概要
SCP-1450-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト (SCP) の一つ。 オブジェクトクラスはKeter。
SCP-1450-JP対策のため、財団の中で「プロトコル・アップグルント」が実行されているらしい。
しかし、本報告書以外でSCP-1450-JPの情報は削除されているらしい。また、財団の職員らはどのような地位にいてもSCP-1450-JPに関して記憶処理を施し、それに関して無知であるよう振る舞うらしい。
しかし、旧プロトコルでは傍線で「全ては手遅れでした」とある。どうやら、コイツはかつて財団には手のつけようのない代物だったようである。
コイツの正体とは?
そして、「プロトコル・アップグルント」とは?
また、この記事はかなり情報量が多い。
だからあらかじめYouTubeなどで知識を埋める事をおすすめする。
発見一週間の記録
コイツは何かというと、不定形の概念である。
財団がこれを発見した際、これはもうかなり基底世界の広いところまで侵食し、収容不可能な状態になっていたのだそうだ。ディアス博士によるとSCP-1450-JPは少なくとも流体に似た挙動を取り、 覆われた概念と結びついて、"不確定の世界"に隔絶するらしいとか。
更に、この記録にはディアス博士らの研究記録だけでなくアノマリーの徹底破壊を目指す世界オカルト連合(GOC)の音声記録が添付されている。どうやらSCP-1450-JPはGOCによって世界各国の要請のもと使用されているらしく…
トップシークレットの機密として扱っているらしい。
一週間後の記録はGOC上層部からの文で締めらる。
それでは共に最大限の努力を為しましょう。我々の"日常"を取り戻すため。 ――GOC上層部
発見二週間後の記録
さて、あれから侵食したSCP-1450-JPは、やがてこの世のSCiPなどアノマリーを世界から大量に消滅させた。
こいつの影響で消滅したKeterクラスオブジェクトを含むSCiPや要注意団体に対して、財団でさえ「元々架空の存在だろ?」という認識しか持てなくなったくらいだ。
SCP-1450-JPの使用状況に関してGOCへの調査を開始した潜入調査員からの報告によると、GOC上層部の再編があり、各国との関係性を今まで以上に強化する方針を打ち出し、またいくつかの部門から特に優秀な人材が引き抜かれたという。作戦に関する詳しい情報を得るにはGOCの幹部クラスを尋問する必要がある。
しかし、それをやるとGOCとの関係が悪化する恐れがあることからそれは保留になったらしい。
さて、ここで読む人に忠告する点がある。
それは…。
発見後3週間以内の記録
この頃より、現存するオブジェクトの最低限の維持に必要なものを除く全てのリソースがSCP-1450-JPの収容へ割り当てるようになった。
一旦は保留となっていたGOCの幹部クラスへの尋問が実行されたくらいだ。
SCP-1450-JPの研究に携わったクライ研究員は、108評議会の構成員の一人であり中規模のオカルト組織の代表でもある「D.W.」なる人物を尋問した。
D.W.は当初財団の非礼な行為に憤怒していたが、インタビューを進めていくうちに気になることを口にし始めた。
(以下、インタビュー)
クライ研究員:では、現在起きている異常事態についてもご存知ですか?
D.W: 知ってるよ。おかげさまでこっちも色々大変なんだ。
クライ研究員: "こっち"とは? GOCのことですか?
D.W: いや、俺が代表をやってるほうだ。おそらくだが、資産やメンバーがどんどん減ってる。誰もなくなったものについての記憶は持っていないけどな。
なんと、このSCPの影響は要注意団体と同様、GOC傘下のオカルト団体も影響を受けているらしい。
D.W: 一番怪しいのはあいつだよ、GOCの新しい事務総長だ。 あいつは理想に過激なところがあって108のやつらも危惧してたんだ。GOCってのは俺らみたいなやつらの集まりのくせに、アノマリーを破壊するっていう自己矛盾を抱えてるんでな。
クライ研究員: ではなぜ今まで気づかなかったのですか?
D.W: あいつは俺らに対してすぐにぺこぺこするから、事務総長になった後は"腰抜け"ってことでみんな安心してたんだ。あいつが新しいプロジェクトを始めるとか言い出したが、誰も腰抜けのあいつを警戒してなかったよ……。
D.W: 結局、あの腰抜けにまんまとハメられたよ。死んじまえ。
これでインタビューは終了している。
事態は手段の選択に時間をかけてはいられないほどに切迫しています。GOCに対する協力要請に返答がない今、もはやGOC、特に事務総長の関与は明白です。
したがって、ここにGOCへの攻撃及び事務総長の捕縛作戦の実行を提案します。
D.Wはなぜここまで恨みを持っているのだろうか?
