干将・莫耶とは、古代中国の説話に語られる剣である。
概要
古くは『呉越春秋』に語られる、雌雄一対の双剣。
雄剣を「干将」、雌剣を「莫耶」(もしく「莫邪」)と呼ぶ。
その名は刀工である干将とその妻・莫耶に由来し、干将には亀裂紋様・莫耶には水波紋様がその刀身に浮かんでいるとされる。
逸話
その完成までの工程を逸話として残している。
ただ、後世に移るにつれて改変や脚色が多くなっており、最終的には干将・莫耶夫妻の息子の復讐譚としての比重が大きくなっている。
「呉越春秋」版
ある日呉王闔閭(ごおう・こうりょ)は敵国である越から三振りの宝剣を送られ、その出来の良さに負けじと刀工として知られていた干将に二振りの剣を鋳造し献上するように命じた。
この命を全うすべく、干将は材料・道具・気候ともに最高の条件をそろえて鋳造に挑んだ。しかし、鉄を溶かす段階で炉の温度が何故か上がらなくなり、そのまま3ヶ月ものあいだ苦心することとなる。これに対、妻・莫耶は、さる刀工の妻が自分たちと同じ条件のときに己の髪と爪を炉にくべたことでそれを解消したことを思い出し、それに倣って自分の髪と爪を切って炉に投げ入れた。そして童子300人がふいごを吹いてようやく炉が安定し、剣が完成する。
干将は雄剣を隠して手元に残し、雌剣を闔閭に献上した。
そして闔閭は魯国の使者にこの剣を見せ、それを与えようとした。だが、使者が雌剣を抜くとはこぼれを見つけ、「いくら国がよかろうとそれを収める君主に欠点があっては意味が無い」と感じ取り、結局剣を受け取らずに帰ったという。
「捜神記」版
※『呉越春秋』よりも後世の逸話で、作られた話よりも後日談に比重が置かれている。
楚国の王は、名工・干将に二振りの剣を作るよう命じる。
しかし、剣の鋳造は遅れに遅れて3年掛かってしまった。
この失態に干将は自分の死を予見し、自分の子を身籠っていた妻・莫耶に「私が殺され、お前のお腹の子が男の子だったならば、出戶 望南山 松生石上 劍在其背(戸を出て、南に山を望み、松の生える石の上、その背に剣あり)と伝えよ」と言い残し、王に雌剣を献上した後、命を守らなかった罰として処刑されてしまった。
その後、莫耶が男の子を生んでその子・赤(せき)が成人すると、赤は父の所在を母に尋ねる。父が王によって殺されたことと父からの遺言を知り、赤は復讐を誓う。遺言に従って雄剣を手に入れた赤だったが、王はその事を知って赤に懸賞金を掛けて山へと追い詰める。悔し涙にくれる赤だったが、彼の前に旅人があらわれ、赤は自分の首を土産にして王に近づき殺してほしいと旅人に懇願した。
旅人がそれを了承すると赤は雄剣を旅人に託し、剣で自分の首を刎ねさせた。
赤の首を手土産に王に近づいた旅人は、喜ぶ王に向かって「これは勇士の首ゆえ、釜で煮溶かさなければならない」と進言し、王はこれに従った。しかし、三日経っても首は煮溶けず王をにらむばかりであったので、旅人は王に鎌の中をもっとよく覗くように進言する。そして王が釜の真上に顔を持っていった瞬間に、託された剣で王の首を刎ねて殺し、そして自分の首も刎ねて自害した。
三者の首はこれによって煮溶けて分からなくなり、共に埋葬されてその墓は「三王墓」とよばれるようになったという。
その他
日本にも『太平記』にその逸話が残されている。
他にもいくつかのバリエーションがあり、莫耶が炉に身投げすることで完成するパターンなどが存在する。また明代の伝奇小説『封神演義』にも、干将・莫耶をモデルとしたと思われる宝貝「莫耶の宝剣」が登場する。
『神羅万象・大魔王と八つの柱駒』における干将・莫耶
劇中に登場するキャラクター「アルカナ・トラスト」が所持する魔剣。
左手の亀甲模様で赤い火属性魔剣が「干将」、右手の水波模様で青い水属性魔剣が「莫耶」。
この二刀一対が揃うことで初めて、超一流の魔剣としての真価を発揮する。
星天魔アルカナ(2弾)時 | 綺羅星天アルカナ(4弾)時 |
『Fate/staynight』における干将・莫耶
劇中に登場するキャラクター(サーヴァント)「アーチャー」のメイン武器として登場する。