概要
1954年に公開された『ゴジラ』の大ヒットを受けて、他にも怪獣を作ろうということで東宝が製作された。
『ゴジラ』の2年後に公開されたが、東宝怪獣映画としては初のカラー映画となっており、以降の東宝特撮は『大怪獣バラン』を除いてカラーで製作されている。
ラドンはゴジラ、そしてこの後誕生したモスラと並んで東宝のスター怪獣として大人気を博し、やがて何度も共演するようになる。
2022年、4Kデジタルリマスター版の製作に際して、三原色分解の保存用モノクロポジフィルムが発見された。
このフィルムが製作された理由の詳細は不明ではあるが、特撮映画でこうした保存用フィルムが作られるのは極めて珍しい事であり、これにより当時の現場で撮影されたものとほぼ同じ極彩色での復元が可能となった。
ちなみに同様に3色分解の保存用ポジフィルムが現存している映画としては、1959年に東宝が製作した『日本誕生』がある。
あらすじ
炭鉱技師の河村繁の勤める九州の炭鉱で、水脈のないはずの位置で謎の出水事故が起こる。
直後、浸水したエリアで飲酒の諍いで不仲同士だった作業員2人が行方不明になり、その片方・由造が遺体で発見された。
周囲では河村の友人で恋人キヨの兄でもある五郎が犯人ではないかと疑われていたが、まるで日本刀で斬られたかのような傷跡には警察も監察医も首をかしげるばかりだった。
さらに五郎を探しに出た同僚の捨やんと仙吉、ふたりの護衛をしていた田代巡査が相次いで惨殺される。
やがて事件の真犯人は山の中で卵の状態で眠っていた古代の大ヤゴのメガヌロンと判明。炭鉱を抜け出してふもとの炭鉱町にまで出現する。
所轄の西村警部が率いる警官隊が出動するも、銃撃をものともせずにメガヌロンは山へと逃げる。警官隊と河村達は自衛隊の協力を受けてこれを追撃。坑道の奥まで追い詰める。そこには五郎の遺体も転がっていた。
機関銃の銃撃と河村が機転を利かせてトロッコを突っ込ませたことで何とか倒すことに成功するが、落盤が発生し河村が巻き込まれてしまう。
その後、巨大な陥没現場から河村は発見されたが、記憶を失っていた。
そしてこの落盤事故を境にメガヌロンは姿を消し、代わりに怪事件が発生する。
九州の上空を超音速で飛行する謎の物体が現れたのだ。
航空自衛隊のF-86が追跡するも、逆に撃墜されるなど、物体の正体の謎は深まるばかり。それどころか物体はフィリッピン、中国、沖縄、東京などでも目撃された。
一方、阿蘇で失踪したアベックの記念写真から巨大な翼のような物体が確認される。
その頃、河村はキヨの飼っていた小鳥の卵を見て自身が恐怖のあまり消していた記憶を取り戻す。
河村はメガヌロンをついばむ孵化したばかりの巨大な鳥の姿を山の中の巨大な洞穴で目撃していたのだ。
その言葉を信じて柏木博士を中心にして阿蘇の山々を調査する一行、その前に現れたのは超音速で飛行しソニックブームを巻き起こす巨大な翼竜だった……。
登場怪獣
ラドン
身長 | 50m |
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翼長 | 120m |
体重 | 1万5千t |
飛行速度 | マッハ1.5 |
炭鉱内部の山の中で卵の状態で眠り続けていたが、核実験の影響で復活する。
超音速で飛行し、その際に発生する凄まじい衝撃波と突風であらゆるものを破壊してしまう。
メガヌロン
体長 | 8m |
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体重 | 1t |
阿蘇の炭鉱に潜む古代に生息していた巨大なヤゴ。
拳銃の銃撃程度ではびくともしない分厚い甲殻で覆われ、体の前部に日本刀並みの切れ味を持つ鋏を備えている。
キャスト
河村繁 | 佐原健二 |
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キヨ | 白川由美 |
西村警部 | 小堀明男 |
柏木久一郎 | 平田昭彦 |
南教授 | 村上冬樹 |
若い女 | 中田康子 |
大崎所長 | 山田巳之助 |
井関記者 | 田島義文 |
お民 | 水の也清美 |
葉山助教授 | 松尾文人 |
