この死体、どうする?
誰もが知る"巨大怪獣"の、誰も知らない"死んだ後"の物語
概要
三木聡が監督・脚本を務め、松竹と東映が共同製作した特撮怪獣映画。人類を脅威に陥れた怪獣が突然死を遂げた後の世界で、怪獣の死体の対処法を巡る特撮ブラックコメディ。2022年2月4日に公開された。
暴れ狂う大怪獣に、逃げ惑う人々。突如、ヒーローが現れて世界を救う――。
子供の頃に誰もが憧れた、お決まりの、お約束の展開。しかし、倒された怪獣の死体処理は、果たしてどうなっていたのか?誰が、いつ何時、どんな方法で――。前代未聞の緊急事態を前に立ち上がった、ある男の“極秘ミッション”を巡る空想特撮エンターテイメントが、動き出す。
あらすじ
倒すより ムズくね?
人類の存亡をかけた〈あとしまつ〉が、いま始まるーー
人類を未曽有の恐怖に陥れた大怪獣が、ある日突然、死んだ。
国民は歓喜に沸き、政府は怪獣の死体に「希望」と名付けるなど国全体が安堵に浸る一方で、河川の上に横たわる巨大な死体は腐敗による体温上昇で徐々に膨張が進み、ガス爆発の危機が迫っていることが判明。
「誰があとしまつするの?」
大怪獣の死体が爆発し、漏れ出したガスによって周囲が汚染される事態になれば国民は混乱し、国家崩壊にもつながりかねない。終焉へのカウントダウンは始まった。
しかし、首相や大臣らは「大怪獣の死体処理」という
前代未聞の難問を前に、不毛な議論を重ね右往左往を繰り返すばかり・・・。
「なぜ、私がゴミ処理の責任者に?」
絶望的な時間との闘いの中、国民の運命を懸けて死体処理という極秘ミッションを任されたのは、
数年前に突然姿を消した過去をもつ首相直轄組織・特務隊の隊員である帯刀アラタだった。そして、この死体処理ミッションには環境大臣の秘書官として、アラタの元恋人である雨音ユキノも関わっていた。
果たして、アラタは爆発を阻止し、大怪獣の死体をあとしまつできるのか!?
そして彼に託された本当の〈使命〉とは一体―!?
登場人物・キャスト
主要人物
- 帯刀アラタ(山田涼介)
主人公。特務隊の生え抜きで、「希望」の死体処理の責任者となる。三年前に未知の光に包まれて失踪、その二年後に帰還した。任務の前線に立つ彼を中心としたドラマの裏で、彼の正体と過去を解き明かす物語も進行していく。
その正体は本作最大のネタバレ要素となっている。
- 雨音ユキノ(土屋太鳳)
ヒロイン。環境大臣秘書官。かつてのアラタの恋人で、ともに特務隊に属していたが、アラタが失踪したことでもう一人の同僚であった正彦の妻となっている。旧姓は青島。
- 雨音正彦(濱田岳)
総理秘書官。各方面に情報網を持つ参謀的存在。かつてはアラタ、ユキノとともに特務隊に属していた。ユキノの夫でもあるが、一年前にアラタが帰還してから夫婦仲は冷え込んでいる。
主人公とは過去の同僚かつ妻の元カレと、過去の謎の解明と三角関係の中心として物語を大きく動かす人物。
- 青島涼(オダギリジョー)
通称「ブルース」。数年前まで特務隊に属していた発破のエキスパートで、クセの強い奇人だが天才的な爆薬計算スキルを有する。
ユキノの兄であり、アラタを妹婿として歓迎する気でいたが、三年前に妹を残して失踪したことで怒りを覚えている。
- 西大立目完(西田敏行)
現内閣総理大臣。優柔不断な性格で、事態がゆるくいい感じに解決することを願っている。基本的には決断する側ではなく、現場の二転三転に振り回される担当。
内閣
総理同様、基本的には頼りにならないコメディユニットとして描写されている。
また、名前や衣装などに実在する政治家を与野党問わず多方面に露骨にパロったパンチのきいたキャラも目立つ。
- 杉原公人(六角精児)
官房長官。元号のパロディで「希望」の名を発表した。
- 竹中学(矢紫俊博)
文部科学大臣。困るとトンボの顔になる。
- 連佛紗百合(ふせえり)
環境大臣。女性政治家。ユキノの上司であり、何かと舐められがちな自身の部署への憤りと野心のため積極的に事態に介入しようとする。
