サブマシンガン
さぶましんがん
歴史
黎明期
第一次世界大戦後半、膠着した戦線を打開すべく、各国軍はやっきになって塹壕線の取り合いに腐心した。
その有様は原始的かつ凄惨であり、特に塹壕に突入してからの戦闘は酸鼻を極めた。両軍の兵士は、取り回しのいい拳銃や、棍棒やナイフ、円匙のような原始的な武器を互いに取って血みどろの肉弾戦を繰り広げた。狭い塹壕の中では、長大なライフルは役に立たなかったのである。
こうした状況下で、ドイツ軍は塹壕戦に適した軽便な自動火器の必要性を痛感し、その目的に見合った武器の開発をセオドーア・ベルグマン社に指示した。
同社の設計技師、ヒューゴ・シュマイザーを中心にして進められた研究は、1918年初頭に実を結ぶことになる――世界初のサブマシンガン、MP18の完成である(これ以前に、イタリアのフィアット社が『ビラール・ベロサ』なる、拳銃弾を発射するフルオート火器を製造しているが、これは軽機関銃的な運用形態を意図して開発されたもので、真のサブマシンガンとは言い難い)。
MP18は、ドイツ軍の中でも選りすぐりの精鋭で構成された『突撃隊(ストッス・トルッペン)』に供給され、連合軍兵士相手にその殺傷力を遺憾なく発揮した。
その激烈な威力は各国軍の将官、並びに兵器研究者に強い印象を与え、第一次大戦後、各国はサブマシンガンの研究開発にしのぎを削った。
第二次世界大戦――サブマシンガンの栄光と挫折
第二次大戦では、多くのサブマシンガンが実戦投入され、ジャングルや市街地といった、接近遭遇戦が生起しやすいフィールドでその威力を遺憾なく発揮した。
当時はまだ(コストの問題もあってか)中距離から小銃弾をばら撒くという発想に至っておらず、瞬発的に多くの弾丸を発射できるサブマシンガンは、装備品が限定される空挺部隊を中心に重宝がられ、小型ゆえに安価に大量生産できることもあって、ソ連軍などはサブマシンガンを実質的な主力火器として使っていたほどだった。
しかし、第二次大戦はサブマシンガンの限界が露呈した戦争でもあった。装薬が少ない拳銃弾を使用するがゆえの射程の短さ、ライフルと比較した場合の貫通力の乏しさはいかんともしがたく、そこにサブマシンガンの産みの親たるドイツが、今度はアサルトライフルの雛形となるStG44を実用化するにいたったことで、その弱点はますますクローズアップされる格好となった。
薬莢を短縮した弱装弾とはいえライフル弾を使用し、サブマシンガンとは比べものにならない長射程と命中精度を持ちつつサブマシンガン並みの制圧力を兼ね備えたアサルトライフルの登場により、サブマシンガンは戦争における活躍シーンの場を急速に狭めていった。
(後にベトナム戦争において、かの有名なMAC10が必要に迫られて誕生するのであるが、それも特殊部隊の要望に応じたものであり、全般的なものではなかった。しかし逆に現代でも戦場において全く利用価値が無いわけではなく、かつての汎用火器とまでされるほどのものではないということである。)
現代のサブマシンガン
軍用主力兵器としては存在価値をほとんど失ってしまい、戦車兵や航空機搭乗員の自衛火器といった限られた場のみで使われるようになったサブマシンガンだったが、その「弱点」に全く違う側面を見出した一群があった。戦後、各国で急速に拡大していたテロなどの凶悪犯罪の取り締まりに頭を悩ませていた警察である。
サブマシンガンの射程の短さは、警察が想定する市街地での銃撃戦では問題にならなかったし、低貫通は障害物の裏にまで気を使う必要がなくかえって好都合だった。
むしろライフルのような威力の大きい銃を使うと、市民の生命・財産を無用の危険にさらすだけであった。こうして、サブマシンガンは警察向けの銃火器として、生き残ることができたのである。
こうした状況の中で、現代サブマシンガンのマスターピースとでもいうべき銃が登場する。
ドイツ銃器メーカーの雄、H&K社が開発したMP5がそれである。
クローズド・ボルト、ディレード・ブローバックという、「安価で単純」が信条のサブマシンガンにあるまじき複雑な機構を採用した本銃は当初、各方面から批判にさらされたが、1977年10月に発生した『ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件』において、ドイツ最強の対テロ特殊部隊であるGSG-9が本銃を用いてハイジャック犯を見事に制圧してみせると、にわかに「警察特殊部隊用火器のスタンダード」として高い人気を得るようになった。
ここから、新世代のサブマシンガンの産声は上がったといってもいいかも知れない。
その性能の高さから状況によっては主力火器となるとして再度採用する軍も現れている。
現在、世界各国の軍・警察の特殊部隊でサブマシンガンは採用され、ハイジャックなど人質立てこもり事件の制圧、対テロ作戦に用いられ、大きな成果を挙げている。
作動方式
大きく分けてオープンボルト方式とクローズドボルト方式があり、クローズドボルトの方が命中精度など秀でている機構の為、現在はこちらの方が多く採用されている。
オープンボルト方式は、銃弾の装填・排莢を行うボルト(遊底)が後退位置から射撃サイクルを開始する方式で、ボルトが撃鉄も兼ねる構造のためメカを単純に設計でき、何より発射サイクルが非常に早くなる。このため、初期のサブマシンガンでは多く採用された。