発見後4週間以内の記録
しかしGOCへの攻撃作戦は実行されることはなかった。
捕縛するも何も、GOCの事務総長とその側近は各国の首脳級が集まる会議でどこかの国の仕込んだ毒で死んだのだ。
同時に、GOCもSCP-1450-JPの侵食を受け始め消滅した。そう、GOC事務総長は傀儡に過ぎなかったのだ。
この項目では結局、SCP-1450-JPの正体や正確な原理は最後までわからない。
だが、「使用者と用途」はこの時点でハッキリした。
・アメリカ、中国、ロシア、日本など世界各国が「異常」を財団や要注意団体ごと"架空"にする秘密兵器。
それがSCP-1450-JPであった。
これまでSCP-1450-JP被害状況報告書の中身は、財団からしたらすべて"架空の存在"として認知されているものばかり。それはなぜかと言うと、SCP-1450-JPを形成する"不確定の世界"は、人々の想像力により変動する"創作"の世界だからだ。
しかし、それを知った財団の倫理委員会は、SCP-1450-JPの収容を諦めるよう命令を出した。
理由としては、
1.SCP-1450-JPによる一般人の被害は存在しない。
2.SCP-1450-JPはあらゆるオブジェクトに対し、半永久的で安定した収容状態をもたらす。
3.財団はすでにSCP-1450-JPによって壊滅状態であり、残存するオブジェクトを安全に収容する能力に欠けている。よって、SCP-1450-JPによる侵食の遅延は、残存するオブジェクトの収容違反につながる。
とのこと。
要するに「SCP-1450-JPは財団の理念に合致してるから、諦めてみんなで創作の世界に閉じ込められようね!」ということである。
これより倫理委員会はO-5並の権限を持ち、これに違反した者は即刻捕縛・終了するとまで記載されている。
だが、不穏なのはここから。
4週間以内の記録はクライ研究員の独白で終わるのだが。
死んじまえ。それが俺の願いだ。叶えてくれるか?
まあ無理だろうな。
もちろん理解はしているよ。俺達はアノマリーとともに取り除かれなければならない。だが、一つ言わせてくれ。
俺たちはあらゆるものを犠牲にしてこの世界を守ってきた。陰に隠れて、感謝なんてされないまま苦しい心を見ないようにしてやってきたんだ。
それができたのはなぜだと思う?
一つは、仲間がいたからだ。一緒に酒を飲んで、全部ゲロと一緒に吐き出せる仲間がいたからやってこれた。
もう一つは、確信があったんだよ。俺たちがやってることをみんなが知れば、俺らは感謝される。そういう確信が。
何度も夢を見たよ。ただふとした瞬間に、ありがとうと言ってもらえる自分を。そして、亡き友の墓の前に数えきれない花が捧げられる光景を!
だが、お前らはすべてを俺から奪ったんだ。
仲間も、感謝されるという願いさえ。
ついでに俺は、俺達のこれからの悲惨な未来についても知っているんだ。きっと俺達はお前らの「創作」によって永遠にひどい目に遭い続ける。
だから俺は覚悟を決めた。この引き金を引くだけで、少しはましな結末をたどれるだろうよ。
複数の銃声、録音終了
…なんだか嫌な予感がしてきたぞ?
発見後5週間以内の記録
発見後4週間以内の記録にて倫理委員会により財団が統率される中、ノイマン博士は研究を続けていた。
なんでも、SCP-1450-JPの作り出す世界が作り出されるのは、「創作した時」だけではなく、それを受け手が認識したときにも現れるのだとか。
私は、この世界を愛していたのではない。
"仲間や家族、そして私がいる世界"を愛し、取り戻そうとしているのだ。それの何が悪いというのだろうか。
やはり、彼もクライ研究員と同じ思いだったらしい。
この独白と同時にノイマン博士は倫理委員会の下にいる人間に捕縛された。
しかしここで悲劇が起こる。
それは倫理委員会が襲撃された事。財団内でクーデターが発生したらしく、これによりSCP-1450-JPの影響を受けなかった倫理委員会評議員3人が死亡。
倫理委員会の権限はO5-3の手に渡り、SCP-1450-JPの研究に対する凍結命令は解除された。
なんでも、「財団がSCP-1450-JPの定義する世界に移行した場合、財団の指す"世界"とはSCP-1450-JPの定義する世界に変更されることが予想され」「SCP-1450-JP影響下の世界は外部からの影響により容易に変化、複数のKクラスシナリオの発生をもたらす」らしい。これにより、世界を保護するためにSCP-1450-JPを収容する必要があるのだ。
でも、そんなの方便に過ぎない。 O5-3は公式な宣言を切り上げ、私的な発言としてこう言い放った。
君たちの守りたかったものはなんだ?本当に守るべきものはなんだ?
自分たちの頭で考えるんだ。自分が守るべき世界がどんな世界なのかはっきりさせろ。そして、覚悟を決めろ。
我々はまだ終わっていない。我々はまだここにいる。
全てを捨てる覚悟はできたか?
非難を受けて背中を刺される覚悟はできたか?
