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種牡馬

しゅぼば

牝馬(ひんば、メス馬)との性交によって精子を提供し、子孫を残すことを仕事とする牡馬(ぼば、オス馬)。英語ではスタリオン(stallion)。トップ画像はその後の日本競馬界に多大な影響をもたらした大種牡馬サンデーサイレンス。
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馬の繁殖について編集

妊娠期間は335日前後であり、母馬が一回の出産で産む仔はふつう一頭、そして繁殖期は春に集中する。

すなわち、母馬はその年の仔馬を春に出産し、身体の回復と発情を待って新たな子を宿し、また次の春に…というサイクルを繰り返す。このように、仔を産んで種の維持に努める役割のメス馬を繁殖牝馬(はんしょくひんば)または肌馬(はだうま)と呼ぶ。

馬は3歳ほどで繁殖できる身体となり、ふつう15~18歳程度まで妊娠・出産が可能なので、一頭の牝馬が一生に残せる子どもは多くて10数頭ということになる。


一方、牡馬が性交(交配)できる回数というのは特に制限がない。

すなわち、春の繁殖シーズンに多くの牝馬と種付けを行えば、それだけ多くの子を残すことが可能である。人間が飼育する家畜の場合も、また自然界に暮らす野生馬の場合でもそうだが、必然的に強く、賢く、優れた性質を持ったひと握りの牡馬のみが、自分の子孫を残すことが可能となる(但し、牡馬同士の直接的な闘争に勝ったものが子孫を残せるという野生馬とでは、その基準は当然、異なる)。


人間が飼育する馬で、牝馬に精子を提供し子を成すことを仕事とする馬を種牡馬(しゅぼば)または種馬(たねうま)と呼ぶ。

以下では特に、競走馬となるサラブレッドの種牡馬について述べる。


種牡馬の仕事編集

上記のような理由から、競走馬を引退した馬が種牡馬となる確率は、牝馬が繁殖牝馬となる確率よりもはるかに低く、全体の1%未満にすぎない。現役時に重賞を複数勝利してなお、種牡馬とならないケースもザラである。


そのハードルを乗り越えて選ばれた種牡馬は、人気馬であれば年間100頭以上の牝馬への種付けを行う。

「牧場でのんびり暮らしつつ、毎年100名以上の女の子と妊娠セックス!?それなんてエロゲ?」とか考えてしまいそうだが、実際はめちゃくちゃハードワークである。その理由は、上記の通り馬が発情し妊娠できる期間が春~初夏に限定されていること。つまり、年間100頭以上とはいうが、実際は数か月間に集中しており、種付けシーズンには1日複数回も当たり前なのだ。

このため、種牡馬には競走馬としての優れた能力や血統は当然として、健康な身体と絶倫であることは必須である。


「いくらセックス三昧でもそりゃ大変だ、のように人工授精はできないのかい?」という疑問も生じるだろうが、競走馬では人工授精が認められていない。必ず、牡馬・牝馬とも間違いなく予定通りの馬であることを確認し、関係者の目視の上で性交が行われる。

  • これは、手違いや悪意による精子のすり替えを防ぐため。なにしろ1回のレースで100億円以上を動かすこともある競走馬のことである。名馬の精子を高額で買って人工授精したと思っていたのに、仔馬が育って数年、どうもおかしいと思ったらすり替えておいたのさ!だった……ではシャレにならない。ゆえに、疑惑を生じないようあくまで自然性交によってのみ繁殖が行われる。
  • また、血統の多様性が失われると、競馬の魅力に悪影響を及ぼす」遺伝子的悪影響を防ぐ」という理由もある。馬同士の相性やスケジュールの都合により、人気馬以外にも「お仕事」が回って来ることによって、サラブレッドの遺伝子と競馬の魅力は守られているのである(人工授精は1回の精子採取だけでも莫大な数の受精が出来ることで文字通り制限がないため、牛や豚では同じ牡個体に万単位で子供がいるなどごく普通である。自然交配の場合は幾ら、交配できる数に理論上は制限がないとはいえ、牡個体の体力に上限があるので、1回のシーズンで交配できる数には自然と制限がかかるわけである。人気種牡馬でも全盛期での交配数が1シーズンで多くても200頭代であるため、競走馬の牡個体の生涯での産駒数はどんなに多くともせいぜい5千頭以下、といったところである)。

