フェノーメノ
ふぇのーめの
馬名のFenomenoはポルトガル語で「超常現象」「怪物」の意。
長距離を得意とし、主な勝ち鞍は天皇賞(春)(2013年、2014年)など。
大型で気性が荒く、「美浦のドルジ(朝青龍)」、「美浦の黒いの」などと呼ばれ、美浦トレーニングセンターではボス格だったが、戸田博文調教師は「マメちん」と呼んで可愛がっていた。
長槍の主
おのおのの武器を携えて
戦場へやってくる者たちよ
しかしどれほどの名刀であれ
ただ振り回すだけでは
誰も斬ることなどできぬぞ
そして私は知っている
この長槍に秘められた力を
存分に引き出す術を
《名馬の肖像(2023年天皇賞・春)より》
2009年
4月20日、北海道平取町で誕生。生産は追分ファームとなっているが、おそらく追分ファームから母馬を預託された平取町のどこかの牧場で誕生したと推測される。
父ステイゴールドは種牡馬としてドリームジャーニー・オルフェーヴル兄弟やゴールドシップ、「障害界の絶対王者」オジュウチョウサンなどを輩出して大成功を収めた。
母ディラローシェはアイルランドで生まれて輸入された繫殖牝馬で、その父デインヒルは北半球と南半球を行き来するシャトル種牡馬の先駆け的存在として成功を収めた大種牡馬である。ディラローシェの半兄(フェノーメノの伯父)には父ステイゴールドとも5度に亘り激突した香港の年度代表馬インディジェナスがいたことから、繁殖牝馬として期待されていた。
小型のステイゴールドを大型のディラローシェに配合することで産駒を中くらいにするつもりが大型馬になってしまったというのは、同期の同父ゴールドシップと似た経緯であった。
離乳後、追分ファームで中期育成が行われた。
2010年
一口馬主クラブのサンデーレーシングから総額2000万円で募集される。
この頃のフェノーメノについては、募集時のカタログによると、柔らかな身のこなしや我の強そうなキリッとした顔つきなど、随所に父親の面影を感じられたという。2010年8月に追分ファームを訪問した出資者によると、この時点で454kgもの馬体重があったという。この時点でノーザンファーム空港牧場に移動予定で馬房待ちだった。
馬房が空いたため、C-1厩舎に移動し、後期育成が施された。2011年5月に牧場を訪問した出資者によると、この時点で胸囲が195cmもあったという。イメージとしては荒々しい感じとのこと。
夏に札幌競馬場へ移動。この頃のフェノーメノについてはこの時から調教パートナーとなった佐々木調教助手は「結構気の強い仔で、物見も激しく、最初は少し手を焼きました。入りも出も躊躇する面が少しあって、ゲート試験も2回落ちていますしね。子供っぽい馬という印象でした」と語っている。
そこでゲート試験に三度目の正直で合格した後、美浦の戸田博文厩舎に入厩する。
2011年
10月30日、岩田康誠騎手を鞍上に、東京競馬場で行われた新馬戦(芝2000m)でデビュー。見事、勝利して幸先のいい現役スタートとなった。なお、同日の第11レースは第144回天皇賞(秋)が行われていた。
12月25日、ホープフルステークス(オープン)では1番人気ながら7着と敗れ、2歳シーズンを終える。
2012年
1月29日、東京競馬場の条件戦(500万下)を勝利して2勝目を挙げた。この時の2着は後の天皇賞馬スピルバーグであった。
3月4日、皐月賞トライアルの弥生賞(GⅡ)に出走するが、コスモオオゾラの6着に敗れ、皐月賞には出走できなかった。
4月28日、蛯名正義騎手に乗り替わり、ダービートライアルの青葉賞(GⅡ)では1番人気に応え1着。東京優駿(日本ダービー)への出走権を得た。
5月27日、東京優駿(GⅠ)に出走するが「青葉賞で勝つとダービーで勝てない」というジンクスもあってか5番人気だった(1番人気は皐月賞2着のワールドエース)。レースは中団で進み、最後の直線で抜け出したディープブリランテを外から猛追し、ゴール板はほぼ並んで通過するが、写真判定の結果、ハナ差で届かず2着。レース後は秋へ向けて休養に入る。