私はすでにできている。そして、親愛なる君たちの多くが私の後に続くことを確信している。
さあ、悪を始めるぞ。
あの事件以降SCP-1450-JPを運用していた者達は、致命的過ぎる見落としをしていた。
人間は大切なもの全てを奪われ、踏み躙られたら……どんな完璧な大義名分を持っているから、実際に繁栄と平和を築いているから、拳を振り上げるの止める、なんて事は普通は出来ない。
どんな事情や大義があろうとも、無辜の民の幸福と命を盾にされようとも、自分達の全てを奪ったものの全てを打ち砕かずにはいられないという事を。
発見後6週間以内の記録
委員会が崩壊し完璧な対アノマリー兵器に思えたSCP-1450-JPはひとつ致命的な弱点を有していた。
要は「あまりにも強力すぎて、使い終わった後にその所有権の問題で各国のパワーバランスを崩す」「それを未然に防ぐには、すべてが終わった後は無力化して破棄するしかない」のである。
(最初は制御の仕方を知っているだろうGOCに管理させようとしたらしいが、侵食が十分に進んだところで用済みになり、財団同様創作世界に押しやられたとか)
こうして、「一旦敗北して時機を待ち、SCP-1450-JPが無力化したところで帰還する」計画=「プロトコル・アップグルント」の策定が始まった。
そうなると課題は自らのいる創作世界と正常化された世界を壊す方法だけだが、ディアス博士とノイマン博士はこれまでの研究により非常に簡単な方法があることに気付いた。
それは、正常化された現実世界の人々に彼らの記録を「読ませる」ことである。
そして、「プロトコル・アップグルント」のために必要な文書にはこのように記載されている。
この文書が接続することを許可しますか?
そう、このSCP-1450-JPの報告書こそ「プロトコル・アップグルント」の鍵であり、正常化された世界にとって緋色の鳥の祝詞、そしてその存在そのものや山荘で発生した再開したら止まらない連鎖殺人と同じく、知った時点で終わりな代物なのだ。
「アップグルント」とは「奈落」を意味する言葉。正常化された世界を奈落に再び突き落とすプロトコル。
しかもこれは説明が後付になったとしても「それをした」という認識がある限り効力を発揮するし、更には読む人間が多ければ多いほど成功率が高まるという……そんなの、止められるわけないだろ。
勿論、結局これは全部誰かの創作……と思うだろう。
しかし、著者のk-cal氏はコメント欄でこのように発言している。
普通、こういった記事は作者の目線からは虚構であることがわかるものですが、私は記事中で"作者の目線さえ記事を虚構であると断定するには不十分である"ことを記述してしまいました。
つまり、作者である私でさえこの記事が完全なる虚構であると胸を張って宣言することができなくなってしまったのです。
実はこの報告書、ディアス博士とノイマン博士の共同研究レポートの中で「創作世界」の住人が、我々の創作行為に干渉する余地について言及しているのだ(「頭の中でキャラクターが勝手に動き出す」など)。
もしそうだとしたら……、
この記事を読んだ我々の「この世界」が、SCP-1450-JPにより正常化された世界でないと、何故言えるのだろうか?
そしてこの大規模な記事の締めとして自殺したはずのクライ研究員による「親愛なるあなたたちへ」というメッセージで終わりにしようと思う。
クライ研究員はあの録音のあと、自らのもとにやってきた倫理委員会の人間を射殺していた。
当初は処刑されることを覚悟していたが、財団内にはディアス博士など自分と志を同じくする者が多くいた。クライ研究員は彼らに合流し、この帰還作戦に携わってきたのだ。
……その語り口はとても穏やかだ。
死を覚悟して倫理委員会に歯向かう前に「あなたたち」に惨たらしい死が訪れる事を心の底から望んだ時とは真逆に。
それもそうだろう。
誰だって、死刑囚には優しいものであるから。
そして、クライ研究員は、このプロトコル施行後に「あなたたち」へ最後通告を送る。
ただふとした瞬間に、ありがとうと言ってもらえる自分を。そして、亡き友の墓の前に数えきれない花が捧げられる光景を望みながらも、その可能性は愚か存在そのものを完膚なきまで否定した「あなたたち」へと。
今のうちに窓の外の景色を目に焼き付けておけよ。
お前らの世界はこれからお前らが俺達に贈り続けたクソッタレな創作物=異常に徐々に蝕まれていくんだからな。
俺達のことを恨むか?少なくとも俺はお前らを恨んだよ。
まあ結局、どっちも死んだほうがいい悪人ってことだな。
でもまあ。これからは一緒の世界に住む仲間なんだからよろしくな。
じゃあ、俺の記憶処理が済んだらまた会おう。
地獄でな。
ありったけの憎悪と殺意の言葉を『あなたたち』に告げた後、仲間も、感謝されるという願いさえ…
全てを奪われた『財団』はそのプロトコルを完遂させた。
財団は還ってくる。彼らの明日を否定した我々のもとに。
ただ自分達を否定した世界の全てを、今度は自分達が否定する為に。