ゴールドシップチャイナロック、果ては「性雄」という異名すらついたセイユウ(アングロアラブ唯一の顕彰馬)のように種付が大好きな馬もいれば、ディープインパクトのように仕事と割り切ってやっている馬もいる。

長年の種牡馬生活で気性が荒くなったスペシャルウィークのような事例もある。

種牡馬界の問題児、ウォーエンブレムのような例も…。



種牡馬に関する用語編集

リーディングサイアー編集

種牡馬の優秀さは、その子ども(産駒)がどれほどの成績を残したかで評価される。これを数値化・比較するために、「ある1年間の全レースにおける産駒の獲得賞金額の合計」で順位付けを行った一覧、またそのトップ馬をリーディングサイアー(Leading Sire、サイアーは「雄親」の意味)と呼ぶ。

近年の日本リーディングサイアーは以下の通り。


ブルードメアサイアー編集

競走馬の能力遺伝においては、父親が誰かとともに、「母方の祖父」の影響も非常に大きいとされている。この母方の祖父のことをブルードメアサイアー(Blood Mare Sire、ブルードメアは「繁殖牝馬」の意味)、日本語で母父(ははちち)とも呼ぶ。マルゼンスキーのように、直接の産駒よりも母父としての孫世代からより重要な活躍馬を出した例もある。

なお、この「母父(=母方の祖父)」という語があるので、競走馬について単に「祖父」と言った場合、ふつう父方の祖父を指す。


ニックス編集

重賞の勝ち馬やオープン入りを果たした馬には時折、一定の馬を血統表に持つ配合の馬が立て続けに出る事がある。そういった実績を持ち、優秀な馬が生まれることが多いとされる配合理論はニックスと呼ばれる。

近年では父にステイゴールド、母父にメジロマックイーンを持つ、所謂「ステマ配合」が特に有名で、その他にも父にディープインパクト、母父にストームキャットを持つ馬などがニックスとされる。

直近では父にゴールドシップ、母父にロージズインメイを持つ馬や、母父にキングヘイローを持つ馬、モーリスの産駒などが実績を残し、ニックスが存在するのではないかと噂されている。


立て続けに勝ち馬が出る事が多い点はメリットだが、あまりにも多くの活躍馬が出てしまうと近親交配の危険性が増し、種牡馬や繁殖牝馬の選択肢が狭まるデメリットもある。日本におけるサンデーサイレンス系の隆盛はその一例だろう。

また、重賞馬やオープン馬が立て続けに出ても、必ず勝てるとは限らず、新たな配合の馬に淘汰されたり、突然勝てなくなってしまい、「単なる偶然だった」に終わる可能性もある。血統においても競馬に絶対は無く、そこが醍醐味でもあるのだ。


シャトル種牡馬編集

馬の種付けは春に行われるが、これは繁殖牝馬の発情(フケ)がその季節に来るからである。いっぽう、種牡馬の方は年中射精はできる。このため、北半球南半球の季節の逆転を利用して、半年ごとに赤道をまたいで空輸し1年間で2季の種付けを行う種牡馬を「シャトル種牡馬」という。


海外種牡馬だとラストタイクーン(日本調教馬だとアローキャリーなどの父で、キングカメハメハの母父)やデインヒル(日本調教馬だとファインモーションなどの父)が嚆矢である。

