概要
怪獣が大暴れする場面を主な見せ場として扱っている映画のジャンル。
多くの作品では怪獣が作品の看板扱いされ、メインとなる怪獣の名前をタイトルに冠するのが一つの慣例。
誕生当初はストップモーションや着ぐるみなどを用いて怪獣を描いていたためジャンルとしての「特撮もの」の代名詞的存在でもあったが、映像技術が進むにつれフルCGの怪獣も増えている。
怪獣映画というジャンルにおいて怪獣・人間のどこに比重を置くかは作品によって異なる。
基本がファンタジックなディザスターパニックであろうとそれに加えてアクション、ホラー、ミリタリー、ポリティカル、ジュブナイル、コメディ、そして社会的な問題や話題を含めたヒューマンドラマといった怪獣に向き合う人間たちの視点こそ、怪獣映画のもう一つのコンセプトであると言える。
日本の怪獣映画の元祖である第1作『ゴジラ』はその強いメッセージ性もあり、製作から60年以上経った現在でもファンからは非常に高い評価を得ている。怪獣はあくまで舞台設定に過ぎず、物語の主軸はそれに立ち向かう人間たちという逆説的な作品も存在する。
一方で怪獣同士の戦いを見所とした娯楽性重視の作品も存在する。こちらは既出の旧怪獣に新怪獣をぶつけて新しい展開を作ったり、別作品の怪獣同士をクロスオーバーによって戦わせたりする対戦カードが主なコンセプトであり、怪獣ブームの折には当時の子供たちを中心に親しまれた。これらは1962年の『キングコング対ゴジラ』におけるプロレス風の演出から、俗に「怪獣プロレス」と呼ばれることもある。
日本においてこの怪獣映画で培われた技術や概念は後に『ウルトラシリーズ』などのTVの特撮作品にも受け継がれている。
長い歴史を持つ映画のジャンルではあるのだが、世間一般や映像業界では、「子どもが観るもの」「ゲテモノ映画」といった偏見が未だに根強い(もっとも、これは特撮作品全般に言えることである)。アカデミー賞受賞作も『キング・コング』(視覚効果賞・音響編集賞・録音賞)、『ゴジラ-1.0』(視覚効果賞)の2作品のみと非常に少ない。
怪獣映画とモンスター映画の違い
怪獣映画の走りは外国の映画であるが、現在において日本人の考える怪獣の概念と外国人の考える怪獣の概念は異なるとされており、それにより劇中での扱いや顛末に関しての温度差があることが多いと言われている。
象徴的なのが1998年に公開された『GODZILLA』。これは日本の『ゴジラ』(1954年)のハリウッドリメイクという触れ込みで封切られた作品だが、内容がオリジナルから大きく改変されており、日本のみならず海外のゴジラファンからも落胆の声が漏れた――いわく、これは怪獣映画ではなく、モンスターパニック映画であると。
そのような物言いがされるということは、怪獣映画とモンスター映画の間に、あいまいながらもどこかに境界線があると考えられているということである。
怪獣とモンスターの印象的な違いとは、主に以下のことである。
- 怪獣はモンスターに比べて大きい。初代ゴジラの身長が50mであったため、これが一つの基準となっている。なお初代ゴジラが50mの設定になったのは、スタジオの面積の都合による。その巨大な体躯に人間社会が蹂躙される様は怪獣映画の醍醐味のひとつ。
- 怪獣は生物学的には考えられないような超能力(火を吐くなど)を有している。ただ既存の生物を巨大化したようなものではない。
- 個体数は少ない、あるいは滅多に見られない。しかし一体だけで人類の生存を脅かしかねないほどに強大なので、人類はいつもひどい目に遭う。
- 外見はあまりグロテスクではない。この点はウルトラ怪獣のデザインを多く担当した成田亨も常に気をつけていた。そのため人類に危害を加える存在でありながら、ファンに愛される怪獣は多い。
- 怪獣は通常兵器で倒されない。『キングコング』(1933年)のコングは戦闘機によって撃墜され、『原子怪獣現わる』(1953年)のリドサウルスもアイソトープ弾で倒される。これに対して、ゴジラはオキシジェンデストロイヤーがなければ倒せなかった。このことから自衛隊がかませ犬になるのは一種のお約束になっている。
- 総じて、モンスターはクリーチャー、怪獣は神に近い存在である。このことからハリウッド版『GODZILLA』に登場する怪獣はGOD(神)を引いてジラと呼ばれている。
もっとも、これらはゴジラに端を発する怪獣映画、および『ウルトラシリーズ』に代表される怪獣ブームから生まれた印象が積み重なったものであり、例外も数多く存在する。たとえば、『怪獣黙示録』シリーズでは、東宝怪獣が難民の食料として狩猟されていたり、通常火器で対処が可能だったり、負傷した状態では野生動物に捕食される場面もあった。
また一般的な書籍では、これらの印象に当てはまらない『キングコング』が怪獣映画の元祖として挙げられていることが多く、以上の議論は日本の特撮文化に愛着を持つマニア層のこだわりによる主張と言わざるを得ないという指摘もある。