- 道尾創(笠兼三)
国土交通大臣。怪獣の死骸処理に関して国土面から被害を少しでも減らせと外野からごねる。
- 甘栗ゆう子(MEGUMI)
厚生労働大臣。
- 五百蔵睦道(岩松了)
国防大臣。特務隊を毛嫌いしている。
何かとたとえ話が好きでよく口をはさむが、基本的にたとえが意味不明な下ネタなので本人以外には理解できていない。
- 中垣内渡(嶋田久作)
外務大臣。諸外国からの怪獣への案件での外圧をそのままに何かと首相その他に苦言を呈する。
- 財前二郎(笹野高史)
財務大臣。怪獣討伐による国防費がまったくの無駄金に終わったことから国防軍を何かと非難している。
特務隊
- 敷島征一郎(眞島秀和)
特務隊隊長。
- 椚山猫(SUMIRE)
特務隊員。凄腕のスナイパー。
国防軍
- 中島隼(田中要次)
国防軍・統合幕僚長。
- 真砂千(菊地凛子)
国防軍・大佐。「希望」の冷凍作戦を決行する。
- 川西紫(有薗芳記)
国防軍隊員。
民間人
- ユキノの母親(銀粉蝶)
故人。アラタを気に入っており、娘との結婚を心待ちにしていたが、アラタが失踪。娘の幸せな結婚を見届けられないまま亡くなり、ブルースの心に影を落とした。
- 食堂のサヨコ(二階堂ふみ)
ブルース行きつけの食堂の従業員。
- 武庫川電気(染谷将太)
「希望」を撮影しようと不法侵入をたくらむ迷惑系YouTuber。結果として自身の身も含めてたいへんなことになってしまう。
- 八見雲登(松重豊)
町工場の社長。普段は焼肉屋の排煙装置などを作っているのだが、とんでもない応用で怪獣死体の爆発阻止のアドバイザーに選ばれる。
設定・用語
かつて人類を未曽有の恐怖に陥れた怪獣。
日本の「隣国」にある大陸棚から出現し、日本に上陸して各地で暴れまわったが、映画冒頭の十日前に突如として光エネルギーに包まれ、利根川で絶命した。
最全長380m、全高155m(※片足あげて倒れた状態)と邦画史上最大級の巨体を誇る。
生前には名前で呼ばれなかったが、死後になり「死体を観光資源にするなら」ということで名前を決めることになる。
名前の由来は人類の生物学史上に残る貴重な環境資源であり今後の「希望」に繋がるという意味が込められている。しかし、当然ながら生前の大惨事を踏まえるといくら死後に付けたとはいえ不謹慎な名前であり、猛反発を受けている。
死体からは猛烈な臭さの腐敗ガスが発生し、死体から北西20km圏内が腐敗臭に覆われたばかりか、次第に腐敗で生じた熱で膨張を続け、ついにはガス爆発の危機にまで及ぶこととなった。
総理大臣直属の特殊機関で、科学と戦闘の精鋭を集めたエキスパート集団。シンボルマークは「十握剣」。
15年前に発生した科学テロ「比丘尼事件」をきっかけに創設され、秘密裏に活動していたが、後に「希望」と名付けられる怪獣討伐の任を受けてその存在が公表された。「希望」の死後はその死体処理を請け負う。
今作の主要人物の多くはここの所属者、またはかつて所属していた者という設定である。
- 国防軍(NIPPON DEFENSE FORCE)
2012年に自衛隊から発展して発足した日本の軍隊。シンボルマークは「剣を咥えた鳩」。
現実の自衛隊とは異なり徴兵制が施行されている他、階級も自衛隊式ではなく「大佐」などの各国軍と同様の呼び方を採用している。
怪獣上陸後は特務隊とともにその対策に当たっていたが、国防大臣の五百蔵が特務隊を毛嫌いしていることから仲は良くない。
「怪獣退治の専門家」を自称するわりに、過去にミサイルの誤射で民家を焼失させた失態を持つ。
現実の自衛隊と同様の装備の他、東西両陣営から輸入したと思しき各種ミサイルに加えて、対怪獣用と見られる巨大航空兵器「弐番艦」を擁している。
- Zビレッジ
「希望」の死体付近に建てられた特務隊の基地。
映画冒頭の10日前に突如として発生し、後に「希望」と呼ばれることになる大怪獣を死に至らしめた謎の光エネルギー。
解決困難な状況を強引に解決に導いたことから、西大立目首相は「デウス・エクス・マキナ」と称している。
