「―――ある日、気が付いた時から不快だった」
概要
作中序盤から中盤にかけては、三つの血走った光る目を持つ醜悪な即身仏、蹲った木乃伊として描かれる。
終盤で登場した際は、褐色の肌に緩やかな衣を纏い、くすんだ金髪を炎のように逆立てた容貌で姿を現す。白濁した眼光を放つ、ばらばらに動く三つの瞳を持つ子供であり、蓮台に座した異国人。
主に夜都賀波岐から語られる存在。
彼らが憎悪する絶対の怨敵であり、東征軍を滅尽滅相しようとしている原因。
正体
以下ネタバレ注意
その正体は神咒神威神楽の世界における神であり、本作のラスボス。
神座世界における六番目の神であり、第五天・黄昏の女神を滅却して神となった存在。歴代神格の中でも最悪の存在であり、邪神。
形は違えど神格たる者ならば持ち得る神聖さなどは欠片も有さず、生まれ出でたその瞬間から徹頭徹尾ただ自己のみを愛し、他の全てを嫌悪愚弄し蔑み殺す外道。
テーマ曲は「波旬」という存在の恐ろしさと禍々しさを表した「第六天・畸形嚢腫」と最終決戦のBGMである「波旬・大欲界天狗道」。
来歴
黄昏の女神の治世下、彼は天竺国の貧民階層に生まれた。本名はマーラ・パーピーヤス。
三つ目という異形の容姿と外界の刺激に一切の反応を示さないという不具性から、口減らしとして人買いに売られた。そこから巡り巡ってとある邪宗門に引き取られた彼は、波旬という神号を与えられた上で即身仏となるよう地の底に幽閉される。
常識的に考えれば悲劇としか言いようのない境遇であるが、波旬にとってそんなものは何の意味も持たなかった。生まれながらにして波旬はあまりにも巨大な精神と世界観を有しており、周囲の自然や人の存在を認識出来ず、そもそも己以外のものを視界に入れてさえいなかったのである。
こういった特殊性は過去の神格の中ではありふれたものだったが、波旬は他の神格と隔絶したモノになった原因は別にあった。
ただ己独りになりたい。
波旬にとってそれのみを願い、求め続けることだけが全てで、それ以外の何かなど彼の宇宙には存在し得ないはずであった。たった一つの存在を除いて。
それは畸形嚢腫。
人体の部位であり波旬の双子の兄弟、その成り損ないの肉の塊。
それが波旬の延髄から脳にまで食い込んでおり、自力で視認することができない。波旬は何者かが常時己にへばりついているという強烈な不快感だけを持ち続け、いつか必ずそれを見つけて引き剥がしてやるという憎悪にのみ燃えていた。
独りになりたい。俺の身体は俺だけのもの。
程度の差はあれ、誰でも持ちうる想いである。しかし、波旬は神域へと上がれる資格を有した存在であり、そんな彼が畸形嚢腫を持って生まれたという二つの事実が、彼を歴代最悪の邪神へと変貌させたのだった。
膨れ上がる自己愛、己を唯一の宇宙と断ずる神域すら超越した唯我の渇望。最初から己の内界に他者が存在したことで、本来求道になるべき祈りは廃絶の色を帯びた覇道と化した。
彼が求道型の覇道神という極めて異例の存在になったのにはこういった経緯があったからである。
彼の先代、第五天・黄昏の女神による抱擁も、彼にとっては汚らわしく鬱陶しいものでしかなかった。
なぜなら波旬は他人を知らず、知ろうとも思わない。ゆえに抱きしめるという行為も、母性の意味も分からない。現に波旬は抱きしめるという行為を「取り囲む」と認識し、「俺を囲むな、気持ちが悪い」と感じている。長年に渡り己を悩ませていた畸形嚢腫と女神を錯誤した波旬は、嬉々として彼女とその守護者であった覇道神らを一掃する。
夜刀だけは辛くも消滅を免れたのだが、波旬はそれに気付いていない。なぜなら、神座である黄昏を殺した事で、波旬は女神が有していた総ての魂を受け継ぐことになってしまったからである。波旬にとって予想外、神座世界においては当然の神の交代が起こってしまったからである。
そして、そもそもの原因であった畸形嚢腫は、無限に膨れ上がった魂に紛れて分からなくなってしまった。波旬からすれば独りになるために塵を殺したのに、結果として己の中がさらに塵で満たされてしまったのである。
その現実を前に狂気は振り切れ、歴代最強最悪の理、大欲界天狗道が誕生したのである。
能力
大欲界天狗道(だいよくかいてんぐどう)
太極・大欲界天狗道。
なんと波旬は神座万象シリーズにおける数多のキャラクター達とは違い、特殊な能力は一切有していない。
波旬が有しているのは、誰一人として及ばない圧倒的な力、それのみ。