一方で、ウィキペディアにKaijuという項目があるように、少なくとも海外でも怪獣に対する共通認識があり、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008年)や『パシフィック・リム』(2013年)のように往年の怪獣映画にリスペクトを捧げた作品も生まれている。
また、『ウルトラQ』以降の『ウルトラシリーズ』の劇場作品は怪獣映画に入るかは意見が分かれる事が多い。
しかし、テレビシリーズの再編集映画である『長篇怪獣映画ウルトラマン』(1967)は明確に怪獣映画と銘打たれており、広義ではカウントされると思われる。というのも、黎明期のウルトラシリーズは怪獣が主役であったためである。
また、本項では怪獣映画に多大な影響を受けていると思しき作品の一例を(アニメ作品を含めて)挙げており、『劇場版デジモンアドベンチャー』など明確に怪獣映画を意識したと公言されている作品もある。そして、その劇場版デジモンは、同時公開された『ガメラ3』の制作陣から絶賛されていたとされる。
怪獣映画一覧
日本
- ゴジラシリーズ(東宝)
- 地球防衛軍(東宝)
- モスラシリーズ(東宝)
- 空の大怪獣ラドン(東宝)
- 大怪獣バラン(東宝)
- 宇宙大怪獣ドゴラ(東宝)
- フランケンシュタイン対地底怪獣(東宝)
- ゲゾラ・ガニメ・カメーバ決戦!南海の大怪獣(東宝)
- サンダ対ガイラ(東宝)
- ガメラシリーズ(大映→角川映画)
- 宇宙大怪獣ギララ(松竹)
- 長篇怪獣映画ウルトラマン(円谷プロ)
- 怪獣大奮戦ダイゴロウ対ゴリアス(円谷プロ・東宝)
- ウルトラQザ・ムービー星の伝説(松竹・セガ・東北新社・円谷映像)
- 大巨獣ガッパ(日活)
- デスカッパ(日活)
- 八岐大蛇の逆襲(DAICON FILM)
- 地球防衛未亡人(トラヴィス)
- 大怪獣モノ(アーク・フィルムズ)
- ラブ&ピース(アスミック・エース)
- 長髪大怪獣ゲハラ(NHK)
- 深海獣レイゴー
- 深海獣雷牙
- 惑星大怪獣ネガドン
- へんげ
- 怪獣の湯 大怪獣ブゴン
海外
- キングコング(アメリカ合衆国/RKO→パラマウント映画→ユニバーサル・ピクチャーズ→レジェンダリー・ピクチャーズ)
- モンスターバースシリーズ(レジェンダリー・ピクチャーズ):ゴジラとキングコングのシェアワールド企画
- 原子怪獣現わる(アメリカ合衆国/ワーナーブラザーズ)
- 地球へ2千万マイル(アメリカ合衆国/コロムビア)
- 襲う!巨大怪鳥 空の大怪獣Q(アメリカ合衆国)
- 侵略怪獣ザーコー(アメリカ合衆国)
- クローバーフィールド/HAKAISHA(アメリカ合衆国/パラマウント映画)
- パシフィック・リム(アメリカ合衆国/ワーナーブラザーズ)
- ランペイジ巨獣大乱闘(アメリカ合衆国/ワーナーブラザーズ)
- 怪獣ゴルゴ(イギリス)
- 大海獣ビヒモス(イギリス)
- 原始獣レプティリカス 冷凍凶獣の惨殺(デンマーク)
- 巨獣ガジュラ(アメリカ合衆国)
- 尻怪獣アスラ(アメリカ合衆国)
- シンクロナイズドモンスター(カナダ/スペイン)
- グレートウォール(中華人民共和国・アメリカ合衆国/レジェンダリー・ピクチャーズ)
- ガルーダ(タイ王国)
- グエムル-漢江の怪物-(韓国)
- ヤンガリー(旧ヨンガリ)(韓国)
- D-WARS/ディー・ウォーズ(イモギ/ブラキ)(韓国)
- オクジャ/okja(韓国)
- プルガサリ(ガルガメス)(北朝鮮)
参考
- みんな~やってるか!(日本ヘラルド)
- 大怪獣東京に現わる(松竹)
- 大日本人(松竹)
- WXIII 機動警察パトレイバー(松竹)
- The Next Generation -パトレイバー- 大怪獣現わる(松竹)
- クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦(東宝)
- 劇場版デジモンアドベンチャー(東映アニメーション)
- 大怪獣のあとしまつ(松竹/東映)
- ウルトラQ(円谷プロ)
怪獣映画の関連人物
円谷英二 / 本多猪四郎 / 田中友幸 / 伊福部昭 / 実相寺昭雄 / 湯浅憲明 / 中野昭慶 / 川北紘一
樋口真嗣 / 庵野秀明 / 金子修介 / 北村龍平 / 河崎実 / 田口清隆 / 坂本浩一 / 中川和博 / 山崎貴
レイ・ハリーハウゼン / ローランド・エメリッヒ / ピーター・ジャクソン
ギレルモ・デル・トロ / ギャレス・エドワーズ / マイケル・ドハティ
関連タグ
映画 / 邦画 / 洋画 / パニック映画 / SF映画 / ファンタジー映画 / 映画の一覧