神に近づく蝶の妖精
かみにちかづくちょうのようせい
エタニティラルバが『東方天空璋』に初登場した際のもの。
エタニティラルバは本二つ名にも見られる通り「 アゲハ蝶の妖精 」であり、同時に幼虫から蛹をまたいで成虫に至る全ての「 成長と再生と変態 」を包括する存在である。
射命丸文は「 昆虫妖精 」とも表現している(『天空璋』)。
エタニティラルバは<蝶符>の冒頭句を通した各種スペルカードも披露しており、特に『天空璋』でのスペルカードはすべて<蝶符>の冒頭句から成る。
妖精全般は一般に異変となると暴走状態となり、『天空璋』で発生した異変である四季異変においても妖精たちの暴走が(いつもよりも激しく)みられている。エタニティラルバもこの影響下にあり、『天空璋』時は普段よりも強い力を持っていた。
普段は「極めて温厚」という性格も『天空璋』では非常に高揚したものとなっており、妖怪の山山麓上空にて「 真夏の大空 」を謳歌していた。
「 力が有り余って仕方が無いの 今なら新世界の神にでもなれそうだわ 」(エタニティラルバ、『天空璋』)
妖精同士のチルノとは知己の間柄である様子で、チルノが日焼けしたことにも関心を寄せるなど、普段のチルノとの違いにも気づいている。弾幕ごっこでは「有り余る力」を行使し、チルノと対した場合などはそんな無限にあふれる自分の力さえも乗り越えていったチルノにエールを送るなどもしている。
「 夏はどっちの物か、勝負だよ! 」(エタニティラルバ及びチルノ、『天空璋』)
文などは妖精にしては妙に力の強いエタニティラルバについて夏の暑さにやられただけではとしたが、この妖精の暴走にして力が引き出された事象は四季異変の副作用の顕在化したものでもある。
エタニティラルバとの接触以後もチルノを除く異変調査に臨んだ面々はその出所や黒幕の手がかりのつかめない四季異変に難渋するも、その実、図らずも四季異変の「本体」(ZUN、『東方外來韋編』)といえる事象にはすでに出会っていたのである。
メタ的な視点では、エタニティラルバは『天空璋』ではチルノと対になる存在として位置づけられている(ZUN、『外來韋編』)。
エタニティラルバの存在性については「常世神」との関連性が摩多羅隠岐奈も通して仄めかされている(『天空璋』)。
「常世神」は日本書紀に記載のある当時の新興宗教で信仰された神格で、芋虫の姿の神である。
「芋虫の姿」としたが、この姿が「常世神」のありのままの本質であり、例えば「神格の化身としての芋虫の姿」というわけではない。本当に芋虫が信仰対象である。これは同じく『天空璋』に登場する矢田寺成美に見る「垂迹」(ある神格が別の神格の姿を借りること)などとも異なる。
「常世神」信仰のベースには海のかなたにあるとされる不老不死の世界である「常世の国」への信仰があり、「常世の国」は沖縄の「ニライカナイ」にも通じるもので、また「蓬莱山」を常世の国と同一視するものもある。「不老不死」ではなく「死後」の世界を指すとするものもあり、この場合の「常世の国」は「黄泉の国」とその性質を共通する。
常世の国では時間の流れが現世と異なるとも。
東方Projectで関連するところでは少名針妙丸の謂れに結びつく「少彦名」や綿月豊姫らが関わった「浦嶋子」(浦島太郎)などが「常世の国」に至った、または訪ねたとされている。
また常世の国には常に黄金に輝き不老不死をもたらす木の実である「非時香菓」(ときじくかこのみ)があるとされ、これを求めて時の天皇がどことも知れぬ海の向こうに使者を派遣したこともある。これは実際の植物では「橘」(ミカン科の常緑樹。「タチバナ」)にあたる。芋虫である常世神はアゲハチョウの幼虫であり、アゲハチョウの幼虫は橘に発生する。常緑樹である橘自体も永遠性や不老性とともに見出されたため、「老いない橘に生まれる幼虫=すごい神」といった発想が生まれたのではとされている。
エタニティラルバ自身も先述の通り「アゲハ蝶の妖精」にして全ての「 成長と再生と変態 」を包括する存在であるという不老不死を成す芋虫の常世神の性質を備えており、「エタニティ」( eternity )にも「永遠」や「永遠性」、「不死」の他「来世」や「あの世」といった意味もあるなど常世の神の様々な側面と重複している。
エタニティをまさに「常世」と訳するものもある。
そして先述のエタニティラルバ本人のセリフや本二つ名に見る「神に近づく」という部分を通して、妖精にして「神」でもある常世の神との関連がうかがえるものとなっている。
信仰の否定と衰退
常世神信仰は個人主義的な現世利益と不老長寿をご利益として信仰を広め人々に財産の奉納を求めた。
少なくない人々がこれを信仰し財産を捧げたがもちろんそういったご利益が来臨することはないため「富が与えられる」という謳い文句に反して人々は破産的に富を失っていった。
これが当時の社会問題となり、秦河勝が常世神信仰を吹聴した大生部多(おおのべ-の-おお)を討伐し、これを機に常世神信仰は衰退することとなる。
東方Projectには秦河勝に関連したキャラクターとして秦河勝が所有したお面の付喪神である秦こころをはじめ秦河勝にその面を与えたとされる聖徳太子本人である豊聡耳神子、あるいは秦河勝と同一視される摩多羅神を由来とする隠岐奈が登場している。特に隠岐奈は先の常世の神関連の言及だけでなく四季異変の本体にして『天空璋』のラストを飾る登場の仕方をしており、『天空璋』最初の1面ステージに登場するエタニティラルバという始まりと終わりを彩る対比的な関係となっている。そして最後には再び隠岐奈(EX)がエタニティラルバ(1面)に言及するという循環的世界観や輪廻を彷彿とさせる永遠性もまた象徴している。
加えて隠岐奈本人や隠岐奈の元である摩多羅神は「秘神」であるが、常世の神もまた(人に害をなしたことへの自業自得的なものながら)信仰が否定されて「秘神」状態となった存在でもあるなど、神性の歴史部分でも共感する部分を持つ。