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SCP-1430-JP_Archived-Data.scp
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[ 展開しました。アイテム番号: SCP-1430-JP ]
概要
アイテム番号: SCP-1430-JP
オブジェクトクラス: KETER
SCP-1430-JPとは、太陽系から約20万光年離れた位置に存在する、一般的に"ホワイトホール"と呼ばれる天体のことである。人類の居住空間からこれだけ長い距離があるため、SCP-1430-JPは収容を必要としないが、その代わりに一般社会がSCP-1430-JPに気付かないようにしなければならない。そのために、イベントホライズンテレスコープ(実際の世界でも行われている、ブラックホールの姿を捉えるプロジェクト)の関係者に記憶処理が施されたり、世界各地の天体研究機関・観測所に財団が介入したり、SCP-1430-JPの存在が露見しかねない実験を中止・無期限に停止したりしている。
ブラックホールが周りのあらゆるものを吸収するのと同じように、SCP-1430-JPは常にあらゆるものを放出していて、放出されたものはSCP-1430-JPの持つ重力に引かれてその周辺に球状に残り続けている。これらの放出物が起こす相互作用を利用して、財団はSCP-1430-JPの観測に成功した。
SCP-1430-JPを含むその周辺の空間は、いわゆる"閉じた領域"を形成していて、時間の流れが外部と違う。このおかげでSCP-1430-JPは存在することができていると考えられている。また、「ホワイトホールから物質が放出される」ということは、「他の場所のブラックホールで物質が吸収」されているということを意味していて、放出物はもともといつ・どこにあったのかを調査するため、財団は研究を進めている。
2006年に発見されたSCP-1430-JPは、年月の経過にともないその質量・規模を拡大しつつある。この"閉じた領域"の中では時間が"反転"、つまり未来から過去へと進んでいると考えられている。つまり……どういうこと?
この膨張が続いたらどうなるかが全くわからないため、その危険性を考慮してSCP-1430-JPはKeter分類されている他、SCP-1430-JPがK-クラスシナリオを引き起こす可能性を考慮して、財団はアビサル・プロジェクトを計画・実行した。
アビサル・プロジェクトはSCP-1430-JPのの様々な性質を知るための計画であり、財団の技術を用いて、SCP-1430-JPの座標・規模・形状・時間的閉曲線の保持・重力の強さ、という五つの要素を特定・算出・把握・監視している。
補遺
2017年2月14日、SCP-1430-JPから一体の実体が姿を現した。これはSCP-1430-JP-Aに指定され、財団に回収された。
損傷が激しい機械群であるSCP-1430-JP-Aからは、財団に関する情報に加えて、多元宇宙へワープする方法をまとめた研究資料、宇宙の観測記録などが見つかった。また、機内からは財団職員のウィルフレッド=ボイド氏とDNAが一致する死体が見つかったが、なぜ存命の彼と一致する死体が存在するのかは不明である。
機内から回収された音声記録を以下に記す。
記録開始、クリスティー、自動操縦を開始。音声認識。シグナルグリーン。さて、話をしよう。
私はウィルフレッド。財団の宇宙飛行士だ。もっとも、スペースプレーンの操縦など初めてだがね。重要なデータは保管されているから、手短に話そう。
簡潔に言って、我々の世界は滅んだ。一つの逆因果と空想科学によって。このメッセージは過去、つまり君たち宛ての遺言となる。我々は"未来"も含め膨大な量の情報を収集した。限りなく安全に近い惑星の探査のために。君たちの宇宙はやがて滅ぶこととなる。原因は君たちの観測している通りだ。問題はそれを止める方法が無いってことだ。我々は無数に試行を繰り返したが、無駄だと理解した。
理解したころには遅すぎた。そして恐らく、君たちも諦めはしないだろう?だから、せめてこのデータを渡す。これを元に移住可能な惑星を探すんだ。既にアンドロメダ銀河の方向へ30万光年は調査が入っている。逆方向なら効率的だ。
だから──クソ。そろそろ限界だ。音声記録は程なくして強制終了する。諦めるな。残機は幾らでもある訳だし、ゲームをリセットするだけで続行はできるんだ。[データ破損]そろそろお別れだ。だが[データ破損]嗚呼……
これで一体何度目なんだ?我々はこの目的のために、何度リセットを繰り返しているんだ?誰か、[データ破損]知っているのなら、教えてくれ[データ破損]神よ。
この内容からSCP-1430-JP-Aは、未来時点のとある場所からSCP-1430-JPを通ってワープしてきたのだと考えられている。また、前述のアビサル・プロジェクトによって、SCP-1430-JPが膨張を続け、なおかつ太陽系へ近づいていることが明らかになっている。長くとも750年以内には、太陽系はSCP-1430-JPに飲み込まれることになるとのこと。
財団の明日はどっちだ。
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[ 警告: アビサル・プロジェクト検知 ]
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[ 展開しました。アイテム番号: SCP-1430-JP]
Good Night And Have A Sweet Dream.