日本の種牡馬だとフジキセキモーリスなどが北半球・南半球の両方でGⅠ産駒を輩出している。


ただし、年に2季種付けを行わせることはそれだけ種牡馬の負担が増すため、繁殖生活を通してずっとシャトルを行うことはまずない。


当て馬編集

馬はとても頭のよい生き物である。オスもメスも好みや相性、その時の気分というものはあり、人間の都合で決められた相手が気に入らないことも当然ある。

好みの相手じゃない、発情していない、そんな牝馬に強引に種付けを試みても、妊娠に失敗したり、場合によっては種牡馬めがけて渾身の馬キックが飛んできたりする。

そうした事態を防ぐために、本番前に牝馬に接近し、発情しているか確かめたり、前戯でムードを高めたりする役割の牡馬は当て馬と呼ばれる。


メス馬に接近だけして行為はさせてもらえない、なんとも生殺しな役割だが、急に予定の種牡馬の都合がつかなくなった、牝馬が暴れ馬で高額な種牡馬を接近させるのは危険、などの理由で種付けを担当する場合もある。1988年のオークス馬コスモドリームは、父親が当て馬という珍しい事例である。


種付け料編集

種牡馬の所有者は種付を希望する相手からお金を取って種牡馬に種付をさせる。かつては不受胎であっても返金されないのが当たり前だったが、1980年代以降は

  • 妊娠した場合のみ支払い
  • 一度は全額の支払いを求めるが、死産・流産の場合は全額または一部返金
  • 種付しても不受胎に終わった場合翌年に限って無料で種付を認める
  • 産駒がきちんと産まれた場合のみ支払いを求める
  • 牝馬が産まれたら無料
  • 産駒が出走したら支払い

など様々な形式が生まれた。


種付料は現役時代にGIレースで優勝するなど顕著な成績を収めた種牡馬や、現役時代パッとしない成績でも産駒がよく走って人気になった種牡馬は種付料が高騰しやすい。中には種牡馬オーナーや繋養牧場の意向で種付件数を抑えるために種付料を高めに設定している場合もある。

逆に人気のない種牡馬は種付料が安くなりやすい。行くところまで行くと種付料が無料というものも。


シンジケート編集

種牡馬を所有する法人。1頭の種牡馬を概ね60株程度に分割し、構成員は保有株数に応じて種付権を得る。

例えばシンジケートに加入している生産者がある種牡馬の株1株を所有している場合、その種牡馬による種付は1回行える。株は売り買いも可能で、所有権を完全に手放す本株と単年度の権利のみ売買するシーズン株がある。

シンジケートを組んでいる種牡馬で株数を超える種付頭数となる場合もあるが、株数を超える分の種付は余勢と呼ばれ、余勢分の種付料によって得られる利益は株の所有者に分配される。


内国産種牡馬編集

日本国内で生産された種牡馬のこと。かつての日本競馬は世界と比べて劣ると見なされており、種牡馬も海外から輸入された馬が主流を占めていた。そのため、生産振興を目的として内国産種牡馬の産駒を父内国産馬と分類し、父内国産馬限定競走の開催や父内国産馬奨励賞として賞金を出すなど優遇策をとっていた。JRA賞には「最優秀父内国産馬」という部門もあった。

しかし2000年代に突入し輸入種牡馬の仔が引退後に内国産種牡馬として活躍するようになり、重賞でも父内国産馬の勝利が珍しくなくなり優遇の必要性は急速に薄れていった。これを受けて2007年に父内国産馬奨励賞が廃止され、2008年には父内国産馬限定競走も廃止された。


代替種牡馬編集

種牡馬の性交回数に制限がないというのは前述の通りだが、馬の体力やスケジュールの都合もあり無制限に種付けを行えるわけではない。また人気種牡馬は種付け料が高く、零細牧場には手が出せない。そのため人気種牡馬に似た血統を持ち、かつ競走成績がさほどでもないため安価に種付けを行える馬が代用品として使われることがある。これが代替種牡馬である。マグニテュードヤマニンスキーブラックタイドなどが代表的な代替種牡馬の例として挙げられる。また、ナリタブライアンの父として知られるブライアンズタイムも、本命であるサンシャインフォーエヴァーの導入に失敗したため代用品として輸入された種牡馬である。



関連項目編集

競馬 競走馬 種馬 交配 種付け

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