獣の槍とは
人の魂を食いながら
邪を裂き鬼を突くという霊槍
妖たちは槍の鳴き声に脅え
その槍が触れた風にさえ
己の最後を感ずるという…
『うしおととら』の主人公である蒼月潮の生家、光覇明宗系寺院「芙玄院」にある土蔵の倉において封印されていた「妖怪殺し」のための槍。
妖怪たちの間では「意志ある妖器物(いしあるバケモノきぶつ)」として知られ、恐れられている。
芙玄院の土蔵の地下で、とらを自然石に縫い付け封印していた槍で、潮によってとらと共に現世に解き放たれた。以降は潮を主として、その魂を喰らいながら彼に力を貸し続ける。
主には物語中において、潮が妖怪相手に戦うために使う唯一の武器として扱われる。
基本的な特性
獣の槍は意思を持ち使用者を選ぶ。槍に選ばれた者が手にして戦うと槍は使用者に囁きかけ、魂と引き換えに強大な戦闘力を与える。
頭から空中の妖気を吸収して髪の毛が伸びた外見となり使用者は妖怪と同質の存在となる(なぜ髪が伸びるのかについても、ある深い理由がある・・・)。
この状態になると人間を遥かに超えた身体能力や生命力、再生力を発揮する。
具体的には岩盤から崩れ落ちてきた何メートルはあろうかという巨石を支えるだけの筋力。
人間の目では捉えることができない程の高速で動く妖怪を捉え打ち合えるだけの身体速度。
溶鉱炉に落ちて身体の半分以上が炭化したとしても、また無数の妖怪の身体を砕きビル群をまとめてなぎ払う威力を持つ白面の尾の一撃を食らっても戦闘継続可能な耐久力と生命力。
体中を串刺しにされても瞬時に回復する再生力が得られる。
また獣の槍を使い続けた結果槍が発動していない生身の状態でも同年代の人間の約8倍の身体能力が得られる。
しかし槍を使用し続けると魂が削られていき、次第に外見が異形へと近づいていく。そして魂を完全に削られた者はどうなってしまうのか、それは物語後半で明らかになる。
ちなみに獣の槍が使用者を選ぶ基準は「妖怪と戦える資質」だけであり、白面と戦えるだけの資質があるものならば善人だろうと悪人だろうと槍は使い手として認めるという。実際、歴代の使用者の中には明らかに人として破綻している輩まで含まれており、獣の槍とは「正義の味方に受け継がれる武器」では断じてない。これは、そもそも獣の槍が前向きな考えで生み出された代物では無いことが関係している。
獣の槍は一撃でも妖怪には致命傷となる程の威力を誇る。
『うしおととら』に出てくる妖怪たちは普通の人間とは比較にならない程強力な力を持っている。生命力も同様で人間にとっての致命傷も妖怪には深刻なダメージにはならない。
それどころかその程度の傷なら少し時間があればすぐに回復してしまうのである。
とら曰く妖怪はもっと「ボロボロのグチャグチャ」にしないと滅ぼせない。しかし獣の槍はそれをたった一撃で達成してしまうからこそ妖怪にとって脅威な武器なのだという。
実際物語中強力な力を持つ白面の者とその眷属以外は獣の槍に貫かれて一撃で滅びなかった妖怪はいない。
獣の槍は人間を貫いても一切傷を負わせない特性を持っている。このため人に取り憑いた妖怪を人間ごと貫き妖怪だけを退治するといった使い方もできる。
人間相手の戦いではそれがネックとなり、刃でダメージを与えられないので柄や石突きで殴るしか戦う術がない。
一応、重量は存在するので、人間以外ならば刃の部分で切る事ができる。作中では樹木やトラックを叩き切ったり、果てはカップラーメンの重しにしながら魚肉ソーセージを切ったりするなど、しょうもない使われ方もしていた。
他にも妖怪が作り出す結界や亜空間を切り裂く能力もあり、人間を自分の世界へ引きずり込んだり、閉じ込めるタイプの妖怪でも優位に戦える。対妖怪の戦いにおいてはほとんど隙の無い能力を宿していると言って良い。
何千年ものあいだ妖怪との戦いで酷使されてきたためか、刀身は傷だらけで刃毀れまみれだが、威力は全く衰えていない。
槍は妖怪の悪意に反応し所有者の頭の中に共振したような音を発してそれを知らせる。ただし妖怪でも悪意がなければ槍は反応しないため妖怪を無差別に殺すことはない。
……ならば、なぜ人間一般に対して悪意バリバリのとらが自然石に縫い付けられるダケで済んでいるのか、という疑問が湧くと思うのだが、その意図に関しては最終章で明らかになっている。
また所有者が呼べば槍は所有者に向かって飛び、所有者が危険に陥ると槍自らが動いて所有者を守る。
また刃の根元に巻かれているボロボロの赤布はかつて妖怪たちによって封印されたときの封印の一部である。
一日千里飛び、一瞬で百の妖怪を粉砕する獣の槍を恐れた妖怪たちは異例の団結をした。
