時のアメリカ映画は『タワーリング・インフェルノ』や『サブウェイ・パニック』などのいわゆるパニック映画が大ヒットしており「間もなくこういったパニック映画が日本に輸入されてくるはず。それが『エクソシスト』などの後をうけて大当たりするはずだ」と予想。
ならばと、当時日本にしかなかった高速鉄道である新幹線を題材に「それを乗っ取り・爆発させる」というストーリーは日本でしか出来ず、外国に持っていっても遜色ないものが出来る、と考えたのがそもそもの企画の始まりである。
幸いにも東映には、「鉄道公安官」ものを映画&TV問わず手掛けていたノウハウがあった。そういう点では、適材だった。
実は前例もあり、1964年の開業早々に東宝にて『国際秘密警察 火薬の樽』(坪島孝監督)にて特殊電波の爆破実験として車内に爆弾を持ち込むも未然に阻止された映画が存在している。
興味のある方は、下記の「余談」の作品陣を含め一見をお勧めする。
当初のタイトルは『大捜査網』~『新幹線爆破魔を追え』だったのが、岡田社長の鶴の一声で『新幹線大爆破』になったという。
物語の肝となるのは「新幹線の走行速度が時速80km以下になると爆発する」という状況下で繰り広げられる犯人対国鉄・警察・政府との攻防劇。新幹線に爆弾を仕掛けた犯人、危機の回避、乗客の安全に全力を尽くす国鉄、犯人逮捕に躍起になる警察、パニックを起こす乗客の姿で主に構成されている。
ただのパニック映画ではなく、犯人側の人生背景にも深く切り込んだのが大きな特徴で、経営に失敗した町の零細工場の社長、学生運動くずれ、沖縄から集団就職で東京に来た青年がなぜ犯行に至ったのかが高度経済成長に対する皮肉を込めながら明らかにされていき、犯人側にも観客が感情移入しやすい演出と相まって、「パニック映画の皮を着た反権力の社会派映画」としてただのパニック映画では括られない事が現在の高評価に繋がっている。
混迷期で役者として伸び悩んでいた沖田役の高倉健は、脚本を見て「ギャラには拘らない!!」と出演を快諾。これを機に、高倉は外…フリーランスの世界へ羽ばたいていく。
ただしこれら犯人側の描写は海外版・フランス版では日本人にしか理解できない描写(万歳三唱など)と共にカットされており、犯人グループはただのテロリストとして扱われている。ただしこの犯人側の描写がカットされたことについて佐藤純彌監督は複雑な思いを抱いており、フランス版をテレビ放送で見た友人からの「面白かったよ」という電話に対し、「本当はもっと面白かったんだ」と言い返したという。なお佐藤監督は、青木役の千葉真一を主演にした特撮ヒーロー映画・『宇宙快速船』にチーフ助監督で参加していた。
興行成績
制作費用5億3000万円は当時の東映最大規模で、業界からも注目されていた。
しかし国鉄の看板商品である新幹線のイメージ低下を恐れた国鉄が「タイトルを『新幹線危機一髪』に変えない限りウチは撮影に一切協力しない」と回答。ただし企画主である東映岡田社長は「タイトルは『新幹線大爆破』から変えられない!」と突っぱねた結果、国鉄の撮影協力は得られず隠し撮りとミニチュア撮影で製作された。
※ 東映は1960年に『大いなる旅路』で国鉄盛岡鉄道管理局協力のもと実際に貨物列車を脱線転覆させており、今回も協力を得られるはずだと期待していた。
こうした事情もあって制作スケジュールが逼迫。映画の完成は封切り2日前で試写会を開催する余裕もなく、新聞広告の出稿もタイトルから拒否されたために、公開前の知名度はとても低くなってしまった。
また上映に際しても1本立てではなく当時人気を博していたアイドルグループずうとるびの短編映画『ずうとるび 前進!前進!大前進!!』との2本立て上映となり、第一級サスペンス映画に仕上がりながら、任侠のイメージが色濃く残る東映のイメージもあいまって興行的には成功を収めたとは言えず、企画倒れになった作品の穴埋めとして製作された『トラック野郎 御意見無用』に興行収入で大敗を喫する結果となった。なお『トラック野郎』が大ヒットしたことでその後シリーズ化されたのは言うまでもない。
観客の入りについても都心ではまずまずであったが、当時新幹線のなかった東北・北海道方面はおろか、山陽新幹線開業に湧いていた山陽・九州方面でも客の入りはサッパリであった。
