解説
インド神話の水神ヴァルナが取り入れられたものである。持物は剣と羂索。
ヴェーダ時代には司法の神であり、天上の神で、高位の神であったが、大乗仏教が興った頃にはその地位は低下していた。
ヴェーダ時代より地位が低下した神としては他に帝釈天(インドラ)や梵天(ブラフマー)がいるが、彼らと違い印象的なエピソードが追加されたわけでもなく陰が薄い。
密教における方位神「十二天」では西方の守護神とされる。ヒンドゥー教においてもヴァルナは方位の守護神(ローカパーラ)であり、仏教と同様、西方の守護神とされる。
日本においては水分神(みくまりのかみ)と習合し、水天宮の祭神となったが、明治時代の神仏分離令により、祭神の名が天之御中主神に置き換えられた。
ヴェーダの時代ですら創造神、始源神ではなかったヴァルナと水神ではないアメノミナカヌシが同定された理由は定かではない。
「ヴァルナのもとの神格が始源神だったため」という説明が見受けられる。ヴァルナはヴェーダの神々の中でも特に古い神であり、ゾロアスター教の最高神であり創造主アスラ・マズダーとヴァルナを結びつける学説はある。
ここからインド・イラン共通時代にはヴァルナが始源神だった、という推察は可能であるが、元々あった信仰に圧をかけ変更を迫る明治政府の人間の頭の中に、そのような比較宗教学的な知見や融和的な思想があったかどうかは疑わしい。