ウォーエンブレム
どうしてろりこんなんかにうまれちまったんだ
ウォーエンブレムとは、2002年のアメリカの二冠馬である。
メイクデビュー~2001年
2001年10月、メイドン競馬場にてデビュー。メイクデビューで勝利するという上々の滑り出しを見せた。
2戦目は芝のマニラステークス。ここは敗北を喫してしまう。
ダートに戻った3戦目で勝利、2勝目を挙げた。
以上の3戦2勝で2歳シーズンを終え、クラシック戦線に挑戦する。
3歳時
3歳になったウォーエンブレムは、ステークスや重賞競走などに挑戦していく。しかし、二戦連続で馬群にひるみ惨敗。
しかし、その次の出走では、なんと11馬身後続をちぎり捨てて勝利。
ウォーエンブレムは「気分よくさせてやれば強い」と確信した陣営は、次の出走をGⅡイリノイダービーに定めた。
気分がよくなったウォーエンブレムは、イリノイダービーでも爆走し6馬身1/4後続をちぎり捨てるなど、成績が上がっていく。
イリノイダービーの後、ウォーエンブレムに転機が訪れた。
サウジアラビアの有力馬主、サルマン殿下がウォーエンブレムに目をつけ、もとの馬主から90万ドルで買い取ったのだ。
これに伴い、ウォーエンブレムの馬主はサルマン殿下率いる「ザ・サラブレッドコーポレーション」に変わり、アメリカ屈指の名調教師、ボブ・バファートの厩舎に転厩することとなった。
アメリカ三冠挑戦
転厩後初のレースとなったG1「ケンタッキーダービー」。ヴィクター・エスピノーザを鞍上に迎え、18頭中9番人気。
スタートするやいなや先頭に立って突っ走り、4馬身差で勝利。その強さを見せつけた。
続くプリークネスステークスでも先行策を取り、3コーナーで早めに先頭に立つ。
さすがにウォーエンブレムに二冠目を取らせまいと他馬が上がってくるものの、その猛追を制し勝利。アメリカ二冠目を手に入れたのだった。
そして迎えた三冠目、ベルモントステークス。現地にはベルモントパーク競馬場史上最高となる10万3222人の観衆が詰めかけ、その偉業を一目見ようとしていた。
しかし、ウォーエンブレムはスタートで出遅れ、Saravaの8着と破れた。
その後
三冠挑戦後は、G1・ハスケル招待ハンデキャップで楽勝するも、古馬相手のパシフィッククラシックステークスとBCクラシックでは気分よく走れず、それぞれ6着と8着で連敗を喫した。
このころには気性も悪化し始めており、誘導馬に噛みつく、バファート調教師に飛び掛かるなどの問題行動を連発していた。
それもあってか、ウォーエンブレムは引退。通算戦績13戦7勝、G1競走3勝。その後はサルマン殿下のもと、アメリカで種牡馬となる……はずだった。
時は2002年、あのサンデーサイレンス逝去の頃。サンデーサイレンスの血統があふれかえっている日本では、それを持たない血統の種牡馬の導入が急務となっていた。
また、非サンデーサイレンス系として注目されていたエルコンドルパサーやエンドスウィープが相次いで亡くなり、その代わりも探さなければならなくなっていた。
一方そのころ、ウォーエンブレムは馬主だったサルマン殿下が死亡し、管財人によってセリにかけられていた。
そんな訳で直系こそミスタープロスペクター系であったが後は異系の塊(サンデーサイレンスもそうだったけど)であったウォーエンブレムは社台ファームに見込まれ、21億円もの大金で輸入された(サンデーサイレンスは16億5000万円)。
で、さあ種付けとなった訳だが、これがやってくれない。(サラブレッドは人工授精など人為的な方法による受精は認められておらず、自然交配でなければサラブレッドとして認められない。)
1年目から種付けを拒み続け、交配したのはたったの7頭。商業ベースでの種付けは無理だと判断され、シンジケートも初年度で解散してしまった。
しかも、興味を持った相手が「栗毛で小柄な牝馬」ばかりだったもんだから、すっかりロリコンキャラが定着してしまう事に。
さらに、種付け出来たらその産駒はよく走るため、おいそれと手放すわけにもいかず、完全に生殖不能という訳でもないので保険金も満額おりないという、かなりビミョーな立場になってしまった。(ウォーエンブレムには大手保険会社4社の保険が掛けられていた。シンジケート解散という結果になり保険会社3社が合意して約16億円の保険金が支払われたが、残りの1社は種付けそのものは成功しているとして保険金の支払いを拒否している。)