作品に対する評価
日本では今でこそ「長蛇の列で満員御礼」な名画座のリバイバル公開やソフト化等で再評価され「不朽の名作」として語られながらも、後に「丸の内東映の閑散ぶりが懐かしい…」と言われるほど封切興行では観客の入りは悪かったが気にする事はない。
本作の本質を見抜いた人々による作品に対する正当な評価は、映画専門誌であるキネマ旬報の1975年度・ベストテンにおいて評論家選出・第7位&読者選出・第1位と上位Wベストテン入りに加えて読者選出日本映画監督賞・佐藤純彌監督が受賞するなど決して悪いわけではなかった。
※特撮ものやアニメでも上位Wベストテン入りは少ない…。
日本での興行終了後、アメリカのジャーナリストを集めて試写を行ったところ、高い評価を得た。その評判は世界中に知れ渡り「今まで商売したことのない国からも引き合いが来た」という。これを受けて東映国際部はミラノ国際見本市に本作を出品したところ大好評で、英国領香港の日本映画見本市やテヘラン映画祭、ソビエト・タシケントのアジアアフリカラテンアメリカ国際映画祭などに出品。積極的に海外市場への売り込みをかけたところ、1975年からの1年間で抜群の売れ行きを見せた。
フランスではそれまでアートシアター形式の小さな劇場でしか公開されなかった日本映画の前例を打ち破り、8週間のロングランを記録。およそ44万人を動員した。このフランス版は日本でも公開されている。
イギリス・ロンドンでもオリジナル版が公開され、特別賞を受賞している。
主なキャスト
犯人グループ
国鉄・鉄道公安関係者
特別出演
…実は、彼らはメインキャストのほんの一部分に過ぎない。ほとんどグランドホテル級の豪華キャストが多数出演している。それも刑事ドラマ・怪獣映画・特撮ヒーローもののファンが感涙するくらいに…。よく観てみると、意外な役者さんが思わぬ役で出ていたりする。これは、ソフト等でご自身の目で確認してほしい。
撮影にまつわる逸話
黒澤映画級の映画美術
よく映画美術で「最低なのが東映。どんなに金をかけてもテカテカに見える」と言われていたが、この映画美術は黒澤映画級の忠実度だった。
静岡県浜松市にある国鉄浜松工場(現在のJR浜松工場)を訪ねたり、東映で活躍していた関川秀雄監督(前述の『大いなる旅路』の監督である)の兄が新幹線の技術開発に携わっていた事から彼から話を聞いたりして資料を集めていたが、国鉄から「現在、新幹線に爆弾を仕掛けたという電話は週に1本の割合でかかって来て、その度にいたずら電話かも知れないが、必ず最寄の駅に停車させて検査するような状態である。このような映画は、更に類似の犯罪を惹起する恐れがあるから製作を中止されたい」という姿勢を打ち出され、最終的に協力は得られなかった。なので裏ルートからの取材、東映も参入し他社も含めたニュース映画の映像や資料写真を参考にするなどありとあらゆる手を使い、本物そっくりのセットを作りあげたが東映は国鉄から3年間も出入り禁止にされた。
新幹線車内
通常セット組みに使われるベニヤ板を使わず、国鉄に部品を実際に納入していた東芝・日立製作所などから部品を買い集めて製作している。ただしこの時部品を東映に売った各社は国鉄に怒られたらしい。
新幹線
先述の通り、国鉄の協力は得られていないので模型を制作。1両の長さ1m、12両編成で12m。これが24両分製作されたが、この模型の制作費用だけで2000万円かかったという。この模型には動力が仕込まれておらず、撮影所の中庭…オープンセットに線路を作ってそこに微妙な傾斜をつけて走らせた。
この郡司モデルクラフト(旧・郡司製作所)製の新幹線と線路のミニチュアは、のちに『ウルトラマン80』でも使用されており、ひかり109号を爆破するイメージカットも「余談」に示す通り他の特撮ドラマに流用されている。
背景の都市はミニチュアではなく、ビルのモノクロ写真を引き伸ばして着色した物を使用。特撮シーンの撮影には当時最新鋭のシュノーケルカメラを使用。ただし1日あたりのレンタル料が100万円だったという。
シュノーケルカメラを日本で最初に使用したのは本作であるとされており、この時借りたカメラが2年後『スター・ウォーズ』にも使われたとか。