しかし、これは射撃時に重量のあるボルトが前進するために射撃姿勢がぶれやすく、初弾や単発での命中精度に劣る欠点を抱えていた。しかしこれは、初期のサブマシンガンの運用方法を考えると、重大な欠点にはなり得なかった。
これに対し、クローズドボルト方式は、ボルトが前進位置から射撃サイクルを開始する方式で、メカは複雑になるが命中精度が高くなる。
この機構を採用した初期のサブマシンガンには、アメリカのユージン・レイジングが開発したレイジングM50/M55が挙げられる。
本銃は第二次大戦初期に海兵隊によって用いられたが、その精密な構造が裏目に出てあまり高い評価は受けられなかった。
しかし、命中精度は他のサブマシンガンより優れており、本来の開発目的であった警察用途としては十分な性能を持っていた。
その後、各国の警察が強力な銃火器で武装した犯罪者と対決するようになると、市民への二次被害を防ぐために命中精度に優れたサブマシンガンが求められるようになり、MP5の出現へとつながった。
新世代のサブマシンガン
サブマシンガンは狭い室内や機内でも取り回しが楽な反面、拳銃弾を使うため射程距離は短く、貫通力が低い。
特に近年、性能のよいボディアーマーが普及するようになると、従来のサブマシンガンではどうしても手に余るようになってきた。
こうした経緯もあり、ドイツのH&K社やベルギーのFNH社は、ボディアーマーを貫通する性能を備え、かつ従来の拳銃弾なみのサイズの新型弾薬と、それを使用する銃器の開発を進めていた。
想定された主な使用者は、機材の関係からフルサイズの歩兵ライフルを携行できない戦車兵やパイロットなどであった。また省スペースということから後方勤務の兵士の自衛火器としての運用も視野に入れていた。
こうした研究の結果開発されたのが、FN P90やH&K MP7に代表される、PDWと呼ばれる一群の銃器である。
サブマシンガンのように軽便で扱いやすく、かつボディアーマーを紙のように貫通する高速弾を使用するPDWは、ボディアーマーを身につけ、高い防御力を有するようになったテロリストや犯罪者に手を焼いていた軍・警察の特殊部隊関係者の注目を浴びた。
特にP90は、その奇怪な形状とは裏腹に非常に扱いやすいこともあって、現在では多くの警察機関や民間軍事組織で使用されている。
しかし、PDWは従来の弾薬体系とは異なる独自規格の弾薬を使用するため、冷戦が終了した現在では潤沢な予算を持ち、大きな裁量権を持つ軍事組織か、狭い体制となる民間軍事組織、警察機関、特殊部隊などで無いと採用は難しい。
PDWの普及には、長い時間がかかりそうである。
(特に西側諸国はそれこそ長い期間費やし多くのトラブルを解決してNATO規格を導入したこともあり、腰が重くなるのも当然である。)
サブマシンガンと犯罪者
軽便で扱いやすく、入手が容易な拳銃弾を使用するという特徴から、サブマシンガンは犯罪者たちからの需要も大きかった。
有名なのは1920年代、禁酒法時代のアメリカで猛威を振るったマフィアたちであろう。
当時、新聞をにぎわせた凶悪なマフィアの抗争事件(1929年2月14日に発生した『聖バレンタインデーの虐殺』などが有名)で、凶器として用いられたのがトンプソン・サブマシンガンだった。
その独特の射撃音から、トンプソンは「シカゴ・タイプライター」と呼ばれ、恐れられた。
また、マフィア対策に手を焼いていた警察もトンプソンを購入、武装したため、警察とマフィアが同じ銃を持って対峙するという、何とも皮肉な状況が現出した。
1960年代に西ヨーロッパで吹き荒れた政治テロにおいては、赤色過激派組織がスコーピオン・マシンピストルなどの小型サブマシンガンを用い、多くの犠牲者を生み出した。
このときも、警察はサブマシンガンで以てテロリストに対抗した。
こうしたことから、欧米各国ではサブマシンガンに対する規制が厳しく、セミオートオンリーの民生品でも、銃身を規定以上の長さにしたり、ストックやフォアグリップ等を取り外して拳銃扱いにするなどの改造を行わないと、販売が許可されない。
まして、フルオート射撃可能な純正品など、銃規制がゆるいと言われるアメリカでも一握りの州でしか所持許可がおりず、銃自体も厳重に規制されて1986年以降は新規のフルオート火器は手に入らない状況となっている。供給が断たれた銃自体が非常に高価なことに加え、所持の為に必要な審査が厳重に行われている為に許可が下りるまでに申請から一年以上かかる事も普通である。
しかしながら、民生品に違法な改造パーツを組み込むことでフルオート機能を回復することは可能であり、各国の規制当局は対応に頭を悩ませている。
フィクションとの違い
両手にサブマシンガンを持ってぶっ放す事があるが、小さいとはいえ反動が強いため命中率は極端に下がり、口径や射手の筋力量、射撃姿勢、機構によっては手首や腕等を痛めてしまう。
(肩を痛めるのはむしろストックを肩に当てた場合であり、構えが悪ければ肩への衝撃で痛めてしまう)
フィクション作品のように腕の力だけで支えずにスリングやストックによって二点支持等すればいくらか負担は減るが、それでも実用的ではない。
その一方でP90等の一部のものは低反動を売りの一つとしており、片手撃ちや二艇撃ちなどのデモンストレーションを行っているので、一応はこのような銃であれば(実用性はともかくとして)フィクションのような撃ち方が可能といえるだろう。
とはいえ少なくとも狙い撃ちなど絶望的である。