タグの用法
2020年4月現在のpixivでは「秘神」のタグには次のような用法が見られる。
- 一般的な、またはオリジナルの「秘神」を描いた作品に用いられるタグ
- 特定の創作に登場する固有の意味や用法などをもつ「秘神」に関連して用いられるタグ
本記事では1、2の双方の用法について記述する。
同現在時点では2の特定の創作についてはアトラスによる「女神転生」に登場する種族としての「秘神」と、同人サークル上海アリス幻樂団による東方Projectに登場する「秘神」である摩多羅隠岐奈にまつわるタグとして使用されている。
なお、「秘神」の読み方については音読みによる「ひしん / ひじん」( Hi-shin / Hi-jin )や、訓読みによる「ひ(め)かみ / ひ(め)がみ」( Hi(me)-kami / Hi(me)-gami 。間の「め」を発音するものとする場合)などの可能性がある。
このとき訓読みで表現したい場合には送り仮名を入れた「秘め神」表記であると、訓読みとしての性質をより伝えやすいという特長がある。
一般的な「秘神」
一般的な「秘神」は主にその神性を理由として秘匿される位置にある神もしくは秘匿されなければならない神を指して「秘神」とするものや、あるいは何らかの理由でその神話性が削除されたり秘匿されるなどして隠されることとなった「秘められた神」を指す。
外部との関係性による「秘神」という観点では、限られた地区で信仰され広く知られることのない、例えば信仰が拡大することなく、また習合なども成されなかった土着の神格は外部から見ればその土地に根付いて広がることのなかった「秘神」と言えるだろう。
信仰する人々にとっては冠婚葬祭を一例とするような特別な行事、あるいは日々の生活や日常にも常に隣り合っているような普遍の神格であっても、それが外部に伝わることなく歴史を重ねた時、そして後に外部がそれと出会ったとき、この新しい信仰やカルチャーとの出会いは「秘神」との出会いともなるかもしれない。視点の置き所で、「秘神」かどうかも変動する。
個々の神話の中でその存在は語られているものの表に出ることのない、活動が語られることがない神に対する比喩としての「秘めた神」といった意味合いで用いられることもある。各々の神話の中でその存在はあるものの表舞台での活動が意図的・無意図的に語られない神格などはミステリアスな一種の「秘神」とも言える存在だろう。
何らかの理由で神話性が削除された結果、後世においてその全貌を捉えることが不可能になり、「秘神」となるといったケースもあり得るだろう。
信仰が意図的に外部に漏れ伝わらないよう工夫されるなどされていれば、よりその「秘神」性は高まる。ただしその秘匿性は往々にして禁忌とも結びついていることもあるだろう。
この「秘神」と「それを暴く禁を犯す探究者への災厄」という観点は神話に限らず創作にも見られることがあり、代表的なものとしては例えば後世の創作神話の体系である「クトゥルフ神話」における種々の知ってはいけない神々(神的な超常的存在)は、まさに人間たちから見て「秘神」そのもの、あるいは「秘神」でなければならない存在と言えるだろう。
一部の解釈ないしは都市伝説・オカルト的観点では古事記・日本書紀にその活動が極端に記されていない「ツクヨミ」や、大祓詞(神道における祝詞の一つ。穢れ払)に登場するものの古事記・日本書紀に記載のない「瀬織津姫」(せおりつひめ)などについて、歴史上何らかの理由でその神性が薄められた「秘神」と位置付けるものもあるなど、時間の経過や時代の変化、あるいは後世の研究や以後生まれる信仰または都市伝説・オカルトからの接近などによっても「表の神」か「秘神」かが変動することもある。
「摩多羅神」
「摩多羅神」(主に日本仏教、天台宗)はまさに「秘神」である。
多様な神性を持つ摩多羅神は、その多面ぶりに比して今日でも謎が多く、またその教義や関連儀式が淫猥だとして邪教とされたこともあるなど、資料不足による正体不詳の「秘神」にして、意図的に排斥された「秘神」という上記の「秘神」の両面を持つ存在でもある。
また摩多羅神はそれぞれの理由から虐げられ追いやられた人々の神ともされており、摩多羅神自身の視点もまた社会から目を背けられ秘められた人々にも傾けられている。
詳細は「摩多羅神」記事を参照。
関連タグ(全般)
参考外部リンク
摩多羅神関連
女神転生における秘神
古今東西の悪魔が登場する女神転生においても種族「秘神」が存在する。
秘された神という為か、通常の悪魔合体で作成できる事は無く、合体事故や特殊合体などの通常法則から外れた合体でしか仲魔にできない。
主に性を司る神や、行い自体は重要なのに記述・記録等が少ない神、マイナーな民間信仰の神などが分類される。
作成が面倒な分、耐性やスキルに意外と有用な者が多く、破壊神や魔神にも負けないポテンシャルを秘めている。
関連タグ(女神転生)
上海アリス幻樂団作品における「秘神」
同人サークル上海アリス幻樂団による東方Projectには先の摩多羅神を直接のモデルとした摩多羅隠岐奈が登場する。
また隠岐奈以外にも「秘神」の語がその周辺に語られるキャラクターもある。
摩多羅隠岐奈
隠岐奈はその種族を「 秘神 」とし(『東方天空璋』)、自らも秘神であることを語る。
動向としても隠岐奈はその配下である「 二童子 」含めて隠された「後戸の国」の世界に鎮座し、長らく表舞台には登場しなかったという世界の裏側に自ら秘匿した存在であった。