スタッフ
監督・脚本 | 三木聡 |
---|---|
製作総指揮 | 木村光仁(東映) / 吉田繁暁(松竹) |
企画・プロデュース | 須藤泰司(東映) / 古久保宏子(松竹) |
プロデューサー | 山尾海彦(東映) / 中居雄太(松竹) |
音楽 | 上野耕路 |
撮影 | 高田陽幸 |
編集 | 富永孝 |
VFXスーパーバイザー | 野口光一 |
特撮監督 | 佛田洋 |
怪獣造形 | 若狭新一 |
制作会社 | 東映東京撮影所 |
製作会社 | 「大怪獣のあとしまつ」製作委員会 |
配給元 | 東映 / 松竹 |
公開 | 2022年2月4日 |
上映時間 | 115分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
プロモーション
東映特撮Youtube Official セレクション配信
「東映特撮Youtube Official」では、映画との連動として怪獣の登場する作品が複数セレクション配信された。
- 『シリーズ怪獣区ギャラス』
- 『恐竜・怪鳥の伝説』
- 『怪竜大決戦』
- 『仮面ライダー響鬼』二十一之巻「引き合う魔物」
- 『仮面ライダー響鬼』二十二之巻「化ける繭」
- 『キャプテンウルトラ』第14話「金属人間メタリノーム」
- 『激走戦隊カーレンジャー』第29話「予期せぬ大怪獣事故」
- 『太陽戦隊サンバルカン』第30話「大暴れ夢の大怪獣」
- 『巨獣特捜ジャスピオン』第1話「巨大怪獣の惑星」
- 『巨獣特捜ジャスピオン』第6話「子供獣と子供たち」
コメント
公開にあたって、日本の特撮関係者を中心に試写を行いコメントを集めた。
こうしたコメント類は宣伝のために賞賛コメントのみを掲載するのが通例であるが、今作に関しては反応に困っているようなコメントや遠回しに酷評しているようなコメントも掲載しており、公開前から賛否両論になることは想定内だったようである。
- 綾辻行人
- 井口昭彦(メカゴジラ、ウルトラの父・ウルトラの母デザイン)
- 伊藤美来
- 尾碕真花(『騎士竜戦隊リュウソウジャー』・アスナ役)
- 尾上克郎
- 京極夏彦
- 京本政樹
- 小林晋一郎(『ゴジラVSビオランテ』・『帰ってきたウルトラマン』第34話原案者)
- 小林靖子
- 坂本浩一
- 佐野史郎
- 柴崎貴行
- 白倉伸一郎
- 鈴村健一
- 関智一
- 髙寺成紀
- 丹羽庭(『トクサツガガガ』作者)
- 塚田英明
- 毒蝮三太夫
- 濱田龍臣
- 潘めぐみ
- 古谷敏
- 三池敏夫
- みうらじゅん
- 宮島咲良
- 武藤将吾
"その後"を描いた映画たち~一変した日常と最前線の苦悩~
パンフレットに寄稿された神武団四郎のコラムでは、今作と同様に「怪獣と遭遇した後の日常の変貌」や「怪獣の対策に追われる人間のドラマ」を扱った作品が紹介されている。
- 『コングの復讐』
- 『パシフィック・リム』
- 『パシフィック・リム:アップライジング』
- 『モンスターズ/地球外生命体』
- 『スパイダーマン:ホームカミング』
- 『怪獣の日』
- 『シン・ゴジラ』
- 『ラブ、デス&ロボット』最終話「おぼれた巨人」
- 『痕の祀り』
- 『怪獣8号』
- 『ウルトラマン』第34話「空の贈り物」
- 『ウルトラマンティガ』第5話「怪獣が出てきた日」
ノベライズ
映画の出来事が雨音ユキノ、帯刀アラタ、雨音正彦の視点で語られており、劇中で説明不足だったくだりのいくつかに説明が加えられている。
公開後
今作の骨子は、非常時において後手に回りがちな日本政府の対応と、それに振り回される現場の人間たちの混乱を、怪獣映画風に置き換えて表現した風刺作品である。
しかしながら今作は公開後にインターネット上で酷評が相次ぎ炎上。怪獣の造形など評価点もあったが、総合的に見てマイナスの方が大きく「おおむね不評」と言わざるを得ない結果となってしまった。
マーケティングの失敗
