有鉤条虫
ゆうこうじょうちゅう
扁形動物門条虫網、学名はTaenia soliumのサナダムシ。生息地は人間の腸内。世界中に分布し、豚肉を食べる地域で特に多い。というのも、こいつは豚や猪を中間宿主とし、それを食べる人間を最終宿主とするのである。
人間の体内にいても基本的には害の少ない生物、なのだが一歩間違えると大惨事を招きかねないので注意が必要。
成体は頭部に吸盤のような物と吻のような物があり、これらを使って小腸の内壁に着く。そこから片節と呼ばれるものがずら〜っと連なって伸びている。片節1つ1つが個別の生物と言える程単体で完結しており、生殖を可能とする。片節の連なった体は白く薄いリボン状で、長さが2〜3メートルあるなんてのは珍しくない。人間の糞に紛れて卵は体外へ出ていく。
卵はそのうち豚の餌に紛れ、それを食べた豚や猪の中で孵る。豚の体内で卵から六鉤幼虫に、そして六鉤幼虫から嚢虫という袋のような姿になっていく。これを含む豚肉を人間が食べることで待ちに待った人間の腸にたどり着き、胆汁などの消化液に反応して変化し成体になっていく。
ちなみに豚肉にしっかり火を通せばこいつらは死ぬ。人間に寄生できるのは、あくまでも生の豚肉や生焼けの豚肉からのみ。こんな記事を読んでるそこの君、このことをしっかり覚えておくように。
人間の腸にこいつらの成体が寄生するとテニア症というものを発症する、のだがこれは症状が皆無に近いと言ってもいいほど影響の少ないものであり、最悪の場合でも腹痛ぐらい、人によっては寄生されても気付かないことすらある。一部では肥満を解消できるのでむしろ有鉤条虫に寄生された方がいい、なんて言う人もいるくらいである。(試すなよ、絶対試すなよ!)
とまぁ、上記の生態はあくまで通常の生活を辿った場合である。問題は人間が成体以外に寄生されたケース、つまり卵を何らかの理由で直接人間が食べた場合。豚の中で六鉤幼虫になると言ったが、この六鉤幼虫は腸を食い破って血液の中に入り込む。人間の体内でも同様で、血液の中に入り込みそこから身体中に移動できる。多くの場合は筋肉に行き着くが、これは時に肝臓や脳などの臓器にたどり着き、そこに居着いて成長することになる。脳に辿り着いた嚢虫が神経系に影響を及ぼすことを嚢虫症と呼び、頭痛や眩暈やてんかん発作を引き起こす。寄生された箇所や寄生虫の数や当人の免疫反応にもよるが、酷くなると水頭症、対麻痺、髄膜炎、痙攣、死亡もあり得る。
ちなみに豚は脳等に寄生されても自身の免疫反応で事なきを得る。こういった症状が出るのはあくまでも人間の場合。症状が出るまで数年かかることもあるのでその頃には何を食べたのが原因かわからないなんてのもあり得るだろう。いずれにせよ、人間から排泄された卵を食べてしまう可能性はその地域にいるテニア症発症者が多ければ多いほど高く、排泄という経路から水を介して豚肉ではない他の食材…例えば野菜等に卵が付いてる可能性もある。以上の事から豚肉を食べる地域で感染を阻止するには高水準の水質管理が必要となる。発展途上国では大きな大きな問題だ。
治療にはアルベンダゾールという薬を使う事が多い。脳内の嚢虫を殺す為に薬を使ったら死にかけの嚢虫に免疫系が過剰に反応して返って危ない可能性もあるので、場合によってはまず嚢虫を取り除く手術が必要だったりする。