捨やん | 如月寛多 |
須田技師長 | 草間璋夫 |
常さん | 河崎堅男 |
水上医師 | 高木清 |
航空自衛隊司令 | 三原秀夫 |
砂川技師 | 今泉廉 |
仙吉 | 中谷一郎 |
若い男 | 大仲清二 |
由造 | 鈴川二郎 |
五郎 | 緒方燐作 |
多平 | 榊田敬二 |
田代巡査 | 熊谷二良 |
パイロット北原 | 岡豊 |
アベックの若い女役の中田康子はワンシーンのみの登場ながらメインキャストと同列のクレジットになっている。これについては当時東宝が中田を売り出そうとしたものではないかといわれている。
エピソード
- 特撮パートの撮影監督だった有川貞昌が福岡天神の辺りでロケハン中に地元のヤーさんに因縁をつけられるが、東宝特撮のスタッフだと解ると「福岡にゴジラが来る」と大喜びし、協力的な態度に変わったという事件があったという。
- クライマックスの撮影中、ラドン操演のワイヤーが切れるというアクシデントが起こったが、そのまま撮影を続行し、結果的に本当にラドンが息絶えたようなカットの撮影に成功した。よくこれについて円谷監督がとっさの判断で撮影を続行したといわれるが間違いで、実際にはワイヤーが切れたのを操演班のアドリブだと勘違いしていたのだという。ラドンが舞い上がった直後に一瞬画面が白く揺らぐのは撮影していた有川貞昌がカメラを止めようとした名残である。
- このクライマックスの撮影では溶岩を溶けた鉄で表現したためスタジオは高温に包まれ、前述のワイヤーが切れるアクシデントの発端になったほか、あまりの熱さにカメラマンが逃げ出してしまいカメラが燃えそうになったこともある。
- 西日本鉄道は劇中で駅や関連商業施設【西鉄街(現在の天神コア付近にあった西日本鉄道が経営した商店街)】を破壊されて激怒した。一方、岩田屋は社のマークがラドンに見えると評判になり、映画への登場もあって客の入りが増加した。
- メガヌロンは後に『ゴジラ×メガギラスG消滅作戦』にリメイクされて登場。同作では羽化後の形態メガニューラ、戦闘形態であるメガギラスが出現し、ゴジラと激闘を繰り広げる。
- 本作以降昭和30年代前半期の東宝特撮映画には実際の陸上自衛隊には配備されていないMGR-1オネストジョンロケットとS-51偵察ヘリコプターが登場する。オネストジョンロケットは当時在日米軍への配備を巡って国内で政治問題になったことにちなんだいわゆる時事ネタである。
- 一方S-51については当時の東宝特殊撮影部部長が趣味で制作した模型を流用したものらしい。
- ラドンのテーマおよびラドンを自衛隊が追撃するシーンで流れていた曲は後に伊福部昭氏の「SF交響ファンタジー」にも収録されている。このうち自衛隊による追撃シーンで流れていた曲は「サンダ対ガイラ」の自衛隊マーチの間奏として用いられている。『ゴジラVSキングギドラ』でもキングギドラ追撃の際に用いられている。この作品に登場したキングギドラの鳴き声はラドンの流用であり、福岡も襲撃している。
- 予告編では『ゴジラ』、『ゴジラの逆襲』の映像も使われ、ゴジラに続く新たな怪獣映画であることを打ち出している。しかしこの冒頭部分の映像は後に東宝の公式においても『ゴジラの逆襲』の予告編として取り上げられてしまっている。
- また本作のメイキング写真として城のミニチュアを製作している写真が残されているが、当時熊本城の天守は再建されておらず、天守の形状から大阪城と推測されている。
原作・小説
- 原案は、秘境もの小説の大家である作家、黒沼健が手がけた。「ゴジラ」「ゴジラの逆襲」の人気から、新たな怪獣映画が企画され、田中友幸氏がプロデューサーを再び担当。その際に「空を飛べる怪獣」を考え付き、探偵作家協会の中で、モンスターものを得意とする黒沼健氏に原作を依頼することとなった。
- 原作を提供した後、雑誌「中学生の友」昭和31年10月号の別冊付録「中学生新書5」として、黒沼健の筆による小説「ラドンの誕生」が掲載された。内容はほぼ映画と同じだが、主人公は柏木久一郎の息子秀夫になっており、ラストシーンも異なっている。
関連項目
鳥を見た:『ウルトラQ』第12話。本作のソニックブームによる福岡天神破壊シーンが流用されている。