彼の太極の源は「一人になりたい」「俺以外は消えてなくなれ」という波旬の渇望に基づいたもの。
それは『森羅万象滅尽滅相』の理を世界へと流れ出させる太極。
己以外の他者全てをただひたすらに滅殺する、歴代最悪最凶の鏖殺の宇宙である。
座の完成と共に、「この宇宙に存在するのは自分だけでいい」という思想が伝播し、宇宙の生命全てが世界唯一の存在になるべく、家族や恋人など一切関係なく殺し合うようになる。
やがて宇宙から生命体が波旬以外一切存在しなくなり、宇宙は終焉を迎えるというもの。
この理では魂が完全消滅するので死後の概念などはもちろん存在しない。
そんな世界に生命が存在できた理由は、天魔・夜刀が停滞の理を流出させていた事で、大欲界天狗道が未完成だったからである。
未完成状態の世界では、人々が自己愛性人格障害を患い、一人一人が自分自身を神だと崇めている世界となる。
己の理屈や価値観を絶対の法とし、自分にとって良いか悪いかが全てである。 見かけでは我々の世界と変わらないように見えなくもないが、誰もが胸に抱くのは自分への愛のみ。
一見すると利他的な行動も行われるがそれは『そんな行動をする己は素晴らしい』という利己的な理由による行動でしかなく、この宇宙に生きる者にとって他者とは精々が素晴らしい己を彩る装飾品でしかない。
ちなみに作中の舞台である神州は、天魔・夜刀の穢土が隣接していた為に諸外国よりはだいぶマシな状態であった。諸外国では、血縁や代などによる統治・君主制度など一切存在せず、強者が全てを征する完全な弱肉強食の世界である。
戦闘面ではまさしく無敵である。
『独りになりたい』という彼の極大の自己愛の渇望を具現化し、「俺は俺ゆえに唯一絶対」という理屈になっていない自負により自分を最強にする事が可能。
さらに、「弱いから、つまらぬから、物珍しげな設定をひねり出して、頭が良いとでも思わせたいのか?」「せせこましい、狡すからい。理屈臭く概念概念、意味や現象がどうだのと、呆れて物も言えぬ」「質量の桁が違えば相性など意味は無く、使用に危険を伴う力と言うのは単なる欠陥品だ」と強力すぎる唯我の感情により他者の渇望(太極・異能)を完全に無視・無効化することができる。
そして、波旬の太極値が検証不可能という規格外であること。そのため、太極を含めた全能力がカンストであり、守りに長けている刹那以外の神ではまともな鬩ぎ合いが不可能。これは太極戦闘が基本となる神格同士の戦いに於いて最凶最悪のアドバンテージになる。
このような理不尽極まりない絶対法則を無力化できるのはナラカと自身の最も憎む存在だけである。
「億、兆、京、垓……それがなんだ?無量大数の前には一も兆も等しく塵だ」と豪語するだけあって、歴代の全神格を「どいつも指の一本程度で消し潰せるような雑魚だがな」と吐いて捨てられるその強さは伊達ではない。ただし、実際の威力は気分によると思われ、波旬がどうでもいいと思うモノなら一瞬で滅尽滅相して興味を失い、憎悪を込めて甚振る対象には何度となく捻り潰して滅尽滅相する。
また、覇道神とは本来魂を多く保有するほど強力になっていくものだが、波旬はその真逆であり、魂を投げ捨てれば投げ捨てるほど強くなっていく。
ようは一人に近付けば近づくほど強力になっていくのが求道型覇道神の波旬なのである。
卍曼荼羅・無量大数(まんじまんだら・むりょうたいすう)
波旬の持つ、おそらく唯一の術技。
腕の一振りで歴代の神格と宇宙全てを粉砕すると言われた、波旬の全身全霊の一撃であり、想像を絶する威力があると思われる。
詠唱
滅・尽・滅・相
罨 有摩那天狗 数万騎 娑婆訶・罨 昆羅昆羅欠 昆羅欠曩 娑婆訶
(おん あろまやてんぐ すまんき そわか・おん ひらひらけん ひらけんのう そわか)
下劣畜生――邪見即正の道ォォ理
(げれつちくしょう――じゃけんそくしょうのどぉぉり)
太極
――罨――
(――オン――)
阿謨伽尾盧左曩 摩訶母捺囉摩抳 鉢納摩 人嚩攞 鉢囉韈哆野吽
(アボキャベイロシャノウ マカボダラマニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤウン)
地・水・火・風・空に遍在する金剛界尊よ
(バザラダドバン)
今ぞ遍く光に滅相し奉る!
(ナウマクサマンダボダナンアビラウンケンソワカ)
天地玄妙神辺変通力離――
(てんちげんみょうしんぺんへんつうりきり――)
卍曼荼羅ァ――無量大数ゥ!