妖怪でも特に力のあるものたちが一本一本の糸になりそれを織って作られたのがこの封印の赤布で、槍に巻かれた一部でも完全でなくとも槍を封印する力が残っている。
この赤布を取り除けば獣の槍の威力は増すが、一方で削られる魂の量も増えてしまう。
※ 以下、物語の根幹のひとつを成す、苛烈なるネタバレ
誕生(以下節、ネタバレ)
――― 我屬在蒼月胸中到誅白面者
「我らは、白面の者を倒すまで蒼月(ツァンユエ)の心の内に在る 」
今から二千三百年前の春秋・戦国期の中国大陸、刀剣の匠の家に生まれた兄妹は絶望の底にいた。白面の者に精魂込めて作った神剣を折られ、国を滅ぼされ、両親も殺されてしまったのだ。しばらくすると、兄は傍らにいた少年・蒼月(ツァンユエ)に修行先で聞いた逸話を口にする。それは、乙女の身が捧げられて造られた“鐘”が万里に澄んだ音を響かせたというもの。直後、二人の気付かぬ陰から聞いていた妹が、炉に身を捧げた。「よい剣をつくってくださいましね。」と最期の言葉を残して。
しばらくして、妹の飛び込んだ炉からは一握りの鉄がとれた。絶望と悲しみの中、その鉄から兄は“鬼”となって剣を鍛え始めた。
しばらくすると兄自身の肉体も剣の柄として変化(へんげ)し、神剣となるはずだった剣に、兄が持つ白面への底知れぬ怨念と憎悪が取り憑き、一本の“槍”が出来上がった。
槍へと変化した兄は、人としての心を失う直前、全てを見ていた蒼月に願う。自分たちの事を忘れないでほしいと。その証として、槍が生まれたその場を見ていた少年の名を槍の身に刻む、と。そうして槍に刻まれた言葉こそが本節冒頭の言葉だった。
そうして出来た“獣の槍”は意思を持ち、どんなに妖(バケモノ)を切り刻んでも刃こぼれせず、錆びもしない“妖器物”となった。
誕生後は獣の槍単体で白面の者を求め単独で飛び回り、追いつきかけた。
そして白面の者の9つの尾(≒分身)の内、7本までもをたちどころに打ち破り、恐怖と絶望の具現のはずの白面の者に、逆に恐怖の叫び声を上げさせる戦果を示す。
その勢いで本体に迫るも、残り2本の重ねられた尾―特に鉛に変えかけていた最後の尾により辛うじて止められてしまい、取り逃がすこととなってしまう。
その後は見境無く大陸の妖怪を殺し回っていたが、槍の脅威の前に妖怪達が団結・変化した赤い織布によって、深山に長く封印される。時を経て、一人の人間によって再び解き放たれた後は、様々な人間たちの手を経て現在に至る。
付加的な属性
それ以外にも妖怪に石にされた人間を斬って石化を解除したり、雷を反射したり、天井など物を透過して標的だけを貫くなど他にも色々特性があるようだ。
物語中には二度ほど「赤い布の封印」を破るシーンがある。一回目は物語の中盤、悪神・オヤウカムイに敗北した後、赤布の一部を取り除いて力を増してから再戦して相手を真っ二つして滅ぼした。
二回目は白面の者との最終決戦にて一度槍を粉砕され、とらの身体を通じて再生したのち覚悟を決めて赤布を全て取り除き槍の力を完全に解放した。
ちなみにとらの身体を通じて再生した獣の槍は作者がいうには「新生獣の槍」だという。白面に粉砕され破片が全国に飛び散り日本中の人々のうしおととらの記憶を取り戻していく際に色々な想いを取り込むことで白面への憎しみから開放されたのだ。槍の傷が無くなっているのはこのためとのこと。
槍を使い続けて魂を喰われつくした者は獣になると言われる。これは文字通り、槍の憎しみに心を引きずられ、あげくの果てに人間としての記憶を失くし体を変質させて妖怪化する事を意味する。そうして「獣」となった者は「字伏」と呼ばれる妖怪へと変化してしまう。
余談
元ネタがあるのかは不明だが、干将・莫耶の伝説からの影響を見てとれるという意見もある。
何故にこの槍が「獣の槍」と呼ばれるのかは定かではないが、その誕生と因縁に少なくとも二体の獣達が関与しており、この槍を作るきっかけとなった事件において皇帝は「虎」を象徴としていたこと、使用者は獣の如く激しく戦い、最終的には文字通り獣と獣を産み出すという関連性はある。
ファンの声「獣の槍は、間違っていないかもしれないが、正しくもない」。
うしおととらと同時期に週刊少年サンデーに連載されていた行け!!南国アイスホッケー部でも、岡本そあらが蘭堂月斗に対してツッコミを入れる武器として登場する(ただし読みはけだもののやり)。
またモンスターハンターダブルクロスにもコラボ武器で登場。操虫棍として登場し、虫がとらになっている。
入手条件は強化されたタマミツネのクエストのクリアの報酬から出る素材から作る物であった。ターゲットのタマミツネは原作のラスボスとモチーフ繋がり。かなりの強化個体であったが「アイツと比べたら弱いにも程がある」やら「製造に必要な素材が原作より温すぎる」と多くのハンターに評価された。