Abyssal Project is Still Ongoing.
アイテム番号: SCP-1430-JP
オブジェクトクラス: ESOTERIC / APOLLYON
SCP-1430-JPの収容は不可能です。
……成長と太陽系への接近を続けたSCP-1430-JPは、太陽のおよそ12億倍の質量を持ち、太陽系から約四万光年離れた位置に存在する、大質量のブラックホールと化していた。
SCP-1430-JPの因果が逆転していることと、一般にブラックホールは無→原始星→巨星→ブラックホールの順に成長してうまれることを考慮すると、SCP-1430-JPはある程度まで膨張したのち、巨星・原始星のプロセスを経て最終的に消滅すると思われている。
なんだ、消滅するなら安心じゃないか……と思うかもしれないが、現在の宇宙はSCP-1430-JPの重力に引っ張られて徐々に収縮しており、これが続けばやがて宇宙は無次元の特異点に収束する=いわゆる"ビッグクランチ"を迎えることになる。
これをYK-クラス”ドゥームズ・デイ”シナリオと定義した財団は、これを回避するために様々なプロトコルを提起していたが、もはやこの発生は回避不能であると断定された。今は文明再建のための最終プロトコルとしてアビサル・プロトコルが進行中である。
アビサル・プロトコルの目標は、時間の流れが逆行しているSCP-1430-JPを通じて、過去にメッセージを送り込むことである。このために使用される、財団製AIクリスティーが管理する自律走行スペースプレーン「SCPSアヴェンジャー」の開発に財団総資産の三分の一が用いられていることから、本当に財団の最終手段なのだと分かるだろう。
そして、この搭乗員に選ばれたのが、サイト-Ω-81の宇宙飛行士──ウィルフレッド=ボイド職員である。
もうお分かりだろう。
2017年に、まだホワイトホールだった頃のSCP-1430-JPから現れた機械群は、SCPSアヴェンジャーの成れの果てであり、その中にあったウィルフレッド=ボイドの死骸は、未来からやってきた彼のものであった。
おそらく、SCP-1430-JPによってYK-クラスシナリオが発生するたびに、ウィルフレッドは過去へメッセージを届けて死亡し、過去のウィルフレッドがそれを受け取り、時が経つとまたSCPSアヴェンジャーに乗り込み……というのを繰り返していると思われる。無限ループって怖くね?
この記事の最後は、YK-クラスシナリオが実際に進行する中で、SCPSアヴェンジャーに乗って打ち上げられた彼が、過去へのメッセージの音声記録を開始したところで終わっている。2017年に届いたものと同じように……
記録開始、クリスティー、自動操縦を開始。音声認識。シグナルグリーン。さて、話をしよう。
私はウィルフレッド。財団の宇宙飛行士だ。
そうして今回もまた、歴史は繰り返す──手が届くことのないものに、手を伸ばし続けて。
それはまさに──
SCP-1430-JP
鏡花水月
CC BY-SA3.0に基づく表示
SCP-1430-JP
by Enderman_desu
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1430-jp