(まんじまんだら――むりょうたいすう)
弱点
ここまで見れば神格より上位の存在に位置する後述のナラカでなければ太刀打ちできないという無敵以外の何物でもない第六天波旬。
しかし、ただ一人、坂上覇吐だけが波旬に対抗できる。
なぜなら彼だけが波旬にとっての唯一無二の特別、「この俺にとって、忌むべき唯一、恥の記憶」「我を唯一にせぬ貴様が憎い。ゆえに見つけ出してやるぞ、万象滅相しようとも」と殺すために捜し求めた総ての始まりだからである。
すなわち、波旬が意識する唯一の「他人」だからである。彼に対してのみ、波旬は並の覇道神という型に嵌まり、無量大数の力を発揮しえないのである。
ただ対峙すれば覇吐が勝つ事ができるかと言えば、そうでもない。なぜなら、並の覇道神の型に嵌れば、今度は波旬の保有する魂(総軍)が当然の如く波旬の力になり、求道神である覇吐では絶対に太刀打ちできず、そもそも総軍無しの状態の波旬でも覇吐より強い。
よって、覇吐が波旬を倒すにはまず総軍を引き剥がし、大欲界天狗道に亀裂を生じさせて本体である畸形嚢腫を取り戻す為の仲間が必要となる。
わかりやすい邪悪さに全宇宙を滅ぼそうとする大悪というキャラクターだけに声優からもヘイトを買った波旬だが、本編前に世界の頂点に立った悪役でありながら、我が世の春を謳歌するどころか、どんな形であれひたすら他人に関わりその存在を感じ続けなくてはならないという、本人にとっては地獄でしかない環境でのたうち回り続けていたというなんとも言えない立ち位置からコアな人気も存在している。
神であり、究極的自己愛を持つ波旬は普遍的な欲望など存在しておらず、肯定する他者も自分を飾り立てる宝も自らを満たす美味も、必要としない。
それどころか自らの心と感情さえ波旬にとっては煩わしいものでしかなく、存在している間は終始苦痛でしかなかった。
ただ己だけが存在し何一つ自らに混ざることのない過不足零の凪、無謬の平穏こそが波旬が唯一望むものであり、その為ならば自分の存在さえ必要としない。
他作品での活躍
Dies irae
前作にあたるDiesiraeでは、登場こそしないものの、マリィルートの最終盤及びそのアフターストーリーであるOmnia vincit Amorでその存在が示唆されている。
女神防衛戦において、波旬が瀕死もしくは敗死して水銀によって回帰で押し流された場合、神座世界は玲愛ルートへと至る。そして回帰した水銀が波旬の因子を徹底的に抹殺するので、この場合波旬は誕生しない。
なお、畸形嚢腫の無い場合は求道神となるが、そちらの場合でも最終的に黄昏に喧嘩を売りに行く。ただの求道神なので黄昏勢にはまず勝てないが、その場合即行で死んで渇望を満たす事ができるので波旬からすればむしろ本編より幸せである。ヘイトを勝った悪役でありながら弱体化した方が寧ろ幸せとかもうなんなんだこいつ。
Dies irae PANTHEON
第六神座・波旬大欲界天狗道(マハーマーラ)の覇道神。神としての名は波旬。
事実上の続編でシリーズ最終作となる本作では神座に秘められていた機構によって再登場。覇道神は消滅したら、全てが謎の空間に収容され、そこでは覇道神同士は例外であった黄昏の理を除いて原則的に複数同時に存在できないということが適用されず歴代の覇道神が全てが同時に存在している。
他人嫌いの波旬であれば即座に、その場にいた覇道神を全員、滅尽滅相するはずだが、ハードウェアとソフトウェアという構造が違う関係であるナラカによって抑えられている。
波旬にとっては消滅したことで本当の望みは叶ったはずだったが、このような形で叶わなかったという皮肉なことに陥っている。
そのため今度こそ引きこもるべくナラカを居座る場所から引きずり下ろしてその場所を乗っ取ることを目的とする。
波旬の神座のビジュアルが公開されたが、そのビジュアルは呪詛と祟りに満ちた凶悪な顔つきをした赤子。災害レベルの力がある赤子という波旬の本質そのものを表してる。
そして、本作では覇道神連合という主人公側の陣営、つまりは味方である。はっきり言って、想像できない状態である。
相州戦神館學園 八命陣
別世界観の本作では、作中の格ゲーを含む神座万象シリーズを紹介するCGに少しだけ描かれている。
顔文字
(∴)メツジンメッソー!
作中で頻繁に登場する三つ目のCGを基に誕生した顔文字。
神座万象シリーズ問わず、正田崇作品において自己愛に満ちたネタ風味のコメントを述べる際に用いられる事が多く、汎用性が非常に高い。