2年目となる2004年には、シンジケート解散後も引き続き社台スタリオンステーションで種牡馬続行に向けた取り組みが行われた。転地療養として釧路に移し、彼好みの牝馬で欲情させて別馬にすり替えるという「逆当て馬」とでも言うべき方法で50頭近く確保したが、その事がばれてすぐさま種付け拒否モードに突入。3年目は種付け頭数9頭、4年目は1頭、ついに5年目の2007年は種付け頭数が0になってしまった。
6年目となる2008年、ペンシルベニア大学のマクダネル博士による治療を受け、1日1頭ペースで種付けができるまで回復。
その年は39頭、翌年に43頭を確保したがそこまでで、また翌年は5頭になってしまった。
それ以降、陣営はこれ以上は難しいとしてウォーエンブレムの種牡馬引退、故郷のアメリカでの功労馬入りを決定した。
種牡馬引退後
そんなこんなで2015年にアメリカに帰されたが、アメリカ入国前に大きな壁が立ちはだかった。
税関における「馬伝染性子宮炎」の検査である。
この病気は、馬の性感染症とでも言うべきもので、主に交配によって感染する。
有効なワクチンや薬が開発されていないため、一度馬産地に流入すると一気にその地域の馬産を壊滅させてしまうような恐ろしい病気なのである。
しかも厄介なことに、牡馬は菌を持っていても無症状なのだ。
そのため、アメリカは輸入されるすべての牡馬に対し、馬伝染性子宮炎の検査を義務付けていた。その内容は、2頭の牝馬に試験的な種付けを行い、感染しないか見るというもの。
そこでもいつものように種付けを拒み、ついには苦肉の策として種牡馬として一番大事なはずのもんを失う羽目に。
その後は、ケンタッキー州ジョージタウンの功労馬繋養施設「オールドフレンズ」で余生を送っていが、2020年3月11日、小腸破裂のため21歳で死亡。
名競走馬であり、迷種牡馬として名をはせたウォーエンブレムはこの世を去った。
数は少ないが遺された彼の血を引く馬たちの今後の活躍を祈るのみである。
2005年生:シビルウォー(ブリーダーズGC、名古屋GP)※後継種牡馬
2010年生:ローブティサージュ(阪神JF、キーンランドC)
2012年生:オールブラッシュ(川崎記念、浦和記念)※後継種牡馬
最終的な産駒の数は約120頭。その中で、GⅠ馬3頭を含む10頭ほどの重賞馬を輩出した活躍割合は優秀である。
あくまで、(一部は保険で補填されたとはいえ)元の購入額が21億円もした上に、計画通りの交配・競走馬生産が行えないために商業的に成り立たなかったことが、種牡馬として困った点なのである。それでも産駒が走るからこそ、何とか種付けをこなしてもらおうと関係者は試行錯誤し、ネタにもなったのだ。
数値的に言うと、日本で種付けを行った2003~12年の10年間合計で、CPIが2.41(相手となった繁殖牝馬の産んだ仔たちが平均の何倍賞金を稼いだかの数値)に対し、AEI(その種牡馬の産駒が平均の何倍賞金を稼いだかの数値)はそれを上回る2.74を記録している(JBIS調べ)。大きな期待のもとに良質な牝馬をあてがわれ、数は少ないながらも生まれた産駒たちはそれに応えるだけの結果は残したことは、数値上からもうかがえる。
後継としては、まず2年目産駒のシビルウォーが種牡馬入りしたが5年ほどで引退し、残るは川崎記念勝ち馬のオールブラッシュにかかっている。が、このオールブラッシュも父同様に牝馬の選り好みが激しく、関係者が試行錯誤したところ牝馬の尿の臭いに興奮することが判明。それも意中の牝馬は決まっており、その尿を事前に嗅がせることでスムーズに種付けできるようになったという。父ともども、実に変わった種牡馬である…。
ウォーエンブレムの娘たちでは、産駒最初のGⅠ馬ブラックエンブレムは重賞馬2頭を産むなど、母としても成績良好。母父としての産駒からはスカーレットカラー(府中牝馬S)、ウィクトーリア(フローラS)、2022年クラシック世代の重賞戦線で好走しているアネゴハダなどの活躍牝馬が出てきており、母系では血統表に名前が残っていきそうな気配である。
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