「ワグネリアン(Wagnerian)」は、『さまよえるオランダ人』『タンホイザー』『ローエングリン』『ニーベルングの指環』など数々のオペラ作品を残し「楽劇王」と評された19世紀ドイツの作曲家、リヒャルト・ワーグナーの作品や、その人物・思想などに傾倒する熱狂的なファンを指す英単語である。小説『シャーロック・ホームズ』シリーズの熱狂的ファンを指す「シャーロキアン」などと同様の造語だが、一般的な英語辞典に載っているほど普及した語である。
ただし、pixivにおいてはこの英単語を馬名に用いた競走馬のイラストの方が主に投稿されているため、本項目でもこちらを紹介する。
プロフィール
生年月日 | 2015年2月10日 |
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死没日 | 2022年1月5日 |
欧字表記 | Wagnerian |
性別 | 牡 |
毛色 | 鹿毛 |
父 | ディープインパクト |
母 | ミスアンコール |
母の父 | キングカメハメハ |
生産 | ノーザンファーム(北海道勇払郡安平町) |
主戦騎手 | 福永祐一など |
主要勝鞍 | 東スポ杯2歳ステークス(2017)、日本ダービー・神戸新聞杯(2018) |
生涯戦績 | 17戦5勝 |
獲得賞金 | 5億1243万7000円 |
母ミスアンコールは2004年のNHKマイルカップ・日本ダービーの変則二冠を達成したキングカメハメハの初年度産駒。ワグネリアンがダービーを制覇した2018年の9月6日、繋養先の北海道安平町の牧場で北海道胆振東部地震に被災し骨折、予後不良の診断が下り安楽死の措置が下された。
祖母ブロードアピールは直線一気の追い込みを武器に芝・ダート問わず活躍、JRA初の8歳牝馬の重賞制覇など息の長い活躍を続け、重賞6勝を挙げた。
本馬および、父・母・母父・祖母とも、金子真人オーナーの所有馬である。
戦歴
2017年(2歳)
2017年7月、栗東トレーニングセンター友道康夫厩舎からデビュー。
新馬戦(中京芝2000m)では、上り3ハロン(ラスト600m)32秒6という、中京競馬場の過去最速タイムの末脚を繰り出して勝利、一躍注目を集めた。
さらに2歳オープン戦野路菊ステークス(阪神芝1800m)と連勝、11月には東京スポーツ杯2歳ステークス(GⅢ、東京芝1800m)で重賞初制覇を飾り、3戦3勝で2歳シーズンを終えた。
2018年(3歳)
2018年(3歳)は弥生賞から始動するが、この世代の最優秀2歳牡馬ダノンプレミアムに敗れ2着。
そのダノンプレミアムが故障回避したことで、皐月賞では1番人気に推されたが、エポカドーロの7着に敗れた。鞍上の福永祐一は「ダノンプレミアムの回避により、自分の中に過信があった」と反省の弁を述べている。
続く日本ダービーは皐月賞での敗北が響き5番人気だったが、好位先行の位置につけ、最終直線ではダノンプレミアムやエポカドーロをかわし勝利。福永にとってはキングヘイローで挑んで以来、19回目の挑戦で悲願のダービー制覇となった。ワグネリアンは平成時代最後のダービー馬でもある。
秋は神戸新聞杯(GⅡ)から始動し、これを制して重賞3勝目。
この勝利によって菊花賞の優先出走権を得たが、長距離戦向きではないと見た陣営は菊花賞を回避し天皇賞(秋)を目指すことを表明。しかし、結局体調が整わず年内は休養に充てることとなった。
2019年(4歳)以降
古馬となった2019年は大阪杯から始動するが、アルアインの3着。その後も札幌記念4着、天皇賞(秋)5着、ジャパンカップ3着と、掲示板を外すような大崩れこそしないものの勝ちきれないレースが続く。
2020年(5歳)は大阪杯5着、そして宝塚記念は13着と大敗。この敗戦後、不振の原因と見られた喘鳴症(ぜいめいしょう、ノド鳴りとも。馬の喉の呼吸不全であり、引退につながりかねない症状である)改善のため手術を行い、長期休養に入った。
2021年(6歳)は2月の京都記念で武豊を鞍上に復帰。復活を企して2番人気となったが伸びきれずにラヴズオンリーユーの5着となり、次いで大阪杯では吉田隼人に乗り替わるもレイパパレの12着と大敗してしまう。
陣営は休養を経て秋の始動戦として富士ステークスを選択。2020年の宝塚記念以来となる福永とのコンビで初のマイル戦に挑むも、流れについていけずに6着となる。
次いで戸崎圭太を鞍上にジャパンカップに挑戦。ダービー馬としての先輩であるマカヒキの他、このレースをラストランとする無敗の三冠馬コントレイル、この年のダービー馬であるシャフリヤールとダービー馬が計4頭出走する中での挑戦だったが、結局有終の美を飾ったコントレイルの18着と惨敗してしまった。
急逝
このようになかなか復活が果たせない中、年明け早々の2022年1月5日午後6時、現役のまま多臓器不全のため栗東トレセンの入院馬房で死去した。7歳没。
結果的には6歳時のジャパンカップが最後のレースとななり、結局復活を果たせないままこの世を去ってしまった。現役中のダービー馬の死は、1967年の阪神大賞典で予後不良となったキーストン(1965年の日本ダービー馬)以来となる。
管理していた友道調教師によると、ジャパンカップ以降体調が思わしくなく、栗東トレセンの診療所に入院。肝臓疾患のため治療を受けていたが、5日に容体が急変したという。
翌6日朝には福永祐一騎手も栗東トレセンを訪れ、かつて自身初のダービー制覇を共に成し遂げた相棒と対面し、その最後を見送った。
死後の解剖の結果、胆管に鶏の卵以上もの大きさの胆石が詰まっていたことが判明し、これが原因となって多臓器不全を引き起こしたと見られる。
余談だが、馬の胆石症はヒトのそれに比べて非常に稀なケースで、生前に確定診断されることは少ない。競走馬のこのような死因は、JRAの記録でも過去に例のないことだという。
リンク先の記事によると、論文データベースで「馬胆石」に当たる英単語でヒットしたのはわずかに6件。外科手術で助かった事例は1例のみで、ほとんどは状態が非常に悪化して予後を諦めた後、死後の病理解剖で初めて胆石が発見されるという。
馬には、肝臓で作られた胆汁を作るための胆嚢がない。胆汁の機能は食物中の脂肪の消化吸収を助けることであり、食物が腸管に存在しているときに放出されるのが理想的なため、作られた胆汁を貯めておいて必要なときに大量に放出するための袋が胆嚢である。草食動物であるウマにとっては胆汁の機能は重要ではないため、胆嚢も存在せず、肝臓で作られた胆汁はそのまま胆管を通じて消化管に流される。したがってウマに胆石が発生するのは胆管となるのだが、胆嚢のように胆汁が貯まることがないために胆石をつくること自体が極めて稀である一方で、一旦胆石ができてしまうと場所が絞りにくい分発見も難しく、疝痛で気づける例も少なく、致命的な胆管閉塞を起こしてしまうほど巨大になってしまうとされている。
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ウイニングチケット:柴田政人騎手に悲願のダービー制覇を達成させた馬。福永騎手がワグネリアンと共に達成した時と同じく19回目の挑戦だった。ダービー以降の戦績が振るわなかったのも同じだが、こちらは病で急逝したワグネリアンとは対照的に33年にも及ぶ馬生を全うした。