新幹線総合指令所
2002年に行われた佐藤監督のトークショーで「国鉄は外国人に弱い」という鉄道関係者からの証言を得て、外国の日本では全く名の知られていない俳優をドイツの鉄道関係者に仕立て上げ、デザイナーを案内役にして総合指令所の資料写真を得た。
リメイク
2024年2月29日、リメイク版の制作が発表された。
NETFLIXでの配信を予定しており、2006年版『日本沈没』で主演と監督を務めた草彅剛と樋口真嗣が再びタッグを組む。
なお樋口監督はこの映画の大ファンであることで知られており、後述のようにLD版のインナージャケットでは本作について語っている。
余談
- 予告編では千葉真一、志穂美悦子、多岐川裕美の紹介カットは別作品の流用で、本編の役柄とは似ても似つかない衣装を纏っていた。
- 内容が内容だったので当時の鉄道ジャーナル誌が批判…というより劇中の鉄道描写の粗探しをした特集を組んだことがある。
- この映画に登場するひかり109号は当時のAひかりと呼ばれる列車で東京駅を9時48分に発車し、名古屋、京都、新大阪、新神戸、姫路、岡山の順に停車した後、岡山から博多まで各駅に停車していた。現在このダイヤで運行されるひかり号は運転されていない。
- 何故か英国でノベライズされる。日本語訳版もある。
- 2014年に放送された『烈車戦隊トッキュウジャー』で車掌役で出演していた関根勤が青木役の千葉真一のモノマネをするシーンがある。関根は倉持役の宇津井健もリスペクトしていたが、宇津井は「新幹線」を題材にした教養番組にもゲスト出演していた。また東映では、それ以前にも劇場版『ザ・カゲスター』・『大鉄人17』でも映像の流用が行われていた。
- 「車速感知連動起爆装置によって、ある一定速度以下になると爆発する」というシチュエーションは、20年後ヤン・デ・ボン監督、キアヌ・リーブス主演の映画『スピード』で再現された。また様々な亜流も、世界各地・ジャンルを問わず生れ出た。本作を撮った佐藤監督もこの作品の存在は知っており、弁護士に比較視聴させ「裁判は起こせます」と言われた。しかし佐藤監督は「裁判は面倒臭い」と、それ以上の踏み込んだ事をしなかった。佐藤監督も、黙認…というより一応の評価を出したようだ…。
- 本作同様にキネ旬ベストテンでWベストテン入りを果たした2016年に公開された映画『シン・ゴジラ』のクライマックスでは、東京駅に居座るゴジラに向けて爆薬を満載した2編成のN700系新幹線電車を突っ込ませるシーンが有る。庵野秀明監督は、本作の熱烈なファンらしい。
- 1999年に発売された本作のLD版には、庵野秀明監督と樋口真嗣監督が本作を語る対談がインナージャケットに掲載されている。
- 最近ではサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」の一エピソード「マグロ・サンダーボルト」にもこのシチュエーションが見られる(ただこのエピソードの場合、爆発の条件である「一定速度」が一定時間毎に高くなっていき、最終的には例えニンジャであったとしても到達不可能なレベルの速度領域にまで到達してしまう)。
関連(?)作品
動脈列島:同様に国鉄の製作協力を得られず製作中止の危機に陥った映画。東宝製作。
皇帝のいない八月:またしても列車を爆破して国鉄に怒られた上に、国鉄からは「今後一切映画には協力いたしません!」と通達されてしまった。松竹製作。
新幹線大爆破事件:『名探偵コナン』の1エピソード。ちなみに劇場版の「時計じかけの摩天楼」では東都環状線で本作のオマージュを行っている。
レインボーライン大爆破:東映の特撮テレビドラマ『烈車戦隊トッキュウジャー』の第8話。『敵組織が爆弾怪人を使い主人公側の鉄道を爆破する』といった筋書きで、前述のように関根勤が青木運転士のモノマネをするシーンがある。
地獄の電車ごっこ:『爆上戦隊ブンブンジャー』第32話。こちらは敵怪人の能力で新幹線ではなく人質自身が止まったら大爆発の電車ごっこをやらされる。ちなみに前述のトッキュウジャーのコラボエピソードとなっており言うなれば「新幹線大爆破」のオマージュである「トッキュウジャー」をさらにオマージュにした「ブンブンジャー」となっている。