一番指摘されたのはプロモーションの逆効果である。
先述のキャンペーンに加え、公開前のインタビューでも出演者の土屋が自身の特撮愛を熱く語ったり、オダギリが初主演作である『仮面ライダークウガ』に触れたりと、あまりにも宣伝ターゲットが「特撮ファン」層を狙い撃ちにしており、当然ながら初動で観に行く客層もゴジラやウルトラマンで目の肥えた層が中心となるのは自然な流れであった。
折しも、公開前年となる2021年にはウルトラシリーズが9年連続となる新作の発表、テレビアニメ『ゴジラS.P』『SSSS.DYNAZENON』の放送、ガメラ生誕55周年を祝した「平成ガメラ三部作」の再上映、ハリウッドからは『ゴジラvsコング』が上陸し、さらに今作の三か月後には『シン・ウルトラマン』が公開を控えていた、といった具合に日本の市場で「怪獣もの」が盛り上がりを見せており、あたかもこうした流れに乗るかのようなタイミングで公開された今作にマニアからの熱い視線が注がれてしまうのも無理からぬことであった。
しかし蓋を開ければ、三木聡の持ち味である「脱力系」の会話劇、科学考証よりシュールギャグを優先した超展開が連発し、王道の怪獣映画を期待した観客は面食らうこととなる。
一応、本予告の時点で劇中にコミカルなシーンがあることは明示されていたが、その内訳は「コメディ要素を含む怪獣映画」ではなく、完全に「怪獣映画を下敷きにしたパロディ映画」であり、さらにギャグのセンスも下ネタを含む深夜番組的なノリで、非常に好みが分かれるものであった。
結果として盛大に、初動で観に行く熱心な客層の期待とは全く逆方向のものを見せてしまうこととなり、これらが「特撮映画を小馬鹿にしている」という悪印象とともにネットで拡散される原因となってしまった。
プロデューサーによるインタビュー
こうした反響を受け、3月12日にプロデューサーの須藤泰司と中居雄太によるインタビューが掲載された(外部リンク)。内容を要約すると以下の通りである。
- 今作は「正体を明かせない主人公」と協力者の元恋人、妨害を仕掛けるその夫による三角関係をドラマの主軸にしているが、その部分がうまく伝わらず「期待外れ」が生まれてしまったのではないか。
- 政府を無能として描いているのは政治風刺のための意図的な演出であり、本作の結末は「神風でも吹かなければ、この国の愚かな政府に災害を解決することはできない」という最大の風刺である。
- コメディ映画であることは宣伝で十分伝えたつもりだったが、『シン・ゴジラ』の真面目な後日譚的なものを期待した観客が予想をはるかに超えて多かった。
- ラストは主人公が敗北し、それを元恋人が涙ながらに見送るビターエンド。
しかし、(立場上、自作を貶めるような発言はできないとはいえ)このインタビューにおける「通じておらず驚いた」「若い人に伝わっていない」という表現が、頭に血の上った観客たちには「自分たちの作品のテーマや意図を読み取れない客(特に若者)が悪い」と受け取られてしまい、結果として火に油を注いだだけであった。
特に今作に不評の声を上げていたのは若年層に限らず、むしろ(怪獣映画にこだわりの強い)年配者も含まれていたため、「若い人に伝わっていない」という認識は誤りという他なかった。
公開後の著名人の反応
- 『空想科学読本』の著者・柳田理科雄は本作を取り扱ったことがあり、その際に「この映画に対して違和感を覚えてしまう人が多いのは『誰もが子どもの頃に抱いた疑問』を、『大人の目線』で描いたからかもしれない。」とコメントしている。
- 『邦キチ!映子さん』ではSeason8(第2話)で今作を扱った。特撮部の御影特則が「オレ達が求めている物と…ぜんっぜん違う!!」と激怒するも、後輩の駒木から「一般向けを狙って作られた感じなので、特撮オタクが目くじら立てるのも違う」となだめられ、洋一からも御影が大人げない扱いされるというオチ。
関連動画
関連項目
映画 / 邦画 / 特撮映画 / 怪獣映画 / コメディ映画 / 映画の一覧