特徴
奇蹄目とは、蹄が(基本的に)奇数の哺乳動物。蹄の数はウマは1本、サイでは3本、バクでは前脚が4本、後脚が3本。体重が最もかかる重心軸が第三指(中指)であるため、それを中心とした奇数の蹄を持つことが最大の特徴である。
消化能力
基本的に草食動物。巨大な複数胃を発達させ、ここで微生物にセルロースなど植物に含まれる難消化性成分を発酵・分解させている反芻動物(偶蹄目のウシ亜目やラクダ亜目)に対し、奇蹄目の胃は他の哺乳動物同様1つしかないが、結腸(大腸の下部)や盲腸を発達させ、ここに微生物を棲まわせ「発酵タンク」としている。
このやり方は胃の大きさを体の割に小さく抑えることができ(ウマで10リットル程度)速く走るのに有利であるが、裏を返すとウシのように大量の餌を胃に溜め込むことができず、反芻によって消化効率を上げることもできないということでもある。そのためウマは体を維持するためにウシよりも大量の餌を摂らなければならない(牛飲馬食)。ウマの消化器疾患は運動器疾患に次いで多いが、大量の採餌のため消化器に負担がかかるためである。草だけで競走馬の激しい運動量を支えるのは難しく、燕麦などの濃厚飼料も与えられるが、与えすぎると大腸内の微生物のバランスが崩れたり蹄葉炎発症の原因になったりする。大量に食べる、採食に時間をかけなければならないことは効率の悪さというだけでなく、天敵に襲われる機会も増やすことに繋がり、奇蹄目全体の不利な点といえる。更に、胃と異なり結腸は消化器官の末端である肛門に近い部位のため、発酵タンクをそれより先へ広げる事が出来ず、面積・容積の確保にも限界がある。
ウマとは逆にサイやバクは重厚な体躯をもつことで消化器官のスペースを稼ぐ戦略をとることで、消化に関する問題を幾らか緩和してはいるが、天敵から走って逃げることが難しくなってしまった。そのため彼等は天敵に対抗するための角や厚い皮膚、隠れたり逃げ込むことが出来る密林や水辺での生活という手段をとっている。
進化
ユーラシアと北アメリカ大陸を合せた「ローラシア」大陸で進化した動物群で、コウモリや食肉目と比較的、近縁。古くは偶蹄目とともに初めて蹄を獲得した動物である「顆節目」から進化したと考えられたが、現在では偶蹄目との共通点は収斂進化によるものと考えられている(近年は再び、両者の関係性の近さを指摘する研究もある)。
新生代始新世から漸新世にかけて特に森林が優勢な環境のもと繁栄を極めた。化石種は既知のものだけでも240属を上回り、イヌ程の小型種から現生のゾウを遥かに上回る大型種までの多様性を誇っていた。しかし地球の寒冷化・乾燥化が次第に進む中、陸地では消化に時間と手間がかかるイネ科の草本が主な植生である草原が増え、森林が減少していった。そのため、奇蹄類は消化効率の差が主な原因でウシ亜目の繁栄に対抗できず、種数を大きく減らしてしまった。現生種は6属(ウマ1属、サイ4属、バク1属)20種ほどしかなく、その多くも近年は人間による開発や環境破壊で大きく数を減らしてしまっており、同じく大型植物食哺乳類であるゾウ類(長鼻目)と共にグループ全体が(同じ様な原因で)衰退と絶滅の危機にあるといえる。
バク科とウマ科は、ラクダ科同様に北米で誕生し進化した(そのどれもが北米では絶滅している。ウマなどは家畜として人為的に再導入)。サイ科も北米に到達した種類もいたが、更新世には見られなかった。当時あったベーリング地峡を通ってシベリアから北米に入ったマンモスやバイソンなどがいた中、同様の環境に棲んでいたサイ科(ケブカサイなど)だけが更新世以降の北米に分布しなかった理由は不明である。