その馬は、10度の敗北を超えて血統を証明した。
敗れても、敗れても、敗れても、絶対に首を下げなかった。
その馬の名は、「キングヘイロー」。
次の伝説をみよ、高松宮記念。
2012年JRA CM「高松宮記念」編より
誘導
- JRAにかつて所属していた競走馬・種牡馬。
- 1をモチーフとしたウマ娘プリティーダービーに登場するウマ娘。→キングヘイロー(ウマ娘)
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概要
馬主は浅川吉男 。栗東坂口正大厩舎。
※馬齢は数え表記
父は80年代の欧州を代表する名馬ダンシングブレーヴ、母は米国のG1を七勝したグッバイヘイローという米欧融合の超良血馬として入厩前から注目され、若き天才と呼ばれた福永祐一を背にデビューから3連勝で東京スポーツ杯3歳ステークスを制し、クラシック戦線の主役と目される。
弥生賞3着、皐月賞2着で、たたき上げで泥臭いセイウンスカイとスペシャルウィークの二頭とは対照的な三強形成かと騒がれたが、日本ダービーではセイウンスカイを抑えてハイペースでレースを引っ張るが失速し14着。長距離では折り合いを欠き菊花賞5着、有馬記念6着で4歳シーズンを終える。
1999年は柴田善臣騎手に乗り替わり、東京新聞杯、中山記念と重賞2連勝するが安田記念11着、宝塚記念8着、毎日王冠5着、天皇賞・秋7着。短距離に路線変更しマイルチャンピオンシップ2着、スプリンターズステークス3着。
このころには能力は高いが気性に問題があると見られ、福永祐一も新人としては上手い部類に過ぎなかったと見られるようになり、表街道からは半ば忘れられた存在に。
2000年はフェブラリーステークスから始動。初ダートながら1番人気に推されるが、後方ママで13着。
高松宮記念は4番人気も、かつての相棒福永騎乗のディヴァインライトをクビ差抑えて1着。初のG1制覇。
2000年3月26日 中京競馬場
実況:植木圭一(東海テレビ)
京王杯スプリングカップ11着、安田記念では日本馬最先着の3着。
秋はスプリンターズステークス7着、スワンステークス12着、マイルチャンピオンシップ7着と苦戦。
引退レースとなったのは有馬記念。
その年あまりにも勝ち続けたテイエムオペラオーがほとんどの馬からマークを受け、完全包囲されるのを他所に、馬群の嫌いなキングヘイローはコース外側でひたすら自分のレースを続けていた。
1着こそ逃したものの、最終直線では最速の上がりを見せ、オペラオーが包囲網を突破して劇的な勝利を挙げた陰で4着と健闘した。
G1レースを勝ったのが1200mの高松宮記念のみであったことから、一見スプリンター適性のように見えるかもしれないが、基本的にはマイラーでありながら、短距離から中距離まで幅広い距離での入着が多かったマイル寄りのオールラウンダーであった。とりわけJRAの重賞においてSMILE区分の全てで入着を果たした馬はナリタブライアンとキングヘイローの2頭だけであり、ナリタブライアンは高松宮記念4着、キングヘイローは菊花賞5着があるため、両馬の距離適性は裏表の関係にあったと言えるかもしれない。
ちょっとしたことで機嫌を損ねて勝負を投げてしまう気性難さえなければ、もっと勝てただろう。
2001年シーズンから種牡馬。結局G1は15回も挑戦して高松宮記念の1回しか勝てなかったが、その手頃な価格と魅力的な血統背景から、例年100頭前後の繁殖牝馬に恵まれ、後継種牡馬も輩出。
カワカミプリンセスが優駿牝馬と秋華賞を、ローレルゲレイロが高松宮記念とスプリンターズステークスを制している。
2018年9月8日にデビューしたムニアインは、母父スペシャルウィーク、母母父エルコンドルパサーという、98年最強世代の血統を3つも受け継いだ事で話題となった。
2019年3月19日、老衰のため24歳で死去した。
キングヘイローの死後2年が経過した2021年シーズンではブルードメアサイアー(母父)としても急激に頭角を現す。特に重賞戦線においてはディープインパクトやキングカメハメハといったトップクラスの種牡馬と勝利数では互角、勝率でははるかに凌ぐ成績を残しており、一躍注目を浴びる存在となった。
血統面から見ると「父父ディープインパクト(全兄ブラックタイド産駒のキタサンブラックを含む)×母父キングヘイロー」の配合が相性が良いと言われている。この配合はヘイロー4×4、リファール4×5のインブリードがかかり、かつヘイローとリファールがニックスに当たるという好材料揃いの配合である。要するにディープインパクトとキングヘイローは父系と母系を裏表にしたような血筋の関係なのである。このため父ディープインパクト×母父キングヘイローではインブリードがやや濃過ぎる傾向があり、一世代下がった方が血の濃さの関係から適度な同系交配となる配合と言える。ディープ産駒世代が種牡馬デビューした後の産駒世代から活躍馬が急増したことからも、そのことがうかがえる。またモーリスも父スクリーンヒーローの母系にヘイロー、自身の母系にリファールが入っており、さらにノーザンダンサーのクロスも発生するため、父父ディープインパクトの配合と同様のインブリードからなるニックス効果が期待できる。
福永祐一とキングヘイロー
20年越しのダービー制覇
キングヘイローのダービー大敗から20年後の2018年、当時ダービー初騎乗だったキングヘイローの主戦騎手・福永祐一が、5月27日に開催された第85回日本ダービーでワグネリアンに騎乗して優勝、デビューから23年、19回目の挑戦にして悲願のダービージョッキーの称号を手にした(福永家にとっても、父・福永洋一から続く悲願達成である)。
2018年5月27日 東京競馬場
実況:福原直英(フジテレビ)
福永祐一騎手を祝福する声とともに、あの日のレースが再び話題となり、キングヘイローの名がSNSのトレンドに一躍上がることになった。
祐一はその後2020年(コントレイル)、2021年(シャフリヤール)とダービーを連覇し、名実共にトップジョッキーの一角へと成長。一方で短距離戦線ではキングヘイローの孫に当たるピクシーナイトが新たな相棒となり、2021年にスプリンターズステークス初制覇を飾った。
亡き相棒の後押し
キングヘイローは2019年3月19日に老衰のため、24歳で死去した。奇しくも自身唯一のGⅠ勝利レースである高松宮記念を5日後に控えての死だった。
そして、その高松宮記念では、産駒であるダイメイプリンセス(ミルコ・デムーロ騎乗)も出走した中、福永祐一が騎乗するミスターメロディが優勝した。福永騎手はレース後にキングヘイローの事が頭をよぎった模様で、勝利騎手インタビューでも「キングヘイローが後押ししてくれた。」と語った。
しかもこのレースの着順掲示板までもが、以下の通り、
1着:3番 ミスターメロディ(福永祐一)
2着:4番 セイウンコウセイ(幸英明)
3着:7番 ショウナンアンセム(藤岡康太)
4着:13番 ダノンスマッシュ(北村友一)
5着:5番 ティーハーフ(国分優作)
と、「さ よ なら キングヘイロー 号」(※13はキングヘイローが2000年の高松宮記念で勝利した時の馬番)と読めてしまう偶然まで生まれた。
名馬の肖像2020年高松宮記念
いまここにいる
どの道を選ぼうと
いつも誰かに追いつけず
別の誰かに抜き去られ
それでも落胆を抑え
焦りは隠しながら
ひたむきに進み続けた
そして、いまここにいる
熱望した場所で
遮るものもなく
憧れた景色を眺めている