その「秘神」性は本人の周辺にも見られ、例えば『天空璋』での隠岐奈の二つ名にみる「究極の絶対秘神」をはじめ隠岐奈が表現するスペルカードには<後符「秘神の後光」>など「秘神」の語を含んだものもあり、隠岐奈のテーマ曲の一つである「秘神マターラ」にも摩多羅にみる「秘神」性が語られている。
その衣装デザインに北斗七星(摩多羅神の象徴の一つ)を描き示す隠岐奈は自らの語る通り「 星宿の神 」でもあり、「秘神」である隠岐奈が初登場した『天空璋』の英字タイトルにみる「 Hidden Star 」の存在そのものでもある。
隠岐奈にみる「秘神」の性質、隠岐奈と摩多羅神との関連等については主に「摩多羅隠岐奈」記事を参照。
本人以外の場面でも「秘神」の語が隠岐奈に関連して語られることがあり、例えば『東方香霖堂』では隠岐奈らによる四季異変の顛末を説明する霧雨魔理沙の語るところやその話を聴いた森近霖之助の思考文やセリフに「 秘神 」の語が登場している。
「秘神流し雛」
隠岐奈以外でも「秘神」の要素が語られている存在があり、例えば鍵山雛(厄神様)の二つ名の一つである「秘神流し雛」にそれを見ることができる。雛は人々の営みの間で生まれる「厄」を人々から遠ざけつつ自らの元に集め、しかるべき神々に受け渡す存在である。
有り難い神様であるが、一方で雛にまつわるタブーを犯すと厄が降りかかるという「厄を祓う神」と「厄を(雛の意図とは無関係に)もたらす存在」という対照的な二面を持つ。
そのため雛への接触はできるだけ避けるよう啓蒙もなされており(稗田阿求、「幻想郷縁起」、『東方求聞口授』)、雛もまた自ら人々への接触を控えている(『東方風神録』)。雛から信仰や崇拝を求めることもない(阿求伝、『求聞口授』)。
雛はこの様な性質から「語ることが出来ない神」であり、雛もまた「表舞台に現れない」というまさに「秘神」の性質・性格を備えている。
秘神的存在
この他にも、原作中では「秘神」という文脈では語られていないものの、その至る経緯や歴史、関連する謂れなどに先述のような「秘神」と共感する要素をもつ存在もある。
「何らかの理由で秘めさせられた神」という視点では、外部の文化との接触で価値観の対立がおき、かつ文化の被流入側が敗北した場合にも教義にストップがかかったり経典や資料といった個々の神性が記載されたものが破棄されるなどして従来の神が「秘神」へと変化するというケースもある。
文化ミックスのように土着の信仰と新規の信仰が習合するなどの折り合いがつくケースとは別に、信仰が地下化して外部から秘匿される場合である。
信仰対象の個々の名称や教義、ご神体・シンボルなどを隠匿したり形を変えるなどの表象的な部分に加工を施すことで弾圧や忌避の視線から逃れて信仰の本質を静かに維持し続けるということもあり、その過程でかつては表で信仰されていた信仰対象たる「神」が裏手に回されて「秘神」となる、といったケースと言えるだろう。
例えば日本におけるキリシタン弾圧の中で生まれた「マリア地蔵像」や「マリア観音像」などはマリア(聖母マリア)を象徴として、キリスト教の信仰を仏教的モチーフに秘匿したもので、地蔵や観音の姿を借りつつも本質はキリスト教的信仰である。神仏習合のような文化ミックスではない。
キリスト教の信仰は一神教的な「神」に捧げられるものであり、この「神」はキリシタン弾圧下の日本では「秘神」ともいえる存在でもあった。
この構図は、東方Projectでは「諏訪大戦」の物語にも共感する。
神代の時代、大和の神である八坂神奈子の侵攻を受けて直接の衝突でこそ土着神の洩矢諏訪子は敗北したが、諏訪子がその土地で積み上げてきた「祟り神」としての畏怖と恐怖は人々の心に根深く、神奈子は十分な信仰を得られなかった。
そこで神奈子は折衷案として、表面的には当該の土地に大和の神(タケミナカタ)の信仰を広めつつも、アンダーグラウンドでは諏訪子に対する従来からの信仰を黙認した。
諏訪子は一種の「秘神」ともなったのである。
この他先述の瀬織津姫について橋姫(「宇治の橋姫」、京都)と同一視するものもあり、この観点を通すとき東方Projectには橋姫の伝承も纏う水橋パルスィが登場している。
パルスィと「秘神」的エピソードの程度は不明ながら、パルスィは丑の刻参りの開発者ともされており、博麗霊夢によれば、パルスィ自身も博麗神社でこれを行うことがある様子である(『東方外來韋編』)。丑の刻参りはその儀式を「誰にも見られてはならない」という性質や他者を「呪い殺す」という呪術的側面において先の「秘神」的な秘匿性と忌避されかねない呪術性を兼ね備えてもいる。
また隠岐奈の登場に近い時間に登場した「依神」の二人(依神女苑・依神紫苑)は、人知れず他者の精神に干渉して利を成そうとし、またそれぞれ疫病神と貧乏神というともすれば暗部の神々でもあるなど、「秘神」的側面もまた持つ。
なお、先の雛とも関連して、紫苑は「幸運」を「不運」に変換してしまう性質をもち、東方Projectにおいて「不運」は「厄」と関係を持つ。また雛は厄神様の他に「疫病神」と語られることもあり、女苑は性質やメンタリティ、行動の指向が異なるものの雛と同じく疫病神である。
秘神的女神様達は作品を追うごとに表舞台にも少しずつ顔を出して来ている。
マクロ的には東方Projectの主舞台である幻想郷自体もまた一種の隠れ里であり、この地で息づく神々は、例えば宇佐見菫子が住まう外の世界からすればいずれも「秘神」ともいえる状態にある。先述のようにその土地以外に広がることのない信仰が生まれれば、それは新しい「神」の信仰にしてその外部と対比して「秘神」の信仰の誕生でもある。