概要
韓国が1962年に制作した怪獣映画『ブルサガリ』が存在し、それをモデルにして1985年の作品が制作された。
1985年、当時まだ政治の表舞台に出ていなかった、故・金正日総書記が、すでに拉致されていた韓国人の映画監督の申相玉を監督に据えて日本の『ゴジラシリーズ』のスタッフをわざわざ北朝鮮まで招待して完成させた作品である。
しかし諸事情により(曰く「政治的な理由」)、北朝鮮では結局公開されなかった。
現在では「プルガサリ伝説の大怪獣」というタイトルでDVD化もされているので日本では鑑賞することができる。日本で気軽にみられる数少ない北朝鮮映画である。
内容
役人に搾取された農民たちが反乱を起こし、殺された農民の怨念から生まれた怪獣プルガサリとともに、最後には朝廷を滅ぼしてしまう、というのが大まかなあらすじである。
要するに朝鮮版大魔神なのだが、内容が内容なだけに、現在の北朝鮮では絶対に公開できない作品である。
あらすじ
高麗王朝末期、王朝は戦争とそれに伴う増税を行い、そして発生した飢饉により、民衆は苦しんでいた。あまつさえ王朝は、農民たちの農具をとりあげ、鍛冶屋のタクセに武器を作らせようとしていた。
これに抗議したタクセは捕らえられ獄死する。しかし獄中でタクセは無念の思いを込めながら飯粒を練って、小さな怪獣「プルガサリ」の像を作っていた。
タクセの娘・アミは、父の遺品として針箱にプルガサリをしまっておくが、ある日裁縫中に指先を傷つける。アミの血を受けたプルガサリには命が宿り、針箱内の針を、そして周囲の金属を食べることで成長していく。
アミの恋人・インデは役人に逆らった咎で捕らえられ、処刑されそうになっていた。が、処刑の場に小さな子供程度に成長したプルガサリが現れて、刑吏の刀を食べてインデを救う。
さらにプルガサリは、役所の武器庫に入り込み、保管されていた鉄製の武器を食べ、山に消えた。
インデは民衆の一揆を組織し、山中で討伐軍を迎え撃つ。だが食料を得られず、苦難に陥ってしまった。
だが、そこに更に巨大になったプルガサリが現れ、討伐軍を迎撃。その武器を全て喰らって更に巨大になっていった。
一揆軍は、巨大怪獣と化したプルガサリとともに、都に向かって進撃する。王朝軍はアミを人質に取り、将軍の計略でプルガサリを火攻めにするも、鉄を食べて巨大化したプルガサリには通じなかった。
ならば、その内部に宿ったタクセの魂を封じようと、呪術師による呪術で攻撃される。しかしアミ自身が再び血を注ぐことでプルガサリは復活。
王朝軍は巨大な火砲を持ち出し砲撃するが、それらもプルガサリは跳ね返し、王の住む城を破壊。民衆はここに、王朝を倒すのに成功する。
しかし、戦いが終わった後もプルガサリは鉄を食べ続けていた。
農耕具や生活に必要な銅釜なども食べ尽くすプルガサリを、民衆たちは厄介に感じ始める。
アミは寺にあった鉄の鐘を突き、プルガサリを誘き出すと、自身がその鐘の中へと入り込む。
アミが入った鐘を食べたプルガサリは、断末魔とともにその身体を風化させ、全身を崩壊させていった。
プルガサリとは
(プルガサリの伝承が日本に伝わった物)
プルガサリは朝鮮語で「殺す事が出来ない」と言う意味。漢字では「不可殺」と表記する。
元々は朝鮮の伝承伝説に登場する妖怪の名前で、高麗の末期に出現したらしい。最初は豆粒ほどに小さな生き物であるが、縫い針や鍋、包丁、刀などありとあらゆる鉄製品を貪り喰い、喰った分だけ体が大きくなる。
しかも鉄を常食にしている為か異常に体が堅く、通常の兵器では殺せない。これが名前の由来である。
伝承のプルガサリは様々な姿で語られる(牛と犬のキメラだったり、巨大な芋虫だったり,
熊の胴体、虎の四肢、牛の尾、象の鼻、犀の目、弓のような牙を持っていたり)が、映画でのプルガサリはきちんと怪獣の姿をしている。
