概要
江戸時代の奇談集『絵本百物語』に記載される、人形浄瑠璃に用いられる人形が置かれた夜の楽屋で起こるという怪異譚。
人の姿を象っている器物である人形は芝居の世界では魂がこもり、人形遣いの手を離れたように、まるで生きているようにふるまうということが、舞台に携わる者たちにはよく知られている。
夜の楽屋では丑三つ時になると、そのような人形たちによる怪異が起きるといわれており、ある晩には高師直と塩冶判官の人形が『仮名手本忠臣蔵』の筋そのままに一晩中争っていたという。
なお人形師・土斎は「捨てねども 家こそでくの坊主なれ 鬼も仏も手づくねにして(意訳:家から捨てられたでくの坊の坊主の俺でも、鬼や仏だって手で作れるんだよ)」という和歌を詠んでいる。