直流モーターの基本
直流モーターは、外周部の界磁コイルで発生させる磁力と、回転部のコイル(電機子)で発生させる磁力の吸引反発を利用して回転力を得る仕組みである。
また逆に、界磁中でコイルを回転させると、界磁力と回転速度に比例した電力を発電できるという特徴もまた基本である。
界磁をコントロールする理由
界磁の制御は、界磁コイルに流す電流、つまり界磁力を自由にコントロールして、モーターの物理的性質をフル活用するために必要な手段の一つである。
- 高速化のために使う(通称弱め界磁)
回転速度が上がるとモーター自身の発電電圧が電源電圧に近づくため、逆向けに取り付けた電池のようにモーターに供給する電流を阻害し始める。これが高速域での加速を鈍らせ、電車の速度を頭打ちにさせる物理的な要因である。
高速域でさらに回転力を上げたい場合は、ここで敢えて界磁の電流を弱めて発電力を抑えることによって、電機子の電流を再び増加させるという「損して得取れ」手法が編み出された。
例えば、界磁を80%に落とすことで回転力は80%となるが、同時に発電力も80%になるため、その結果仮に電機子の電流が2倍になれば、何もしないときに比べて160%の回転力となる。
モーターの速度と界磁の強さにおける回転力の比
定格速度の0% | 60% | 100% | 150% | 200% | |
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界磁100% | 100 | 40 | 0 | -50 | -100 |
界磁80% | 80 | 42 | 16 | -16 | -48 |
界磁60% | 60 | 38 | 24 | 6 | -12 |
界磁40% | 40 | 30 | 24 | 16 | 8 |
界磁20% | 20 | 18 | 16 | 14 | 12 |
※停止時の界磁100%での回転力を100とする
- 電力回生のために使う
上記の逆バージョン。発電力は界磁と回転速度に比例するので、逆にブレーキを掛けたいときに界磁を強めることで、モーターからブレーキ力と発電力が取り出せる。速度が出ているときに行うと電源電圧(1500V)よりも十分高い電圧が発生するため、パンタグラフを通して電力に架線に戻すことができるようになる。これが電力回生の基本ルールである。
モーターが定格速度を下回ると、いくら界磁を強めても発電電圧が1500Vを超せなくなり、そこで回生の打ち切りとなる。
(打ち切り速度の参考)モーター単体だと定格に等しい40~50km/h、モーターを直列つなぎにしてにさらに絞り出すと20~25km/hぐらい。
界磁をコントロールする手法
大手私鉄では、界磁コイルと逆向きにもう一つサブの界磁コイルが巻かれた特殊なモーターを使い、半導体スイッチでそのサブ界磁力をコントロールして全体の界磁力を減算する、界磁チョッパ式励磁制御なる方式が広く利用されていた。しかし国鉄には「特殊形状のモーターを大量投入する金銭的余力がない」「民間企業が独占する技術を使えない」「会話の通じない組合がいる」等の理由があり、採用されることは無かった。
そんな中、国鉄で研究開発されたのが界磁添加励磁制御である。界磁コイルと並列にバイパス回路を引いて、界磁電流の一部をバイパスルートに逃がすことで界磁力を滑らかにコントロールすることができる。バイパスルートによる弱め界磁は、後期の抵抗制御方式でも採用されていたが、そのバージョンアップと言える。
抵抗制御 | 主回路と同じように、バイパスルート用にも複数の抵抗器を用意し、回路組み換えによって抵抗値を可変させて界磁電流を階段状に切り替える。切り替えスピードは遅く、滑らかな制御が出来なので一般的に回生には使われない。 |
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界磁添加励磁制御 | バイパスルートに別電源で作ったカウンター電流を常に流しておき、カウンター電流の強弱で界磁電流をアナログ的にコントロールする。カウンター電流は一般的に冷房用の交流電源を拝借し、半導体の交流位相制御回路で作るので、変化量は滑らかで応答も早い。 |
(参考)界磁チョッパ制御 | 界磁コイルを2つ持つモーター(複巻電動機)を使う。メインの界磁コイルは普通の抵抗制御と同じ役割で、サブの界磁コイルはメインの界磁力を打ち消すよう機能する。サブ界磁電流を半導体の直流チョッパ回路でコントロールすることによって全体の界磁力を変化させる。 |
以上のように、界磁チョッパと比較して、抵抗制御方式をもとに周辺電気回路の入れ替えだけで済み、従来のモーターと同じものが使えるということもあって、あまり新機軸を採用したくなかった当時の国鉄にはうってつけだった。
その後
本方式に先駆け、電力効率の抜本的な改善を目指して開発された電機子チョッパ方式は、改善した性能に見合わないほどの高コスト機器であり、お金がないくせに車両の大量置き換えが必要だった末期の国鉄には厳しいものであった。
本方式を最初に採用した205系と211系は省エネ性能とコストダウンを両立し、大成功をおさめた。基本は抵抗制御方式であり、起動時の熱損失は諦める方針であったため、電機子チョッパ並のストイックさは見られないものの、軽量ステンレス製車体の恩恵など、トータル性能が評価された形である。
界磁チョッパ制御と比較しても安価で幅広い範囲で回生制動ができるため、国鉄型の末期、JR各社の初期には多くの車両に採用された。
しかし開発されたのは1985年。すでに世の中の私鉄勢は直流モーター自体が時代遅れとなっており、界磁チョッパ方式どころかVVVFインバーター方式の時代に移ろうとしていたため、他社局に広く採用されるにはあまりにも遅すぎた。
国鉄においても、その後JR各社に分解されて先述の縛り(特に最後)から解き放たれたところで採用の主軸がVVVFインバーターへと移ったため、界磁添加励磁制御方式は直流モーターと共に数年で使命を終えた。
採用例
日本国有鉄道
東日本旅客鉄道(JR東日本)
- 205系電車(5000番台はVVVFインバータ制御に改造)
- 211系電車(増備車は2階建グリーン車を含む。普通車は全車ロングシート)
- 215系電車(1992年)
- 251系電車(1990年)
- 253系電車(1991年。現存車はVVVFインバータ制御に改造)
- 651系電車(1988年。日本で唯一の交流直流両用の界磁添加励磁制御車)
東海旅客鉄道(JR東海)
JR東海の界磁添加励磁制御は、補助電源を直流としているため、添加励磁制御には位相制御回路ではなく、DC-DCコンバータが用いられる。DC-DCコンバータは、直流の補助電源をインバータにより単相交流に変換し、さらに降圧・整流して直流の添加電流を得る。インバータにはパワートランジスタを用いている。
西日本旅客鉄道JR西日本)
東武鉄道
帝都高速度交通営団→東京地下鉄
- 東葉高速鉄道1000形電車(1995年、営団5000系電車改造、全車廃車)
名古屋鉄道
- 100系電車(1989年。100系116F・200番台車のみ(200系は除く))
- 1800系電車(1991年)
- 5300系電車(1986年。動力装置転用時に改造。日本の私鉄では初の採用例)
- 5700系電車(1989年。モ5650形のみ、モ5750形とモ5850形のペアは、界磁チョッパ制御)
- 6800系電車(1987年)