9月17日、セントライト記念(GⅡ)に出走し、好位から抜け出して1着。陣営は東京競馬場の方がフェノーメノに好相性と判断し、菊花賞ではなく天皇賞(秋)を選択。古馬との戦いに臨む事となった。
10月28日、天皇賞(秋)(GⅠ)ではNHKマイルカップを勝利したカレンブラックヒルと人気を分け合うが1番人気となる。逃げるシルポートを揃って追う展開となり、最終コーナーから鋭く抜け出したエイシンフラッシュに差し切られ、半馬身差の2着に敗れる。
11月25日、ジャパンカップ(GⅠ)に出走するが、ジェンティルドンナの5着に敗れる。ジェンティルドンナとオルフェーブルの叩き合いには追いつけず、掲示板は確保したもののトップクラスとの力の差を見せつけられた。このレースは4着のダークシャドウ以外、入賞はサンデーレーシングの所属馬であった。
2013年
3月23日、休養明けで日経賞(GⅡ)に出走。1番人気に応えて1着。
4月28日、天皇賞(春)(GⅠ)に出走。前年の有馬記念優勝馬のゴールドシップからやや離された2番人気に推される。中団から徐々に位置を上げ、最後の直線で抜け出して悲願のGⅠ初勝利。天皇賞に拘りを持つ戸田調教師に春の盾をプレゼントした。レーティングはレース直後は120、最終的に上方修正され121となり、2013年のE(超長距離)区分においては世界1位である。
天皇賞での勝利により国内ではジェンティルドンナ、オルフェーヴル、ゴールドシップらと並ぶ四強と目され、グランプリ・レースの宝塚記念への出走も決まる。
6月23日、宝塚記念(GⅠ)に出走。オルフェーヴルが肺出血で回避し、ジェンティルドンナ、ゴールドシップに次ぐ3番人気となり、三強を形成。ゴールドシップはスタートが良くジェンティルドンナと共に先行集団、フェノーメノは中団で待機するが、ぬかるんだ馬場で最後の直線で一気に加速したゴールドシップに置いていかれ、4着に敗れる。秋に向けて休養に入る。
10月1日、天皇賞(秋)へ向けた調教中、左前脚の繋靱帯炎を発症し休養に入り、ムラセファーム(茨城県)で放牧される。
2014年
3月29日、休養明けで日経賞に出走し、ウインバリアシオンの5着に敗れる。
5月4日、天皇賞(春)に出走。故障を経験した事から前年覇者でありながら4番人気に評価を落とす。1番人気のキズナ、2番人気のゴールドシップが出遅れる中、中団に位置取ってレースを進め、最後の坂を越えたところで馬群を割って抜け出すと、ウインバリアシオンらの追撃を振り切り連覇を達成した。
天皇賞(春)の連覇はメジロマックイーンやテイエムオペラオーに並ぶ史上3頭目。秋に備え、宝塚記念を回避し休養に入った。
11月2日、天皇賞(秋)に出走するが、終始後方のままでスピルバーグの14着に敗れた。
11月30日、岩田康誠騎手に乗り替わり、ジャパンカップに出走するが、エピファネイアの9着に敗れる。
12月28日、田辺裕信騎手に乗り替わり、有馬記念(GⅠ)に出走するが、ラストランを飾ったジェンティルドンナの10着に敗れる。限界説も囁かれたが、翌年も春の天皇賞3連覇を目指して現役続行となる。
2015年
3月28日、戸崎圭太騎手に乗り替わり、日経賞に出走するがアドマイヤデウスの8着に敗れる。右前脚の炎症により天皇賞(春)は回避となる。検査の結果、右前脚に繋靱帯炎、左前脚に屈腱炎を発症していることが判明し引退が決定。
5月28日、競走馬登録を抹消された。
引退後は社台スタリオンステーション(安平町)で種牡馬となった。スタッフからは「フェノー」と呼ばれていた。
2018年
12月、社台スタリオンステーションからレックススタッド(新ひだか町)に移動。種牡馬として目立った実績を上げられなかった。同じく母系にディンヒルをもつナカヤマフェスタ同様に産駒の気質が良くない傾向があったという。
2021年
種牡馬を引退し、追分ファームで功労馬として余生を送ることとなる。
2022年
