『己の心』と書いて、忌まわしいと読みます。
己の心に従って、堕ちていくのが忌まわしいのなら……それもまた、良いものですわ
概要
『黒猫館』とは、アダルトアニメOVA『くりいむレモン』の11作目である。
昭和初期、田舎の郊外に建つ洋館と、その住民たち……美しい未亡人、その娘で奔放な幼女、清楚なメイド……と繰り広げる、淫靡かつ甘美な日常を描いた作品である。
当時のモダニズムを再現し、エロスのみではない「大人向け」な雰囲気を漂わせており、それまでの「くりいむレモン」の作品群とは異なる魅力を有した、隠れた名作と呼ぶべき一作と言える。
くりいむレモンシリーズでは初の男性が主人公で男性視点でストーリーが進み(旧シリーズでは唯一)、主人公と複数のヒロインという形ではあるが、亜美シリーズにおける野々村亜美のような、明確なメインヒロインは設定されていない。
物語
昭和16年、初冬。
帝都の学生、村上正樹は、小さな新聞の求人広告を目に留めた。それは、信州の山奥にある館にて、書生を募集しているというもの。
給金3千円という金額にも惹かれたが、世間では統制の空気が強まり、日に日に息苦しくなっていたのを感じていた村上は、それらから離れたいと願っていたのだ。
その館へと向かう村上は、途中で拾ったタクシーの運転手から、近隣の者たちが、館……鮎川邸の事を、『黒猫館』と呼んでいる事を知る。
『黒猫館』に辿り着いた村上は、鮎川家の娘、鮎川亜理沙と、メイドの少女、あやに出迎えられる。
館の主人は、妖艶な未亡人、鮎川冴子だった。
冴子は、海外から取り寄せたワインを村上に勧める。それを飲みながら、村上は冴子が書生を募った理由を聞いた。
三ヵ月前に夫に先立たれ、男たちは戦争に駆り出され、寂しさを感じているのだと。
それを聞いた村上は、冴子の色気に当てられ、そして……誘われるままに、冴子に押し倒され、肌を重ねる。
邸内には、冴子と亜理沙、あや。この三人と自分以外、誰もいない。
なのに、毎日誰かに見られているような気がしてならない。そればかりか、ラジオや電話もなく、新聞も取っていなかった。
何やら、言葉にできない妖しげな予感を感じる村上だったが、考えがまとまらなかった。
やがてある日、亜理沙が村上に、バイオリンを披露していた時。
演奏を終えた彼女は、悪戯っぽく告げた。
「亜理沙、知ってるのよ。お兄様がお母様と毎晩一緒にしてること」「亜理沙にも、してほしいわ」
幼いながらも、母譲りの妖艶さで迫ろうとする亜理沙。村上は「悪ふざけはよしなさい」と、その場を離れる。
そして、その日の夜も。冴子に勧められるままにワインを口にする村上。
情事を終え、一休みしている時。冴子はあやを呼びつけ、村上の目前で服を脱がせた。
あやの服の下には、淫靡な下着姿が。冴子は言う。
「主人が生きていた時には、三人でよく愛し合ったものです」
あやを交えて、再び身体を交える村上。物音に気付いた冴子は、扉の外で自慰をしつつ、この光景を覗き見ていた亜理沙を招き入れる。
冴子に、あや、亜理沙。
三人の女性たちと、とめどなく交わり続ける村上だったが……。
登場人物
- 村上正樹
この物語の主人公。
帝都に住むが、戦争に進む世間に息苦しさを覚え、それから離れようと『黒猫館』の募集を受ける。
普通に健康で若々しい学生だが、冴子に押し倒され、その肌を重ねる。冴子からは「初めてではないのでしょう?」と尋ねられたが、劇中ではこれ以前に経験があったのか否かは不明。
- 鮎川冴子
『黒猫館』の当主である未亡人。
妖艶な雰囲気を漂わせた、成熟した肉体を持つ美女で、右目下に泣きぼくろがある。
近隣の男たちは戦争に行ってしまい、夫は他界。男が近くに居いない寂しさから、書生を募集したとの事。村上にワインを勧め、酔った彼を押し倒し、自らの肉体を用いて彼と交わった。
最初の逢瀬の時には、最初に絶頂を覚えた後、村上のズボンからベルトを抜き取り、「これで私の手を縛って」とねだった。
そのまま後ろ手に縛られ、後ろから突かれつつ再び絶頂する。
やがて、数日後にはあやを呼びつけ、夫が存命中には三人で交わっていた事も村上に告げる。
『己の心と書いて、忌まわしいと読みます』
『己の心に従い堕ちるのが忌まわしいのなら、それもまた良いものですわ』というセリフを口にした。
- 鮎川亜理沙
※メイン画像の少女
鮎川冴子の娘。年齢は不明だが、十歳前後と思われる幼女。
まだ幼いが、母親譲りの泣きぼくろと色気とを既に有しており、淫靡さもまた受け継いでいる。
村上と母親とが、来て早々に肌を重ねる様子を扉の隙間越しに覗いており、覗きながら自慰にふけっていた。
その後、スカートを自らめくり、村上を誘惑していたが、彼には流される。
そして、冴子と村上の行為を覗いながら自慰している事がばれてしまい、その直後にあやとともに混じり、四人で同時に快楽の時間を過ごす事に。
バイオリンを嗜み、村上に披露した。また、黒猫を飼っている様子。
- あや
※上記右のメイド。
黒猫館の家事全般を受け持っているメイド。年齢は村上と同程度らしく、まだうら若き女性。
可憐な性格だが、既に冴子と前当主とは肌を重ねており、愛奴のような事も行っていた様子。
その身体は、冴子ほどではないが、相応に成熟している。冴子にある夜呼ばれ、村上の前で脱衣を命じられ、それに従い、エロティックな下着を着用している様を見られる。
その後、冴子からの愛撫を受けながら、村上と交わりつつ絶頂し、口づけをかわす。
村上の身を案じるようになり、彼に前の当主の末路と、いつも飲まされているワインの事を話すが……。
続編
キャラデザイン、ストーリー原案、コンテ、原画、作画監督を務めた富本たつや氏によると、続編の構想もあったという。
それによると、舞台は上海。
大日本帝国の興亡と合わせるように展開し、退廃の中で、滅びゆく者たちを描いていく予定だったらしい。
しかし、創映新社のやり方に疑問を抱いていた冨本氏は、この後に一本参加した後、「くりいむレモン」から離れてしまった。
後に、別のスタッフにより、続編が「くりいむレモン」のレーベルから販売された。
「……『黒猫館』の日々から30年が経ち、都内で法律事務所を開く村上が、新聞にまた再び黒猫館からの求人広告を発見。
訪れた東京の武蔵ヶ丘に建つ黒猫館は、過去のあの館と同じ姿で、30年前と同じ姿の冴子と亜理沙とも再会。老若二人のメイドまでいた。
更に気が付くと、村上は自分自身の姿も若返っていることに気付き、昔と同じ肉欲の日々が再開する……」
前作のスタッフが、冨本氏を含め未参加のため、あまり評判は良くない。
小説
倉田悠子氏により、「黒猫館」「続・黒猫館」のノベライズが執筆された。
「続~」の方は独自の内容であり、アニメとは異なる。
長らく絶版で、中古界隈でも価格が高騰していたが、近年になって二冊の合本という形で復刻された。