水木しげるは芋虫説をとっており、『悪魔くん』では「不吉虫」という名で登場している。(一応牛版の姿もきちんと描かれているのでそこはご安心を。)
杉浦日向子の「百物語」にもこれに関する話がある。
悪夢と邪気を払う聖獣としての側面も持つ。ここら辺は獏と似ているか。(余談だが、獏は一時期パンダと同一視され、そのパンダは中国で長らく鉄を食う幻獣だと思われていた時代があったという。)
中国の五行思想の影響か火に弱い(火剋金)とされる。
尚、「殺す事が出来ない」生物であるヒトデの韓国語名でもあるため、ハングルで検索するとちょっとノイズが多くなる。
本作の劇中におけるプルガサリは、上述の伝承における「牛」モチーフのものを採用。頭部は水牛を思わせる造形で、角もある。
これは、牛=農民の一揆の象徴という意味合いも兼ねている。
デザイン時には、牛モチーフであっても、胴体部が「武将の鎧」のような意匠の没案も存在する。
また、最初の飯粒から作った人形は四足歩行の体型で、アミから血を受けて生まれた直後は通常より小柄だった。
後に直立し、二足歩行形態に。尻尾は無く、着ぐるみは特撮ものにおける怪人のようでもある。
巨大化時のアクターは、ゴジラも演じた薩摩剣八郎氏。この時に北朝鮮に赴いた氏は、後に著作でこの時の体験をつづっている。
政治的背景
この作品が完成した当時はまだソビエト連邦が健在であり、北朝鮮も国民を十分に養っていけるだけの経済力を持っていた。
しかし91年に最大の援助国だったソ連が崩壊し、その後、北朝鮮国内では各地で餓死者を出すといった、著しい経済破綻が起こった(苦難の行軍)。
共産主義の世界観に則ったこの映画の、国民の生活より軍事を優先した「朝廷」と同じようなことをその後の北朝鮮が始めたのはご存知の通り。
さらにこの映画が完成した直後に、本作の監督である申相玉が北朝鮮からアメリカに亡命してしまったというのも、現在の北朝鮮でこの映画の存在自体が完全になかったことにされてしまった大きな理由のひとつである。
そもそも彼は60〜70年代の韓国で活躍した有名な映画監督だったのだが、1978年に香港に滞在していたところ北朝鮮に拉致されてきたという人物である。なお当時の北朝鮮側は「申相玉が自主的に北側に亡命してきた」という大嘘をついていた。
本作の制作終了後ほどなくしてオーストリアのウィーンに行く機会があり、そこでアメリカ大使館に駆け込んで脱北を果たした。(実はそれ以前にも脱出を図ったものの失敗して強制収容所送りにされかけたこともあったという。)その後はアメリカを拠点に生活しつつ、晩年は韓国に戻り生涯を終えた。
ちなみに監督は亡命先で本作をリメイクした『ガルガメス』という映画を撮っている。
完成度
基本的に、単純明快なストーリーであり(上記あらすじを参照)、さらに言えば役者や日本から招かれた特撮スタッフの頑張りもあり、娯楽映画としては十分に楽しめる作品である。
特に特撮に関しては、極めて潤沢な予算が与えられた(招聘された日本人スタッフ曰く、「使いたい放題だった」とのこと)ということもあり、極めて完成度が高い。作中に登場するエキストラも朝鮮人民軍だったりする。
怖い裏話
- 上述のとおり日本から招かれた日本人スタッフだったが、その一人の中野昭慶がホテルの個室で提供された北朝鮮のビールを飲みながら「日本のビールが飲みたい」と独り言を言ったところ、翌日には個室の冷蔵庫にスーパードライが一杯入れられていた。つまり、ホテルの個室には盗聴器が仕掛けられていたことになる。
- 映画撮影当時の北朝鮮は公共交通機関が日本人に対して開かれていなかったが、北朝鮮の現地スタッフが誤って日本人スタッフを地下鉄に乗せてしまった。その翌日から、その現地スタッフは姿を見せなくなった…。
関連動画
関連タグ
ゾイド₋一部のスタッフがCM演出に関与している。
トレマーズ-韓国での題名がこの名。
エメゴジ-日本公開時のポスターはこれを意識している。