去勢され、リードホース(離乳し母から離れた子馬の群れを精神的に支えるリーダーのような役割)としてデビューを果たし、第三の馬生を歩んでいる。当初は初対面の子馬たちに仲良くしようと近寄ったところ、逃げられてしまい、途方に暮れたり、距離は近くなったものの子馬たちにそっぽを向かれたりしていたが、今はすっかり打ち解けており、新米リードホースとして頑張っている。
性格・好物・癖
気性難で有名なステイゴールド産駒の中では(比較的)真面目な性格だった。
戸田調教師曰く「ゴールドシップやオルフェーヴルのようなヤンチャな面はなくて、競馬に行ったら真面目なのですが、普段はちょっと気性的にきついところがあって」、佐々木調教助手曰く「ステイゴールド産駒にしては落ち着いてるんじゃないですかね。オンとオフがしっかり使い分けられるような」とのこと。
また、見学者に対しては愛想はよくないとのことで、見学者が「マメちん」と呼んでも無反応であったという。
後述の通り、ボス馬であるが、若い頃は1頭になると寂しがり、キョロキョロしたりする子供っぽさもあった。
2013年の日経賞前にはそれも無くなってきたという。
好物は青草と人参。スライスした人参を食べきれないくらい口に入れてこぼしたりしていたという。
また、パドックや調教中にちらっと横目で人を見る癖?があるという。
戸田調教師
フェノーメノを「マメちん」と呼び始めたのは管理していた戸田博文調教師で、初めて見た仔馬時代に黒豆のような色艶だったからという事。
この呼び名をフェノーメノ自身が気に入ったかは定かではないが、戸田調教師に「マ~メちん」と呼ばれた際、それに反応するように嘶く映像が残っている。フェノーメノの引退後も戸田調教師はニンジンをお土産に社台スタリオンステーションまで頻繁に会いに来てくれたため、フェノーメノはヒンヒン鳴いて喜んでいた。
佐々木調教助手
フェノーメノの同期ジェンティルドンナを担当する石坂厩舎の井上調教助手とは学生馬術でも競馬学校でも同期であり、ジェンティルドンナを応援する一方、負けられないという意識を持っていた。対する井上調教助手も「絶対フェノーメノには負けない」と語っている。馬と調教助手の同期対決という形になったが、フェノーメノの対ジェンティルドンナ戦績は最終的に5戦5敗となり、井上調教助手に軍配が上がった。
佐々木勝利調教助手はフェノーメノを「メノ」と呼んでいた。
ゴールドシップとの関係
美浦トレーニングセンターではボス格で、同じステゴ産駒で栗東の須貝厩舎のボスであるゴールドシップとは仲が悪く、レースで顔を合わせる度に威嚇され、威嚇し返していたという。
特に2014年の春天の際には隣のゲートのゴールドシップから馬とは思えないような野太い声(例えるなら熊が吠える声に近い)で威嚇されているが、気にせずきれいなスタートを切り快勝。
体色が黒いフェノーメノと白いゴールドシップとで対照的でもあり、名実ともに因縁のライバルと呼ぶに相応しい関係だろう。ゴールドシップを管理していた須貝尚介調教師は2013年の天皇賞(春)の前に「リベンジを果たしたい」、今浪隆利厩務員も2013年の宝塚記念前に「あの馬だけには負けたくない」と語っている。最終的なゴールドシップとの戦績は3勝2敗で、勝ち越している。
オルフェーヴルとの関係
また、社台スタリオンステーションでは同じステイゴールド産駒のオルフェーヴルのことも大嫌いであり、彼が前を通る度に威嚇していたという。対するオルフェーヴルも威嚇し返し、柵越しに蹴りをする素振りを見せることもあるなど、互いに嫌い合ってた様子。
同窓ジャスタウェイ、カレンブラックヒル
フェノーメノがデビュー前に後期育成を受けたノーザンファーム空港牧場のC-1厩舎には後にレーティング世界1位となるジャスタウェイと無敗でNHKマイルカップを制覇するカレンブラックヒルがいた。現役時代はジャスタウェイとは2勝2敗。カレンブラックヒルには2勝。
なお、フェノーメノが天皇賞(春)を連覇した際に一口馬主に配られた記念品のQUOカードつきブックレットの文章を書いたのは同窓ジャスタウェイのオーナーである脚本家大和屋暁氏である。
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